日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書
2002年10月23日


 経済成長の促進を目的としてブッシュ大統領と小泉総理大臣が設置した「日米規制改革及び競争政策イニシティブ」(改革イニシアティブ)は、今年で2年目を迎える。

 米国は、日本が意味ある経済改革を達成するため努力を継続していることを歓迎し、小泉総理大臣が国会で表明した「聖域なき構造改革」を断行するとの公約や、「あらゆる分野において規制改革を大胆に進める」との決意に勇気づけられている。米国はまた、日本政府が2002年3月29日に「規制改革推進3か年計画(改定)」を閣議決定したことを歓迎するとともに、日本政府の構造改革特区導入計画を関心をもって見守っている。

 本要望書に盛り込まれた提言は、主要分野や分野横断的課題にかかわる改革措置を重視しており、日本経済の持続的な成長路線への復帰と日本市場の開放を促すものとなっている。さらに、米国は、通信、情報技術(IT)、医療、エネルギー、競争政策など、小泉内閣が改革に重要であると位置付けた分野の問題に焦点を当てた。

 提言の概要と詳論に盛り込まれた要望事項は、改革イニシアティブの下に設置された上級会合および作業部会における今後の議論のたたき台となるべく日本政府に提出された。これを受けてこれらの会合は、第2次年次報告を大統領と総理大臣に提出する。この報告書には、イニシアティブの下で達成された進展が明記され、それには両国政府が講じる改革措置も含まれる。

 改革イニシアティブの1年目には、民間部門の代表が作業部会に参加し、広範な課題に関して貴重な専門知識を提供し、所見を述べ、提言を行った。米国は今後、イニシアティブで取り上げられている課題で、民間部門の意見が引き続き有益となるものを明らかにするため日本と協力していく。

 米国政府は、日本政府に対し本要望書を提出できることを喜ばしく思うと同時に、日本からの米国に対する改革要望を歓迎する。


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目次

提言の概要
電気通信  情報技術(IT)  エネルギー  医療機器・医薬品  金融サービス
競争政策  透明性およびその他の政府慣行  法律サービスおよび司法制度改革  商法  流通

詳論
電気通信  情報技術(IT)  エネルギー  医療機器・医薬品  金融サービス
競争政策  透明性およびその他の政府慣行  法律サービスおよび司法制度改革  商法  流通


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提言の概要
電気通信

 規制改革を通じて、ここ数年の間に日本は、電気通信分野における競争促進に大きな成果をあげた。絶え間ない改革による恩恵は、外資系事業者に対する非差別的な取り扱いの保証および外資系部品供給者への機会を広げるという当面の目標を超えて拡大している。ネットワーク化されたグローバル経済において、費用効率の高い電気通信サービスの存在は、国家全体の競争力と、グローバルな市場と技術トレンドに対応する経済能力に影響を与える。

 米国は、日本が近年、電気通信分野の競争を促進するための重要な措置を取ってきたことを称賛する。また、米国は、日本がブロードバンドサービスの敷設等、先進電気通信技術の普及を進めてきたことを認識している。日本と同様に、米国政府も、ブロードバンドを経済的・社会的利益の重要な源泉であるとみなしている。これらの目標を推進するために、米国は、現状に挑戦し、先進ネットワークやサービスへの移行を促進し、市場の力が競争的な環境の発展を阻害する古い規制に取って代わることを可能にするような改革を、日本が考慮するよう勧める。

 このイニシアティブの下、日米の電気通信作業部会は、電気通信分野において両国が直面する問題に関して意見を交換するタイムリーな機会を提供している。米国は、政府あるいは民間から専門家を招きその考えを聞くことにより、対話をより高めていくことを提案する。さらに米国は、2003年に日本が以下の改革を実行することを提言する。

提言の概要
競争的事業者への規制緩和: 市場力を持つ事業者への規制義務に重点を置き、市場力を持たない事業者に関する届け出要件を廃止または軽減する。
透明性の促進と独立した規制: 規制機能を省庁の管轄から独立した機関へ移行し、NTTの経営意思決定への総務省の管理を廃止する。
支配的事業者規制および競争セーフガード: 市場力を持つ事業者による弊害を避けるための支配的事業者セーフガードを強化する。
固定系相互接続: 競争的な地域市場にとって必要なコストに基づく透明で妥当な相互接続料金の実施を完了させ、相互接続が非差別的な形で競争的事業者に利用可能になることを保証する。
競争的な携帯着信料金: NTTドコモのネットワークへの着信料金が、妥当で競争的な水準であるか否かを検証する手段を確立し、小売料金設定における差別を排除する。
線路敷設権: 競争的事業者のネットワーク設備の導入を促進するため、線路敷設権ガイドラインの年次見直しを通じて、線路敷設権体系を引き続き改善していく。
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情報技術(IT)
 日米両国は、活力があり成長を続けるIT産業が、両国経済の他産業の再生の鍵であることを認識している。日本は、インターネットと電子商取引の利用を促進し、IT産業の成長を刺激する環境の整備に向けて重要な措置を講じてきており、その環境整備の面で引き続き進捗を遂げている。さらに、日本経済強化の基礎として、デジタルコンテンツを含む、知的財産保護の経済的重要性を日本政府が認めたことを、米国政府は称賛する。

 日本の電子商取引市場は世界で最も大きなもののひとつだが、IT産業は規制その他の障壁に阻まれているため、その極めて大きな成長の可能性が実現されないままになっている。日本政府は「e-Japan 重点計画‐2002」において、電子商取引を妨げる法的その他の障壁が存続することを認め、2005年までに世界最先端のIT国家になるという日本の目標に新たな活力を与えるための重点政策分野を明らかにした。これらの重点政策分野には、電子商取引の促進、行政その他の公共分野における情報化、そして高度情報通信ネットワークの安全性および信頼性の確保が含まれている。さらに「知的財産立国」になるという日本の目標の一環として、首相の知的財産戦略会議は、その「知的財産戦略大綱」の中で、デジタル時代の課題に効果的に対応できる十分な保護を与えなければ、デジタルコンテンツ産業は発展しないことを認めている。

 これらの目標を達成するために日本が着手し始めた措置を、米国政府は歓迎かつ支持する。本年度の要望書は、これらの重点政策や目標を補完し、支持するためのものである。さらにまた、活発なIT産業の創造は、ビジネス環境と官民関係の両面での根本的な方向転換を必要とするが、それはオープンで透明性のあるパブリック・コメント手続きを常に活用することによってのみ、促進されうるものである。このイニシアティブにおけるITの部分の重要な目的のひとつは、政策決定や規制プロセスにおいて民間の意見の取り入れやパブリック・コメント手続きの活用を促進し、拡大することである。

提言の概要
規制その他の障壁: 事業者間(B to B)や事業者・消費者間(B to C)の電子商取引を妨げる既存の障壁を排除する。弁護士以外でも、営利目的で調停・仲裁を行えるようにする。日本政府の電子商取引に関する指針が、技術と市場の進展・発達に対応できるように、柔軟かつ適切であることを確保する。IT政策決定プロセスのすべての段階において、民間の意見の取り入れを拡大する。
知的財産権の保護: 日本の著作権保護期間を延長し、侵害に対する執行制度を強化する。技術的保護手段回避に対抗する強力な措置を通して、デジタル時代の商取引に安全性を提供する。政府全体に効果的なソフトウエア資産管理システムを導入する。
電子商取引の促進: 民間によるプライバシー保護自主規制措置と、裁判外紛争解決を支持する。新たなプライバシー法やネットワーク安全指針の実施において、透明性を確保する。電子的取引を管理する法律が、技術的に中立であることを確保する。
IT調達機会: 透明性、効率性、安全性、そして民間主導の革新を確保することにより、電子政府および電子学習の調達において公平で開かれた手続きを支持する。
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エネルギー
 米国政府は、日本の審議会における電力とガス市場の自由化にかかわる検討作業を歓迎する。これらの審議会では、すべての市場参加者にとって透明かつ公平な競争を促進する日本のエネルギー市場を達成するため、数々の重要な政策目標と次に取るべき措置が確認された。エネルギー市場の自由化は、電力コストを国際競争力を持つレベルまで削減し、一般消費者用・業務用のコスト削減を促進することにより、日本の産業の競争力を高め、経済の持続的成長の復活を容易にする。真に競争力のある市場を達成し、効率性を高め、投資環境を改善するために、米国政府は日本に対して、この重要な分野のさらなる自由化と、電力の送電・配電線およびガス・ターミナルとパイプラインに対する公正で透明性のある非差別的なアクセスを確保するよう、迅速に措置を取るように求める。

 米国政府が求める日本の電力・ガス両分野における改革は、日本政府の「規制改革推進3か年計画」において提案されている内容を支持するものである。同計画の2002年4月の改定において、エネルギーは規制改革の重点分野と確認され、電力およびガスの小売部門の自由化範囲の拡大が提案された。

 米国政府は、以下の提言にある通り、電力・ガス両分野におけるさらなる自由化を、明確な政策目標と予定表に基づいて速やかに推進することを日本に求める。

提言の概要
独立した規制権限: 経産省の電力市場整備課とガス市場整備課が、不当な影響を政界および業界から受けないよう具体的な措置を取る。
改革の予定表: 日本が採用しようとする電力・ガス分野の市場構造を明確にし、この市場構造を達成するために必要な規制改革プロセスの予定表を設定し、採用された市場デザインを2003年度末までに開始するために必要なすべての改革イニシアティブを完了させる。
電力のアクセスと透明性: すべての市場参入者に対して、電力の送電・配電にかかわるネットワークと会計情報について中立性と透明性を高めることにより、公平な競争を促進する。
電力・ガス分野のインフラ設備の妥当性: 競争力のある国内電力市場を支えるため、十分な送電網およびガス・パイプラインやLNGターミナル網を含む適切な接続・輸送能力を確保するよう、具体的な措置を取る。
競争力のある電力供給者の新規参入: 設置要件を簡略化し、小売り分野における選択肢拡大のための、具体的な計画と予定表を作成して、新規参入を促進する。
ガス輸送のアクセスと透明性: すべての市場参入者に対して、ガス・パイプライン網へのオープンアクセスを促進し、価格と情報入手の透明性を高める。
競争力のあるガス供給者の新規参入: 電力発電事業者を含むガス供給者の新規参入を保証するため、ガスの輸送インフラ設備を拡充し、ガス市場の自由化を進展する。
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医療機器・医薬品
 日本は従来、医療制度の財政的要求を満たすため、価格の引き下げと患者負担の引き上げを組み合わせて利用してきた。しかしながら現在、日本は医療改革をより包括的なアプローチで行っている。米国政府は、患者の観点や、効率、研究開発、専門化そして革新性の重要性に重点を置くこのアプローチを歓迎する。このアプローチはまた、医療制度のさまざまな分野における異なった価格構造(平均入院日数など)が、どのように相互に影響を与えているか、そして革新的な製品の早期導入がどのようにコスト削減につながるかについて検討する必要がある。

 医薬品分野では、日本の医薬品業界の可能性に特に焦点を当てている。例えば、厚生労働省は日本の医薬品業界の構造や、それがより広範な経済成長に与える影響についての重要な提言を発表している。米国政府は、この文書の中で取り上げられている提案についての議論は、将来の革新を促すために必要な資源と動機を創出する価格制度の必要性について、すべての関係者が提言するための重要な機会となっていると見ている。

 さらに、医療機器・医薬品に関するすべての制度を規制する薬事法の改定が、制定後40年で初めて実施されている。また、製品審査と臨床治験を管理する規制機関はひとつの機関として統合され、医療機器・医薬品の規制が、開発から最終的な販売承認まで一括して所管されることになる。米国政府は、効率、調和、そして最新の世界科学の理念を取り入れた規制制度を構築するというこれらの取り組みを支持する。また、これらの努力により、日本の規制制度がバイオ・ゲノム時代の新たな課題に適応していくことができる。血液製品を含む、一部またはすべてが生物由来の医療機器や医薬品(バイオ薬品)は、本要望書が今後取り上げていく新たな重要分野である。

提言の概要
包括的医療改革: 包括的な医療改革に関する首相の審議会を設け、外国企業を含むすべての関係者に、意見を表明し議論するための意味ある機会を与える。そのような機関は、全体的なコストを抑制する一方で高齢者に質の高い医療を提供し続けるため、制度全体の効率を高める方策を検討すべきである。
価格算定改革: 革新的な医療機器・医薬品が医療制度にタイムリーに導入され、それらの製品が、透明性が高く予見可能な価格算定過程の中で適切な評価が受けられるよう保証する。また、この価格算定過程は将来の開発と革新を促進するものでなくてはならない。
薬事制度改革: 国際的に共通する慣行を最大限に考慮し、より迅速でより効率的な製品承認を保証するため、医療機器・医薬品に関する薬事制度の改革を継続する。
バイオ薬品: 生物由来製品(医療機器・医薬品)の価格設定が、規制要件を満たすための投資コストを反映し、また、恣意的ではなく科学的根拠に基づいて行われることを保証する。
栄養補助食品の自由化: 栄養補助食品の販売規制をさらに緩和する。
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金融サービス
 米国政府は、日本が1995年の「金融サービスに関する日米両国政府による諸措置」の着実な実施や、日本版ビッグバン構想の下で今日までに講じてきた措置などを通じ、金融システムを国内外からの競争に開放する上で進展が見られてきたことを歓迎する。金融部門がより効率的で競争力を持つことになれば、日本が潜在成長力を完全に取り戻すに当たり、極めて重要な役割を果たすことになる。

提言の概要
確定拠出年金: 拠出限度額の拡大や、企業拠出に相応する従業員拠出の許可、および中小企業が低コストで利用できるよう、確定拠出年金プランの提供事業者が作成するひな型(プロトタイプ)となるプランを認可することを通じて、同年金プランの発展と採用を奨励する。
投資信託: 投資信託の安全性と柔軟性を高めわかりやすさを向上させ、重要な投資商品である投資信託の提供コストを削減することで、個人投資家や年金資産運用者が有価証券への投資を増やすよう奨励する。
自主規制機関: 自主規制や投資家保護など、公共政策的な役割を担う業界団体について、その運営と意思決定過程の透明性と開放性を拡大する。
郵便金融機関(郵貯ならびに簡保): 郵便金融機関が、国内信託の枠組みを通じて投資顧問会社の資産運用サービスを利用することを認める。郵便金融機関に対する新たな金融サービス事業案はすべて、導入前に完全にパブリック・コメントや検討の対象とすることで、民間部門によるサービス提供を促進し、その透明性を向上させる。
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競争政策
 反競争的行為に対する独占禁止法(独禁法)の厳格な執行を伴った経済的に健全な競争政策は、日本経済の回復にとって重要な鍵のひとつである。日本市場において活発に競争を促進し、維持することは、新規の市場参入やイノベーションを奨励し、国内的にも国際的にも競争力のあるすぐれた企業をはぐくむ環境を生み出す。この点に関して、日本政府にとって最も重要な課題は、公正取引委員会(公取委)が独占禁止法の有効かつ積極的な執行に必要な手段と資源、そして、政府全体の支持と行政的独立性を確保することである。さらに、日本国内にみられる談合体質を排除するための有意義なプログラムを実施することも日本政府の義務である。有効な談合排除のプログラムは公共事業支出額を30%削減し、経済の活性化のための重要な政府の施策にその資源を振り向けることを可能にする。最後に、日本の規制改革への努力は、競争的手法による結果を見極めるため、競争的市場をつくり上げるという目標に深く根ざすべきであり、政府の指示によるのでなく、市場原理によってなされなければならない。

 従って、米国は日本が以下の措置を講ずることを提言する。

提言の概要
公正取引委員会の独立性: 公取委を内閣府に属する独立した官庁へ移管する法案を上程する。
公正取引委員会の資源: 公取委の職員数ならびに予算を大幅かつ着実に増やし、公取委内に経済分析と専門知識を提供することができる訓練されたエコノミストを有する部局を設置する。
公正取引委員会の執行の効果: 公取委の審査権限を強化し、独禁法の行政制裁措置を拡充し、カルテルに「当然違法」の原則を導入し、独禁法執行における刑事処分を増やす。
談合に対する措置: 官製談合防止法を施行し、談合参加者から過剰請求による損失分を徴収する有効なプログラムを導入し、地方自治体が被った損害の賠償を求める民事訴訟を支援する。
競争と規制改革: エネルギー分野で競争的市場を創造し、支配的電気通信事業者の反競争的、排他的行為を防止し、特殊法人ならびにその他の公益法人の競争的民営化を確保し、構造的に非競争的な分野における競争の状況を監視する。
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透明性およびその他の政府慣行
 日本経済が活力を持つには、消費者、投資家、事業者が経済に信頼を持てるかどうかに左右される。そして、信頼の醸成は、規制制度が公正性、予見可能性、そしてアカウンタビリティー(説明責任)を確保する透明性の高いものであることと密接に関連する。日本は、国内・国外双方の企業が、規制制定過程に関与するための情報や機会に完全にアクセスできる方法を示すことを通じて、より魅力的な投資環境を整備し、その結果、成長を刺激できる。さらに、構造改革特区の導入や特殊法人の民営化を含む広範な経済改革策についても、透明性の確保が極めて重要となる。

 しかしながら、パブリック・コメント手続きの実施状況を見ると、日本の規制制度の欠陥は明らかである。同手続きは効果的に運用されれば、透明性の高い規制制度確立への基盤となりうる。日本政府は、1999年の同手続き採用以降も、その運用効果と公正性を高めるための努力をしてきたが、総務省による実施状況調査によると、同手続きの欠陥が繰り返し明らかとなっている。総務省による2001年度における「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」の第3回の実施状況調査は、日本の規制制定過程が依然として不透明であるとの懸念を深めるものであった。同調査の結果によれば、提出された意見が最終規制に取り入れられた事例は依然として少なく、取り入れられた場合の多くでも実質的なものではなかった。また、パブリック・コメントの対象とされた案件のうち、意見募集期間を少なくとも30日間と設定していた事例は半数を下回っている。2001年にはさらに、行政機関が提出された意見を最終規制に取り入れた比率が実際には低下した。このため、米国は現在進められている日本の構造改革の取り組みを促進し、すべての参加者が政府の情報・政策決定過程に適切、効果的、かつ平等にアクセスできるよう、日本政府が下記のように規制制度の改善を図ることを提言する。

提言の概要
パブリック・コメント手続き: 関係者が、1カ所で意見募集案件を知ることができるよう中央登録システムを構築し、意見募集期間を最低30日間と義務づけ、同手続きを単なる指針ではなく法制化することで強化を図り、この潜在的に強力な規制メカニズムの有効性を高める。
構造改革特別区(特区): 市場参入の促進に焦点を当て、特区で成功した措置は可及的速やかに全国レベルに拡大するという了解のもと、特区が透明かつ非差別的な形で導入されることを確保する。
一般市民の法案作成への意見提出: 政府が法案を国会に提出する前の作成の段階において、一般からの意見提出を促す措置を講じる。
特殊法人の民営化: 特殊法人の再編や民営化過程における透明性、および民間部門が意見表明できる機会を確保する。
郵便金融機関: 郵便事業の公社化を透明性の高いやり方で行い、かつ郵便金融機関が取り扱う商品を拡大させることがないようにする。また、民間の同業者に適用されているのと同じ規制基準を郵便金融機関にも適用する。
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法律サービスおよび司法制度改革
 日本の司法環境を、規制改革や構造改革を支援し国際的企業取引のニーズを満たすものにすることは、経済回復と構造改革を成功させる戦略の最も重要な要素のひとつである。日本の司法制度は、国際的法律サービスの効率的提供を求める市場のニーズに応え得るものでなければならず、また、規制改革が一層進展する中で、企業取引に健全で効果的な基盤を提供するものでなければならない。

 米国は、司法制度の分野で日本が重要な改革を遂行していることを認識しており、それが継続されることを求める。しかしながら、迅速かつ断固たる改革が必要とされるのは、国際的法律サービスの提供に対し日本が時代遅れの規制を設けていることである。日本の現行の司法体制は、日本の弁護士(弁護士)と外国法事務弁護士(外弁)間のパートナーシップや雇用関係に対し、また、外国弁護士が効果的な方法で法律業務を行う能力に関し、不必要で機能不能な規制を課し、日本において統合された国際的法律サービスが提供されることを困難にしている。これが、日本において法律サービスを求める顧客が、必要な国際法務の専門知識や助言を効率的かつ時宜を得た方法で手に入れることを阻害してきた。このような理由から、米国は日本に対し、以下の措置を講ずることを求める。

提言の概要
提携の自由: 日本の弁護士と外国弁護士間の提携の自由に関するすべての制限を撤廃する。それには、日本の弁護士と、外国弁護士および外国弁護士事務所との間のパートナーシップの許可も含まれる。また、外国弁護士や外国弁護士事務所による日本の弁護士の雇用を認める。
専門職法人と有限責任組織: 外国弁護士や外国弁護士事務所が、日本で事務所を設立する際、その形態を自由に選択することを認める。それには、外国法律事務所による有限責任パートナーシップ(LLP)や有限責任法人(LLC)設立の認可が含まれる。また、外国弁護士が、日本の弁護士と同様に専門職法人を設立することを許可する。さらには、外国弁護士や外国弁護士事務所が、日本の専門職法人と同等の立場で日本全国に支店を開設することを認める。
外国弁護士に対する不必要な規制の撤廃: 外国弁護士が日本で行う法律実務のすべての期間を、彼らが外国法事務弁護士(外弁)の資格を取得するために必要な職務経験として換算する。また、外弁が日本の弁護士と同様に、第三国の法律に関する助言を提供することを認める。さらに、外弁資格取得の申請に必要な書類および審査に必要な時間を削減する。
弁護士会の審議における透明性と公平性: 日弁連および地方弁護士会が、外弁に影響を与えるであろう規制を制定・実施する際には、外弁がその過程に効果的に参加できるよう確保する。
司法制度改革: 民事訴訟をより迅速で効率的なものとし、司法による行政機関の監視を効果的なものにすることにより司法制度を改善するような法案を上程する。
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商法
 米国は、日本が、日本企業の組織、経営、資本構成に必要な柔軟性をもたらす商法の改正を行っていることを称賛する。しかしながら、日本の企業再構築を促し、日本経済にとり極めて重要な技術、ノウハウ、雇用をもたらす内外企業による合併・買収(M&A)を促進するさらなる措置が必要である。日本経済はまた、企業統治の改善に向けた追加的措置によっても利益を得ることができる。良い企業統治は、企業経営者が生産性を高め経済的に健全な経営判断をすることにより、株主の利益を最大限に高める努力を確保し、日本企業の業績を改善する。

 以上の理由により、米国は日本が以下の措置を講じることにより、商法改革に向けてすでに実施した以上の行動を取るよう求める。

提言の概要
M&A促進に向けた産業再生法の改正: 産業再生法の改正により、日本におけるM&Aを促進する近代的な合併技術の導入に向けてた具体的措置を取る。それにより、同法の下で再生を目指す企業が三角合併やキャッシュ・マージャーの手法を利用することが可能になる。
合併手続きの柔軟性: 三角合併、キャッシュ・マージャー、ショート・フォーム(スクイーズ・アウト)マージャーを商法で認めるための法務省の研究について、2004年度の法案提出を目標として、その課題と日程を公表すること。
委任状による投票をする株主に対する情報の拡大: 株式公開企業の、証券取引法により定められた報告書や書類はすべてインターネット上で公開する。また、株主が、株主総会以前に委任資料を検討するための時間的猶予を与える。さらに、企業が、監査、報酬、任命委員会制度を採用している場合は、それらに関する主要な情報を公開することを義務付ける。
年金基金による委任状投票: 年金基金管理者に対し、基金受益者の利益のために委任投票すること、投票方針を公開すること、実際の委任投票の記録を保存することを義務付ける。
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流通
 日本は、「規制改革推進3か年計画」の中で、「流通は、生産者と消費者を連結する場であり、…国民生活の質的向上を進める上で大きな役割を担っている」と述べている。米国政府は、同計画にうたわれている「消費者の利便性の向上や選択肢の拡大に寄与するとともに、流通業の効率化・高度化、一層の創意工夫の発揮が可能となるよう、自由な企業行動を阻害する規制を廃止するなど流通業に係る規制改革を推進する」という目標を称賛する。

 航空輸送によって、商品を生産者から消費者に、迅速に安価な料金で配送する能力は、経済の効率性を測る重要な尺度である。さらに、小売業者や製造業者にとって、「ジャスト・イン・タイム」供給システムが適正に機能するには、航空貨物産業が強力であることが必須である。航空貨物産業は近年、急激な成長を遂げ、現在では、国際的な事業展開や商品・情報の迅速な流通に欠くことのできない手段となっている。米国は、航空貨物の通関手続きを迅速化するために日本政府が取った措置に留意している。しかし、航空貨物産業がもたらす経済的利益を最大限に享受するために、より多くの事がなされなければならない。通関手続きの一層の近代化に加え、米国は、日本に対し、国際空港における着陸料を合理的な水準に改めるよう求める。

提言の概要
空港着陸料の改革: オープンかつ透明な方法で、実際のサービス提供コストに基づく着陸料を設定する。
U申告利用の拡大: 使用する宅配業者、また複数の保税倉庫経由の有無にかかわらず、全面的に「事前許可申告」(U申告)を可能にする。
課税最低価格の引き上げ: 関税定率法に定められる課税最低価格を1万円から3万円に引き上げる。
通関手続き: 1日24時間、1年365日通関手続きを受けられるものとし、通常の業務時間外に処理された荷物にのみ超過料金を課す。
簡易申告制度の利用拡大: 国際宅配業者や認可を受けた貨物輸入代行者を記録上の輸入者として取り扱うことを認める。
航空貨物を対象とした事前承認申告: 航空貨物を対象に、航空便到着前の事前承認申告手続きの処理を認める。
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詳 論

電気通信
I. 不必要なルールの廃止、規制の独立性の強化、透明性の促進
 2002年、日本政府は大胆な措置を講じて、日本における電気通信の規制体系の根本的な改正を求めた。日本の情報通信審議会は、電気通信サービス提供者にとって重荷になるような規制を軽減し、第1種・2種規制等の規制制度における旧態依然とした側面を見直すことの重要性を認識した。不必要な規制を排除することによって、事業の必要経費を軽減し、事業者が顧客の求めるサービスをより迅速に提供することが可能になる。米国は、総務省が、電気通信サービス提供者への規制要件を、彼らが持つ市場力の程度と関連付けることで、競争的事業者への規制を緩和し、健全な支配的事業者規制を維持するような、電気通信事業法改正の国会承認を2003年に得るよう、提言する。

I-A. 競争的事業者への規制緩和 米国は、総務省が、下記の内容を含む電気通信事業法改正の国会承認を2003年中に求めるよう提言する。

I-A-1. 政府の関与なしに市場あるいは市場の一部における競争が利用者に利益をもたらすような場合、また競争の濫用の恐れが極めて小さい場合、遺物的規制の適用を差し控えるよう総務省に明確な権限を与える。

I-A-2. 第1種・第2種事業者分類を廃止し、透明な基準に基づいて事業者が市場力を持っているかどうかを区別する技術的に中立な制度によって事業者を分類する。現在第2種事業者に与えている規制緩和された地位を非支配的事業者に関する条項に盛り込むことを保証する。

I-A-3. 競争的な市場における非支配的事業者に対して、以下の権限を与える。

I-A-3-a. 電気通信サービス提供者によるいかなる申請義務もない分類免許を与える。

I-A-3-b. 約款認可義務をインターネット上における告示にし、総務省の事前手続きを撤廃する。

I-A-3-c. 契約サービスについては、すべての許可・届け出義務を撤廃する。

I-A-3-d. 相互接続、委託およびその他の競争的事業者間の事業取り決めについては、すべての許可・届け出義務を撤廃する。

I-A-3-e. 初期の免許取得については、詳細なコストの理由付け、経理の前提やサービスの一般的範囲やネットワークの説明を超えたネットワーク計画情報を提供する義務を廃止する。

I-A-3-f. ネットワークの拡大については、すべての認可手続きを廃止し、一般的な要約説明を求める届け出義務に限定する。

I-A-3-g. 事業者に対して、サービスを提供するために波長ベースのIRU(無効にできない使用権利)を取得し、使用することを認める。

I-B. 透明性の促進および規制の独立性の強化 米国は、新しく設立された電気通信事業紛争処理委員会にいくつかの案件が持ち込まれていることを知っている。同委員会が総務省の規制と決定に異議を申し立てる資格を持っている一方で、特に初期の政策作りの微妙な段階には、その機能は限られている。米国は、規制決定の際、政治的影響や規制対象の企業からの不当な影響を防ぐため、電気通信分野における独立規制機関の問題について、日本が再考することを提案する。米国は、日本政府が、以下の措置を含む、日本経団連その他日本国内の提案を特に考慮するよう提言する。

I-B-1. 規制機能を、省庁の権限から切り離し、完全なる独立機関へ移行することを検討する。

I-B-2. NTT株の日本政府保有要件を廃止する。

I-B-3. 事業計画や人事決定を含むNTTの運営に対する省庁の干渉を排除する。

I-B-4. 反競争的行為を処罰するための意味ある制裁権限(罰金を科し、損害の支払いを命じ、免許を差し止めるなど)を確立する。

I-B-5. 装置基準の分野においては、準規制機能を持つ電気通信業界団体と協力し、電気通信技術委員会(TTC)の手続きに関する情報へのアクセスやTTCの政策提案についてのコメントができる機会などを含め、総務省の産業研究会などでも従っている、透明性と非差別な基準を、これらの団体が守ることを確保する。

I-B-6. 中間措置

I-B-6-a. 紛争処理を行う際の透明性を最大化するなど、日本の電気通信事業紛争処理委員会の運営およびその影響力強化を検討する。

I-B-6-b. 広範囲にわたる省庁協議の必要性を最小限にするため、条項の適用を明確に説明する法律や省令を起案する。

I-B-6-c. インターネットアクセスやトランスポート提供者など付加価値サプライヤーへの公共電気通信ルールの適用を控える。

II. ネットワークアクセスおよび競争促進
 ボトルネック設備への競争的事業者のアクセスは、日本政府の主要目標である施設ベース・サービスベースの競争促進のために必要不可欠なものである。

II-A. 支配的事業者規制および競争セーフガード 米国は、改正電気通信事業法が、日本市場において支配的な地位を保持する事業者に特定の義務を課し、また、総務省に、これらの義務を守らせる権限を与えることを保証するよう提言する。特に、米国は総務省が以下の措置を取ることを提言する。

II-A-1. 電柱、管路、とう道、線路敷設権への非差別的なコストベースのアクセスを、法律あるいは規則により保証し、それらのアクセスに透明な価格設定方法を提供する。

II-A-2. データサービス同様、音声サービスについても、支配的事業者による価格設定の濫用を評価する方法(例:インピュテーションテスト)を確立する。

II-A-3. NTT東西による長距離サービスへの参入は、OSS(顧客情報管理支援システム)への広範囲なアクセスをその条件とする。

II-A-4. 専用回線が妥当かつ競争的な料金によって提供されているか否かを評価する、透明な方法を確立する。

II-A-5. 支配的事業者が、規制を受けていないサービスを補てんするために、規制を受けているサービスからの収入を利用することがないよう、規則(例えば、関係会社との分離取引ルール)を設ける。

II-A-6. 報告義務を含め、競争関係実施測定基準および基準不履行に対する金銭的罰則を整備する。このような基準は、必要なすべてのネットワークおよび施設の提供、サービスの質および修理や保守において、支配的事業者が自社あるいはその関係会社への扱いと競争的事業者への扱いを同等にすることを確保するためのものである。

II-B. 固定系相互接続 2000年度における相互接続料金算定のための長期増分費用方式(LRIC)の導入により日本は、相互接続料金を設定する上で説明責任を大幅に改善し、競争的事業者がNTT東西のネットワークに、コストに基づく透明で妥当な料金でアクセスすることを保証するための重要な措置を講じた。NTT相互接続体系の改革を継続する上で、米国は以下の措置を日本が取ることを提言する。

II-B-1. 接続料金と体系を見直すという2000年の約束に基づき、2003年度以降、従量接続料金からNTSコストを取り除く。

II-B-2. NTT東西が、既存の月額料金からNTSコストを吸収できる能力を客観的に評価することを認め、NTT東西に対して透明な方法で以下の項目を含む文書化を義務づける。

II-B-2-a. 正確にどのコストが月額の加入者回線料金から回収されているのか。

II-B-2-b. それらのコストがどのように特定され、異なるサービス間(ISDN,DSL、専用回線等)でどのように配分されているのか。

II-B-2-c. これらのコスト回収、特に既に施設設置負担金や減価償却料金そして許容範囲の利益マージンで回収されているコストの前提はなにか。

II-B-3. LRICモデルにおけるトラヒックデータ使用に関してオープンで公平な、客観的なプロセスを導入する。

II-B-4. 選択されたトラヒックデータ期間と、そのモデルの他の側面に対応する期間とが一致しない場合には、最新の技術や機器の価格その他のコストを反映するために、他のインプットを更新する機会を設ける。

II-B-5. 反競争的な価格圧縮の危険を考慮して(またそのような危険を回避する方法を考慮して)、地域事業者間で異なる接続料金を設定すること(高いほうの料金を、引き上げることなく、徐々に引き下げることによって)を検討する。

II-B-6. 別のコスト算定方法へ長期的に移行することが検討される場合には、その過程に競争的事業者が継続して参加し、料金設定の基礎となるNTTのコストと総務省の決定の双方に対する説明責任と透明性が継続することを保証する。

II-B-7. 一連のネットワークアクセス機能のための「ビル・アンド・キープ」コスト回収方法への移行を検討する。

II-C. 競争的な携帯着信料金 米国は日本が以下の措置を取ることを提言する。

II-C-1. 支配的な無線ネットワークへの競争的な接続料金を保証する日本の電気通信事業法とその2002年の取り決めに従い、携帯電話の着信料金が妥当かつ競争的なレベルで設定されているか否かを評価する客観的で透明な方法を設定する。

II-C-2. 日本がWTOの義務に従って、携帯電話事業者との相互接続を求める固定事業者のために、小売料金の設定において差別的な扱いを許している現在の慣行の排除を保証する。

II-D. サービスの質における非差別 アンバンドル化が求められる施設においては、日本政府が、NTT東西に対して、NTT東西がサービスの混乱や質の悪化に対応しなければならない期間を特定した小売顧客へ提供されているものと同様のサービス水準合意(SLA)を、その接続約款に盛り込むことを義務づけるよう米国は提言する。

II-E. 複数間の相互接続 発信と着信事業者間の相互接続協定が既に結ばれているか否かにかかわらず、日本政府が、第三者の着信事業者へ向けてのトラヒック接続をNTTが認めることを義務づけるよう米国は提言する。

II-F. 基本サービス相互接続のメニュー拡大 日本のWTO参照ぺーパーでの約束に沿う形で、NTT顧客へ現在提供されているすべてのサービスを、相互接続ベースで利用可能な機能の一覧に含めることを日本政府がNTT地域会社に義務づけることを米国は求める。特に、NTT東西に対してコストに基づく約款料金で競争的事業者に緊急通報(110番)サービスを提供することを義務づける。

II-G. 線路敷設権 線路敷設権ガイドラインの年次見直しを通じて、日本が線路敷設権体系を引き続き改善していくことを、米国は求める。特に米国は、以下の措置を日本が取ることを提言する。

II-G-1. 総務省が課している相互接続の義務を、NTTネットワークの特定部分(すなわち、交換機から一番近いマンホールまで)から、ファイバーループや消費者の家屋へつながっている管路およびとう道を含めたその他のボトルネック施設まで拡大する。

II-G-2. 施設保有者に対して、施設改築に関する負担共有の公平な基準を順守させることを保証する。

III. 先進技術とサービスを促進するための措置
 米国と日本は、成長を刺激し、生産性を向上させ、生活の質を高めるために、インターネットと情報技術の採用を拡大するという共通の政策目標を持っている。このイニシアティブの下における日米の電気通信作業部会は、両国の経験に関する意見を交換し、先進電気通信技術の拡大と利用に役立つ市場ベースのアプローチを特定して、両国の規制プロセスへの相互理解を促進させるタイムリーな機会を提供している。米国は、可能な場合には、政府や民間から専門家を作業部会のゲスト・スピーカーとして招待して、彼らの意見を聞くことを提案する。

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情報技術(IT)
I. 規制および非規制障壁の除去
 日本は、インターネットの利用と電子商取引の成長を促す環境を育成する上で、前進を続けている。日本政府は、電子商取引を妨げる法的その他の障壁がいまだに存在することを認め、「電子商取引の促進」と「消費者保護の促進」を「e-Japan重点政策2002」の優先課題として掲げている。これらの優先課題の目標に沿って、米国は日本政府に以下のことを要請する。

I-A. 事業者間(B to B)や事業者・消費者間(B to C)電子商取引において、対面取引や書面による取引を必要条件とすることやその他の障壁など、電子商取引を妨げる、既存の法律や規制においていまだに存在する障壁を除去する。また、現在除外されている分野における電子通知や電子取引を認めるよう、法律や規制を改正する。

I-B. 電子商取引のための柔軟性のある裁判外紛争処理(ADR)システムを構築し、弁護士ではない人も営利目的で調停・仲裁を行えるようにする。

I-C. 合法的オンラインビジネスや電子商取引を規制するために制定された新たな法律、法令、指針が、日米双方が合意した民間による自主規制の原則に基づいていること、および、電子商取引を過度に規制したり妨げたりしないことを確保する。

I-D. 利害関係者が評価や意見を提出する機会を継続的に提供し、すべての新しい指針や改正をパブリック・コメント手続きの対象にすることを義務づけることにより、技術や市場における絶え間ない変化に対応できるよう、電子商取引指針が柔軟性を保ち、かつ適切であることを確保する。

I-E. 以下に掲げるものを含め、構想から実施に至るまで、政策決定プロセスにおけるすべての段階で、民間の意見の取り入れを拡大するための措置を講じる。

I-E-1. 官民間の対話を双方向かつ透明性のあるものにするよう、情報技術を活用する。

I-E-2. 最低30日間の有意義なパブリック・コメント期間を設け、提出された意見が真剣に検討され、最終的に実施される措置や行動に反映されることを確保する。

I-E-3. IT戦略本部の民間部門メンバーを増員し、多様化する。

II. 知的財産権の保護の強化
 2002年7月3日に首相の知的財産戦略会議が発表した「知的財産戦略大綱」において、日本政府が、対処すべき重要な知的財産問題に関する認識を高めたことを、米国政府は称賛する。戦略会議が知的財産の経済的、文化的重要性を認識し、知的財産の創造と保護の強化を目標としていることに沿い、日本政府がデジタル時代の課題に取り組むために以下の提言を採用するよう、米国政府は要請する。

II-A. 著作権保護期間の延長 一般的な著作物については著作者の死後70年、また生存期間に関係のない保護期間に関しては著作物の公表後95年という、現在の世界的な傾向との整合性を保つよう、日本の著作権保護期間の延長を行う。

II-B. 法定損害賠償 侵害行為に対する抑止力となり、侵害により被った損失に対し権利保有者が公平に補償されることを確保し、また実際の損害額を計算するという、費用がかかり、かつ困難な負担から司法関係者を開放するような法定損害賠償制度を採択し、知的財産の侵害に対する執行制度を強化する。

II-C. ソフトウエア資産管理 日本政府が調達したソフトウエアに適切な許諾契約があり、それらが合法的に使用されていることを確保する上で、現在の日本のソフトウエア資産管理システムが効果的であることを確実にする。

II-D. 一時的複製の保護 日本政府は、「一時的蓄積」が複製権を意味するということを認識することにより、大きな前進を果たした。しかし、この一時的複製の認識は広く公表されておらず、保護の範囲は依然として明確ではない。この新たな解釈の重要性を考慮し、日本が一時的複製の保護の範囲を明確にする解釈について公式声明を出し、権利保有者に確実性と明確な指導を提供するよう、米国は要請する。

II-E. プロバイダー(ISP)責任法と施行指針 プロバイダー責任法の施行指針の順守と、それにより侵害情報が素早く削除され、損害に対する十分な救済措置が確保される上での効果を監視する。また、効果的な「通知と削除」(ノーティス・アンド・テイクダウン)システムと、関係者すべての権利と利害の適切なバランスを確保するために必要となり得る、プロバイダー責任法ならびに指針への改正を日本政府が支持するよう、米国政府は要請する。

II-F. 技術的保護措置 デジタルコンテンツに十分なセキュリティを提供するために、回避に対する規制の範囲を明確にする。

II-G. 知的財産政策 「知的財産基本法(案)」の基本的施策や「知的財産戦略大綱」の政策目標、およびこれらに関連してその後に作成される施策や目標を実施するための政令や省令、告示、指針その他の措置を必ずパブリック・コメント手続きの対象とし、意見募集期間を最低30日間設け、さらに、寄せられた意見が真剣に検討され、最終的な施策や措置に反映されることを確保する。また、「知的財産基本法」の施策や政策目標の実施が、国際的な義務や基準や規範に沿うものであることを確保する。

III. 官民による電子商取引の利用の促進
 商取引を行うための手段としてのインターネットの発達は、グローバルな経済には国境がないという特徴を浮き彫りにした。オンライン環境に対する信頼性を高めるため、各国政府は、個人データの保護や取引の安全性等の問題について、必要に応じ、新たな法的枠組みの実施・修正を続けている。政府が最良の解決策を民間部門に求めている場合もある。日本政府が、電子商取引の成長を促進するにあたり積極的だが最小限の役割を担い、革新と市場の力により推進される、民間による自主規制手段や技術的に中立な解決策を重視するよう、米国は要請する。

III-A. プライバシー 米国は、プライバシーに関する法案を国会がこれから審議することを認識した上で、日本政府が、この新法が要求する施行法令や施策を作成するにあたり、パブリック・コメント手続きを活用し、最短でも30日間、最大限可能な限りの日数のパブリック・コメント期間を設けることを、要請する。さらに日本が、プライバシーに関する自主規制的枠組みを支持する措置を取り、個人のプライバシーを不当に侵害しない認証システムの開発を民間部門が行うことを奨励するよう、米国政府は提案する。

III-B. 裁判外紛争処理(ADR)の促進 「e-Japan重点計画‐2002」は、事業者・消費者間(B to C)電子商取引のためのADR枠組みの確立を通じ、消費者保護を強化する必要性を認識している。電子商取引への参加を希望する中小企業の保護を強化し、事業者・消費者間(B to C)だけではなく事業者間(B to B)電子商取引の紛争も処理する、民間主導のADRシステムを促進するADR枠組みを日本政府が確立するよう、米国は提言する。

III-C. 電子署名 日本の「電子署名および認証業務に関する法律」における技術的に中立な取り組みが、同法の施行規則や将来の法律においても明確であることを確保するため、日本政府が以下の措置を取るよう、米国は提言する。

III-C-1. 電子署名添付の有無にかかわらず、電子的な記録を法廷において証拠として提出することができ、それらが電子的であるという理由のみで法的効力を否定されないことを確認する。

III-C-2. 2002年秋に予定されている同法の施行規則の改定が、同法の技術的中立性を反映することを確保する。

III-C-3. 現在提案されている「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」案とその施行において、電子署名や公開鍵基盤(PKI)等の、取引に適切なすべての認証技術を地方自治体が利用することを、強調する。

III-D. ネットワーク・セキュリティ 政府機関や民間企業が使用しているものを含み、高度コンピューター・情報通信ネットワークの安全性と信頼性を確保しようとする日本の努力を米国は歓迎する。米国は、日本政府がコンピューターシステムの検査に関連する指針を作成し、ネットワーク・セキュリティ検査官の登録システムを導入しようと計画していると、聞いている。日本が次のことを行うよう、米国は要請する。

III-D-1. 国内外の利害関係者が指針案を検討しコメントできる機会を確保し、指針を透明性のある方法で作成する。

III-D-2. すべての民間企業が強制的に検査の対象となるのではないことを確認し、ネットワーク・セキュリティの最良の実践法を開発し広めるため、民間企業と協力する。

III-D-3. ネットワーク・セキュリティ検査官の登録システムが、透明かつ矛盾のない方法で実施されること、ならびに、国内外のネットワーク・セキュリティ検査サービス提供者の登録を認めることを確保する。

IV. IT関連製品およびサービスの調達機会の拡大
 日本の「e-Japan重点計画‐2002」は、政府のすべてのレベルでの行政手続きの電子化を目指しており、電子政府のオンラインサービスの基礎を築いている。その結果、公共団体によるハードウエア、ソフトウエア、そしてネットワーク基盤の調達は劇的に増加するであろう。IT関連調達において、開かれた競争、透明性、そして民間主導の革新という原則を促進するにあたり、日本政府は重要な役割を果たすことができる。

IV-A. IT調達ルール 情報システムのための新たな調達方針を日本政府が採用するにあたり、米国は、日本政府が新しいルールに以下の点を確保するための措置を講じることを提言する。

IV-A-1. 全省庁を通して、透明性かつ一貫性をもって実施する。

IV-A-2. 公平で開かれた調達手続きの促進に有効である。

IV-A-3. 地方自治体が、電子政府システムの開発を継続するにあたり、採用する。

IV-B. オンライン入札 日本政府が、2003年度末までに非公共工事にもオンライン入札を導入する準備を進める中、米国は、オンライン調達システムが以下の点を確保するよう、日本政府に要請する。
IV-B-1. 公平で開かれた入札手続きを促進する。

IV-B-2. 日米e-イニシアティブの「電子政府の促進」でも認識されているように、透明性、効率性、安全性、そして民間部門のリーダーシップの概念を支持する。

IV-C. 電子学習 「e-Japan重点計画‐2002」を通して、日本政府がITリテラシー(活用能力)と、公立の学校におけるPCによるインターネット利用の向上を目指していることを認識した上で、米国は、地方学区の電子学習を目的とする民間部門による技術的解決策を促進するためのイベントについて、2003年に日米両国政府が協力することを提案する。

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エネルギー
I. 独立した規制権限
 米国政府は、電力・ガス分野に関する規制機関の独立性の重要性を、首尾一貫して強調してきた。米国政府は、2001年に経済産業省(経産省)内に電力市場整備課とガス市場整備課が設置されたことを歓迎した。もし日本が新しいインフラ設備に対する新規投資を誘致するのであれば、これらの部局は政治や業界からの不当な影響を受けてはならず、また受けないものと見られなければならない。そのために、米国政府は日本政府に対して以下の提案をする。

I-A. 改正されたガス事業法および電気事業法で規定している監視・実施義務の規模に見合うような人員配置を確保するため、電力市場整備課およびガス市場整備課への専門家スタッフの配属の適切性を引き続き審査する。

I-B.適切な実施と監視を可能にするよう、これらの部局に独立した予算を提供する。

I-C. エネルギーまたはエネルギーサービス供給者から出向者を迎えることを控える。また、エネルギーまたはエネルギーサービス供給者にかかわる資金的利害がある場合は、スタッフにこれを公表する義務を課し、資金的利害を持つ案件の意思決定から彼らを除外する。

I-D. 経産省内において、一方では電力市場整備課とガス市場整備課との間の、他方では政策策定部局間の規制権限と責任の範囲および分担を明確に定義する。

II. 改革プロセス ― 政策目標の策定
 安定したエネルギー市場とインフラ設備および新規参入を促進する投資を奨励するために、米国政府は日本政府に対して、以下の措置を提言する。

II-A. 日本が電力とガス分野において採用しようとする市場構造形式を、迅速に明確化し定義する。

II-B. 定義された市場構造を達成するために必要とされる、エネルギー分野の規制改革プロセスの予定表を作成する。

II-C. ガスと電力分野において選択された市場デザインを2003年度末までに実施するために、必要なすべての改革イニシアティブを完了する。さらに米国政府は、この分野における規制改革プロセスの全期間中、パブリック・コメントの機会が与えられるよう、日本政府に対して求める。

III. 電力分野
 電気事業分科会は、日本において安定的で公平な電力供給制度を提供するために、明確に描かれた電力分野の改革政策が必要であることを明らかにした。この目的の達成のために、日本は、市場参加者および潜在的な参入者が健全な経営・投資決定を行うために、必要なアクセスと透明性を提供する措置をつくり上げ、実施しなければならない。そのような措置には、以下を提供するシステムの開発が含まれる。卸売市場で売却される電力に透明性のある価格。すべての市場参加者に送電サービス入手の可能性と価格に関する正確でタイミングよい情報。送配電サービスへの非差別的なアクセスに関する規定強化。発電の効率利用と競争力のある電力取引市場の形成という日本の目標を支援するための、電力供給区域間の適切な接続の確保。新規市場参加者の参入障害となるような法的、規制的障壁の撤廃。

III-A. アクセスと透明性 電気事業分科会は、日本の電力網が、電力供給者の共通のインフラ設備として、すべての市場参加者の間で透明かつ公平な競争を可能にする役割を担っていることを確保する必要性があるとしている。米国政府は、この分科会において、日本の送配電制度の中立性と透明性が検討されることを歓迎する。中立性と透明性を促進するために、米国政府は、経産省に対して、競争的電力市場の枠組みづくりに向け、重要な次段階の措置を取るよう以下の通り提言する。

III-A-1. すべての市場参加者に対して、送電の空容量に関する正確な情報をタイミング良く提供する制度を開発し、導入する。(OASISと同様のもの)

III-A-2. 送電容量に関して透明で偏見のない算定を行い、すべての市場参加者に非差別的な送配電サービスを提供することを確保するよう、発電事業と小売りサービス事業を、送配電やその他の事業から運営上分離する。(米国政府としては、構造的分離又は運営上の分離が、これらの目的達成のための唯一の効果的な方法であると考える。もし日本政府が運営上の分離の導入すら行わないこと選択をした場合、米国政府は、経産省に対して、その選択をした代替手段が同等に効果的であることを明らかにするよう求める)

III-A-3. 電気事業分科会の目的に沿って、経済的に効率性の高い広域電力取引制度を設立し、そのような取引をサポートするために必要な場合は、送電網関連施設をタイムリーに建設する。(米国政府は、適切な送配電制度の提供と維持は、長期的に見て、市場の公平な競争を維持するために不可欠であると考える)

III-A-4. 託送料金のパンケーキ化の廃止を含め、コスト配分の公平性を確保するため、電力供給者に会計の透明性を高める義務を課す措置を取る。

III-A-5. 産業需要家向けに、タイム・オブ・ユース計量とリアルタイム価格情報を通して、価格シグナルに対応できる措置を開発する。

III-A-6. 全国規模の競争力のある卸電力取引市場を整備するにあたり、小売価格対応を可能にするよう具体的措置を図る。(米国政府は、運営上の分離や送電の空容量の算定を管理する中立機関の創設がない状態での全国規模の電力取引市場の設立には、多少の経済的メリットがあるかもしれないが、その効果を事前に推定することは難しいと考える。なぜならば、送配電サービスの提供における差別的取扱が恐らく相当規模で存続すると考えられる上、潜在的な買い手には、電力を取引所で安く購入するより自らの発電に頼る何らかの理由が存続する可能性があるためである。また、送電制約が経済的に望ましい取引を妨げる可能性もある。米国政府は、更に、送電部門における差別的取り扱いの「行為」救済〔例えば、禁止されている弊害行為の監視〕が米国や他の国において不十分であったことが証明されており、その結果、分離のような「構造的」措置に頼らざるをえないことを指摘する)

III-A-7. 既存のネットワーク利用規定(事後監視や送電料金査定を含む)や情報ファイアーウオールの効果が疑問視されていることを踏まえて、電力ネットワークがすべての市場参加者にとって公平かつ透明であることを確保するため、次の事項を含む具体的な追加措置を取る。

III-A-7-a. すべての市場参加者に、透明性のある送電設備の接続料金体系を提供する。

III-A-7-b. ロードバランスやロードフォローなどの送電補助ネットワークサービス(例えばアンシラリー・サービスなど)の価格設定と規定に関するガイドラインを設定し実施する。

III-B. 送電インフラ設備の妥当性の確保 信頼性ならびに競争力のある国内電力取引市場には、適切な送電インフラが必要である。従って、競争力のある国内取引市場が誘導する傾向の強い発電と取引のパターンを支援するよう、既存の送電設備の妥当性を査定することが望ましい。米国政府は、経産省に、2003年12月末までに以下の措置に着手することを勧める。

III-B-1. 国内の既存発電能力が、需要変動に対応すべく最も望ましい状態で常時利用された場合(例えば、地域的経済融通)や、送電容量が常に手ごろな価格で入手可能な場合、結果としてどのような発電パターンが得られるかを測定する調査に着手する。

III-B-2. もし国内電力取引市場が設立された場合、日本が、発電インフラ設備を最も経済的な方法で運営するにあたって、十分な接続容量があることを証明するための電力フローの調査に着手する。
III-B-3. もしその調査によって、競争力のある国内電力取引市場を支えるために必要な接続容量に不備があると判明した場合、経済的に可能な限り、その不備を改善する具体的な措置を開発する。

III-C. 競争力のある電力供給者の新規参入 米国政府は、競争を通して複数の供給者から提供される多様なサービスと価格の中から需要家が選択を行える小売市場の設立を目指すという、電気事業分科会の目的を歓迎する。米国政府は、電気供給市場への新規参入の機会が、この目的を達成するために必要な段階のひとつであると、経験的に確信している。従って、米国政府は、新規市場参入促進のために、経産省が以下のような追加措置を取るよう提言する。

III-C-1. 2002年度末までに、新規の発電設備および送電線設置に関する現行の規制要件と、経産省の管轄内の措置の簡略化に関する可能性を検討するための、公開アセスメントを完了する。

III-C-2. 2003年度中に、市場参加者と潜在的な新規参入者に対して、投資を促し十分な供給量を確保するよう、市場環境に関する明確な理解を提供するための技術的、実用的方策を含む、小売りの選択肢拡大のための具体的計画と予定表を策定し、公開する 。

III-C-3. 2003年度中に、電気分野における競争を促進し、すべての市場参加者に電源開発株式会社(EPDC)資産を購入する平等な機会が与えられる方法で、同社を民営化する。

IV. 天然ガス分野 
 ガス市場整備基本問題研究会は、2002年4月の報告書において、効率的で透明性があり、公平でかつ競争力のあるガス市場創設の必要性を含む、多くの重要な改革原則を提示した。また、新設された(総合資源エネルギー調査会の)都市熱エネルギー部会では、ガスと電気市場の自由化の関連性を認識した上で、エネルギー市場全体の公平な競争を確保する必要性が繰り返された。この部会では更に、ガスの安定供給促進に必要な投資を促すよう、ガス市場の予見可能性の必要性を目標に掲げた。これらの称賛すべき目標を達成するために、米国政府は、日本政府に対して、次の通り極めて重要な手段に着手するよう提言する。LNGターミナル施設とガス・パイプラインへの開かれた非差別的なアクセスを促す。ガス輸送サービスに関する透明性の高い価格設定を保証する。需要の増加に対応できるパイプラインとターミナル施設を十分確保する。ガス市場への新規参入を促し、自由化の範囲をより多くの顧客へ拡大する。

IV-A. アクセスと透明性 ガス・パイプライン網の効率的利用と競争力のあるガスとLNG市場を促進するため、米国政府は、経産省が、以下の措置を講じることを提言する。

IV-A-1. 競争関係にあるすべての供給者に対して、パイプラインとLNGターミナル・サービスの価格と使用可能状況に関する情報への平等なアクセスを保証するよう、ファイアーウオールや会計分離を超える措置を講じることで、ガス輸送事業をマーケティングやその他の事業から分離する。

IV-A-2. 最近設置されたガス政策小委員会とガス安全小委員会が、透明性のある審議を行いパブリック・コメントを行うよう指導する。また、これらの小委員会の審議から生まれるすべての提案を、都市熱エネルギー部会が公表するよう指示する。

IV-A-3. すべてのガス市場参加者に対して、透明性のあるパイプラインやLNG施設の使用料金体系を提供する。

IV-A-4. ガス市場整備基本問題研究会が2002年4月に発表した報告書で提案されている以下の措置を実施する。

IV-A-4-a. パイプライン網とLNGターミナルの利用状況の情報開示に関するガイドラインを策定し、導入する。

IV-A-4-b. LNGターミナルの保有者が、すべての利用希望者に対してターミナル利用の条件と手続きを明瞭に説明する文書を作成し、提供することを義務付ける。

IV-A-4-c. LNGターミナルの保有者が、利用の申し出を拒否した場合は、その拒否事由を文書により相手方に通知することを義務付ける。

IV-A-5. すべてのガス供給者が、天然ガス卸市場と小売市場において公平に競争ができるよう、天然ガス輸送契約の策定および届け出要件を拡大する。

IV-B. 輸送インフラ設備の妥当性の確保 日本政府が天然ガスの利用拡大計画を達成するためには、適切なガス輸送インフラ設備が必要である。米国政府は、2001年度にガス市場整備基本問題研究会が提出したガス・パイプラインの建設と接続に関する提案を歓迎する。これらの提案と、効率的なパイプライン網の形成促進という都市熱エネルギー部会の関心に沿って、米国政府は、経産省に以下の提言をする。

IV-B-1. 新規パイプラインとLNG施設の建設の必要性決定に関するガイドラインを設定する。

IV-B-2. これらのガイドラインに基づいて、国内の主要なガス供給者のサービス地域間の新規パイプライン建設と、電力サービス地域内の新規LNG施設建設を促進するためのインセンティブを高める。

IV-C. 競争力のあるガス供給者の新規参入 消費者の選択肢を拡大するため、日本政府は、既存のガス供給者間の競争を促進し、競争力のある供給者の新規参入を手助けする必要がある。ガス供給者や電気供給者の新規参入には、十分な輸送インフラ設備が必要である。(新規電力発電事業者を含む)顧客の数の拡大は、市場への新規参入を誘うであろう。従って、米国政府は、日本政府に対して以下の提言をする。

IV-C-1. 新規のパイプライン設備およびLNG施設の設置に関する主要な規制要件と、それらの設置要件の簡略化の可能性を検討するための、公開アセスメントを行う。

IV-C-2. ガス供給者の選択肢を増やし、より多くの消費者の利益が増加するよう、ガス市場の自由化を拡大する。

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医療機器・医薬品
I. 医療機器・医薬品の価格算定改革と関連事項
 日本は従来、医療制度の財政的要求を満たすため、価格の引き下げと患者負担の引き上げを組み合わせて利用してきた。しかしながら現在、日本は医療改革をより包括的なアプローチで行っている。米国政府は、患者の観点や、効率、研究開発、専門化そして革新性の重要性に重点を置くこのアプローチを歓迎する。このアプローチはまた、医療制度のさまざまな分野における異なった価格構造(平均入院日数など)が、どのように相互に影響を与えているか、そして革新的な製品の早期導入がどのようにコスト削減につながるかについて検討する必要がある。日本がこれらの改革を進めるに当たり、米国政府は以下の措置を講ずるよう求める。

I-A. 包括的な医療改革に関する首相の審議会を設け、外国企業を含むすべての関係者に、意見を表明し議論するための意味ある機会を与える。

I-B. 外国企業が引き続き、厚生労働省の重要な政策提言である「『生命の世紀』を支える医薬品産業の国際競争力強化に向けて−医薬産業ビジョンの概要」に関する議論に意味ある形で参加できるようにする。ここでの議論は、初期の価格設定や価格の再算定と創薬との関連について検討する重要な機会となる。また、ここでの政策提言が差別なく実施されるような措置が講じられるべきである。

I-C. 医療機器・医薬品の価格算定過程において、申請者が申請前に製品の特徴について審査担当者と協議できるよう適切な機会を与えることを保証する。そのような機会には、以下のものが含まれる。
I-C-1. 申請者の価格算定要求に関し、薬価算定組織と保険医療材料専門組織に算定価格の提案を行う保険局職員と、申請者との直接協議。

I-C-2. 薬価算定組織または保険医療材料専門組織との初会合において、申請者が意見を述べまた説明を求めることを認める。

I-D. 価格設定に当たり、医療機器・医薬品を特徴付けるためにどのようなデータ(種類と出所)が使用されるのかを明確にすることにより、医療機器・医薬品の価格算定過程の透明性を向上させる。

I-E. 新規あるいは拡大された医療機器・医薬品の補正加算制度が、意図された通り十分に革新性を認識し促進するよう運営されていることを保証するため、定期的に見直しを行う。

I-F. 生物由来製品の特性と規制要件が、価格算定および再算定に反映されることを保証する。

I-G. 先進的な医療機器・医薬品を引き続き利用できるようにするため、定額償還方式や疾病診断群の利用可能性についてのいかなる議論にも、外国企業を含むすべての関係者が意味ある形で参加できるようにする。

I-H. 画像診断機器や対外診断薬といった、より効果の高い診断機器の革新性を認める保険償還の方法を導入する。

II. 医療機器・医薬品の規制改革と関連事項
 薬事法の改定と、医療機器・医薬品の承認審査を行う新たな審査機関の設置は、日本の薬事制度のスピードと効率を向上させるとともにバイオ・ゲノム時代の新たな課題に適応するための重要な措置である。米国政府は、日本が、効率や調和、そして最新の世界科学の理念を取り入れた規制制度を構築する努力を支援する。日本がこれらの改革を進めるに当たり、米国政府は以下の措置を講ずるよう求める。

II-A. 新しい審査機関が採用するユーザーフィー制度を検討し制定するに当たり、日本は以下の措置を取るべきである。

II-A-1. 価格対サービスの仕組みと水準が適切なものとなるよう、協力的なプロセスを通じて、すべての関係業者と精力的に協議する。それにより、新しい審査機関の効率性の評価方法と同様、価格対サービスの関係を透明で予見可能そして公平なものとすることができる。

II-A-2. すべてのユーザーフィーが、新たな審査機関の予算を補完するために使われ、それが新製品やその使用法のより迅速な承認に利用される資源となることを保証する。

II-B. 日本の医療機器・医薬品の市販後制度の透明性と予見可能性を向上させる。米国政府は厚生労働省に対し、製造業者が同省の安全問題の担当官(内部および外部専門家)と直接協議することができ、また、有害反応を評価する際、偏りのない検討をされるであろう世界的な安全データを提出できるよう保証することを提案する。

II-C. 生物由来製品の定義と分類要件に関する共通の国際慣行を十分に考慮した、科学根拠に基づいた議論を、外国企業を含むすべての関係者と引き続き行う。

II-D. 「メガトライアル・センター」に関し提言をまとめそれを実施し、同時に厚生労働省がその過程において、すべての業界関係者に対し意味ある公平な機会を与えることを保証する。また、製造業者が、製品および製品についての研究、そして関連するすべての知的財産権を管理する権利を保持することを保証する。

II-E. 医療機器の分類、データ要件、試験基準および品質管理規制などの分野における規制調和を引き続き実行することを保証する。その過程では、共通の国際慣行を十分に考慮する。

III. 栄養補助食品の自由化
 日本の栄養補助食品の市場では規制緩和が進められている。規制緩和措置が取られるに当たり、米国政府は日本に対し、薬事制度のデータ要件が合理的で適切であり、安全性と有用性を確保するために必要なものに限られることを引き続き保証するよう求める。

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金融サービス
I. 個別措置
 米国は、以下の分野における規制改革が可能な限り早期に実施されることを歓迎する。

I-A. 郵便金融機関(郵貯ならびに簡保)による投資顧問会社の資産運用サービスの利用を解禁し、運用機関の変更時に運用資産の現金化義務が伴わない国内信託の枠組み(特定信託)を導入する。

I-B. 被雇用者にとって確定拠出年金が退職後の有力な貯蓄手段となるよう、拠出限度額を引き上げる。拠出限度額の引き上げ方法として、事業主の拠出に相応する被雇用者の拠出を認める。被雇用者に確定拠出年金と確定給付年金の選択を与えている企業において、確定拠出年金が確定給付年金の有力な代替案となりうるレベルにまで、確定拠出年金の拠出限度額を引き上げることを確実にする。

I-C. いったん認可されたひな型(プロトタイプ)に沿った確定拠出年金プランは、中小企業が当局へ通知し待機期間経過後は、基本骨格案の審査や認可を改めて求められることなく低コストで採用できるよう、確定拠出年金プラン提供者がそうしたひな型を審査・認可のために申請することを認める。

I-D. 証券投資信託の設計に当たり、柔軟性と効率性を高めるため、証券投資信託における非均等受益権(マルチクラス・シェア)を解禁する。

I-E. MMF(マネー・マネジメント・ファンド)の時価評価、組み入れ資産の償還期間、格付け、および組み入れ資産の分散化などのルールをさらに改善する。

I-F. 貸金業規制法の対象となる貸金業者も、同意した顧客に対しては、書面の交付を電子的手段で行えるようIT書面一括法を改正する。

I-G.民間の金融サービス業界と緊密に協力し、金融機関の現行の報告・書類保管義務を見直し、重複または類似する開示・報告義務は修正・撤廃する。金融機関が記録保管を電子的手段で行うことを許可し、可能であれば、報告の交付や申請も電子的手段で行うことを認める。

II. 透明性
 金融分野での規制・監督に関する慣行の透明性を改善するため、米国は以下の措置が可能な限り早期に実施されることを歓迎する。

II-A. 特殊法人等の事業を詳細に見直し、民間との競合を回避するとの公表された目標に整合するよう、郵便金融機関(郵貯ならびに簡保)に対する新たな金融サービス事業案に関連するすべての報告書や立法措置は、導入前に完全に公示されパブリック・コメントや検討の対象となるよう要望する。

II-B. 自主規制や投資家保護など公共政策的な役割を担う業界団体の運営と意思決定は、透明かつ開かれた方法で行われるべきである。具体的には、米国は以下の提言を行う。

II-B-1. 業界団体による規則制定案すべてにパブリック・コメント手続きを取り入れるべきである。業界団体の会員規則の最終的な取りまとめに際しては、一般から受け取ったコメントを真剣に検討すべきである。

II-B-2. 規則、監督基準、指針、運営規則・手続き、市場調査、その他の統計表を含む文書類は、一般の人々が適正な制作・複製費用で、電子的手段や文書の形で入手できるようにすべきである。

II-C. 自主規制機関を補うため、日本の金融当局が、会員企業の見解や専門的意見を代表するため設置された民間の金融業界団体を支援し、協力することを要望する。

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競争政策
I. 公正取引委員会の独立性
 公正取引委員会(公取委)は、日本市場で効果的に競争を推進し、維持するためには、表面だけでなく実質的にも独立性を持たなければならない。そのために、米国は、日本が2003年度のできるだけ早い時期に、公取委の組織としての地位を内閣府の下で独立した官庁へ移管する法案を次期通常国会へ提出するよう提言する。

II. 公正取引委員会の資源
 公取委は、日本経済全般において反競争的行為を審査・是正し、競争を促進するというその任務を遂行するには、依然として十分な人的資源を欠いている。米国は日本に対して以下のことを提言する。

II-A. 2003年度には、審査、企業の買収・合併、その関連部門へ少なくとも50人増員するなど、公取委の職員数と予算を引き続き大幅かつ着実に増大させる。また、

II-B. 経済分析や専門知識を提供することで、競争原理が経済的に健全な形で公取委の審査および競争推進活動に適用されるのを確保する一助として、大学院卒レベルのエコノミストで構成される部局を公取委内に設置する。

III. 公正取引委員会の執行の効果
 ますます巧妙化する反競争的行為に関与する企業に先んじるために、公取委はいつでも自由に使える有効な法執行の手段を持たなければならない。特に、公取委の審査・執行権限を他の主要国の反トラスト当局のそれと同程度のレベルにすべきである。米国は日本に対し以下のことを求める。

III-A. 公取委の審査権限の強化 公取委の審査、救済ならびに制裁権限の包括的見直しを行い、他の主要なOECD加盟国の反トラスト当局と同等な権限が公取委に与えられるように、2004年の早い時期までに独禁法の改正案が国会に提出されることを目指す。その見直しは以下の案件を含む。

III-A-1. 内部告発者や財政的に厳しい状況にある企業に対し、課徴金を削減したり、免除したりすることができる権限を公取委に付与する。

III-A-2. 刑事告発をするため公取委の捜査ならびに審査権限を強化する。

III-A-3. 他の刑事事件の手続きと整合するよう独禁法の刑事告発手続きを改正する。

III-A-4. 公取委の審査への妨害または非協力的行為に対する罰則を強化する。

III-A-5. 公取委が排除措置命令を下す措置期限を3年に延長する。

III-A-6. 独禁法の刑事違反に対する禁固刑を最長5年とすると同時に、出訴期限(時効)を5年とする。

III-B. 独禁法の行政制裁措置の拡充 中小企業を含め、十分な抑止効果を得るため課徴金を大幅に引き上げる法案を上程する。また、課徴金の納付命令の対象範囲を拡大する。

III-C. カルテル行為を当然違法とする ハードコア・カルテルや談合謀議が競争を著しく阻害したことを証明する要件を削除する法案を上程することで、そうした行為に対する公取委の執行能力を強化する。

III-D. 刑事上の独禁法執行の強化 独禁法違反を刑事事件として訴追する件数を増やすことを、法務省や東京高等検察庁ならびに公取委に促し、刑事訴追となりうる案件を公取委が審査する過程で、東京高等検察庁との間により緊密な連携が図れる仕組みを設ける。

III-E. 司法当局への独禁法セミナープログラムの提供 独禁法に基づいて公取委や民間部門が起こした訴訟に対して、法律上あるいは経済的観点から確固とした理解を得てもらうために、最高裁と公取委が東京高等裁判所(およびその他)の裁判官を対象とした一連のセミナーを開催するように協力することを求める。

IV. 談合に対する措置
 談合は、競争と日本の納税者の両方にとって有害であり、競争原理と独禁法を尊重する気持ちを損なう。特に、政府の職員による談合謀議への支持や支援は最も有害である。談合を大幅に減らすため、米国は日本に対して、以下のことを求める。

IV-A. 官製談合防止法の履行 最近制定された官製談合に関する法律を、完全に実施するための措置を講ずる。その措置には以下のものが含まれる。

IV-A-1. 政府職員の談合関与の有無を判断する手続きの公取委による採用

IV-A-2. 各省庁が要求する調査を行なうのに必要な資料その他の支援を当該省庁の長に提供するための手続きの公取委による実施

IV-A-3. この法律によって規定されている調査を実施する責任のある「指定職員」の当該省庁による任命

IV-B. 談合参加者から過剰請求分の徴収 国土交通省を中心に公取委や関係各省庁参加のもと、談合によって生じた過剰請求の算定方法と、談合参加者からそのような談合の過剰請求分を徴収するのに必要な行政手続きを政府全体で検討し、2003年5月までに過剰請求分の効果的な徴収手続きを確立することを目指す。

IV-C. 地方自治法に基づき提出された民事訴訟への支援 地方自治法第242条に基づき起こされ、談合による過剰請求から生じた損失を地方自治体に回収させようとする民事訴訟は、納税者と社会への利益となるという観点から、そうした訴訟に関して妥当な支援を裁判所に提供する。その支援には以下が含まれる。

IV-C-1. 公取委によるこうした訴訟に関連する情報や資料の提供

IV-C-2. 公取委や他の関係省庁による過剰請求の算定に関する専門知識の提供

V. 競争と規制改革
 日本の規制改革が成功するためには、それが市場原理を基本とし、競争的な市場の創造を目指したものでなければならない。そのために、米国は以下のことを日本に対し求める。

V-A. エネルギー分野における競争市場の創造 安定し競争的な電力取引市場の創造を含む電力とガス事業分野における規制撤廃・緩和の計画に公取委の意見を積極的に求める。

V-B. 支配的電気通信事業者による反競争的・排他的行為の防止 電気通信分野における支配的事業者の排他的行為に対し、十分かつ積極的に独禁法を適用しうるよう、公取委に権限と支持を確保し、国会に提出される電気通信事業法のいかなる改正案も事前に公取委の助言を求め、それが十分考慮されることを確保する。

V-C. 特殊法人および他の公益法人の競争的民営化の確保 競争を妨げるのではなく、むしろ促進させるような形で、特殊法人およびその他の公益法人の構造改革と民営化が行なわれることを確保する。そのためには、公取委が民営化や組織再編の計画を見直し、助言を与えることも含まれる。

V-D. 構造的に非競争的市場での競争状況の監視 非競争的市場構造をもつ分野における競争の促進と維持のために積極的な措置を講じる。

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透明性およびその他の政府慣行
I. パブリック・コメント手続き
 日本が、1999年にパブリック・コメント手続きを採用したことで、規制案が最終決定され実施される前に、すべての利害関係者がその案を検討し、意見提出する機会を与えられることになり、日本の規制制度が大幅に改善されることが可能となった。しかし、同手続きの実施から3年が過ぎた現在、この制度の有効性に対し依然として深刻な懸念が残っている。総務省が、2002年8月22日に公表した同手続きの実施状況調査では、この手続きの活用に当たり、依然として深刻な欠陥があることが明らかになった。これまでと同様に、過半数の案件で意見募集期間が30日未満に設定されていた。さらに、2001年度にパブリック・コメントの対象となった354案件のうち、行政機関が提出された意見を最終規制に取り入れた比率はわずか14%にまで低下した。こうした深刻な問題に対処し、同手続きを有益で効果的な規制メカニズムにするため、米国は、日本政府が以下の措置を講じることを要請する。

I-A. パブリック・コメント手続き適用対象の当否にかかわらず、関係者が関心を持つ意見募集案件を1カ所で知ることができるような中央システムを、できればインターネット上に設ける。このシステムは、現在、政府機関が採用する意見募集のさまざまな公告媒体に追加されるもので、審議会、研究会、勉強会およびその他の検討機関による意見募集案件も掲載する。

I-B. 緊急を要する案件は意見募集期間を14日間とし、それ以外の案件は、募集期間を最低30日間と義務付け、また可能な限り60日間の募集期間を設定するよう奨励する。

I-C. パブリック・コメント手続きを、行政手続法に組み入れるために必要な法的措置を講じることで、単なる指針から法律にして強化する。

II. 構造改革特区(特区)
 米国政府は、日本政府による構造改革特区導入計画を注視している。規制緩和や構造改革に向けての、こうした新たな取り組みが効果的に実施されれば、日本が持続可能な成長路線に復帰するための重要な機会となる。日本がこの計画を推進するに当たり、米国は以下のことを提言する。

II-A. 特区が透明な形で選定され、導入される。

II-B. 競争促進のカギとなる市場参入機会の拡大に焦点を当てる。

II-C. 国内外の企業双方が、特区内で事業展開できるよう非差別的なアクセスを確保する。

II-D. 構造改革特区推進本部は、特区の効果を見極めるため透明性の高い点検メカニズムを構築する。

II-E. 類似した分野を対象とする特区構想の認定には制限を加えないという理解のもと、特区を創設する。

II-F. 特区内で成功した措置については、可及的速やかに全国規模で適用する。

III. 一般市民の法案作成への意見提出
 一般に政府機関は、利害関係者が審議会の委員であるか特別なアクセスを持つ場合を除き、法案が国会に提出される前の作成段階において、意見表明できる機会を設けていない。米国は、内閣官房が指導力を発揮し、「知的財産基本法骨子」を最終決定し国会に提出する前に、一般市民に対し同骨子を検討する貴重な機会を提供したことを高く評価する。従って、米国は、日本の他省庁がこの例に倣い、法案が国会に提出される前の作成段階で、一般市民からの意見聴取を求めることを慣行とするよう要請する。この課題に関し、この要望書の他の分野でも米国が関心を持つ法案についての言及があるが、法案作成に対する一般市民の意見提出機会が必要とされる具体的事例2件は以下の通り。

III-A. 生命保険契約者保護機構 生命保険契約者保護機構(生保PPC)に対し(必要があれば)公的支援を行うために財政措置を講じるとの日本政府の現行の取り決めは、2003年3月末に失効する。その時までに作成される予定の、生保PPCへの将来的な公的支援に関する法案は、国内生保および外資系生保の双方の財政基盤と運営、ひいては生保業界に対する国民の信頼にも大きな影響を与える可能性がある。米国政府は、日本政府に対し、パブリック・コメント手続きを最大限に利用・実施するよう求め、生保業界(国内生保および外資系生保)とすべての利害関係者が、生保PPCにかかわる計画案、法律案および既存の規制の改定や他の規制措置に関し、それらが国会に提出されたり実施される前の段階で情報を入手し、コメントし、政府関係者と意見交換を行う機会が与えられるよう要請する。

III-B. 損害保険契約者保護機構 米国政府は、損保PPCに対する公的支援に関する法案が検討される場合には、日本政府に対し、III-Aの生保PPCの事例と同様に取り組むよう要請する。

IV. 特殊法人の民営化
 米国は、日本の特殊法人を再編・民営化するとの小泉首相の取り組みに注目している。米国も、この改革が積極的に実施されれば、競争の拡大や効率の改善が促され、資源のより生産的な活用が可能となり、日本経済に大きな影響を与えることになると考える。米国は、日本政府が特殊法人改革を進めるに当たり、以下の措置を要請する。

IV-A. 再編・民営化を透明性の高い形で行う。

IV-B. 特殊法人改革によって影響を受ける、あるいは影響を受ける可能性がある国内外の民間機関に対し、パブリック・コメント手続きの活用などを通じ、改革案に対する意見提出ができる機会を確保する。

V. 郵便金融機関
 米国政府は、郵便金融機関(郵便貯金「郵貯」と簡易保険「簡保」)が、日本の金融市場が効率的に機能することに対し影響を与えていることについて、日本経団連などの組織が懸念を表明していることに共感している。2003年の郵政公社の発足と郵政三事業(郵便、郵便貯金、簡易保険)の運営ガイドラインを設定する施行令・規則の立案は、日本政府がこれら機関にかかわる透明性と競争という重要な課題に対処するための具体的措置を取る貴重な機会となる。

V-A. 透明性 郵政事業の郵政事業庁から郵政公社への移行過程と、その民間部門への影響は依然として不透明である。米国政府は、こうした事態を改善するため総務省に対し、民間ビジネスに影響を及ぼす可能性がある郵政公社への移行に関するすべての側面について、一般(外国保険会社も含む)への情報提供を十分に行い、また一般からの意見を求めることを要請する。これには、保険業界や他の利害関係者(国内および国外)に対し、以下の事項について、情報を提供し、コメントの機会を与え、また総務省関係者と意見交換できる意味ある機会を提供することも含まれる。

V-A-1. 国会提出前の総務省の計画や法案

V-A-2. 実施段階前のガイドライン案等の規制措置(パブリック・コメント手続きを最大限活用する)

V-B. 拡大抑制 2003年の郵政公社の発足と郵政事業の移行に当たり、米国政府は日本に対し、郵便金融機関(簡保と郵貯)による新たな保険商品の引き受けや、新たな元本無保証の投資信託の提供を禁止するよう提言する。

V-C. 同一基準 2003年の郵政公社の発足と郵政事業の移行に当たり、米国政府は日本に対し、郵便金融機関と民間競争者との間に公正な競争条件を確保するため、郵便金融機関への法律、課税レベル、セーフティーネット構築のためのコスト負担義務および規制の適用に当たっては、民間業者と同一の基準を適用するよう提言する。

V-D. 民営化 米国政府は、小泉首相が、郵便事業機関(金融サービス業も含む)民営化の可能性を探るために設置された私的懇談会から提言を受け取ったことに注目している。現行制度のいかなる変更も、保険業界という幅広い市場の競争や効率的なあり方に大きな影響を与える可能性があるため、民営化に関するあらゆる決定が開かれた、透明性の高い形で行われ、実施されることが重要である。これには、上記V-Aで提言された措置が含まれる。

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法律サービスおよび司法制度改革
I. 法律サービス
I-A. 提携の自由 米国は日本に対し、日本の弁護士(弁護士)と登録された外国弁護士(外弁)との間ばかりでなく、弁護士と日本国外で法律業務を行っている外国弁護士(あるいは彼らの法律事務所)との間の提携の自由を禁止しているすべての規則を撤廃し、また、彼らが法務専門職として対等の立場で、しかし異なった業務範囲を持って、提携の形態を決定できるよう認めることを求める。この観点から、米国は日本が以下の措置を取るよう提言する。

I-A-1. 外弁が弁護士あるいは弁護士法人との間でパートナーシップを形成することを許可する。そのようなパートナーシップの下では、双方が自ら選択した名称を持つひとつの統合された法律事務所を設立することができ、そのような法律事務所が、所属するメンバーの権限内で、いかなる案件についても統合された法律的助言やサービスを提供することができる。

I-A-2. 外弁のみによって構成されるか、あるいは外弁と弁護士両者によって構成されるかを問わず、法律事務所が弁護士を雇用することを認める。

I-A-3. 弁護士が、日本国外で活動する外国弁護士、あるいは日本国外に本部を置く国際法律事務所との間にパートナーシップその他の提携関係に参加するに当たり、日本弁護士連合会(日弁連)や地方弁護士会が制限を加えないよう保証する。

I-B. 専門職法人と有限責任組織 外弁および外国法律事務所が日本で事務所を設立する際には、形態を自由に選択できるようにすべきである。この観点から、米国は日本が以下の措置を取ることを求める。

I-B-A. 日本の司法制度が、日本で法律業務を行う外国法律事務所の有限責任パートナーシップおよび有限責任法人に対し、完全な法律的認知を与えることを確保する。それにより、日本における外国法律事務所は、それぞれの本国の組織の支部として登録されることができる。

I-B-2. 外弁が、本国における組織の日本における支部の代わりに、法律専門職法人を設立することを認める。

I-B-3. 外弁により構成される、あるいは外弁と弁護士により構成される法律事務所が、日本における形態にかかわらず、日本の法律専門職法人と対等の立場で全国に支部を設置することを認める。

I-C. 外弁に対する不必要な規制の撤廃 登録された外国弁護士が日本で行う法律業務は、法律サービスを求める日本の顧客に対し重要な専門知識その他の恩恵を提供することができ、より効率的な企業取引を可能にする。以上の理由から、外弁の業務にかかわる障害を最小限に抑えることが重要である。そのため米国は、日本が以下の措置を取ることを求める。

I-C-1. 法務省は、外弁資格取得のための職務経験要件として、外国弁護士が日本においてその原資格国の法律に関する業務に費やしたすべての期間を換算できるようにするため、必要な措置を講じる。

I-C-2. 弁護士に認められているのと同様に、外弁が第三国の法律に関する助言を提供することを許可する。

I-C.3. 外弁資格取得のために必要な書類や審査に必要な時間を削減するための措置を講じる。

I-D. 弁護士会の審議における透明性と公平性 米国は日本に対し、日弁連および地方弁護士会が外弁に影響を与えるすべての法律や規則を制定・施行する際に、外弁が効果的に参加する機会を提供するために必要な措置を講じることを求める。それらの措置には、外弁が適切な通知や意見表明の機会が与えられ、また、外弁が行ったとされる不正行為を審査する懲罰委員会への参加も含まれる。

II. 司法制度改革
II-A. 民事訴訟制度の改善 米国は日本に対し、「司法制度改革推進計画」を迅速に実施するよう求める。特に、米国は、日本が民事訴訟の迅速化と効率化ならびに審議期間の半減という目標を達成するため、審理日程の効率化と訴訟の初期段階における訴訟当事者の証拠収集を促す法案を次期通常国会に提出するよう求める。

II-B. 司法による行政機関監視の強化 米国は日本に対し、司法が行政機関を効果的に監視し、また国民がその過程にタイムリーに意見を述べる機会を与えるために必要な措置について、司法制度改革推進本部が行っている包括的検討を強化するよう求める。それにより、日本が明言した司法の効果的な監視を確保するために必要な措置を2004年11月までに講ずるという目標が達成される。

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商法
I. 合併手続きの柔軟性
 三角合併やキャッシュ・マージャーなどの近代的な合併手法は、多様な国際企業取引と、日本の企業再構築を促進するために重要である。それらの合併手法が、日本の現行の法制下で認可されていないため、日本に対する外国からの投資が阻害され、資本、技術、経営ノウハウが日本経済にもたらす恩恵を享受できない。日本の法制度におけるこのような欠陥を是正するため、米国は、日本が以下の措置を講じるよう提言する。

I-A. 外国企業が、産業再生法により認定された企業再構築計画に従って日本企業を買収する際に、三角合併やキャッシュ・マージャーといった手法を利用することができるよう同法の改正法案を次期通常国会に提出する。

I-B. 三角合併やショート・フォーム(スクイーズ・アウト)マージャーを含むキャッシュ・マージャーを商法で認めるための法務省の研究について、その参加者と作業計画(課題と日程)、また外国企業や法曹界からの意見聴取に関する法務省の計画を2002年度末までに公表し、これらの案件についての法案を2004年度までに国会に提出することを目指す。

II. 企業統治の改善
 良い企業統治の下では、経営者が、生産性を向上させ健全な経営判断を行うことにより、株主の利益を最大限に高める努力をするため、企業の業績が改善する。賢明な委任投票をするために必要な情報を公開し、株主に投票を奨励することにより、経営者が株主に対し説明責任を果たすことは、良い企業統治制度の基本的側面のひとつである。以上の目的のため、米国は日本が以下の措置を講じるよう求める。

II-A. 年金基金の管理者に対し、年金受益者の利益のために委任投票を行い、委任投票の正確な記録を保存し、委任投票における政策あるいは方針を公表することを義務付ける。

II-B. すべての株式公開企業の、証券取引法によって定められた報告書や書類が電子化され、ひとつあるいはそれ以上のウェブサイトに集約され、タイムリーに公表されるよう保証する。

II-C. 株主が委任投票に関わる資料を株主総会の最低30日前までに入手できるよう義務付ける。

II-D. 監査、報酬、任命委員会制度を採用している企業に対し、それぞれの委員会の委員の氏名、および、それらの委員が社外委員であるか否かについて、さらに社外委員でない場合には、その委員と企業との関係を公開することを義務付ける。

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流通
I. 空港着陸料の改革
 成田空港と関西空港の着陸料は世界で最も高い水準にある。着陸料が下がることは、航空業界の財務体質改善を促し、関連産業や広く経済一般の成長を刺激することにもなる。米国は、日本に対し以下のことを求める。

I-A. オープンで透明な方法で、国際的に認められた会計基準を使用し、国際民間航空機関(ICAO)勧告に基づき、実際のサービス提供コストに基づく着陸料を設定する。

I-B. 着陸料の意味ある削減について、相互に満足できる合意に達することを目標として、すべての航空会社と既存の多国間組織の場を利用して交渉を行う。

II. 課税最低価格の引き上げ
 日本でのエクスプレス便の取扱量は引き続き増大している。現行の低い課税最低価格は、手続きを遅らせ、結果として事務コストの引き上げにつながっている。日本の消費者の持つ高い期待に応え、小型商品や小包の日本への輸入を迅速にするため、米国は、日本に対し、関税定率法で定められる課税最低価格を1万円から3万円に引き上げることを求める。(指定貨物を除く)

III. U申告利用の拡大
 「U申告制度」を成田(原木ターミナル)から空港外の他の保税倉庫にも拡大し、空港内でのOLT貨物にかかわる「Z申告制度」を廃止することで、通関手続きを損なうことなく、コストが下がり、効率も高まる。発送が誠実に行われている限りにおいては、複数の保税倉庫は必要ではない。これは、宅配業者にコストを強いる(1キロ当たり13.9円)ものであり、また時間の浪費にもなるため、輸送コストの上昇という形で消費者の負担につながる。米国は、日本に対し、使用する宅配業者、また、複数の保税倉庫を経由するか否かにかかわらず、全面的に「事前許可申告」(U申告)を可能とするよう求める。

IV. 通関手続き
 現在、通常の業務時間以外では通関手続きは行われていない。にもかかわらず、業務時間終了後に税関に残され貨物には超過料金が課せられ、結果として極めて高額の使用料となっている。米国は、日本に対し、取扱量の多い税関では終日・通年無休で通関手続きを受けられるものとし、通常の業務時間外に処理された貨物にだけ超過料金を課すことにするよう求める。

V. 簡易申告制度の利用拡大
 米国は、日本が、輸入品の通関手続きを簡素化する努力を継続してきたことを歓迎する。申告制度の簡素化によって、税関職員が検査や通関後の調査などの他の重要な分野に専念することが可能となる。米国は、より広範囲な取引で簡易申告制度が利用されれば、更なる効率化が図られると確信する。米国政府は、日本が、国際宅配業者や認可を受けた貨物輸入代行者を記録上の輸入者とみなすことを求める。これによって、更なる効率化が図られるほか、国際宅配業者や輸入代行者が実際の輸入者に代わり関税や税金を支払うため、そうした税金が未納となる懸念も減少する。

VI. 航空貨物を対象とした事前承認申告
 現行手続きでは、航空貨物の税関申告は航空便到着後に行うとされているため、結果として、作業の重複や不必要な遅延につながっている。米国政府は、日本に対し、必要な貨物情報が登録され次第、到着前に航空貨物の事前承認申告手続きが処理できるよう求める。こうした措置により、貨物出荷時間が短縮され、通関業務の停滞を防ぐことができ、倉庫に貨物が溢れる状況も軽減される。