教育基本法と「愛国心」
マスコミ報道によると、「愛国心」の評価を学校現場で行っているところがあるとのこと。文部省は「学校長が勝手に実施している」とうそぶいている。
生徒一人ひとりの心の問題をどうやって評価しているのだろうか。心の問題を評価できるのだろうか。心の問題は外には出てこない感性の問題でもある。外に出ない感性を「良い・悪い」と評価できるのだろうか。その基準は何だろうか。
教育基本法改正前からこのような状態である。日本と言う国は恐ろしい国である。いや国家である。
「国を愛する心」というのは抽象的である。そもそも「国」とはなんだろう。国家権力なのか、領土なのか、国土なのか、統治機構なのか、伝統なのか、文化なのか、神道なのか、民族なのか、国民なのか、象徴天皇なのか、靖国神社なのか、国家権力が支配している地域なのか??
学校現場では「愛国心」という化け物がすでに一人歩きしている。
教育基本法改悪法案の閣議決定と国会提出に抗議し、撤回を求める
2006年4月
政府は教育基本法改悪法案を閣議決定し、国会に提出した。私たちは、自民・公明で密室協議の上、閣議決定・国会提出を急いだ暴挙を糾弾し、その撤回を強く求める。「愛国心を法に定めることは憲法が定める内心の自由に抵触する」として反対してきた公明党が、政治的取り引きで簡単に基本方針を撤回したことにも強く抗議する。
改悪法案は、「われらは」で始まる現行基本法に対して「我々日本国民は」で始め、「真理と平和」を「真理と正義」と言い換え、「公共の精神」「道徳心」「自律の精神」「伝統と文化を尊重」などを羅列し、「我が国と郷土を愛する」ことをうたった。イラク侵略を「正義の戦争」と言い張る立場と、権力が規定する「公の秩序」に従順な、海外出兵にも積極的に応じる子どもを育成する方針を露骨に示すものである。教師に対しては「崇高な使命の自覚」と「修養」を求め、国家主義的管理・統制をいっそう強化しようとしている。「日の丸」「君が代」の強制と処分政策の経過が示しているように、「愛国心」を法に定め、教科書と授業に「愛国心」を盛り込み、評価の対象に加えられることが想定される。
教育行政については、「国民全体に対し直接に責任をもって行われる」を削除し、「自立」「自律」「家庭の第一義的責任」「国と地方の役割分担」などの表現で、義務教育費国庫負担制度の改廃問題が示している教育に対する国の財政責任を縮減しようとしている。同時に、義務教育の「9年」制や男女共学制を削除し、差別的な早期エリ−ト教育や規制緩和による自由化を目指している。また、「教育振興基本計画」を定め、「施策の総合的かつ計画的な推進をはかる」とし、教育計画、教科書、授業内容などに国が直接介入することを宣言した。
このように、教育基本法改悪法案は、侵略戦争と天皇制教育の反省の上に立って「個人の尊厳」「機会均等」「無償義務教育」「行政の不介入」「学問の自由」などを基調とする現行基本法を根底から破壊するものである。
私たちは、改憲と一体的な関係で進められている教育基本法改悪法案の撤回を求め、教育の現状を憂える広範な人々と手をつないで闘う。教育基本法の理念の実現を怠り、新自由主義的構造改革と国家主義のもとで、子どもたちが公正・平等な教育条件のもとで行き届いた教育を受ける権利を破壊してきた責任こそ問わなくてはならない。
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今なぜ教育基本法改正なのか・・・・文部省
教育基本法の制定から半世紀以上が経ちました。その間、教育水準が向上し、生活が豊かになる一方で、都市化や少子高齢化の進展などによって、教育を取り巻く環境は大きく変わりました。近年、子どものモラルや学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下などが指摘されており、若者の雇用問題なども深刻化しています。
このような中で、教育の根本にさかのぼった改革が求められており、将来に向かって新しい時代の教育の基本理念を明確に示し、国民の皆さまの共通理解を図りながら、国民全体で教育改革を進め、我が国の未来を切り拓く教育を実現していくため、教育基本法を改める必要があります。
政府では、平成12年3月に内閣総理大臣の私的諮問機関として設けられた「教育改革国民会議」から、同年12月に教育基本法の見直しが提言されました。これを踏まえ、中央教育審議会は、15年3月に「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」答申を提出しました。
与党においても、教育基本法の改正について精力的な検討が約3年間にわたり行われ、18年4月に最終報告がまとめられました。
これらを踏まえ、政府は、18年4月28日に教育基本法の全部改正案を閣議決定し、国会に提出したところです。
現在、国会に提案中の教育基本法の改正案の内容と、そこからはじまる教育の抜本的な改革についての政府としての考え方について、国民の皆さまにご理解をいただきたいと思います。
以下の表は文部省が社会環境変化の資料としているもので、どこを見ても「国を大切にする心」を盛り込む必要性は書かれていない。人口が増え寿命が延び出生数が減り核家族化が進み・・・・この程度のことで改正するのは国民を愚弄するものである。下記の一覧表からは教育基本法改革の必要性は見えてこない。文部省の主張は科学性を装うために統計表を用いているが、統計表からの説明はなく、非科学的な根拠に基づくものと言わざるを得ない。
事項 | 教育基本法制定当時 | 現在 | ||||||||||||||
【社会】 | 総人口 | 7,810万1千人 (昭和22年)
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1億2,692万6千人 (平成12年)
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平均寿命 |
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出生数 | 267万8,792人 (昭和22年)
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117万662人 (平成13年)
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合計特殊出生率 | 4.54 (昭和22年)
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1.33 (平成13年)
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総人口に占める65歳以上人口の割合 | 4.94% (昭和25年)
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17.34% (平成12年)
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【家庭】 | 1世帯当たり人数 | 4.92人 (昭和22年)
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2.75人 (平成13年)
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世帯形態 |
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平均初婚年齢 |
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婚姻率 (千人当たり) |
12.0 (昭和22年)
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6.4 (平成13年)
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離婚率 (千人当たり) |
1.02 (昭和22年)
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2.27 (平成13年)
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【教育】 | 高校進学率 (下段:女性)
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42.5% (昭和25年)
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97.0% (平成14年)
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36.70% | 97.5% (平成14年)
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大学等進学率 (下段:女性)
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10.1% (昭和30年)
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48.6% (平成14年)
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5.00% | 48.5% (平成14年)
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男子高校率 | 12.0% (昭和30年)
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3.5% (平成14年)
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女子高校率 | 17.4% (昭和30年)
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8.8% (平成14年)
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1学級当たり児童生徒数 (小学校) |
45.7人(昭和23年) | 26.7人 (平成14年)
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外国人学生数(大学等) | 4,703人 (昭和35年)
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86,048人 (平成14年)
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博物館数 | 239 (昭和30年)
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1,045 (平成11年)
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図書館数 | 742 (昭和30年)
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2,593 (平成11年)
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【体格】 | 身長(15歳) |
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体重(15歳) |
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【産業別 就業率】 |
第一次産業 (農業、林業、漁業) |
48.5% (昭和25年)
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5.0% (平成12年)
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第二次産業 (鉱業、建設、製造業) |
21.8% (昭和25年)
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29.5% (平成12年)
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第三次産業 (サービス業) |
29.6% (昭和25年)
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64.3% (平成12年)
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【GDP】 | GDP(国内総生産) (日本) |
※GNP(国民総生産) 110億ドル <一人あたり 約140ドル>
(昭和25年) (G7中最下位) |
4兆7,652億ドル <一人あたり 約3万7,560ドル>
(平成12年) (OECD加盟国中2位) |
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(アメリカ) | ※GNP(国民総生産) 2,865億ドル (昭和25年) (G7中1位) |
9兆8,729億ドル (平成12年) (OECD加盟国中1位) |
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貿易額(輸出) | 101億円 (昭和22年)
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52兆1,082億円 (平成14年)
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【その他】 | 外国人の入国者数 | 18,046人 (昭和25年)
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5,286,310人 (平成13年)
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在外邦人数 | 241,102人 (昭和35年)
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837,744人 (平成13年)
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(青字はサイト管理者コメント)
平成十八年 年頭の所感 文部科学大臣 小坂 憲次
平成十八年の新春を迎え、謹んでお慶びを申し上げます。
昨年十月の就任以来、私は、「教育・文化立国」と「科学技術創造立国」の実現を目指し、教育改革、科学技術・学術の振興、さらに、スポーツ・文化芸術の振興に全力を挙げて取り組んでまいりました。新しい年の初めにあたり、国民各位の期待にこたえる文部科学行政の推進に向けて、決意を新たにしております。
(安全・安心な学校づくり)
昨年は学校等における大変痛ましい事件が大きな問題となりました。このことを重く受け止め、学校の安全・安心の確保にハード・ソフトの両面から組織的、継続的に取り組む「子ども安心プロジェクト」を推進します。
また、喫緊の課題である学校施設等のアスベスト対策については、万全の対策を講ずるとともに、非常災害時に地域住民の応急避難場所となる学校施設の耐震化を一層推進し、安全・安心な学校づくりを進めます。
特に、学校や通学路等において児童生徒や教職員が犠牲となる悲惨な事件を防ぐため、政府全体が一丸となって、国民の皆様に、学校安全ボランティアへの参加など、それぞれの立場で積極的に御協力をいただきながら、地域ぐるみの安全確保のための取組を進めてまいります。
(「人間力向上」のための教育改革)
資源の少ない我が国においては、人材こそ国の宝であり、教育はこの国の将来を左右する国政上の重要課題です。私は、自分の人生を見つめ、新しい時代を自ら切り拓くことができる心豊かでたくましい人づくりが重要であると考えます。
時代や社会の変化の中で、我が国が国際競争力を持つ活力ある国家として、また、世界に貢献する品格ある文化国家として更に発展していくため、国家戦略として、教育のあらゆる分野において、人間力向上のための教育改革を一層推進してまいります。
教育基本法の改正については、新しい時代にふさわしい教育の基本理念を明確にするため、中央教育審議会の答申や与党における議論を踏まえ、国民的な議論を深めつつ、速やかな改正を目指し、しっかりと取り組んでまいります。
教育基本法の改正の必要性、特に愛国心の必要性について説明されていない。文部省のページでは新しい時代についての説得力のある説明はない。例えば戦後の平均身長と現代の平均身長が変化しているなど国民を馬鹿にした内容である。
(義務教育の構造改革)
義務教育は、子どもたち一人一人の人格形成の基礎であり、国家・社会の形成者たる国民として共通に必要な資質を身につけるために不可欠な、全ての教育の基盤となるものです。また、憲法の要請により、全国どこにおいても、全ての国民に対して、等しく無償で提供されなければならないものであり、国は、その責務として、機会均等、水準確保、無償制という義務教育の根幹を保障する必要があります。
私としては、このような国の義務教育に対する責任を確実に果たしつつ、学校や地方の創意工夫を生かした教育を実現し、義務教育の構造改革を力強く進めてまいります。
具体的には、昨年十月の中央教育審議会答申を踏まえ、国が明確な戦略に基づき目標を設定して、そのための確実な財源確保など基盤整備を行った上で、教育の実施面では、できる限り市区町村や学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、教育の結果について国が責任を持って検証を行い、義務教育の質の保証を図ってまいります。
また、義務教育費国庫負担制度については、昨年十一月の三位一体改革に関する政府・与党合意において「義務教育制度の根幹を維持し、義務教育費国庫負担制度を堅持する。その方針の下、費用負担について、小中学校を通じて国庫負担の割合は三分の一とし、八千五百億円程度の減額及び税源移譲を確実に実施する」とされたところです。
現行の国庫負担率二分の一を維持すべきとした中央教育審議会の答申通りではありませんが、国・地方の負担により、義務教育の教職員給与費の全額が保障される制度は今後も維持されるべきとする答申の基本理念は踏まえられており、「義務教育費国庫負担制度を堅持する」と明記し決定された点は重要です。
そして、三分の一という負担率は、更に削減されることがない恒久的な意味を持つものだと考えています。
公立文教施設整備費については、中央教育審議会答申等を踏まえ、国として必要な財源を保障しつつ、地方の裁量を高め、効率的な執行に資するため、一部交付金化を図ってまいります。
(確かな学力、豊かな心と健やかな体の育成、信頼される学校づくり)
私は、初等中等教育段階では、幼児期から子どもたちの好奇心を伸ばす教育環境をつくり、子どもたちが、学ぶ楽しさを感じながら、一人一人がそれぞれの得意な分野を伸ばし、社会で自立していく力を身に付けることが極めて大切であると考えます。
各学校現場では、多様な特色ある取組が積極的に行われておりますが、一方で、昨今の子どもたちの状況については、国民の皆様から不安や懸念の声もあります。このため、次のような取組を一層強力に推進し、子どもたち一人一人に「確かな学力」、「豊かな心」と「健やかな体」を育むとともに、地域に開かれた「信頼される学校づくり」を進めてまいりたいと考えております。
まず、学力の問題については、国際的な調査結果等により明らかとなった読解力低下や学習意欲や学習習慣の欠如等の課題を深刻に受け止め、今後、小・中・高等学校を通じ、基礎・基本をしっかりと身につけさせるとともに、学ぶ意欲や自ら考え主体的に判断する力などの「確かな学力」を育むため、学習指導要領全体の見直し、習熟度別少人数指導の充実のための教職員定数の確保、全国的な学力調査の実施、国語力の育成、理数教育、総合的な学習の時間の推進など、総合的な学力向上策に取り組みます。
さらに、インターネットの普及と産業のグローバル化に対応できるためにも、コミュニケーション手段としての外国語能力を高める必要があり、初等教育段階からの外国語教育の充実が図られるよう取り組みます。
「豊かな心」の育成については、善悪の判断などの規範意識や倫理観と、公共心や他人を思いやる心などの豊かな人間性や社会性を子どもたちに育むため、学校と家庭、地域社会が一体となって、道徳教育の充実、学校の内外を通じた奉仕・体験活動や読書活動の推進を図ります。
また、今日の子どもの学力や体力の低下の要因の一つとして指摘されている子どもの基本的な生活習慣の乱れの問題等に対応するため、新たに、PTA等の民間団体等が中心となった子どもの生活リズム向上のための国民運動を展開するとともに、地域の大人の協力を得て、子どもたちの居場所づくりやボランティア活動、スポーツ、文化活動等の積極的な推進や家庭教育の支援に取り組み、家庭や地域社会の教育力の向上を図ってまいります。
子どもたちの「健やかな体」を育むため、体育の一層の充実、運動部活動の振興などに取り組むとともに、食育基本法を踏まえ、家庭、地域と連携しつつ、栄養教諭制度等の円滑な実施により食育を一層推進してまいります。また、児童生徒の薬物乱用防止教育など学校保健の充実に取組みます。
学校の内外を通じた不登校対策や問題行動への適切な対応を図るとともに、LD、ADHD等の発達障害を含む障害のある子どもたち一人一人の教育的ニーズに応じた特別支援教育や日本語指導等外国人児童生徒教育の充実を推進します。また、幼児教育の振興に取り組み、就学前の幼児の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の設置に向け、関係省庁等と連携し、必要な準備を進めてまいります。
「信頼される学校づくり」を進めるため、学校評価と情報公開の推進、「学校運営協議会制度」によるコミュニティ・スクールの設置促進など、保護者や地域住民の参画による学校づくりを進めます。また、教師に対する揺るぎない信頼を確立するため、教員評価の徹底や十年経験者研修制度の推進など、教えるプロとしての教師の資質向上を図り、教職課程の質的水準の向上、「教職大学院」制度の創設や、教員免許更新制の導入を含む教員養成・免許制度の改革について検討を進めます。教育委員会については、地域の課題に主体的に取り組めるよう、制度の見直しについて検討してまいります。
(大学改革等)
二十一世紀の「知識基盤社会」の下で、大学に期待される役割は、教育、研究とこれらを通じた社会貢献の三つであり、豊かな教養と必要な専門的知識を具えた有為な人材を養成するとともに、優れた研究により「知」の創造と発展を図り、産学官連携をはじめ、大学の持つ人的・物的な「知」の集積を活用して社会に貢献することが求められております。
各大学が、それぞれの個性・特色を一層明確化し、このような役割を十二分に果たしていけるよう、競争的な環境の下で国公私立大学を通じた大学改革への取組を支援してまいります。このため、世界的な研究教育拠点の形成、高度専門職業人の養成、地域貢献等の特色ある優れた取組とともに、大学における産学連携等を通じた人材養成等、多様な機能に応じた取組に対する支援に努めます。また、国際的に魅力ある大学院の構築を推進するための関係施策を体系的・集中的に推進してまいります。
国立大学法人については、各大学が自主性・自律性を十分に発揮し、教育・研究の一層の活性化を図り、個性豊かな大学づくりを進めることができるよう、国として必要な支援に努めるとともに、施設整備についても新たな五か年計画を策定し、引き続き着実に支援してまいります。
加えて、設置認可制度の的確な運用と第三者評価制度の円滑な実施を進め、大学の教育・研究の質保証システムの充実に向けて積極的に取り組んでまいります。
私立学校については、建学の精神に基づく個性豊かな教育研究活動を積極的に展開できるよう、一層の振興に努めてまいります。また、教育を受ける意欲と能力のある者の学習機会を確保するため、奨学金の充実など学生への支援にも精力的に取り組んでまいります。
(科学技術・学術の振興)
国土が狭く、資源に乏しい我が国にとって、国際的な厳しい競争の中で今後も世界の第一級の国家としての地位を確保していくための生命線は、科学技術の振興とそれを支える人材の養成であり、これこそが、我が国が戦後の荒廃からいち早く立ち直り、今日の繁栄を築き上げることができたゆえんであります。
「知の世紀」といわれる二十一世紀の初頭にある現在、アジア諸国の台頭や地球環境問題の顕在化、少子高齢化や人口減少の進行など、目まぐるしい国際環境・経済社会の変化の中で、我が国が今後も持続的に発展を遂げていくためには、我が国の独創的な研究成果を社会的・経済的な価値の創造(イノベーション)へしっかりとつなげていく仕組みを構築することが重要です。
平成十八年度は、第三期科学技術基本計画の初年度にあたります。政府における科学技術振興の中核を担う文部科学省としては、諸施策を積極的に展開してまいります。
まず、若手研究者や女性研究者、外国人研究者など多様な人材が能力を発揮できるような環境整備や、科学技術・理数教育の推進など、小学生から第一線の研究者・技術者に至るまで、科学技術を支える人材の質的・量的な充実に向けた取組を総合的に推進してまいります。
また、大学共同利用機関法人等におけるニュートリノ研究、加速器科学、天文学研究、南極観測等をはじめとした国際水準の独創的・先端的基礎研究を着実に推進するとともに、科学研究費補助金等の競争的資金の拡充を通じた研究開発の推進、知的財産戦略の強化及び産学官連携の推進、知的クラスター創成等の地域科学技術の振興等を図ってまいります。
さらに、重点分野としてのライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料分野等における知の創出とイノベーションの実現に向けて積極的に取り組んでまいります。また、宇宙、原子力、海洋、地震・防災等の研究開発や安全で安心な社会を実現する科学技術を戦略的に進めるとともに、世界一流の人材を育て惹きつけることを目指し、科学技術活動の基盤となる教育・研究施設の整備充実を図ってまいります。
中でも、統合地球観測・監視システム、宇宙輸送システム、海洋探査システム等の国家の総合的な安全保障に密接に関わる技術や、次世代スーパーコンピュータやX線自由電子レーザー等の我が国の発展を強力に牽引する世界最高性能の研究設備を実現する技術については、我が国が持続的に発展し、世界をリードしていくために重要な技術であり、国家戦略のもと国家基幹技術として取り組んでまいります。また、近年成長が著しいアジア諸国との連携強化など、国際活動を戦略的に展開します。
(生涯学習の振興)
人々が生涯にわたり自己実現を図ることができるよう、生涯学習の環境整備や大学・専修学校における社会人のキャリア・アップのための教育を推進するとともに、男女平等を推進する教育、環境教育や人権教育、社会教育の活性化等に努めてまいります。
また、フリーター・ニートの増加等を踏まえ、勤労観・職業観を育み、若者が明確な目的意識をもって職に就くことができるよう「若者自立・挑戦プラン」を強化し、一人一人がそれぞれの得意な分野を伸ばし、社会の発展に貢献する力を身に付けるよう、各学校段階を通じた体系的なキャリア教育・職業教育の充実や、ニート等を対象とした「学び直し」の機会の提供等に取り組んでまいります。
(スポーツの振興)
トリノオリンピック競技大会の開催が来月に迫りましたが、日本中に大きな感動を与えたアテネオリンピック競技大会のように、日本選手団の活躍を大いに期待しているところです。スポーツの振興は明るく豊かで活力に満ちた社会を形成する上で不可欠であり、「ナショナルトレーニングセンター中核拠点」の整備などにより世界の桧舞台で国民に夢と希望を与えるような活躍ができるトップレベルの競技者の育成等に取り組むとともに、国民の誰もが身近にスポーツに親しめる生涯スポーツ社会の実現を目指して「総合型地域スポーツクラブ」の育成など地域のスポーツ環境の整備に努めます。
また、子どもの目標やあこがれの地となるような全国的なスポーツ大会の拠点づくりを推進するとともに、心身の健やかな発達に不可欠である子どもの体力の向上に取り組みます。
(文化芸術の振興)
文化芸術は、人々に感動や生きる喜びをもたらし、豊かな人生を送る上での大きな力になるものです。活力ある社会の実現のためには、「文化力」の向上を図ることが、経済力と並ぶ車の両輪として極めて重要です。我が国が誇る優れた文化財や伝統文化をはじめ、映画やアニメなどの日本文化は世界の人々を魅了しています。
我が国の「顔」となる文化芸術を創造し、積極的に世界に発信していくため、「文化芸術創造プラン」や「『日本文化の魅力』発見・発信プラン」を推進するとともに、国民が文化ボランティアなどにより自ら積極的に文化芸術活動に参加し、文化芸術を創造できる環境を整備します。また、子どもの文化芸術体験活動の充実、地域文化の振興、文化財の保存・活用、文化財分野における国際協力に積極的に取り組みます。さらに、新しい時代に対応した著作権等の施策を推進するとともに、国語の正しい理解が進むよう努めてまいります。
(国際化等への対応)
我が国が、国際社会において積極的な役割と責任を果たし、世界から信頼される国となることは極めて重要な課題であり、教育、科学技術・学術、スポーツ、文化芸術などの各般にわたり、日本の経験を生かした協力・交流に力を入れます。留学生受入れ体制の充実や日本人の海外留学の支援にも取り組んでまいります。また、「英語が使える日本人」の育成等に努めます。
さらに、情報化への対応は、今後の我が国の発展を支える重要な課題であり、情報化の「光」と「影」の両面を十分に認識しながら、世界最高水準のIT国家を支える「人づくり」という観点から、教育分野の情報化を積極的に推進してまいります。
規制改革や構造改革特区、地域再生については、今後とも引き続き、地方公共団体や民間の創意と工夫を活かし、教育・研究の活性化や地域の活力の再生という観点から、できるだけ柔軟に取り組んでいきたいと考えております。また、公益法人改革、独立行政法人の組織・業務の見直し等の重要な課題に積極的に対応してまいります。
私といたしましては、国民の皆様の強い期待を真摯に受け止め、文部科学行政全般にわたり様々な取組を力強く進めてまいりたいと考えております。引き続き、関係各位の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。
以上