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県の組織が「地方独立行政法人化」されることの問題点は何か?
県当局の動きに抗してどう取り組むか?
                                     2005年1月

1 はじめに
 今、『行革』をめぐる動きが、ますます激しくなっています。国の『行革』の流れを受けて、県レベルでも富山県立大学、県立中央病院、そして各試験研究機関について、『地方独立行政法人』化の検討が水面下で進められています。
 この制度の導入の狙いは、民間企業の参入が期待しにくい事務事業に、これを行う組織を地方自治体から切り離して別組織にすることで、経営収支面での「独立」性を強調し、人件費の切り下げを図ろうとするものであることから、地区としても大きな問題意識をもっています。

2「地方独立行政法人導入で現状より良くなるのか?」 学習会で意見交換 

 地区では、農業技術センター、食品研究所、畜産試験場など『地方独立行政法人』制度に該当する職場の分会代表者会議を、昨年7月28日に開催し、地方独立行政法人制度の内容理解とその問題点等について意見交換をしました。

参加者からは、
Aさん「地方独立行政法人制度の導入で、実態が現状より良くなるのか?」
Bさん「独立採算というモノサシもとでは、試験・研究機関では、まず採算が取れない。」
Cさん「国では機関が独立行政法人となり、基礎研究部門にかける経費等も削減されていると聞いている。」 という意見とともに、
Dさん「提案されている他県の調査」「国の独立行政法人の現場実態や現場の生の声はどうなのか教えてほしい。」といった発言がありました。

 公立大学で地方独立行政法人として全国で初めて、秋田国際教養大学が設立されました。岩手県では、工業技術センターが地方独立行政法人される準備が始まっています。また、公立病院などを対象に既に導入が検討・提案されている大阪府など他府県の現状や独立行政法人制度がすでに導入された国の機関の実態把握も今後の大きな課題です。

 地区では、農業技術センター、食品研究所、畜産試験場、機械電子研究所職場の代表者で、昨年12月20日に第2回会議を開催し、地方独立行政法人制度の問題点や全国状況把握そして、今後の進め方について整理しました。

3 大きな問題を抱える『地方独立行政法人』制度とは
 試験研究機関、大学、地方公営企業法適用事業などを対象にした「地方独立行政法人法案」は、一昨年7月に自民党・公明党の与党が成立を強行し、昨年4月に施行されました。
 地方独立行政法人は、『公務員型』と『非公務員型』の二つの制度を置くとしていますが、この選択は設置団体の判断に委ねられ、いずれの法人職員も理事長が任命することになります。
 法人設立時に該当職場に所属する公務員は、別に辞令を発せられない限り自動的に法人の職員となり、「非公務員型」法人の場合には、公務員の身分を失うことになるなど、わたしたち職員の身分や権利、労働条件にかかわる重大な問題を持つ性格のものです。
 また、自治体に設けられる「評価委員会」がチェック、評価基準はあくまで「経営主体」の立場からの評価であり、その評価によっては、 業務が継続されない、法人そのものの解散(全員解雇)もあり得る、法人の実績、職員の業績を反映した給与の仕組みが導入され、徹底した成果・成績主義賃金が導入され極めて問題です。

(1)『地方行政独立法人』法の内容
 国会では、地方独立行政法人法案等の提案理由及び内容の概要を下記のとおり趣旨説明されています。
 「この法律案は、住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地からその地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、地方 公共団体がみずから主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものと地方公共団体 が認めるものを効率的かつ効果的に行わせるため、地方独立行政法人の制度を設け、その運営の基本となる事項を定めようとするものであります。」

 法律案の内容の概要説明では、
 第一に、地方独立行政法人の対象とする業務は、試験研究、大学の設置・管理、公営企業に相当する事業の経営、社会福祉事業の経営、その他の公共的な施設で政令で定めるものの設置・管理とする。
 第二に、地方独立行政法人の設立手続は、設立団体が議会の議決を経て定款を定め、総務大臣または都道府県知事の認可を受ける。
 第三に、地方独立行政法人に出資することができる者は地方公共団体に限定する。
 第四に、地方独立行政法人の役職員の身分については、一定の要件を満たす法人の役職員には、定款で定めることにより、地方公務員の身分を付与する。
 第五に、地方独立行政法人の業務の実績については、目標による管理と評価の仕組みを設け、評価委員会による評価等を行う。
 第六に、地方独立行政法人の財務及び会計は、原則として企業会計原則によることとし、また、地方独立行政法人の業務運営に必要な資金は設立団体から交付する。
 第七に、大学については、役職員を非公務員とするほか、理事長と学長を別に選任することができることとする等の特例を設けるとともに、公営企業に相当する事業についても所要の特例を設ける。」と。

(2) 『地方独立行政法人』の問題点
昨年4月から施行されたこの「地方独立行政法人」の導入の狙いは、民間企業の参入が期待しにくい事務事業に、これを行う組織を地方自治体から切り離して別組織にすることで、経営収支面での「独立」性を強調し、人件費の切り下げを図ろうとするものです。以下に具体的に問題点を列挙します。
@ 自治体業務の実施部門を切り離し、自治体業務のアウトソーシングを拡大
 総務省は、地方独立行政法人制度を導入する意義を「『行革』・アウトソーシングのツールの一つ」「実施部門のうち事務・事業の垂直的減量を推進」「地方行革に機動的、戦略的に対応するためのツール」と説明しています。
企画・立案部門は自治体に残すが、他の直接サービス部門は自治体から切り離し、アウトソーシングを拡大する手法として新たに導入する、一言で表現すれば、民間での「分社化」と機を一にする自治体版であり、自治体の「企業再編リストラ」です。
A 住民サービス後退の恐れ・公的責任が不明確
地方独立行政法人は、「住民サービスの見地から確実に実施される必要のある事務・事業のうち、自治体が直接実施する必要はなく、しかし採算性に乏しく民間に委ねては実施されない恐れがあるものを、効率的・効果的に行わせるため」に設けることを目的としています。
その対象業務は、イ.試験研究 ロ.大学の設置・ 管理 ハ.地方公営企業法適用8事業(水道、工業用水道、軌道、自動車運送、鉄道、電気、ガス、病院等)の経営 ニ.社会福祉事業の経営D公共施設の設置・管理と広範であり、そのほとんどは「不採算部門」です。またいずれも「企業会計原則」により「経営効率」が強調されることから、事業自体が切り捨てら、住民サービスの後退や利用料の負担が増加することに加え、その地方独立行政法人の運営は、設立団体の長より選任される理事長の裁量が大きく、住民の意見が直接及ばず新たな利権・腐敗が増幅される恐れも大きく、公的責任が放棄されることになります。
B 住民自治・住民参加、議会の関与が後退・空洞化
地方自治体では情報公開条例が制定され、住民が事務事業を監視するために活用されています。また、地方議会の下では、議員による公開の審議を通じて行政に対する住民による監視と統制がされていますが、地方独立行政法人では、地方議会の議決は「中期目標」や利用料金の上限の認可、解散などに限定されており、年度計画や内部組織の改編は法人の長に裁量が認められ設立団体の長に届出や通知がされるだけで議会の議決は規定されていません。これでは、議会の関与が後退・空洞化し、住民の意思を十分には反映しない運営となってしまいます。
  議会の関与が後退した代わりに、「評価機関」が設けられますが、法人と独立して公正に評価や是正ができるかどうかは全くの未知数です。
C 自治体労働者の身分保障と権利の剥奪
地方独立行政法人制度は、自治体労働者の身分保障と権利にとって重大な問題で、民間の分社化の手法に近いといえます。法人職員となった労働者は、「公務員型」、「非公務員型」を問わず、法人の業績を理由にして給与が引き下げられるなど勤務条件が極めて不安定になる恐れがあります。
大きな問題は、イ.中期目標(首長が3〜5年の目標を作成・指示、議会の議決)ロ.中期計画(地方独立行政法人が作成、首長の認可)ハ.各年度計画(地方独立行政法人が作成、首長に届出)の各段階で目標管理がなされ、これを自治体に設けられる「評価委員会」がチェック、評価基準はあくまで「経営主体」の立場からの評価であり、その評価によっては、 業務が継続されない、法人そのものの解散(全員解雇)もあり得る、法人の実績、職員の業績を反映した給与の仕組みが導入され、徹底した成果・成績主義賃金が導入され極めて問題です。

4.富山県や全国における「地方独立行政法人化」の動き
(1) 富山県では
昨年11月9日に着任した石井知事が、地方独立行政法人に関して各試験研究機関についての検討を急ぐように指示したこともあり、『富山県立大学』、『県立中央病院』に加えて、各『試験研究機関』について検討が促進され、当該ワーキンググループが動き出していると思われます。

(2) 全国での動き
地方独立行政法人として全国で初めて『秋田県国際教養大学』が2004年4月に新設され、次いで岩手県では知事が現場の反対を押し切り『岩手県工業技術センター』が2005年4月には地方独立行政法人化される動きです。『岩手県立大学』も2005年4月からで地方独立行政法人になることで動いています。
   大阪府では、『府立の5病院』が組合の反対を押し切り地方独立行政法人化を強行する動きもあります。
東京都の『首都大学』(都立大等が合併)や『大阪府立大学』でも検討進むという状況にあります。         
  試験研究機関に関しては、岩手県では農水部が「小規模の試験研究機関にあっては導入するメリットがない」とし、滋賀県でも同様に整理されています。
福岡県の包括外部監査では「県の規模においては、制度の導入が県の効率化に寄与するか見極める必要がある」とする消極的報告がされています。

(3) 先行導入された国の状況
   国は99年に独立行政法人関係の法整備を行ない、2001年4月に57法人が独立行政法人に移行スタートしています(ほとんどが公務員型)。2004年3月現在で96法人あり、4月には国立病院が独立行政法人「国立病院機構」に、国立大学が独立行政法人化されました。
   現在、国においては、今年度末までに中期目標期間が終了する法人の内、32の独立行政法人の抜本的見直しが図られており、法で設置されている「政策評価・独立行政法人評価委員会」は、徹底した事務事業の見直しで、法人数の3割削減、研究開発・教育関係法人の非公務員化、事務事業の見直し、民間移管が指摘されています。
   個々で働く職員はどのような境遇なのかについて把握が必要です。

5.地方独立行政法人制度に対する組合の立場は
 「この制度は、法人化される職場の公務員は自動的に「法人職員」となり、「成果主義」のもとで、業績を口実にして賃金・労働条件が切り下げられる可能性があることや職務によっては公務員の身分を失う恐れがあるという大きな問題点を含んでいます。
したがって、現在、「地方独立行政法人」化の検討をすすめている県当局に対し、国会での付帯決議を尊重することを求め、各種の取り組みをすすめることとします。」大会運動方針から

※ 参議院総務委員会での「付帯決議」とは、…「当該団体が独立行政法人化を行うときは、職員団体の理解を求めること」とされています。
2003年6月3日 地方独立行政法人法案に対する附帯決議   衆議院総務委員会
 政府及び地方公共団体は、本法律の施行に当たり、次の事項について配意すべきである。
 一 地方公共団体が地方独立行政法人を設立するか否かについては、あくまでも地方公共団体の自主的な判断を噂重すること。
二 地方独立行政法人化に当たっては、雇用問題、労働条件について配慮して対応するとともに、関係職員団体又は関係労働組合と十分な意思疎通を行うこと。
三 地方独立行政法人の業務の実績の評定に当たっては、財務面の評価のみならず、社会的評価の観点も加味して行うこと。
四 第三セクター一等の経営立て直しの手段として地方独立行政法人が選択されないようにするとともに、その早急な抜本解決を促し、経営責任の明確化、清算の可否、民営化の是非などを厳しく精査検討すること。
五 公立大学法人の定款の作成、総務大臣及び文部科学大臣等の認可に際しては、憲法が保障する学問の自由と大学自治を侵すことのないよう、大学の自主性、自律性が最大限発揮しうる仕組みとすること。
(2) 地区としての当面の具体的取り組み
 1)地区主催で該当職場代表者会議(地区・支部・分会・職種協各級役員を対象)を開催し,地方独立行政法人導入の問題点の理解を深める。
 2)地方独立行政法人法人導入の問題点について、職場段階での学習会を開催する。
  ア 富山地区○○支部旗開きの講演テーマとする。(農技センターと食品研から多数の参加が見込める。)
  イ 畜産試験場・機械電子研究所分会では職場段階での学習討論会を企画する。
  ウ 他地区の当該職場では研究所職協が学習討論会を企画する。
      他地区の該当職場にひろげる。(本部と連携して) 全体化の努力
3)該当職場の取り組みとして
  イ.各級役員を対象に学習会を開催し、『地方独立行政法人』の問題点の理解を深める。
ロ.職場段階での全組合員を対象に学習会を開催する。
ハ.所属長に、多くの問題点を持つ「独法化」を行わないよう申し入れるとともに、上申を要請する。県当局への申し入れる項目については、中央の研究職協議会の文書を参考に研究職協を中心に検討する。
4)当面、職場での学習会などの取り組みを強めながら、県民への宣伝活動や、県議会議員への要請活動、決起集会の開催などを具体化する。

1 『地方独立行政法人』制度の問題点や県当局の動きとわたしたちの課題[補足含む]  地方独立行政法人法の成立とその問題点  (意見交換から)

【畜 試】・せんだって中央の研究協の会議に出席したが、全国的状況は良くわからなかった。聞いた説明では、法施行令・施行規則等から実務的にいえば、現行組織の@廃止・存続検討 A法人化検討という順序であり、現状が大きく変わることが懸念される。

【機電研】・職場では動きが良くわからない。先に本省主催でブロックの地方独立行政法人に
関する意見交換会に参加したが、各県の出席者は現場段階からきており、全く状況をつかんでいなかった。
    ・ワーキンググループの動きがあるとすれば、組合として把握して、職場に下ろして欲しい。

【農技セ】・先週に農水部の本庁担当レベルの集まりがあったと聞いている。(出先に試験研究機関を抱える技術推進課・食料政策課・森林政策課・水産漁港課の主幹等が寄ったと思われる。)
    ・地方独立行政法人化で条件がどう変わるか、最悪を想定した対比表を示して欲しい。

【食品研】・地方独立行政法人化で身分や待遇等がどうなるか漠然とした不安がある。

【組 合】・非公務員型は大きな問題がある。場合によれば県職労から抜けることにもなる。
・ 国の評価委員会(国の場合では個々の評価委員会が独立行政法人を評価するのではなく、1つの評価委員会が各独立行政法人を評価している。)ではみ直しに当り毎年10%シーリングが義務で課せられていると聞いている。
・ 地方独立行政法人条例案の作成は総務省から準則が出されていると思われるし、岩手や秋田の県条例をみても7〜8条だてとコンパクトである。この2月議会でも条例制定できるのではないか?県の動きを把握する必要がある。

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