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「地方独立行政法人化」に対する立場と取り組みについて               2004年6月 日                  

1.『地方行政独立法人』法の内容
 試験研究、大学、地方公営企業法適用事業などを対象にした「地方独立行政法人法案」が2003年7月自民党・公明党の与党の強行で成立し、04年4月から施行された。

 「地方独立行政法人」の導入の狙いは、民間企業の参入が期待しにくい事務事業に、これを行う組織を地方自治体から切り離して別組織にすることで、経営収支面での「独立」性を強調し、人件費の切り下げを図ろうとするものである。

 また、地方独立行政法人は、『公務員型』と『非公務員型』の二つの制度を置くとしており、この選択は設置団体の判断に委ねられるが、いずれの法人職員も理事長が任命することになる。法人設立時に該当職場に所属する公務員は別辞令を発せられない限り自動的に法人の職員となり、「非公務員型」の法人の場合には、公務員の 身分を失うなど、職員の身分や権利、労働条件にかかわる重大な問題を持つ性格のものである。

2. 地方独立行政法人の問題点は
(1) 自治体業務の実施部門を切り離し、自治体業務のアウトソーシングを拡大
 総務省は、地方独立行政法人制度を導入する意義を「『行革』・アウトソーシングのツールの一つ」「実施部門のうち事務・事業の垂直的減量を推進」「地方 行革に機動的、戦略的に対応するためのツール」と説明している。

 企画・立案部門は自治体に残すが、他の直接サービス部門は自治体から切り離し、アウトソーシングを拡大する手法として新たに導入する、一言で表現すれば、民間での「分社化」と機を一にする国鉄解体の自治体版である。自治体の「企業再編リストラ」である。

(2)住民サービス後退の恐れ・公的責任が不明確
 地方独立行政法人は、「住民サービスの見地から確実に実施される必要のある事務・事業のうち、自治体が直接実施する必要はなく、しかし採算性に乏しく民間に委ねては実施されない恐れがあるものを、効率的・効果的に行わせるため」に設けることを目的としている。

 その対象業務は、イ.試験研究 ロ.大学の設置・ 管理 ハ.地方公営企業法適用8事業(水道、工業用水道、軌道、自動車運送、鉄道、電気、ガス、病院等)の経営 ニ.社会福祉事業の経営D公共施設の設置・管理と広範であり、そのほとんどは「不採算部門」である。

 またいずれも「企業会計原則」により「経営効率」が強調されることから、事業自体が切り捨てられたり住民サービスの後退や利用料の負担が増加することに加え、また地方独立行政法人の運営は、設立団体の長より選任される理事長の裁量が大きく、住民の意見が直接及ばず新たな利権・腐敗が増幅される恐れも大きく、公的責任が放棄されることになる。

(3) 住民自治・住民参加、議会の関与が後退・空洞化
地方自治体では情報公開条例が制定され、住民が事務事業を監視するために活用されている。
  また、地方議会の下では、議員による公開の審議を通じて行政に対する住民による監視と統制がされている。しかし、地方独立行政法人では、地方議会の議決は「中期目標」や利用料金の上限の認可、解散などに限定されており、年度計画や内部組織の改編は法人の長に裁量が認められ設立団体の長に届出や通知がされるだけで議会の議決は規定されていない。これでは、議会の関与が後退・空洞化し、住民の意思を十分には反映しない運営となってしまう。
  議会の関与が後退した代わりに、「評価機関」が設けられるが、法人と独立して公正に評価や是正ができるかどうかは未知数である。

(4) 自治体労働者の身分保障と権利の剥奪
 地方独立行政法人制度は、自治体労働者の身分保障と権利にとって重大な問題で、民間の分社化の手法に近い。法人職員となった労働者は、「公務員型」、「非公務員型」を問わず、法人の業績を理由にして給与が引き下げられるなど勤務条件が極めて不安定になる恐れがある。

 大きな問題は、イ.中期目標(首長が3〜5年の目標を作成・指示、議会の議決)ロ.中期計画(地方独立行政法人が作成、首長の認可)ハ.各年度計画(地方独立行政法人が作成、首長に届出)の各段階 で目標管理がなされ、これを自治体に設けられる「評価委員会」がチェック、評価基準はあくまで「経営主体」の立場からの評価であり、その評価によっては、 業務が継続されない、法人そのものの解散(全員解雇)もあり得る、法人の実績、職員の業績を反映した給与の仕組みが導入され、徹底した成果・成績主義賃金が導入され極めて問題である。

3.富山県における「地方独立行政法人化」の動き
□ 試験研究機関における動き
□ 県立中央病院における動き
□ 富山県立大学における動き
□ 富山県企業局における動き

4.地方独立行政法人制度に対する県職労の立場
 地方独立行政法人制度は、法人化される職場の公務員は自動的に「法人職員」となり、「成果主義」のもとで、業績を口実にして賃金・労働条件が切り下げられる可能性があることや職務によっては公務員の身分を失う恐れがあるという大きな問題点を含んでいる。

 したがって、現在、「地方独立行政法人」化の検討をすすめている県当局に対し、国会での付帯決議を尊重することを求め、各種の取り組みをすすめることとする。
※ 参議院総務委員会での「付帯決議」とは、…「当該団体が独立行政法人化を行うときは、職員団体の理解を求めること」とされている。


2003年6月3日
地方独立行政法人法案に対する附帯決議  衆議院総務委員会
 政府及び地方公共団体は、本法律の施行に当たり、次の事項について配意すべきである。

一 地方公共団体が地方独立行政法人を設立するか否かについては、あくまでも地方公共団体の自主的な判断を噂重すること。

二 地方独立行政法人化に当たっては、雇用問題、労働条件について配慮して対応するとともに、関係職員団体又は関係労働組合と十分な意思疎通を行うこと。

三 地方独立行政法人の業務の実績の評定に当たっては、財務面の評価のみならず、社会的評価の観点も加味して行うこと。

四 第三セクター一等の経営立て直しの手段として地方独立行政法人が選択されないようにするとともに、その早急な抜本解決を促し、経営責任の明確化、清算の可否、民営化の是非などを厳しく精査検討すること。

五 公立大学法人の定款の作成、総務大臣及び文部科学大臣等の認可に際しては、憲法が保障する学問の自由と大学自治を侵すことのないよう、大学の自主性、自律性が最大限発揮しうる仕組みとすること。


5. 当面の具体的取り組み
 1)地区主催による該当職場代表者会議(地区・支部・分会・職種協各級役員を対象)を開催し,地方独立行政法人導入の問題点の理解を深める。
 2)地方独立行政法人法人を導入することの問題点について、職場段階での学習会を開催する。
 3) 下の取り組みを本部に要請する。

@対策会議の設置と開催
・ 対策会議の構成=本部、県立中央病院、試験研究機関、県立大学等に関連する支部メンバー
・対策会議の設置目的=各分野の問題や取り組みをそれぞれで取り組みを強化しながら、共通する独法化の問題で当局交渉、県民宣伝、決起集会の開催などを協議し、取り組みを具体化する。

A該当職場の取り組み
  イ.各級役員を対象に学習会を開催し、『地方独立行政法人』の問題点の理解を深める。
  ロ.県立中央病院、試験研究機関、県立大学、県企業局等ごとに職場段階での全員を対象とする学習会を開催する。
ハ.県立中央病院、試験研究機関、県立大学等において、その責任者たる施設の長に、それぞれ「独法化」を行わないよう申し入れるとともに、上申を要請する。

B当面の重点取り組み
当面、職場での学習会などの取り組みを強めながら、県民への宣伝活動や、県議会議員への要請活動、決起集会の開催などについて、別途具体化する。

【参考】『地方独立行政法人法案』に対しての社民党の主張
社会民主党は、以下の理由で地方独立行政法人法案及び関係法律整備法案に対し反対するものである。

1.議会の関与や住民の監視機能が後退する
  地方独立行政法人は、地方議会の関与を最低限に抑えていることから、住民の意思を十分には反映しない運営となり、また、住民監査請求や住民訴訟などの住民によるチェック機能が失われる危険性がある。
2.社会的評価が担保されていない
  法人の業務の実績等を評価するための評価委員会が具体的な評価をどのような観点から評価するかということについてはまったく定めがなく、住民の福祉やサービスという視点が軽視され、財務会計や経営効率に傾斜することが懸念される。

3.地方行革推進策につながる
  独立行政法人化によって、一方的に職員の身分が変更され、賃金・労働条 件が継続される保障はない。給与決定に際しては法人の実績ばかりが強調されることになる。  

 また、法人が担うのは「地域において確実に実施される必要のある 事務・事業」でありながら、中期目標期間終了後に組織・業務全般にわたる見直し如何によっては、解散・清算されることになる。しかも解散の際の職員の継承 については規定がなく、法人の解散を理由に人員削減が行われかねない。公営企業法とは異なり経営再建のスキームも設けられていないことから、安易な民営化 や事業廃止に拍車がかかることが心配される。

4.独法化の積極的なメリットがない

  公営企業型独立行政法人とはいっても、給与決定基準、財務会計制度、中期目標・中期計画、議会の関与等、実際に現実の公営企業で取り組んでいるものばかりであり、積極的なメリットが見受けられない。
5.公立大学及び公立病院の問題
  国立大学及び国立病院の独法化にならって、公立大学・公立病院が独法化 の対象にあげられている。しかし、公立大学の独法化は、教育・研究より効率性が優先され、成績主義の強化と大学間の無用な競争、大学間格差の拡大、大学の 自治の破壊につながる。また、病院の独法化は、住民の命と健康に直結する病院部門の公的責任を放棄し、安全・安心・良質な医療を後退させることになる。

6.行政責任・住民サービスの後退となる

今回、法人化の対象となっている水道、交通、病院等は、元々自治体の公共事務の一つであって、「地方公共団体が自ら実施する必要のないもの」(第2条)ではない。  
旧自治省も「地方公営企業法逐条解説」において、これらの事業について、「地域住民のために存在する地方公共団体本来の仕事」であり、「必要な生活用水を不自由なく供給し、市民の足を確保し、医療施設を整備する等住民の生活に密着した分野で住民の需要を充足していくという極めて地道な仕事を着実に遂行することこそ真に地方自治の伸展を支えるものであろう」としているところである。
このような事業を安易に独法化することは、行政の直接の責任・役割の放棄以外のなにものでもなく、ひいては住民サービスの後退につながる。

【参考】『地方独立行政法人法案』に対しての共産党の主張
地方独立行政法人法案とは 大学、病院、保育所、水道まで「企業会計原則」に
採算性優先で住民犠牲

 公立の病院、保育所、図書館、大学から上下水道にいたるまで地方自治体の公的部門を「独立行政法人」にできる地方独立行政法人法案が国会に提出されています。住民生活にとってどんな問題があるのでしょうか。

ほとんどが対象
 独立法人化する部門について法案では、「自治体が主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間にゆだねた場合には実施されないおそれがあるもの」としています。

 公立大学や病院、保育所や特別養護老人ホームなどの福祉施設から地下鉄・バス、上下水道などの公営企業まで、自治体が直接、住民に提供していた公的サービスのほとんどが含まれます。対象に含まれないのは県庁や市役所の事務、河川や道路の管理、小中高の学校ぐらいです。

 独立行政法人は、自治体が50%以上を出資し、自治体の議会で定款を定め、知事や総務大臣の認可を得て設置します。
 独立行政法人化した公共施設や事業には「企業会計原則」が導入され、中期計画と年度計画をたて、その達成を迫られることになります。

独立採算ねらう
 この制度をつくる目的について政府・総務省は「効率的な行政サービスの提供等を実現するため」(地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書)と認めているとおり、「効率化」の名で独立採算制を押し付けることがねらいです。
 自治体は、営利を目的とする民間企業とは違って住民福祉の増進を図ることが基本的任務です。

 採算が取れないからと放棄するわけにはいかない部門ばかりです。それが採算性の追求を迫られれば、住民の負担を増やすか、事業の廃止を含むサービスの縮小・削減をはかることになり、住民が犠牲を払うことになりかねません。
 自治体が住民生活に欠かせない事業への責任を投げ捨ててしまうことを可能にする制度であり、住民に重大な影響を与える危険な法案です。

チェックなし
 独立行政法人は、役員人事から年度計画にいたるまで知事や市町村長が意のままの運営ができるようになっています。
 一方で、地方議会の関与は著しく限定され、予算や決算をチェックすることもできません。
 情報公開は年度計画の公表など限定的で、住民参加や監視はほとんどできなくなります。

 前出の「報告書」は、「地方公共団体の議会による詳細な事前関与が行われることとした場合には、そもそも地方独立行政法人制度を導入する意義がなくなる」と述べており、住民参加・住民自治を基本とする「地方自治の本旨」をゆがめかねないものです。

自治体労働者は
 独立行政法人は「公務員型」と「非公務員型」のいずれかを選択することになっていますが、非公務員型となれば民間労働者扱いとなり、強制的に公務員としての身分が奪われます。
 国の場合、独立法人化によって労働条件の改悪がおこなわれた事例があります。地方でもこうしたことがおきないという保障はありません。

 公務員労働者には、住民の福祉と安全を守る奉仕者として中立性や公正さを守る必要性があることから、重い義務を課してきました。その権利や労働条件を切り下げることで、住民生活への影響も危ぐされます。

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