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情勢
                        2013年1月

1 職場とくらし


 格差社会が進んでいる。厚生労働省の発表では相対的貧困率は1985年には12%だったのが、2010年には16%と増えている。また先進資本主義国の間では米国に次いでワースト2位になっている。(相対的貧困率は、国民一人ひとりの所得を順番に並べ、中央の値の半分より低い人の割合だ。この場合の所得とは、収入から税金や社会保険料を差し引いた1人当たりの所得を指す。厚生労働省が7月に発表した2010年調査では、年間112万円未満が貧困になった。相対的貧困率は16%で、前回の07年調査より0・3ポイント上昇。1986年調査以降で最悪となった。)
 日本の貧困率が高い理由の一つとして、若者はもちろん、特に女性の賃金が低いことが挙げられる。女性は、非正規雇用の中でも特に賃金が低いパートやアルバイトが多く、正規雇用の場合も、管理職への登用が少ない。一人親世帯の貧困率が高いのも、大半が母子家庭で、親の収入が少ないためだ。
 最低賃金の国際比較でも日本や米国はEU主要国の70%にすぎない。
 結果として、10万人当たりの自殺者数は23.8人と先進国の中では、韓国に次いで第二位である。2011年は減少傾向にあるものの3万人台を維持している。
 一方社会保障については日本の企業と個人の負担割合はフランスでは65対35に対し、日本では、ほぼ50対50と労働者の負担率が高く、EU諸国に比較して日本企業の社会保障費の負担は極めて少ない。
 高齢化が進む私たちの討論の中からも、賃下げ・リストラ、子供が就職できない、サラ金問題、自由に使える金がない、介護問題などの意見が出されている。さらには税と社会保障の一体改革と称した消費税の大増税が決まっている。さらには年金切り下げや2%の物価上昇を目的とする政策が実行されれば私たちの生活はますます苦しくなる。

 非農林業の雇用者数約5000万人のうち非正規雇用者数は35%で毎年増大傾向にある。正規雇用者は減少傾向が続いている。従って未来を担う若者ほど厳しい環境に置かれている。
 加えて評価制度が多くの職場で導入され、モノが言えない職場となり労働組合運動は形骸化し、職場の活力も失われつつある。
 これまで経済成長を支えてきた団塊世代が退職し始め、組合運動の中心は若者に移りつつある。しかしその若者たちの間には、将来に対する不安や団結が簡単ではないこともあり、展望を持てないでいる。

 2011年3月11日の東電福島第一原発は全国に放射能をまき散らし、世界に類をみない放射能汚染をまき散らし、今も多くの避難住民が存在する。これに端を発した政府のエネルギー政策をめぐり、先の総選挙では連合運動の弱さが露呈した。電力総連が民主党の候補者に対し、エネルギー政策に関し、原発推進の立場から踏み絵を迫ったのである。企業はもちろん原発推進であるが、労働組合までもが賛成に回るのは一部労組のエゴである。過去に造船不況時に造船重機労連が軍艦の発注を要望していたことを連想させる。

社会保障が支出100兆円を超えるという。実はこの100兆円という数字は我々の保険料も含まれており、国民はすべて税負担と思ってしまう。正確にいえば社会保障会計の支出が100兆円ということである。社会保障会計は事業者や労働者などの保険料負担や国庫負担、その他利用者の保険料などなどが含まれているが、これは政府の負担だけではない。

 最近生活保護に改悪の焦点が当たり始めている。生活保護の申請が厳格になり、諦めた老人が餓死や孤独死に至った記憶は新しい。このような事例は福岡県や東京をはじめ全国で起きている。北九州市では生活保護費は年間300億円を絶対超えてはならないとされている。生活保護費は決して高くはない。だがそれ以上に若者の失業率の増加や非正規雇用、高齢者の賃金カットや退職金の切り下げなどが強行され、生活保護を申請せざるをえない国民が増えたことにある。そして低賃金労働者が増え、生活保護費が相対的に高く見えるようになっただけのことである。むしろ解雇規制を徹底し正規雇用を増やし、最低賃金制を大幅に値上げすることこそが重要である。また生活保護を受けている人には、能力に応じた就労保障を徹底すべきである。生活保護は好んで受けるものはいない。しかし最後のよりどころなのである。

2 消費税の値上げと法人税の減税

 1989年に消費税の創設と3%が実施され1997年に5%に引き上げられました。これによる消費不況が解消しないまま「安定した社会保障制度財源」の確立を目的にさらに5ポイント増税が画策されている。だが我々の経験からすれば、さらに大きな消費不況に突入することは容易に想像できる。
 他方法人税は消費不況対策の為、1999年の所得税住民税の定率減税と法人税の減税が実施された。しかし定率減税が打ち切られ、法人税の減税のみ継続された。今回はそれに上積みする形で法人税を減税する。法人三税を合わせた実効税率は40%、このうち法人所得税を30%から25%へと減税する。アメリカ国内ではこういう動きに呼応するように法人税減税の要求から強まっている。円高は強調介入でなければ効果が生まれにくいのと同様、法人税も一定の強調が必要である。アメリカは消費税という制度は国家としてはなく、国民に直接大増税という形にはならないが、日本は消費税の増税という形で跳ね返る。

 この間の日本の税制改革では所得税や住民税の累進課税が縮小又は廃止されてきた。富裕層への優遇と勤労国民への増税を続けてきた。その結果、歳入も減ってきたのである。
再度富裕者に対する累進課税を復活させねばならない。

資本金10億円以上の大企業の内部留保金は2009年度には244兆円となり、トヨタ自動車の連結決算では13兆円にもなります。これはこれまで働いてきた労働者の血と汗の結晶であるが、労働者への給付を抑え、反対に役員報酬を増やしたり配当を増やしている。

3 その他の社会問題 

 原発 昨年3月11日に東日本大震災が発生し、東電は福島第一原発がメルトダウン・水素爆発の重大事故を発生させ、東北では現在も移転や退避を余儀なくされている。放射性物質は量的には大小様々であるが、日本全国にまき散らされたのである。また計画停電もほぼ東京23区を除いて実施されるなど大都市優遇の姿勢が貫かれた。
 福島第一原発は巨大津波や巨大地震に耐えられる筈だったのである。しかし今でも真の原因が明らかにされていない。原発で使用する配管の強度、耐震性、送電線鉄塔や各種機器類の劣化など数多くの弱点は解消できない。全国の放射能汚染の人体への影響はこれから具体的に出てくるであろう。このような状態にも関わらず、電力会社と原発推進派は莫大な利益の為に、「安全が確認された原発は再稼働する」と広言している。既に大飯原発は再稼働した。断層の影響も大きい。これまで電力会社は意図的に問題はないとしてきた。また石川県知事などは「規制については、原子力規制委員会の権限ではなく政府の国策による」などと述べ、反省はもとより原発推進の姿勢を隠そうともしない。
 放射性物質の管理能力がないまま利潤追求の為建設してきた原子力発電事業の結末である。

言えることは村起こしや町起こしを公共事業や原発誘致で行ってはならない。そのツケが後世に残るだけである。
今回の総選挙では国会議員の中の改憲勢力が増えていることも要注意で、憲法改悪に道が開かれた危機的状況になっている。人間らしく働き続ける上での条件・平和を守るために憲法改悪はなんとしても阻止しなければならない。

4 世界的には

 アメリカ大統領選挙では富裕層への増税や健康保険制度創出をめざす民主党オバマがこれらに反対する共和党を抑え当選を果たした。しかし上院では民主党、下院では共和党が多数を占め、このねじれ現象が各種政策の実行に先行き不透明感を与えている。
 アメリカは相次ぐ戦争により財政危機を招き、より効率的な米軍の再編成を余儀なくされ、イラクやアフガニスタンからの撤退も迫られている。
市街中心部にあり特に危険な沖縄普天間基地の移設を巡っては、国外・県外の要望が強かったにも関わらず、県内移設を進めようとしている。
EUではギリシャやイタリアスペインは国家財政の危機を背景に混迷が深まっている。緊縮政策を続ける国々ではストライキなどが多発している。また日本原発事故による影響はドイツをはじめとして脱原発政策に転換したり安全への規制が強化されつつある。先進国の経済成長率は軒並み低下し対立も深まっている。

中国やインド、東南アジア諸国イラクなど中東諸国は経済成長が著しく、日本企業の投資を誘っている。
アフガニスタンでは戦争終結宣言以降多国籍軍の死者が一気に増え、また一般市民や婦女子の犠牲が多い。これはアメリカCIAによる無人航空機による無差別爆撃の為とされている。

5 労働組合運動の弱体化

 概ね以上の情勢にありながら、これに抗する組織としての労働組合や勤労者の政党は弱体化している。労働組合員数は1000万人(平成6年は1250万人)を割り込み、組織率は18.5%(昭和45年は約35%)と低下の一途を辿っている。旧社会党は民主・社民・新社へと分裂し議席数も激減している。
 もちろん資本の側のマスコミや裁判所と一体となった労働組合憎しという攻撃も激しさを増している。労働組合運動は憲法で保障された民主的権利であるが、特に保守・自民党や維新の会の攻撃はすさまじい。
 そういう中で地域ユニオンの活動は一定の成果をあげている。

 問題は一人ひとりの労働者の討論の場を保障し要求として吸い上げていく組合幹部の指導性はもちろんあるが、階級社会における底辺の運動・一人ひとりの労働者運動が全体として低下していることである。