2006年高校教科書検定

 3月29日、07年秋から使用される高校教科書の検定結果が公表された。14教科306点の全てが合格となったが、一点あたりの意見数は42件(前回36件)と増加した。それは、新自由主義構造改革と憲法・教育基本法改悪、「戦争のできる国づくり」をすすめる日本の財界と政府の教育に対する介入を露骨に反映したものとなっている。

 第一に、能力主義に基づく自由競争・市場原理によって国民の学習権が破壊され、教育における階層分化が急速に進んでいる現状を追認し、「できる子はもっとできるように」「できない子はそれなりに」の方向を強めた。「数学T」で平易な足し算や引き算から始め、英単語に仮名を振り、書き込み教科書、漫画によるビジュアル化などを導入した。拡大しつつある学力格差への安易な迎合である。いっぽう「発展学習」は理科56点に796箇所など理科に重点を置いた。いま必要なことは、学力格差を招いた原因を分析し、高校生として到達すべき目標を掲げて学力保障をどうはかるかということであるが、そうした姿勢は教科書行政に欠けたままである。

 第二に、教科書への政府見解の押し付けである。各社が「北方領土、尖閣諸島、竹島などの領土問題」にふれたが「日本の領土である」ことの明記を求められた。靖国参拝は「内閣総理大臣として」とされ、「福岡地裁の違憲判決」の「違憲」は削除された。イラクに対する「先制攻撃」は「軍事攻撃」と修正され、「憲法上許されないとされてきた多国籍軍」は「復興支援のためとして多国籍軍にも」と変更された。酸性雨も森林破壊や魚介類死滅の「大きな原因となっている」ではなく、「といわれている」に変えられた。「ジェンダ−フリ−」は消えた。こうした記述変更の強要は、教育基本法10条が定める教育に対する介入禁止の公然たる無視である。

 第三に、日本の侵略戦争・植民地支配の責任をあいまいにした。「日本軍により慰安婦にされた女性」を「日本軍の慰安婦にされた」と変更させて「従軍慰安婦」の国家責任を回避した。「多くの朝鮮人が強制連行(拉致)され」という記述から「拉致」を削除するいっぽう、「北朝鮮から帰国した拉致被害者たち」の写真説明に「まだ全員の帰国は実現していません」と加えさせた。「南京大虐殺の犠牲者20万人以上」は「さまざまな説」の一つとされた。

 このような検定結果が示している教育権差別の容認、正しい歴史認識の欠落、時の政治権力の介入に対して私たちは強く抗議するものである。

 高校生になれば自主的・主体的な探求心・判断力を充分に持っている。CPE(初期雇用契約)をめぐるフランス労働者の闘いでは高校生が大きな役割を果たしている。教科書は学習のための資材の一つである。教師も生徒も「教科書を」ではなく教科書「で」教え・まなぶ実践をいっそう強化して欲しい。また、学習を補強するための自主教材の開発も進めて欲しい。日・韓や日・中・韓で共同作成した歴史教科書も活用できる。

 同時に、教科書の作成と採択制度について抜本的な見直しをはかり、子ども・保護者・教職員の意見反映をはかり、広域採択制度をやめるべきである。




                        戻る