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国家独占資本主義の歴史的位置

第一節 資本主義の成立と発展   
      本源的蓄積過程を経過
一 自由競争の資本主義
   19世紀初頭ヨーロッパに成立 マニュファクチャ問屋制家内工業⇒資本⇒産業革命
     旧社会を分解⇒資本家・土地所有者・賃労働者の三大階級
    イギリスの場合     1825年から周期的恐慌 
     自由貿易 国際分業の下 世界の工場として驚異的発展
    アメリカ・ヨーロッパの諸国も追従  1860年代頂点

二 大不況と資本主義の構造変化  1873年からヨーロッパで大恐慌
   1873年から1895年    自由競争から独占資本主義へ
   イギリス以外の新興工業国の台頭 ⇒慢性的過剰生産
   イギリスのシェアの低下とドイツアメリカのシェア拡大  
 
  株式会社の誕生 ⇒銀行と結び付き⇒金融資本による支配(ドイツ)
      独占価格 過剰資本 植民地の拡大
    植民地支配による防衛(イギリスフランス) 
    自由競争の資本主義の終焉 イギリス中心の国際分業体制の打破 独占資本主義

三 帝国主義の特質
  ヒルファディング金融資本の定義  P.37の2行から8行
  レーニンの定義の追加  P.38の2行目
   「生産と集積は、それが独占に導きつつあり、また導いたほどにいちじるしく発展した」
  レーニンの帝国主義の定義   P.38の9行からP.39の1行まで
    生産と資本の集積が独占をつくりだしている
    銀行資本と産業資本の融合と金融寡頭制
    資本の輸出
    資本家の独占団体による世界の分割の完了
    資本主義列強による地球の領土的分割
    帝国主義の寄生性と腐朽性
    死滅しつつある資本主義

  植民地再分割要求⇒第一次世界大戦⇒地球上を専一的に支配する資本主義の終焉
  資本主義の終焉後生き延びた資本主義=国家独占資本主義(社会主義体制と共存)
   =しかし帝国主義に後続する資本主義の新たな発展段階ではない。

「独占」とは何か  概念規定
○氏の理論=価格協定によって生産価格以上に価格を引き上げて独占利潤を得る
  ところが現代は、これと反対「価格破壊競争」であり、「独占」は崩壊している。


1 独占、独占価格、独占利潤

    「独占=価格協定」??
○氏 
 独占資本とは自由競争を制限し、独占価格をいじできるまでに大規模化した資本
 独占利潤とは独占価格から得られる本来の利潤以上の利潤

 トラストは「カルテルのないトラスト」は考えられない
 トラストは国際的カルテルの形成が難しくなっている。後退が重要な特徴
  トラスト=企業合同   カルテル=企業間協定

 カルテル・トラスト・コンツェルンとは  
  カルテル=重要なのは価格協定にはじまり生産制限に発展
       共同販売生産割当て 国際市場の分割協定輸出価格の協定
      カルテルは協定に基づく結合 協定を結んだ企業相互の独立性は保持
  トラスト=資本的な結合  持株会社 合併
  コンツェルン=異なった種類の商品生産を行う企業や銀行商社を統合した企業集団
       戦前の財閥

 カルテルは中間駅
  カルテルが消滅したら独占が消滅するか?
   すきあらば相手を飲み込み(トラスト)、自己のプライスリーダーシップによって価格を設定しうるまでに独占的地位を強化する
   従ってカルテルはあくまで中間駅にすぎない

 参入困難による競争阻害
  参入条件としての資本規模そのものの巨大さ、ブランド力への対抗が困難など、ある産業部門への多からの資本投下でできなくなる

 生産価格と独占価格
  独占価格とは表立って価格がつりあげられているということではない。完全自由競争という条件下で成立する生産価格を上回っている。

 価壊下での独占価格格破
  国外への生産基地移転による低賃金労働の利用

2 戦略提携と独占の「進化」

 市場支配力を目指す「戦略提携」
  出資方式  合弁企業の設置や既存企業への参加など
  非出資方式 技術供与や共同開発、共同購入や共同生産、生産委託など

 カルテル(企業間協定)としての「提携」
  企業間の独立は維持したままで行われる「協定」 

 提携による「独占」の「進化」 新たな独占の形態
  技術革新の加速化 ライセンス料を払い技術供与など
  現地企業への出資

 非価格競争面でも強まる「協定」
  提携という形で、そのグループごとに競争
  生産力の発展が、資本家階級の意志と意識に反して、いっそうの社会科を強いる

 提携の解消と「独占」
  ○○氏  提携を独占の対立物に仕立て上げる  「一定の期間後には解消することを含んでいる」と 独占の否定
  解消されることをもって独占ではない??とするならばカルテルなどの形での独占はなくなってしまう。

 鉄鋼業における「トラスト」と「提携」
  資本結合  NKK 川崎製鉄     JEFホールディング
   提携    新日鉄 住友金属 神戸製鋼  
     提携は結合の反対物では全くない

3 ひとにぎりの者への富と「権力」の集中

 「独占」に関する故意に狭い定義 ○○氏 
  下落する場合ですら、生産価格を上回っている限り、独占が成立している

 「国独資」=「ケインズ主義」と同じ単純化
  なぜ価格協定だけが独占、ケインズ主義だけが国家独占資本主義になるのか

 今日の独占@-技術集約型産業
  一様ではなく、共通性を有しながら産業部門ごとに異なった現れ方
  @技術革新の著しい「技術・知識・集約型」  コンピューター関連バイオテクノロジーの医療品産業   先進先端技術なので競争できる相手がいない

 業界スタンダード獲得等に向けた「提携」
  技術カルテル 提携
 今日の独占A-労働集約型産業
   医療・雑貨・軽工業・小売業・運送業(第三次産業)
   淘汰の結果としてトラストなど
 今日の独占B-資本集約型産業  鉄鋼、石油化学、製紙

 資本集約型産業 カルテル 資本が巨大 新規参入の制約 トラストが必要
 鉄鋼・石油化学・製紙における「独占」と価格つりあげ
  新日鉄・住友金属・神戸製鋼の提携  NKK・川崎グループの2強体制
  自動車産業に対する価格交渉力の強化

 新たなコンツェルンの芽
  技術革新を志向し、低賃金を志向し、価格の吊り上げ・維持または下げ幅の圧縮
  三つの類型を取り込んでいる 自動車産業
  環境対応型技術の開発競争 技術集約型
    組み立て加工工程が大きな比重 工場の発展途上国立地 労働集約型
    生産設備面 資本集約型

 ますます少数の者への富と「権力」の集中

 「生産」の社会化と「私的所有」の矛盾 深まる一方
   資本家階級の「意志と意識に反して」「新しい社会秩序」を準備
   少数独占者のその他の住民に対する圧迫  階級矛盾の激化 新しい社会秩序と闘争 ○○批判 「硬直した直線的発展史観」
 歴史の法則性 社会主義者の任務

諸資本のカオス(混沌)?
 ○○氏 生産の社会化の進展・富と権力の少数独占者へ集中 が見えない
        独占から19世紀的自由競争への逆流

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                      独占禁止法解説(公正取引委員会)
1 独占禁止法は何のためにあるのでしょう

1 経済の仕組みと独占禁止法

 独占禁止法は、経済運営の秩序を維持するための企業活動の基本的ルールを定めた法律です。その正式な名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といい、昭和22年に制定されました。
 施行後既に50年の歴史を持ち、経済社会の基本法としてますます重視されている独占禁止法は、どのような経済の仕組みを考えて成り立っているのでしょうか。

 私たちは、働くことにより生産活動に加わり、いろいろな商品やサービスを作り出しています。そして、すべての人々が消費者として生活に必要な商品やサービスを購入しています。私たちは、この生産と消費を効率的に結ぶ経済の仕組みを考えなければなりません。生産が私たちの必要とするものを作り出すことである以上、限られた資源と労働力を用いて、私たちの望むものができるだけ良質で安価に多く生産されるのが、最も効率的な経済ということになります。

 そのために、私たちの経済社会では、国や政府が何をどれだけ生産するかを決めて命令するというようなことはなく、多数の企業がそれぞれ独自に判断して生産を行います。そして、企業はその商品が消費者に購入されることを目指して競争し、消費者は品質が良く値段も安いものを選ぶように努めます。こうして、多数の企業と多数の消費者がそれぞれ自主的な判断で活動しながら、競争というシステムを通じて、生産と消費が効率的に結びつくことができます。
 独占禁止法は、このような自由経済社会の長所をいかすためにある法律で、自由な企業の存在と有効な競争を確保することが、我が国経済の民主的な発展につながり、消費者の利益になるという考えに基づいて制定された法律です。

2 公正で自由な競争

 独占禁止法は、公正で自由な競争を促進して、我が国経済の効率的な運営を図ろうとする法律です。競争とは、企業が消費者の購買を目指して価格や品質、サービスなどについて、お互いに競い合うシステムのことです。消費者が品質が良く安いものを選ぼうとすれば、企業も消費者の選択に合わせて生産するよう努力します。このように、市場における需要と供給の動きを通して、企業の意思と消費者の意思が結ばれる機能を、市場メカニズムといっています。そこで重要な機能を果たしているのは価格であることから、価格メカニズムともいわれています。

 企業の間に自由な競争がないと、市場メカニズムは働きません。また、競争があっても、ダンピングや過大な景品付き販売などのような不公正な競争手段による場合には、市場メカニズムは正しく働きません。公正で自由な競争が維持されてこそ、市場メカニズムは正しく機能し、消費者の意思が企業に有効に伝達されるといえます。

 私たちの自由経済社会の中で公正で自由な競争とは、消費者が企業の生産する商品やサービスに対する選択を通じて企業を競争させる力を全体として持つことにより、企業を社会的に一層役立つよう規制し、誘導する基本的なシステムを構成するものなのです。独占禁止法は、大企業もあり小企業もある現実の経済の中で、可能な限り有効な競争、公正で自由な競争を促進するよう努めているのです。

3 消費者と独占禁止法

 企業が生産する商品やサービスは、最終的には一般消費者によって購入されます。消費者が買ってくれないものは、作っても売れ残るだけですから、企業も生産を減らしたり止めたりします。商品が消費者に選ばれて、よく売れれば、企業は生産を増やしますし、新たに生産を始める企業も出てきます。つまり、私たちが買い物をすることは、どのような政治がいいかを決めるのに選挙で投票して代表者を選ぶのに似ていて、どのような商品が生産されたらいいか、それをだれに生産させるかを決めるために投票しているようなものです。このことは、経済的にみると、消費者が生産について企業に指示する力を持っていることを意味します。これを 政治における「国民主権」になぞらえて、経済では「消費者主権」と呼んでいます。

 しかし、現実にはどうしても、消費者主権の発揮を妨げるような障害が出てきます。例えば過大な景品や虚偽・誇大な表示・広告などの不公正な競争手段が用いられますと、合理的な商品選択ができなくなります。また、企業の間に競争がない場合には、消費者は、商品を選択する力を発揮できず、高い価格で買わざるを得なくなります。

 このようなとき、独占禁止法は、消費者を保護する大きな力となります。独占禁止法は、「消費者主権」の機能を有効にいかすために、企業が公正で自由な競争を行うことを促進することにより、一般消費者の利益を確保しようとしている法律なのです。

4 企業と独占禁止法

 独占禁止法が企業の禁止行為などを定めた法律であるところから、企業からみると、独占禁止法は企業活動規制法として専ら企業に不利なことばかり定めた法律であるかのように考えられからです。しかし、これは全くの誤解で、独占禁止法の真のねらいは、「事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、」(1条)とあるように自由経済社会の中で企業が自由に活動できるようにするため不当な拘束を排除することにあります。

 それぞれの企業の事業活動が、私たちの社会に必要なものであるかどうかは、市場メカニズムを通じてチェックされます。このチェック・システムを支える公正で自由な競争を阻害する行為を、独占禁止法は規制しています。しかも、独占禁止法により規制される行為は、行った企業にとっても、長い目で見ると得にならないことが多いのです。例えば、ある産業に属する企業が集まり、競争をやめて一斉に値上げをしようという協定(このような協定をカルテルといいます。後記7参照)を繰り返したとすると、短期的にみれば幾らかの利潤が増えることがあるかもしれませんが、長期的にみると、企業はカルテルに頼ってしまい、その競争意欲を事業活動に正しくいかすことができず、放漫な経営に陥ったり、進歩がなくなり、代替品業界や海外からの競争圧力に耐え切れず、産業そのものが衰退してしまうことになりかねないのです。

 独占禁止法は、個々の企業の事業活動が私たちの社会に役立ち、同時に経済全体の発展が図られるというシステムを支える、公正で自由な競争を維持するための基本的ルールといえましょう。ルールは、それを守る者によって維持されます。その意味で、独占禁止法を支える最も大きな主体は、企業なのです。

5 独占禁止法の歩み

 戦前の我が国経済には、巨大な財閥とカルテル組織に経済カが集中し、その力を利用して国家の経済統制が強化されていくという歴史がありました。このような経済体制が国内市場の発展を妨げ、軍需生産への依存を強め、海外市場を確保しようとしたことが戦争に突入した大きな理由の一つと考えられました。

 戦後、民主主義社会を支える経済的基盤を形成するために、財閥解体、経済力集中の排除、私的統制団体の解散などの措置(産業民主化政策と呼ばれました。)を通じて、多数の私企業が公平な機会の下でそれぞれの能力を発揮して自由に競争し得る体制を創り出すこととしました。そして、独占禁止法は、我が国の経済の将来にわたって自由私企業体制を維持するための恒久的な産業民主化措置として立案され、昭和22年3月に旧憲法下最後の帝国議会で成立し、同年7月20日に施行されました。

 戦後のこのような競争促進政策の導入は、企業の行動のみではなく、産業構造、市場構造そのものを競争的に変革する結果をもたらし、我が国の経済体質を本質的に競争的なものとしました。その効果は、昭和30年代、40年代にわたって広く現出することとなり、他の経済政策の運営と相まって、我が国経済の発展の基本となったと考えられています。

 しかし、独占禁止法の運用自体は、必ずしも順調な道をたどったわけではありません。我が国の産業界になじみの薄かったこともあって、昭和24年、28年の緩和改正から昭和30年代の半ばまで独占禁止法の連用は停滞し、適用除外法(独占禁止法の例外を作るための法律)も多く作られました。その後、30年代後半から高度経済成長の過程の中で、独占禁止政策の強化を必要とする経済的条件が成熟し、独占禁止法の機能が正当に理解されるようになり、その運用も活発化しました。そして、自由経済社会の基本的ルールであるとの認識が深められ、昭和48年から準備が始められた独占禁止法の強化改正は、昭和52年12月から施行され、我が国の独占禁止政策に新時代を開きました。

 現在、豊かな国民生活の実現や我が国市場のより一層の開放のためには、消費者利益を図るとともに、事業者の公正かつ自由な競争を促進する必要があることが再認識されており、その中で平成3年、4年の2回にわたって独占禁止法の強化改正が行われました。また、平成8年には、事務総局制の導入等公正取引委員会の組織強化を内容とする独占禁止法の改正が行われました。
 その後、平成9年には、持株会社を原則解禁する等の独占禁止法の改正が、平成10年には、企業結合規制について、届出・報告対象範囲の縮減等の独占禁止法の改正が行われ、平成11年には、独占禁止法適用除外制度について、事業者間の公正かつ自由な競争を促進するため、これを必要最小限にするとの観点から見直しを行った結果、不況カルテル制度の廃止等を内容とする独占禁止法の改正等行われました。さらに平成12年には、電気事業、ガス事業等に対する独占禁止法の適用除外規定の廃止、不公正な取引方法を用いた事業者等に対する差止請求を行うことができる制度の導入等を内容とする独占禁止法の改正が行われました。また、企業結合規制についても、商法改正に伴い会社分割を行う場合の届出等を定める内容の独占禁止法の改正が行われました。

6 独占禁止法の体系

私的独占の禁止(企業結合の規制)、カルテルの禁止、不公正な取引方法の禁止(景品表示法による規制、下請法による規制)
→ 公正で自由な競争の促進
→ 事業者の創意発揮、事業活動の活発化、雇用・所得の水準向上
→ 一般消費者の利益の確保、国民経済の民主的で健全な発達

2 独占禁止法はどのようなことを規制しているのでしょう

7 カルテルの規制

 カルテルという言葉は、独占禁止法の中では使われていませんが、通常、2以上の同業者が市場支配を目的として、価格や生産・販売数量などを制限する協定、合意をいいます。その制限しようとする内容によって、価格カルテル、数量カルテル、市場分割カルテル、入札談合などがあります。

 カルテルは、価格を不当につり上げ、非効率企業を温存し、経済全体を停滞させるなどの弊害をもたらしますので、いずれの国も独占禁止法で厳しく規制しています。

 我が国の独占禁止法は、事業者間のカルテルを「不当な取引制限」として禁止しているほか、事業者団体によるカルテル及び外国事業者との間のカルテル(国際カルテル)を、それぞれ特別の規定を設けて禁止しています。

(1) 不当な取引制限の禁止

 事業者は不当な取引制限をしてはならない(3条)、とされています。
 不当な取引制限というのは、事業者間のカルテルのことで、独占禁止法ではこれを次のように定義しています(2条6項)。
「事業者が、契約、協定その他何らの名義を以ってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

 つまり、その業界に属する事業者(同業者)がお互いに連絡を取り合って、本来個々の事業者がそれぞれ自主的に判断して決めるべき事業活動(価格や数量、設備などの決定)について、共同して決定し、市場において有効な競争が行われないような状態をもたらすことです。このような「契約」「協定」「申合せ」などが禁止されているわけです。

 カルテルの主体となる事業者とは、一般には企業のことで、会社でも個人経営でも事業を行っている者はすべて事業者です。
また、定義の中にある「共同して」というのは、同業者の間に何らかの合意や了解が成立することで、それに皆が従うものと思ってそれぞれ同一行動に出るものであれば該当します。したがって、制裁を伴わない紳士協定はもちろん、明白な協定という形をとらない口頭の約束や暗黙の了解でも、他の要件を満たせば不当な取引制限になります。

(2) 国際カルテルへの参加禁止

 事業者が不当な取引制限を内容とする国際的協定を締結すること、つまり国際カルテルへ参加することは、禁止されています(6条)。

 このように独占禁止法は、国内市場だけでなく、我が国と外国との間の取引についても競争制限の効果が国内市場にもたらされる場合には、規制することにしています。例えば、我が国の事業者とヨーロッパの事業者との間で、我が国の事業者はヨーロッパに輸出せず、ヨーロッパの事業者は日本に輸出しない、という国際的市場分割を内容とする国際カルテルが結ばれ、独占禁止法違反とされた事例があります。

(3) 事業者団体の活動規制

 事業者の集まりである事業者団体が「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」は、禁止されています(8条)。これが事業者団体によるカルテルの禁止規定です。

 このほか、事業者団体が一定の事業分野における事業者の数を制限したり、団体に属している事業者の機能や活動を不当に制限したり、事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすることなども禁止されています。

 独占禁止法が事業者団体の活動をこのように厳しく規制しているのは、カルテルが事業者間の協定や申合せという形ではなく、〇〇協会とか〇〇組合といった事業者団体の行為として行われることが少なくないからです。例えば、事業者団体が値上げを決議して、その構成事業者に指図や通知をすることによって一斉に値上げをしたりするようなことは、一定の取引分野における競争を実質的に制限することになるので、禁止されています。また、事業者団体が団体の事業者の事業活動を不当に制限する場合には、競争を実質的に制限するに至らなくても規制されます。

 事業者団体の活動については、どのような活動が独占禁止法違反するのかを明らかにして、適正な団体活動ができるようにするため、公正取引委員会は、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(事業者団体ガイドライン)を公表しています。

(4) 適用除外カルテル

 独占禁止法は、カルテルを原則として禁止していますが、他の政策目的を達成するために、その例外として法律に基づいて一定の要件の下にカルテルを許容し、そうした行為には独占禁止法を適用しないこととしています。このようなカルテルを適用除外カルテルといいます。

 適用除外カルテルは、独占禁止法に基づくもの、個別の法律に基づくものの二つに大きく分けられ、主なものとしては、独占禁止法に基づく一定の組合の行為(22条)、道路運送法に基づく運輸カルテルなどがあります。また、個別の法律に基づくものについては、公正取引委員会との手続規定が整備されており、公正取引委員会の目が届く形となっています。

 適用除外制度は、飽くまで独占禁止法の例外であるため、経済状況等の変化に応じ、その必要性などについて見直しを行う必要があります。

8 独占・寡占の規制

 少数の企業が市場における供給のほとんどを支配している場合には、競争は有効に機能しなくなります。そこで独占禁止法は、独占や寡占に対して種々の規定を設けています。
 第1に、独占の状態をもたらしたり、維持したりする行為を禁止すること(私的独占の禁止)、第2に、独占に近い状態が成立するのを未然に防止すること(合併などの制限)、第3に、独占という状態が既に成立している場合に市場に弊害が出ないようにすること(独占的状態に対する措置)などを規定しています。そのほか市場が寡占状態にある場合に起こる価格についての同調的な行動を監視する規定(価格の同調的引上げの報告)があります。

(1) 私的独占の禁止

 事業者が私的独占をすることは違法とされています(3条)。
 私的独占というのは、事業者が単独で、あるいは他の事業者と結合するなどして、人為的に事業者の事業活動を排除したり、支配することによって、市場において価格や数量などを左右することができる力、つまり市場支配力を形成したり、既に有する市場支配力を行使することをいいます(2条5項)。したがって、品質の優れた安い商品を供給する企業が、競争によって結果的に市場を独占するようなことになっても、違法とはなりません。「排除」というのは、例えば合併や買収などにより他の事業者を消滅させたり、ダンピングや差別価格などの不当な低価格販売によって競争者をつぶしたり、あるいは新たに市場に参入しようとするのを断念させることです。また、「支配」というのは、例えば、株式の取得や役員の派遣といった力関係にものをいわせたり、取引上の優越した立場を利用するなどの方法により、他の企業の事業活動に制約を加えることです。

(2) 独占的状態に対する措置

 寡占産業の中でも1社ないし2社の企業がとびぬけて大きい高度寡占産業で、有効な競争がなく弊害が発生している場合には、独占的状態にあるとして、トップの企業などに対して、営業の一部の譲渡そのほか競争を回復させるために必要な措置を命ずることができるようになっています(8条の4)。

 独占的状態というのは、次の要件に該当する市場の状態をいいます(2条7項)。
 その産業の年間供給額が1000億円を超える規模であること、首位企業の市場シェアが50%を超えているか、又は上位2社の市場シェアが75%を超えていること、他の企業がその産業に入ってくることが難しいこと、需要が減ったりコストが下がっても、価格が下がらないこと、過大な利益をあげているか、又は広告費などの支出が過大であること。

 独占的状態の規制は、高度寡占産業の企業が弊害を発生させないような事業活動を行うことを期待して設けられています。仮に弊害が現れて独占的状態か生じても、営業の一部譲渡などの措置は最後の手段であり、それ以外の手段で競争を回復させることができる場合には、それを優先させることになります。

 独占的状態の規制は、独占禁止法上の他の規制が事業者の行為に着目した規制であるのに対して、市場の構造に着目している点に特徴があります。

(3) 価格の同調的引上げの監視

 寡占産業では、ある企業が値上げをすると、すぐに他の企業がほぼ同一内容の価上げをするという現象がみられます。このような価格引上げは、実質的な効果においてはカルテルと同じですが、企業間において意思の連絡がなかったり、あってもそれを証明することが困難なため、カルテルとして規制することができません。といって、これを放置することは、カルテルの厳しい規制と比べて均衡を失することになります。そこで独占禁止法は、このような同調的な値上げがあった場合には、公正取引委員会が値上げした企業から値上げの理由について報告を求める規定を置いています(18条の2)。

 値上げ理由の報告対象になるのは、年間供給額が600億円を超える商品又はサービスであること、上位3社の市場シェアが70%を超えていること、3か月以内に主な企業の値上げが行われること、値上げ額又は値上げ率が同じか、又は近似していること、という要件を満たしている場合です。

 企業から徴収した値上げ理由の報告は、公正取引委員会が毎年国会に提出する年次報告の中に記載され、公表されることになっています。

 この制度の趣旨は、寡占産業において同調的な値上げが行われた場合に、その値上げ理由を一般に明らかにすることによって、安易な価格形成が行われることのないよう期待することにあります。同調的値上げの裏にカルテルがあった場合には、もちろんカルテルとして取り締まられることになります。

9 不公正な取引方法の規制

 競争が国民経済の効率を高めるよう機能するためには、良質・廉価な商品やサービスの提供を手段とする公正な競争が行われることが必要です。このため独占禁止法は、公正な競争を阻害するおそれのある行為を「不公正な取引方法」として禁止しています。

 事業者が不公正な取引方法を用いるときは第19条で、事業者団体が不公正な取引方法に該当する行為を事業者にさせるときは第8条で、また、国際的契約の中で不公正な取引方法に該当する事項を内容とするものがあれば第6条で、それぞれ規制されています。

(1) 不公正な取引方法とは

 不公正な取引方法とは、「公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう」とされています(2条9項)。この指定には、すべての業種に適用される「一般指定」と、特定の業種にだけ適用される「特殊指定」とがあります。特殊指定は、現在、百貨店・スーパー業、新聞業、海運業、教科書業、食品かん詰業の5業種と、広告における懸賞の最高額を対象に指定が行われています。

 一般指定では、16の行為類型が不公正な取引方法として指定されています。これは、大きく3つのグループに分けることができます。

 第1は、自由な競争が制限されるおそれがあるような行為で、取引拒絶、差別価格、不当廉売、再販売価格拘束などです。
 第2は、競争手段そのものが公正とはいえないもので、ぎまん的な方法や過大な景品による顧客誘引、抱き合わせ販売などです。
 第3は、自由な競争の基盤を侵害するおそれがあるような行為で、大企業がその優越した地位を利用して、取引の相手方に無理な要求を押し付ける行為がこれに当たります。

 これらの中には、再販売価格拘束のように不公正な取引方法であることが明白なものもありますが、多くは、行為の形態から直ちに違法となるのではなく、それが不当なとき(公正な競争を阻害するおそれがあるとき)に違法となります。
一般指定のうち、主なものを説明しましょう。

取引拒絶(1項、2項)
 特定の事業者と取引しない、あるいは取引させないという行為で、共同して行う場合(いわゆるボイコット)と単独で行う場合とがあります。ボイコットは、同業者が結束して特定の事業者を市場から締め出したり、その取引先を奪おうとするものですから、違法性が強く、市場における競争が実質的に制限される場合には、不当な取引制限(カルテル)にも該当するものです。単独で行う取引拒絶が違法とされるのは、それにより他の事業者が市場から締め出され事業活動を困難にされるおそれのある場合とか、不当な目的を達成する手段として取引を拒絶する場合です。

差別価格(3項、4項)
 販売地域や取引の相手方によって同一の商品やサービスの価格に差をつけたり、取引条件などで差別をすることは、それが不当に行われた場合には違法となります。「不当に」というのは、価格などに差を設けて積極的に競争者を市場から排除したり、取引の相手方を不利な立場に追いやったりする目的あるいは効果を伴うような場合をいいます。

不当廉売 (6項)
 不当に安い価格で販売し、競争者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、違法となります。例えば、小売業の場合に、仕入価格を下回る価格で、ある程度継続して販売する行為は、正常な価格競争とはいえません。ただし、きず物、生鮮食品、季節商品などを処分するような場合は、仕入価格を下回る価格で販売しても不当とならないものがあります。

不当高価購入(7項)
 事業者が,競争者を排除し,又は競争者の事業活動を妨害する意図をもって,市場価格を著しく上回る価格で購入することにより,競争者が必要とする商品(例えば,ある完成品の製造のために不可欠な原材料)の入手を困難にするおそれがあるような場合がこれに当たります。

不当顧客誘引(8項、9項)
 虚偽や誇大な広告によって顧客を誘引したり、過大な景品を付けて商品を販売するような行為は、消費者の正しい商品選択をゆがめることになりますので、違法となります。
このような行為は、独占禁止法の補完法である「不当景品額及び不当表示防止法」によって効果的に規制されています。

抱き合わせ販売等(10項)
 ある商品を販売する際に、他の商品も同時に購入させる抱き合わせ販売は、取引の強制であり、不当に行われる場合には違法となります。問題となるのは、取引の相手方に対して不当に不利益を与えたり、競争者を市場から排除するおそれのあるような場合です。

排他条件付取引(11項)
 自己の商品だけを取り扱い、他の競争者と取引してはならないとする専売制は、競争者の取引の機会を奪ったり、新規参入を妨げるおそれがある場合には、違法となります。

再販売価格の拘束(12項)
 拘束条件付取引の中で、再販売価格(仕入れた商品を転売するときの価格)の拘束は、価格という基本的な競争手段を拘束し、販売業者間の競争を制限するものですから、原則として違法となります。しかし、著作物 (本、新聞など) については、例外的に再販売価格の拘束が許容されています。

拘束条件付取引(13項)
 取引の相手方の事業活動を拘束する条件を付けて取引することは、その行為者の市場における地位や拘束される事業活動の種類いかんによっては、違法となります。
これまでに違法とされたものとしては、価格の拘束以外に、取引先の拘束(一店一帳合制)、販売地域の拘束(テリトリー制)などがあります。

優越的地位の濫用(14項)
 取引関係において優越した地位にある大企業が、取引の相手方に対して不当な要求をすることは、違法となります。例えば、百貨店が納入業者に対し押し付け販売をしたり、売場の改装費用を負担させたりすること、金融機関が融資先に対し不当な拘束預金を強いること、取引先企業の役員の選任に不当に干渉すること、などが該当します。
 優越的な地位の濫用は、特に下請関係で問題となることが多いのですが、これについては、独占禁止法の補完法である「下請代金支払遅延等防止法」によって処理されています。

競争者に対する取引妨害(15項)
 事業者が、競争者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止,契約不履行の誘引その他いかなる方法であるかを問わず、それを不当に妨害する行為は違法となります。例えば、総代理店が、価格を維持するために、海外における取引先に対し並行輸入業者への販売を中止するようにさせることがこれに当たります。

競争社会に対する内部干渉(16項)
 事業者が自己と国内において競争関係にある会社の株主・役員等に対して、その会社の不利益となる行為をするように不当に誘引したり、そそのかしたり,強制したりする行為がこれに当たります。例えば競争会社の役員に金銭や地位を与える約束をするなどにより,当該競争会社の方針に反する行動をさせることなどが考えられます。

(2) 事業者団体と不公正な取引方法
 事業者団体が事業者に働きかけて不公正な取引方法に該当する行為をさせることは、違法となります(8条)。また、事業者団体から特定の事業者を不当に除名したり、特定の事業者を不当に差別的に取り扱ったりして、その事業者の事業活動を困難にさせることも違法となります(一般指定5項)。

(3) 国際契約と不公正な取引方法
 事業者が、不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的契約を結ぶことは、違法となります(6条)。国際的契約については、外国の事業者が不公正な取引方法を用いる場合には、我が国独占禁止法が規制の対象としている領土の外に及ぶことがあるため、規制することが難しいので、特別の規定を設けて契約自体を禁止の対象としています。
 公正取引委員会では、特許・ノウハウライセンス契約や輸入総代理店契約において不公正な取引方法に該当するおそれのある事項を明らかにした運用基準などを公表し、違反の未然防止を図っています。

(4) 下請代金支払遅延等防止法
 「下請法」と略称されるこの法律は、昭和31年に制定され、下請取引における親事業者の優越した地位の濫用行為を迅速かつ効果的に規制することにより、親事業者の下請事業者に対する取引を公正にするとともに、経済的に弱い立場にある下請事業者の利益を保護することを目的としています。
 そのため、下請法は、親事業者による受領拒否、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、返品、買いたたき、購入強制、割引困難な手形の交付などの下請取引における不公正な取引方法を規制しています。

(5) 不当景品類及び不当表示防止法
 「景品表示法」と略称されるこの法律は、昭和37年に制定され、過大な景品類や虚偽・誇大な表示による不当な顧客誘引行為を迅速かつ効果的に規制することにより、公正な競争を確保し、消費者が適正に商品を選択できるようにすることを目的としています。
 景品類については、公正取引委員会の告示によって、景品類の最高額、総額、提供の方法などが定められています。
表示については、商品又はサービスの品質や価格などについて実際のもの又は競争事業者のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるおそれのある表示や、公正取引委員会が不当表示として指定した表示(現在、無果汁飲料、原産国、消費者信用、不動産のおとり広告及びおとり広告について指定されています。)が禁止されています。

10 企業結合・集中の規制

 独占禁止法第4章は、企業間の結合に関する一定の制限を規定しています。すなわち、会社やその他の者の株式保有、会社間の役員兼任、会社の合併、分割、営業譲受けなどによって競争が実質的に制限されることになるときなどは、こうした行為を禁止しています。 また、事業支配力の過度の集中を防止することとなる会社の設立等の制限や、銀行又は保険会社による議決権保有の制限を規定しています。

(1)合併の制限
 会社の合併は、それが一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合は、禁止されています(15条)。「一定の取引分野」というのは、市場の意味であり、その画定は具体的な事例に即して、その合併がどの範囲の競争に影響を及ぼすかという観点から行われます。
 一般的には、合併当事会社が取り扱う商品やサービスの種類、それが取引される地理的範囲、取引の段階(製造、卸、小売などの別)などを共通にしているかによります。合併により競争が実質的に制限される場合というのは、合併によって市場構造が変化して、特定の会社がその意思である程度自由に価格、品質、数量、その他の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態がもたらされることです。その判断は、市場占拠率など各種の競争要因を総合的に勘案して行われます。公正取引委員会は、「株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方」(次の(2)〜(5)についても説明しています。)を公表しています。

(2) 分割(共同新設分割及び吸収分割)の制限
 複数の会社が共同で新設会社に営業を承継させる共同新設分割と既存の会社に営業を承継させる吸収分割は、いずれも合併と実質的に同じような効果を持つため、独占禁止法では、合併と同様に扱われており、それが一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合は、禁止されています(15条の2)。

(3) 営業の譲受け等の制限
 会社間の営業の譲受けは、合併と実質的に同じような効果を持つため、独占禁止法では合併と同様に取り扱われています(16条)。ここで営業の譲受けというのは、営業の全部又は重要部分の譲受けのことで、販売部門や工場などを譲り受ける場合がこれに当たります。営業の譲受けのほか、営業上の固定資産の譲受け、営業の賃借、経営の受任、営業上の損益全部を共通にする契約も合併と同様に取り扱われます。

(4) 会社の株式保有の制限
 会社が会社の株式を保有することは、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合は、禁止されています(10条)。競争制限については、株式保有により企業間に結合関係が生じ、その結果、競争に影響が及ぶことを問題にするものです。

(5) 役員兼任の制限
 複数の会社の役員を兼任することにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなることや、不公正な取引方法により他の会社に役員を送り込んだりすることは、禁止されています(13条)。

(6) 事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等の制限
 平成9年の独占禁止法の改正以降、事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の設立・転化が禁止されていましたが、我が国の経済実態の変化等を踏まえて、平成14年5月の独占禁止法の改正により、大規模会社の株式保有総額の制限(9条の2)が廃止されるとともに、持株会社以外の会社に対しても持株会社と同様の規制が課されることとなりました。
 今後、事業支配力が過度に集中することとなる会社を設立したり、既存の会社がそのような会社になることは、禁止されます(9条)。公正取引委員会は、「事業支配力が過度に集中することとなる会社の考え方」を公表しています。

(7) 銀行又は保険会社の議決権保有の制限
 従来、金融会社(銀行、保険会社、証券会社など)が国内の会社の議決権総数の5%(保険会社の場合は10%)を超えて保有することが禁止されていましたが、競争上の問題の中心は、豊富な資金力を有する金融会社と金融会社以外の会社が結びつくことにあることから、平成14年5月の独占禁止法の改正により、規制の対象が銀行又は保険会社に限定されるとともに、銀行又は保険会社が金融会社以外の国内の会社の議決権総数の5%(保険会社の場合は10%)を超えて保有することが禁止されることとなりました。(11条)

 この制度は、大規模会社を中核とする企業集団の形成・拡大、事業支配力の集中化の傾向に歯止めをかけることをねらいとしています。ただし、政府が出資している国策的会社や外国会社に準じて考えられる会社などの株式は規制の対象外です。
 ただし、改正前と同様に、公正取引委員会の認可を受けた場合や特別の場合には、5パーセントを超えて保有することができます。公正取引委員会は、「独占禁止法第11条の規定による銀行又は保険会社の議決権保有等の認可についての考え方」及び「債務の株式化に係る独占禁止法第11条の規定による認可についての考え方」を公表しています。

3 独占禁止法はどのように運用されるのでしょう

11 公正取引委員会

 独占禁止法を運用する行政機関として、公正取引委員会が設置されています(27条)。公正取引委員会は、内閣総理大臣の所轄に属し、行政組織上、内閣府の外局として位置付けられますが、独立の行政委員会(合議制の行政機関)であるところにその特色があります。

 独占禁止法は、自由経済社会における企業の事業活動の基本的ルールを定めたものですから、その運用に当たっては、政治的な影響を受けることなく、中立的な機関により公正な運用が図られなければなりません。また、独占禁止法は、絶えず変動する経済事象に適用されるだけに、その運用には豊富な法律知識と経済知識が必要であり、高度の専門性が要求されます。
このため、公正取引委員会は、独占禁止法の運用については、他から指揮監督を受けることなく、独立してその職務を行います(28条)。委員長と4人の委員は、内閣総理大臣が、国会の同意を得て任命し、任期は5年です。

 公正取引委員会の事務を処理するために、事務総局が置かれています。事務総局は東京に本局があるほか、札幌に北海道事務所、仙台に東北事務所、名古屋に中部事務所、大阪に近畿中国四国事務所(広島に中国支所、高松に四国支所)、福岡に九州事務所があります。さらに、沖縄県には沖縄総合事務局の中に公正取引室があります。

12 独占禁止法違反事件の処理手順

公正取引委員会の職権探知・一般の方からの報告(申告)・検事総長の調査請求・中小企業庁長官の調査請求


→審査

→勧告
→−応諾→審決(→課徴金納付命令)
→−不応諾→審判開始決定→審判→審決(→訴訟)(→課徴金納付命令)
→警告・注意等
→告発


13 事件の始まり

(1) 事件の端緒
 公正取引委員会が独占禁止法に違反する行為について、審査(違反のおそれのある具体的な事件についての調査活動のことです。)を開始するのは、次のいずれかの方法で情報を入手したときです。

一般の方からの報告(申告と呼んでいます。45条)
公正取引委員会の職権探知(公正取引委員会が自ら違反を発見する場合)
検事総長からの調査請求(74条)
中小企業庁長官からの調査請求
これらの情報を事件の端緒(違反行為の手がかり)と呼んでいます。
この端緒の中でも特に重要な役割を果たしているのは、一般の方からの報告です。
独占禁止法に違反する事実があると思うときは、だれでも、公正取引委員会にその事実を報告し、適当な措置を採るよう求めることができます。これは、違反行為の被害者でも一般消費者でも、違反行為を発見した人であればだれでもよいのです。

(2) 報告(申告)の仕方
 一般の方の報告は、書面でも口頭でも構いませんが、公正取引委員会が事件の端緒として取り上げ、調査するかどうかの判断ができるためには、次の事柄ができる限り明らかにされた書面による報告の方が望まれます。

 報告者の氏名、住所(公正取引委員会に報告したことを他人に知られたくないような場合でも、公正取引委員会は責任を持ってその秘密を守っていますから、できるだけ匿名は避けてください。)
 違反の疑いがある行為者の住所、氏名又は名称、代表者名、所在地
 違反の疑いがある行為の具体的事実について次の事柄

(ア)だれが(違反被疑行為主体者、直接関係者の氏名。例えば、価格協定の会合の出席者の氏名)、(イ)だれと共に(共同行為者)、(ウ)いつ(違反被疑行為の日時)、(エ)どこで(違反被疑行為の場所)、(オ)なぜ、(カ)だれに対して(違反被疑行為による被害者、相手方)、(キ)いかなる方法で、(ク)何をしたか。
 なお、違反の疑いがある行為を証明するような資料(文書の写し、写真、チラシなど)があれば、報告書面に添付してください。

(3) 報告者に対する通知
 独占禁止法に違反する事実があるという報告が、書面で行われ、具体的な事実を示しているものである場合には、公正取引委員会は、その報告に係る事件についてどのような措置を採ったか、あるいは措置を採らなかったかを報告者に通知することになっています(45条3項)。

(4) 申告の処理に係る申出について
 申告した結果について通知を受けたが、その結論に納得がいかないなど、報告者から申告の処理に係る疑問、苦情その他の申出を受け付けるため、本局、地方事務所及び支所において申出受付窓口を設置しています。
受け付けた申出は審理会で点検し、その結果を申出の日から原則として2ヶ月以内に申出をした人に連絡することとしています。

(5) 審査(事件の調査活動)
 事件の端緒に接すると、公正取引委員会は、審査を開始します。相手方の協力が得られるときは任意の調査も行われますが、それだけでは不十分なので、強制調査を行うことがあります。公正取引委員会は、職員の中から審査官を指定して、関係企業に立入検査をしたり、物件を提出させたり、関係者を呼び出して事情を聴取したりして、調査を進めることができます(46条)。

14 排除措置命令と審判・審決

 公正取引委員会は、公正で自由な競争秩序を回復するために、違反行為者に対して、その違反行為を排除する等の措置を採るよう命ずることができます。この排除措置命令は、審決という形で行われます。

 審決という行政処分を行う前に、処分を受ける者に意見を述べる機会を確保し、処分の公正を図るために、審判という慎重な手続が採られます。審判手続は、委員会又は審判官(審判手続を行うために公正取引委員会に置かれる職員)が主宰し、審査官(公正取引委員会の職員)が違反行為を立証しようとし、被審人(違反の疑いを受けているもの)がそれを争うという、裁判に似た手続です。審判は、原則として公開されます。公正取引委員会が準司法的機関と呼ばれることがあるのは、審判手続という司法手続に準じた慎重な行政手続を行うことを高く評価してのことです。

 審判が審判官によって行われたときは、被審人は、委員会に対し、直接意見を述べる機会を要求することができます。
 審査の結果違反行為が認められても、直ちに審判開始決定をせず、違反者に排除措置を勧告し、違反者がこれを受け入れた(応諾した)場合には、審判手続を経ないで、勧告と同趣旨の審決(勧告審決)を行います。大部分の事件はこの手続で処理されています。勧告を応諾しない場合は、審判開始決定を行い、審判手続を経た後、違反事実の有無、排除措置の必要性等に応じて審決(審判審決)を行います。

 また、審判手続の途中で、被審人が違反事実と法律の適用を認めて排除措置の計画書を提出した場合、それが適当であれば同趣旨の審決(同意審決)をすることができます。
審決の効力は、被審人に審決書の謄本が到達した時から生じます。
 なお、審決を出すまで手続的に時間が掛かって、その間違反行為を放置しておけない場合には、公正取引委員会は、東京高等裁判所に対し、緊急停止命令を出すよう申立てをすることができます。

15 課徴金

 カルテルが行われた場合には、カルテルを行った事業者や事業者団体の構成事業者に対して、カルテルの排除措置のほかに、課徴金を課すことになっています(7条の2、8条の3)。
 課徴金は、カルテル禁止規定の実効性を確保するために、一定の算式によって計算した額を国庫に納付することを命ずる行政上の措置です。
 課徴金は、販売価格の引上げカルテルや価格決定カルテル、入札談合のほか、生産数量、販売数量、設備などの制限をして価格に影響を与えるカルテルが行われた場合に課されます。
 課徴金の額は、次の算式により算定されます。

カルテル期間中の対象商品の
売上額(※)
×
卸・小売業以外は6/100(中小企業3/100)
卸売業は1/100(中小企業1/100)
小売業は2/100(中小企業1/100)
= 課徴金額

(※) 算定期間はカルテルの終期から起算して3年を限度とします。

 したがって、例えば製造業におけるカルテルを行った企業についてカルテル期間中の対象商品の売上額が1億円ならば、課徴金の額は600万円(中小企業では300万円)となります。
 なお、算定額が50万円を下回る場合には、課徴金の納付は命じられません。

16 訴  訟

 公正取引委員会の審決に対しても、一般の行政処分に対するのと同じように、その取消しを求める訴えを裁判所に起こすことができます。審決取消しの訴えを起こせる期間は、審決が効力を生じた日から30日以内です(77条)。
 審決取消訴訟については、公正取引委員会が独占禁止法事件に関して最も専門の機関であることと、審判手続という慎重な行政手続を経てきていることを尊重して、裁判所では、次のような特別な取扱いがなされます。
 第1に、審決取消訴訟の第一審裁判権は、東京高等裁判所の専属です。つまり、東京高等裁判所は、独占禁止法事件の専門裁判所としての地位にあるわけです(85条)。
 第2に、公正取引委員会が認定した事実は、その事実を立証する実質的な証拠があるときは、裁判所を拘束します(80条)。これは、独占禁止法事件の事実認定については、専門家である公正取引委員会の判断を信頼し優先するという趣旨です。したがって、裁判所は、審決が実質的な証拠を欠いていると認める場合と、憲法やその他の法令に違反する場合に、その審決を取り消す判決を行います(82条)。この場合、更に事実を調べる必要があるなど、もう一度公正取引委員会に審判をさせる必要があると認めるときは、裁判所は、事件を公正取引委員会に差し戻します(83条)。
 東京高等裁判所の判決に不服がある場合は、最高裁判所に上告できます。

17 差止請求

 独占禁止法違反行為(不公正な取引方法に係るもの)によって著しい損害を受け、又は受けるおそれがある消費者、事業者等は、裁判所に訴訟を提起し、違反行為の差止めを請求することができます(24条)。
 差止請求訴訟が提起されたときは、裁判所は、その旨を公正取引委員会に通知するとともに、公正取引委員会に対し、その事件に関する独占禁止法の適用等について意見を求めることができます。また、公正取引委員会は、裁判所の許可を得て、裁判所に対し、その事件に関する独占禁止法の適用等について意見を述べることができます(83条の3)。

 差止請求訴訟は、民事訴訟法の原則により被害発生地等の地方裁判所に提起することができるほか、これらの地方裁判所所在地を管轄する高等裁判所所在地の地方裁判所及び東京地方裁判所にも提起することができるとともに、裁判所が相当と認めるときは、これらの裁判所に訴訟を移送することができます(84条の2、87条の2)。
 また、差止請求訴訟の濫用防止のため、提訴が不正の目的によることを被告が疎明した場合は、裁判所が、原告に相当の担保を提供することを命じることができます(83条の2)。

18 損害賠償

 独占禁止法で禁止されている不当な取引制限(カルテル)、私的独占、不公正な取引方法等を行った事業者及び事業者団体の禁止行為を行った事業者団体にに対し、被害者は、損害賠償の請求ができます。この被害者には、事業者に限らず一般消費者も含まれます。損害賠償の請求は、民法709条による通常の不法行為責任を問題にして求めることもできますが、独占禁止法による場合は、これと異なり、事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかったことを立証して損害賠償責任を免れることができません(無過失損害賠償責任)(25条)。この制度は、独占禁止法違反行為によって生じた私人の損害が適正かつ迅速に回復されるようにすることにより、競争秩序の回復と違反行為の抑止を図るものとして位置付けることができます。

 ただし、この損害賠償請求訴訟は、公正取引委員会による審決が確定した後でなければ提起できません。また、この損害賠償請求権は、審決が確定した日から3年たつと、時効により消滅します(26条)。
 この損害賠償請求訴訟は東京高等裁判所の専属管轄です(85条)。裁判所は、訴訟が提起されると、違反行為によって生じた損害の額について公正取引委員会に対し、意見を求めなければなりません(84条)。

19 罰  則

 独占禁止法違反行為は、犯罪行為として刑罰を受けることがあります。例えば、不当な取引制限(カルテル)を行った者(行為者)は、3年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処せられますし、確定した審決に従わなかった者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます。ただし、不公正な取引方法には、確定審決違反の場合を除き罰則がありません。

 刑罰を受ける者は、違反行為に責任のある人で、例えば企業がカルテルを行った場合、その企業の中でカルテルを決定した責任者が罰せられます。さらに、両罰規定(95条)により事業者や事業者団体にも罰金が科されますし、違反の計画を知りながらこれを防止しなかった企業の代表者や事業者団体の役員に対して罰金が科されます(95条の2、95条の3)。

 独占禁止法違反の主要な罪(89条から91条までの罪)は、公正取引委員会による検事総長への告発があって、初めて刑事訴追の手続が開始されます(96条)。これらの罪に係る訴訟も東京高等裁判所の専属管轄となっています(85条)。
 なお、確定前の審決違反には50万円以下の過料(97条)、緊急停止命令違反には30万円以下の過料(98条)が課されます。

4 届出や報告はどのような場合に必要でしょうか

20 一定の会社の事業報告・新設の届出

(1) 持株会社等の事業報告
 自社及びその子会社の総資産の額(国内の会社の総資産の額に限ります。)の合計が、@ 持株会社は6000億円、A 銀行、保険会社又は証券会社(持株会社を除く)は8兆円、B @及びA以外の会社は2兆円を超える場合には、公正取引委員会に毎事業年度終了後3か月以内にこれらの会社の事業に関する報告書を提出しなければなりません(9条5項)。
 報告書の様式については、公正取引委員会規則で定められています。

(2) 持株会社の新設の届出
 新たに設立された会社は、その設立時において上記(1)の場合に該当するときには、設立の日から30日以内に、公正取引委員会に届け出なければなりません(9条6項)。
 届出書の様式については、公正取引委員会規則で定められています。

21 会社の株式保有の報告
 銀行又は保険会社が非金融関連会社の議決権を取得する場合を除き、総資産(親子会社の総資産を加えた合計金額)が100億円を超える会社(外国会社の場合も同じ。)が、総資産(単体。外国会社の場合は、国内売上高〔その国内の営業所又は子会社の年間売上高〕)が10億円を超える会社の株式を10%、25%又は50%を超えて取得した場合には、30日以内に公正取引委 員会に株式所有報告書を提出しなければなりません(10条2項、3項)。
 報告書の様式については、公正取引委員会期則で定められています。

22 合併、分割、営業等の譲受けの届出

(1) 合  併
 総資産(親子会社の総資産を加えた合計金額。外国会社の場合は、国内売上高〔その国内の営業所又は子会社の年間売上高〕)が100億円を超える会社が、総資産(親子会社の総資産を加えた合計金額。外国会社の場合は、国内売上高〔その国内の営業所又は子会社の年間売上高〕)が10億円を超える会社と合併をしようとするときには、合併の態様(新設合併、吸収合併)のいかんを問わず、あらかじめ公正取引委員会に合併に関する計画を届け出なければなりません(15条2項、3項)。また、合併の届出義務者は、合併当事者のすべてであって、届出書は連名で提出しなければなりません。
 なお、親子・兄弟会社間(50%を超える議決権保有関係にあるもの)の合併は届出が不要です。
 公正取引委員会に届出を行い、これが受理されてから30日を経過するまでは合併をすることができません。ただし、この期間は、事情によっては短縮されることがあります。
 届出書の様式については、公正取引委員会規則で定められてます。

(2) 分割の届出
 共同新設分割又は吸収分割をしようとする場合、合併の場合と同様にあらかじめ、公正取引委員会に届け出なければなりません(15条の2 2項−5項)。
 届出が必要な場合は、次のとおりです。
 共同新設分割の場合、分割の対象が営業の全部であるときは、当事会社中に総資産(親子会社の総資産を加えた合計金額)が100億円を超える会社と10億円を超える会社がある場合です。分割の対象が営業の重要部分のときには、総資産額ではなく、当該重要部分に係る売上高によることとなります。

 吸収分割の場合、会社分割の対象が営業の全部であるときは、当事会社中に総資産(親子会社の総資産を加えた合計金額)が100億円を超える会社と10億円を超える会社がある場合です。共同新設分割の場合と同様、分割の対象が営業の重要部分のときには、当該重要部分に係る売上高によることとなります。
 また、外国会社が分割を行う場合は、総資産額ではなく、国内の営業所又は子会社の年間売上高によることとなります。
 なお、親子・兄弟会社間(50%を超える議決権保有関係にあるもの)の分割は届出が不要です。
 届出書の様式については、公正取引委員会規則で定められています。

(3) 営業等の譲受けの届出
 会社の営業等の譲受けをしようとする場合も、合併の場合と同様にあらかじめ公正取引員会に届け出なければなりません(16条2項、3項、4項)。

 届出が必要な場合は、総資産(国内会社、外国会社いずれも親子会社の総資産を加えた合計金額)が100億円を超える会社が譲り受ける場合であって、営業の全部の譲受けについては、総資産(単体。外国会社の場合は、国内売上高〔その国内の営業所又は子会社の年間売上高〕)が10億円を超える会社から譲り受けるとき、営業の重要部分又は営業上の固定資産の譲受けについては、譲受け対象部分に係る年間売上高(外国会社の場合は、国内売上高〔その国内の営業所又は子会社の年間売上高〕)が10億円を超えるものを譲り受けるときです。

 届出をしなければならない会社は、譲受け会社で、設立中の会社の場合には、届出は発起人の名前で行います。
 なお、親子・兄弟会社間(50%を超える議決権保有関係にあるもの)の営業等の譲受けは届出が不要です。
 届出書の様式については、公正取引委員会規則で定められています。

23 事業者団体の届出

(1) 事業者団体の届出
 事業者団体は、成立したとき、届出事項に変更を生じたとき又は解散したときは、公正取引委員会に届け出なければなりません(8条2項〜4項)。

 この規定は、公正取引委員会が事業者団体の活動状況等を常に把握して、独占禁止法違反となる行為を行うことを未然に防止することを目的として設けられています。
 この事業者団体の届出を行うものは、その事業者団体(その団体の代表者)です。代表者の定めがない場合には、その団体の構成員の中から届出手続者を定め、その者が届出を行うことになります。また、当番幹事制の場合は、届出時期に当たった幹事が届出を行えばよいこととなります。
 成立、変更、解散の際の具体的な届出方法については、公正取引委員会規則にそれぞれの様式と添付書類が定められています。

成立届書
 成立届出書は、事業者団体が成立したときから30日以内に提出しなければなりません。提出書類は、届出書1通のほか、(ア)定款、寄附行為、規約又は契約の写し、(イ)役員又は管理人の名簿、(ウ)当該団体の構成員の名簿、(エ)事業計画書を作成している場合はその写しがそれぞれ1部必要となります。
  なお、「成立」とは、事業者団体が新しく設立される場合のほか、既存の団体が目的や組織を変更して事業者団体となる場合も含まれます。また「成立の日」とは、有効に事業者団体が成立するに至った日のことで、法律上成立要件が定められている団体にあっては、その成立要件が備わった日であり、例えば、登記が成立要件となっていれば、登記完了の日となります。

変更届出書
 変更届出書は、成立届出書の記載事項や成立届出書の添付書類の内容に変更を生じた場合に、その事業年度終了の日から2か月以内に提出しなければなりません。提出書類は、届出書1通のほか、(ア)変更を生じた事項に関する定款、寄附行為、規約又は契約の写し、(イ)変更を生じた事項に関する役員又は管理人の名簿、(ウ)変更を生じた事項に関する当該団体の構成員の名簿、(エ)事業計画書の写し及び事業報告書がそれぞれ1部必要となります。

解散届出書
 解散届出書は、事業者団体が解散した日から30日以内に提出しなければなりません。提出書類は、届出書1通で、添付書類は必要ありません。
 なお、事業者団体の解散については、成立の場合と同様に、団体としては存在するものの目的などを変更して事業者団体でなくなった場合も含まれるので、注意してください。

(2) 中小企業等協同組合の届出
 独占禁止法は、一定の要件を備えた組合の行為には原則として適用されません。その一つの要件として、組合が小規模の事業者の相互扶助を目的とすること(22条1号)ということがあります。中小企業等協同組合法の規定により設立された協同組合については、同法にこの要件に該当するとみなされる組合員の資本、従業員数の上限が定められています。

 しかし、これを超える規模の事業者を組合員に含む場合には、この組合が独占禁止法22条1号の要件に該当するかどうかの判断が公正取引委員会に委ねられているため、届出制度が設けられています。
 すなわち、組合は、次のいずれをも超える事業者が組合に加入したり、あるいは組合員がそれに該当することとなった場合には、その日から30日以内に公正取引委員会に届け出なければなりません。
(ア)資本の額又は出資の総額が3億円 (小売業又はサービス業については5000万円、卸売業については1億円)
(イ)常時使用する従業員の数が300人(小売業については50人、卸売業又はサービス業については100人)

 この具体的な届出の方法は、公正取引委員会規則で定められています。提出書類は、届出書1通のほか(ア)組合の定款、事業に関する規約、組合員名簿、役員名簿、組織図、(イ)組合の事業報告書、事業計画書を作成している場合はその写し、(ウ)届出の原因となった組合員に関する最終の貸借対照表と損益計算書がそれぞれ1部必要となります。
 なお,これら届出の窓口については、申告・相談・届出窓口のページを御参照ください。

5 違反行為の未然防止のため公正取引委員会はどのようなことをしているのでしょうか

24 ガイドライン

 公正取引委員会は、独占禁止法等の所管法令を理解していただき、違反行為の未然防止に役立つよう、どのような行為が違反となるか、又はならないかについての公正取引委員会のこれまでの運用を踏まえた考え方を次のようなガイドラインを作成・公表しております。

<カルテル関係>

○行政指導に関する独占禁止法上の考え方(平成6年6月)

<流通・取引慣行関係>

○流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(平成3年7月)

<事業者団体関係>

○事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針(平成7年10月)
○公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針(平成6年7月)
○医師会の活動に関する独占禁止法上の指針(昭和56年8月)

<独占的状態・価格の同調的引上げ関係>

○独占的状態の定義規定のうち事業分野に関する考え方
(昭和52年11月、別表の改定平成13年1月)
○私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第18条の2(価格の同調的引上げ)の規定に関する運用基準(昭和52年11月、別表の改定平成13年1月)

<企業結合関係>

○株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方(平成10年12月)
○事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の考え方(平成9年12月)
○独占禁止法第11条の規定による金融会社の株式保有の認可についての考え方(平成9年12月)

<不公正な取引方法関係>

○特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針(平成11年7月)
○役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針
(平成10年3月)
○共同研究開発に関する独占禁止法上の指針(平成5年4月)
○銀行・証券等の相互参入に伴う不公正な取引方法等について(平成5年4月)
○不当な返品に関する独占禁止法上の考え方(昭和62年4月)
○不当廉売に関する独占禁止法上の考え方(昭和59年11月)
○フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方(昭和58年9月)

<下請法関係>

○下請法第4条第1項(親事業者の遵守事項)に関する運用基準
(昭和62年4月、平成3年4月、平成11年7月改正)

<景品表示法関係>

○景品類等の指定の告示の運用基準(平成8年2月)
○「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準(平成8年2月)
○「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準(平成8年2月)
○広告においてくじの方法等による経済上の利益の提供を申し出る場合の不公正な取引方法の指定に関する運用基準(平成8年2月)
○「おとり広告に関する表示」等の運用基準(平成5年4月)
○比較広告に関する景品表示法上の考え方(昭和62年4月)
○「不当な価格表示」の運用基準(昭和44年5月)

25 相談窓口等
 公正取引委員会では、企業や事業者団体の活動に関する相談に随時応じています。このほか企業や事業者団体における「独占禁止法遵守マニュアル」冊子の作成など独占禁止法遵守体制の整備に関する自主的な取組についても情報提供等助力を行っています。
 相談の窓口については、相談・申告・届出窓口のページを御参照ください。


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適正な電力取引についての指針
平成14年7月25日
公正取引委員会
経 済 産 業 省
目 次
第一部 適正な電力取引についての指針の必要性と構成
第二部 適正な電力取引についての指針

T 自由化された小売分野における適正な電力取引の在り方

1 考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び問題となる行為
(1)自由化対象需要家に対する小売供給・小売料金の設定 ・・・・・
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
(適切な標準メニューの設定・公表)
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 新規参入者への対抗
A 特定の関係のある需要家への小売
B 部分供給
C 戻り需要時の不当な高値の設定等
D 自家発補給契約の解除・不当な変更
E 不当な最終保障約款
F 需給調整契約の解除・不当な変更
G 余剰電力購入契約の不当な変更等
H 不当な違約金・精算金の徴収
I 物品購入・役務取引の停止
J 需要家情報の利用

(2)新規参入者への卸売・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
@ 事故時バックアップ
A 3%以内「しわとり」バックアップ
B 常時バックアップ
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 事故時バックアップ
A 3%以内「しわとり」バックアップ
B 3%超過分の供給
C 常時バックアップ

(3)その他の行為 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為

U 託送分野における適正な電力取引の在り方

1 考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び問題となる行為
(1)託送料金についての公平性の確保 ・・・・・・・・・・・・・・・・
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 託送料金の算定根拠
A 託送手続の不当遅延等
B 連系線等の設備利用の拒否
(2)ネットワーク運営(給電指令等)の中立性の確保 ・・・・・・・・・
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為

V 電力会社の電気の調達分野における適正な電力取引の在り方

1 考え方 ・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び問題となる行為
(1)火力電源からの調達 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 卸供給における不当な料金設定
A 卸売事業者(IPPなど)に対する小売市場への参入制限
B 卸売事業者(IPPなど)に対する優越的な地位の濫用
C 電力会社による発電設備の買取り
(2)経済融通(スポット取引)による調達 ・・・・・・・・・・・・・
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為

W 規制が残る小売分野における適正な電力取引の在り方

1 考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 適正な電力取引の観点から望ましい行為及び問題となる行為 ・・・・・
ア 適正な電力取引の観点から望ましい行為
イ 適正な電力取引の観点から問題となる行為
X 自家発電設備を有する需要家の新増設等に関する適正な電力取引の在り方
1 考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為・・・・・・・・
@ 自家発電設備の新増設の阻止等
A 自家発電設備を有する需要家に対する不利益等の強要

「適正な電力取引についての指針」
第一部 適正な電力取引についての指針の必要性と構成
1 指針の必要性
(1)電力市場は、従来、電気事業法による参入規制によって小売供給の地域独占が認められるとともに、独占に伴う弊害については電気事業法上の業務規制(料金規制、供給義務等)によって対応してきた。

 一方、平成7年度において電気事業法が改正され、卸分野における参入規制が原則撤廃され、卸入札制度及び卸託送制度が創設された結果、卸分野における供給者間の競争が導入された。
さらに、平成11年5月の電気事業法改正により、小売分野における部分自由化が導入され、特別高圧需要家への供給については、参入規制が撤廃されるとともに、料金規制も原則廃止されたところである。

 電気事業制度改革によって、区域の電力会社と新規参入者(電力会社に対して電気の卸売を行う事業者、自家発電設備の設置事業者、区域外の電力会社など)との間で、自由化対象の需要家への供給を巡って競争が生じ、電気事業全体の効率化が図られ、すべての需要家の利益が増進されることが期待されている。

(2)このような小売分野における新規参入による競争の導入に当たっては、電力会社が保有している既に日本全国をカバーしている送電ネットワークについては、競争の基盤として、新規参入者に対しても電力会社自身と同一の条件により利用することが可能となるよう、その開放が不可欠となる。このため、改正電気事業法においては、電力会社が保有・運用するネットワークについて、公平かつ公正な利用を保障する託送制度が設けられている。

 しかしながら、次のような電力市場の特徴から、託送制度のみを設ければ、現実に新規参入が起こり、電力市場が競争的に機能していくかどうかについて懸念が生じている。
@ 改正電気事業法施行当初は、既存の電力会社が各供給区域内において100%近い市場シェアを有すること。
A 既存事業者が10社しかなく、電力会社同士の意思の連絡がなくとも、同調的な行動をとる可能性があること。
B 新規参入者は、営業部門と独占的に保有しているネットワーク部門を併せ持つ競争者としての電力会社の託送に依存して競争せざるを得ないことから、電力会社の適切な対応がなければ、不利な立場におかれること。
C 電力会社は大規模な発電設備等を持つことによって、新規参入者に比べて容易に同時同量の達成等が図れること。

(3)このため、電力市場を競争的に機能させていくためには、何らかの方策を講じていくことが必要となる。この場合、電気事業法の事前規制で対応することも選択肢の一つとしては考えられる。しかしながら、経営の自主性が最大限発揮されることにより電気事業の効率化を図ることが今回の電気事業制度改革の基本的な理念であることから、電気事業法上、託送制度を設けたものの、自由化された市場における電力会社に対する規制は原則廃止したところである。一方、市場における一般的なルールである独占禁止法により規制することも選択肢の一つとして考えられるが、同法は基本的には競争制限的行為を排除するものであり、電力市場を積極的に競争的に移行させていく役割を果たしていく上では一定の限界がある。

 したがって、独占禁止法上問題となる行為及び電気事業法上の変更命令の発動基準を明らかにすることにとどまらず、電気事業法及び独占禁止法と整合性のとれた適正な電力取引についての指針を示すことが必要となる。
 このような指針を示すことにより、電力市場における参加者にとっては、最大限の自主性を発揮できるためのフィールドが示される。電気事業法・独占禁止法違反に問われるという直接的な行政介入を未然に防止し、市場参加者が安心して経済取引を行えるような環境を整えることとなり、電気事業制度改革の理念である経営自主性の最大限の尊重・行政介入の最小化が図られることになる。

(4)こうした趣旨にかんがみ、電気事業法を所管する通商産業省(現経済産業省)と独占禁止法を所管する公正取引委員会がそれぞれの所管範囲について責任を持ちつつ、相互に連携することにより、電気事業法及び独占禁止法と整合性のとれた適正な電力取引についての指針を作成することとした。

(5)この指針の策定に当たっては、次の点を基本原則とした。
@ この指針が市場参加者に対するメッセージとしての意義を有することにかんがみ、具体的に想定される問題となり得る事例や具体的に表明された懸念に即して、適正な電力取引について具体的な指針を示していく。
A 電力取引において初めて市場競争が本格的に導入されることから、あらかじめすべての行為を予測することは困難であるため、制度改革初期の段階において想定される行為を念頭におく。なお、市場構造が動態的に変化していくことに伴い、本指針については、必要に応じて見直しを行っていくこととする。

(6)平成11年の改正電気事業法が施行されて約2年が経過したが、上記の懸念は解消
されたとは言い難い状況にある。また、電力会社の一部の事業活動に関し、現行の指針に示されていない行為や制度改正時に想定されなかった電力会社の行為について競争制限的であるとして新規参入者や需要家等から調査の申出等がなされている。

 電力市場の現状は、新規事業者の参入や電気料金の低下が見られるなど一定の成果をあげているものの、各々の需要家をめぐる営業活動では当初期待されたように供給区域の電力会社と新規参入者(電力会社に対して電気の卸売を行う事業者、自家発電設備の設置事業者、区域外の電力会社など)との間で、活発な競争が生じているとは、必ずしも認められない状況にある。

 このため、現在電気事業制度の在り方について更なる議論が行われているところであるが、これまで行政当局に提起されてきた紛争事例等を踏まえ、制度改正を実行するまでの間において現行制度における適正な電力取引の在り方を電力会社、新規参入者、需要家等の関係者に対して一層具体的かつ明確に示すことがその最大限の経営自主性を発揮できる環境を整備するためには重要であるとの観点から、今般、公正取引委員会と経済産業省は、「適正な電力取引についての指針」の補足・充実を図るため、改定することとしたところである。

2 指針の構成
(1)指針は、@自由化された小売分野、A託送分野、B電力会社の電気の調達分野C規制の残る小売分野、及びD自家発電設備を有する需要家の新増設に関する分野の各分野ごとに区分した上で、原則として次のような内容のものとする。
ア 総論として、基本的な考え方を明示する。
イ 各論として、電力市場を競争的に機能させていく上で望ましいと考えられる行為を示した上で、電気事業法上又は独占禁止法上問題とされるおそれが強い行為を示すとともに、一定の場合には電気事業法上又は独占禁止法上問題とならない旨を例示する。
(2)なお、具体的なケースについては、市場や取引の実態を踏まえて、個別の判断が求められるものであり、これらを網羅的にあらかじめ明らかにすることは困難である。したがって、問題や紛争が生じた場合に、指針の趣旨・内容を勘案してケースバイケースで対応し、その判断の積重ねが指針の内容をより一層明確にしていくことになると考えられる。


第二部 適正な電力取引についての指針
T 自由化された小売分野における適正な電力取引の在り方

1 考え方
(1)平成11年の電気事業制度改革においては、供給者を選択し得ると考えられる需要家(特別高圧需要家)の獲得をめぐって、既存の電力会社及び新規参入者の間で有効な競争が生じれば、効率的な電力供給が実現されるとの前提の下に、自由化対象需要家及び新規参入者に対する供給の条件について、原則、電力会社に電気事業法上の規制を課さないこととした(注)。
 したがって、電力会社が、料金やサービス面で条件の合わない需要家及び新規参入者と取引しないことや、取引相手の求める電気の形態に応じた料金及び条件を設定することは、基本的に自由である。

(注)ただし、電力会社は、その区域の自由化対象需要家のうち誰からも供給を受けることができない需要家に対しては、例外的に、電気事業法上最終保障約款により供給を行う義務を負うこととされている。また、新規参入者に対する卸売のうち、参入に当たって不可避的に発生するものであり、電力会社以外に行うことができないもの(具体的には、3%以内の同時同量未達分及び事故時のバックアップ)については、電気事業法上、託送約款(接続供給約款)により供給を行うこととされている。

(2)しかしながら、ネットワークを保有・運用する電力会社がその供給区域内において100%近いシェアを有し、かつ、当該電力会社間の競争が活発に行われていない状況においては、自由化対象需要家であっても、多くは既存の電力会社に電力の供給を依存しなければならない。また、新規参入者においても、新規参入に当たって既存の電力会社が保有するネットワークを利用しなければならないほか、事故時バックアップ等を既存の電力会社から受ける必要があるなど電気事業分野において事業活動を行うに当たっては既存の電力会社に依存しなければならない。このような状況において、ネットワークを保有・運用する電力会社が新規参入者と取引しようとする自由化対象需要家に対して従来の条件に比して不利益となる条件に変更したり、これを示唆したりする場合には、当該需要家は新規参入者との取引を断念せざるを得ず、また、新規参入者に対して、自己に比べて競争上不利にする条件を設定する場合には、新規参入者の事業活動を困難にするおそれが強い。 このような電力会社の行為は、独占禁止法上又は電気事業法上問題があることから、以下に述べるような点を踏まえ、電力会社の適切な対応が必要である。

2 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び問題となる行為
(1)自由化対象需要家に対する小売供給・小売料金の設定
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為(適切な標準メニューの設定・公表)
電力会社が、それぞれ個別に、自由化された小売分野において標準的な小売料金メニュー(以下「標準メニュー」という。)を広く一般に公表した上で、これに従って、同じ需要特性を持つ需要家群ごとに、その利用形態に応じた料金を適用することは、公正かつ有効な競争を確保する上で有効である。この場合、利用形態以外の需要家の属性(例えば、競争者の有無、部分供給か否か、戻り需要か否か、自家発電設備を活用して新規参入を行うか否か等)にかかわらず、すべての需要家を公平に扱うこととなるからである。
 また、この標準メニューの内容が、現行の供給約款・選択約款や自由化後の規制部門における供給約款・選択約款の料金体系と整合的であることは、コストとの関係で料金の適切性が推定される一つの判断材料となる。
なお、最終保障約款の届出料金についても、このような適正に設定された標準メニューに準拠して設定されている場合には、電気事業法上の変更命令が発動される可能性は低い。

イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
電力会社が、以下に掲げる行為を行うことにより、新規参入者の事業活動を困難にし、市場(例えば、当該電力会社の供給区域等)における競争を実質的に制限する場合には、私的独占に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反することとなる。また、市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても、以下の行為により、正当な理由なく新規参入者の事業活動を困難にするおそれがあるときには、個々の行為が不公正な取引方法に該当し、独占禁止法第19条の規定に違反することとなる。
 この判断に当たっては、電力会社が各供給区域内において100%近いシェアを有し、電力会社間の競争がほとんど行われていないこと、及び電力会社が自由化対象需要家に対して継続的に電気を供給していることを前提としていることに留意する必要がある。
(これらの点については、U 託送分野における適正な電力取引の在り方、V 電力会社の電気の調達分野における適正な電力取引の在り方、W 規制が残る小売分野における適正な電力取引の在り方、X 自家発電設備を有する需要家の新増設に関する適正な電力取引の在り方においても同じ。)

@ 新規参入者への対抗
 電力会社が、新規参入者と交渉を行っている需要家に対してのみ、公表された標準メニューに比べ、著しく低い料金を提示することにより、新規参入者の事業活動を困難にさせる行為は、独占禁止法上違法となるおそれがある(差別対価、不当廉売等)。
ただし、標準メニューを離れた料金であっても、より細かく個別の需要家の利用形態を把握した上で、当該顧客への供給に要する費用を下回らない料金を設定することは、原則として、独占禁止法上問題とならない。
(注)事業者が顧客獲得活動において競争者に対抗して料金を引き下げることは、正に競争の現れであり、通常の事業活動において広く見られるものであって、その行為自体が問題となるものではない。

 しかしながら、電力会社がその供給区域において100%近い市場シェアを有する現状においては、こうした電力会社が、効率的な費用構造を有する新規参入者への対抗手段として、当該新規参入者が交渉を行い又は交渉を行うことが見込まれる相当数の顧客に対し、当該顧客への供給に要する費用を著しく下回る料金を提示することによって当該顧客との契約を維持しようとする行為は、新規参入者の事業活動を困難にするおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある。

A 特定の関係のある需要家への小売
 電力会社が、当該電力会社の子会社等に対してのみ、公表された標準メニューに比べ、不当に低い料金を適用することにより、電力会社の子会社等を著しく有利に扱うことは、独占禁止法上違法となるおそれがある(差別対価等)。

B 部分供給(注)
(注)部分供給とは、「複数の電気事業者の電源から1需要場所に対して、各々の発電した電気が物理的に区分されることなく、1引き込みを通じて一体として供給される形態」をいう。

(ア)部分供給料金の不当設定
 需要家等からの部分供給の要請に対して、従来のメニューに比べ、正当な理由なく、高い料金を設定し、又は料金体系を不利に設定することは、需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(差別的取扱い、排他条件付取引等)。
○ 電力会社が、全量供給の場合においては、あらかじめ公表している標準メニュー(注)を適用する代わりに、又はそれに加え、需要形態に応じた多様なオプションメニューを設定・適用し、電力を供給している一方で、部分供給の場合においては当該部分供給の需要形態に応じたメニューを設定せず、正当な理由なく不利な料金体系を設定・適用すること。
(注)自由化対象需要家と電力会社の契約形態等自由化分野の現状を踏まえると、電力会社が公表しているメニューが、標準的なものであるとは必ずしも認められない場合がある。
○ 従来の料金に比べて、部分供給に変更したことに伴い経常的なコストアップが発生する場合に当該コストアップ以上に高い料金に変更すること又は変更することを示唆すること。
○ 電力会社からの電力供給に加えて、新規参入者からの部分供給を受ける需要家に対して、自家発電設備により需要を補う場合に比べて、需要形態が同様であるにもかかわらず高い料金に変更すること又は変更することを示唆すること。

(イ)部分供給の拒否
需要家等からの部分供給の要請を放置したり、交渉開始や交渉期間を殊更引き伸ばすこと、部分供給を拒絶することや、その条件を不当に厳しくすることにより事実上部分供給を拒絶することは、需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ないこととなり、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。
 また、需要家等からの部分供給の要請を受けた電力会社が、当該需要家に部分供給する新規参入者に対して、自己から常時バックアップ供給を受けることを強要することは、独占禁止法上違法となるおそれがある(抱き合わせ販売等、優越的地位の濫用等)。

(ウ)負荷追随を伴う部分供給の拒否
 電力会社が部分供給の申出に対してあらかじめ供給する量を定める供給形態を希望することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら、電力の供給に当たっては、電力需要の変化に合わせて発電出力を調整する(負荷追随する)ことが必要であり、新規参入者から供給を受ける需要家に対して、電力会社が、負荷追随を伴う部分供給を不当に拒否することは、需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。
○ 負荷追随できない新規参入者から供給を受ける需要家に対して、電力会社が事前に定めた供給量のみ部分供給を行うとすること。
○ 負荷追随できない新規参入者から供給を受ける需要家に対して、電力会社が供給割合に応じた負荷追随しか行わないこと。

(エ)必要性を超えた事前通知の要請
 電力会社が負荷追随を伴う部分供給を行う場合に、電力会社が自らの供給区域における需給のマッチングを行うという現行の電気事業制度を前提とすると、計画的な発電を行うため、新規参入者の予定供給量の事前通知を求める必要性があることに一定の合理性があることは否定できない。
 しかしながら、接続供給約款上、新規参入者が電力会社の送電線を利用して小売する際に、実際に供給された量が事前通知された予定供給量を一定以上下回った場合、事故時バックアップの使用料金等が新規参入者に課せられることとなるので、電力会社の日々の発電計画作成の必要性を超えた事前通知の期限、内容等を求めることは、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(差別的取扱い等)。
例えば、需要家に新規参入者の供給予定量について事前通知を求めることは、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある。
○ 電力会社が発電計画を作成する観点及び系統運用上の観点から必要と認められる時刻より前に、新規参入者の供給予定量の事前通知を求めること。
○ 電力会社が発電計画を作成する観点から必要と認められる最小限の単位時間当たりの供給予定量に比べて、詳細に区切った単位時間当たりの供給予定量の事前通知を求めること。
○ 事前通知に係る事務を新規参入者に委託することを禁止することにより、事前通知手続に過大な負担を課すこと。

C 戻り需要(注)時の不当な高値の設定等
 電力会社が、新規参入者から電力会社に供給先を変更しようとする需要家(いわゆる戻り需要)に対して、公表された標準メニューに比べて、不当に高い料金を適用する又はそのような適用を示唆することは、需要家の取引先選択の自由を奪い、新規参入者が他に取引先を容易に見い出すことが困難となることから、独占禁止法上違法となるおそれがある。また、戻り需要に対して、交渉に応じず従来供給していた料金に比べて高い最終保障約款を適用することも、同様に、独占禁止法上違法となるおそれがある(差別対価等)。
 ただし、戻り需要に対応するため、予備力を活用することに伴う合理的なコストアップを反映した料金を設定することは、原則として、独占禁止法上問題とならない。
(注)一度新規参入者と契約した需要家が再び電力会社と電気の供給契約を求める場合の需要のことをいう。

D 自家発補給契約の解除・不当な変更
 自家発電設備を有する需要家は、自家発電設備の故障等の際の電力補給のため、自家発補給契約を締結することが必要となるが、突発的な事態に対応するための供給予備力の保有が困難なこと、託送料金の負担などから電力会社以外の事業者による類似のサービスの提供が実質的に困難な状況にある。
 このような状況において、電力会社が、新規参入者から電力の供給を受け、若しくは新規参入者に対して電力を供給し、又は自家発電設備を活用して新規参入を図ろうとする自家発電設備を有する者(以下「特定自家発電設備保有者」という。)に対して、自家発補給契約を打ち切る若しくは打切りを示唆すること、又は従来料金より高く設定する若しくはそのような設定を示唆することは、自家発電設備を有する需要家が新規参入者との取引を断念せざるを得なくさせるものであることから、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引、差別対価等)。
○ 特定自家発電設備保有者に対して、自家発補給契約を打ち切ること。
○ 特定自家発電設備保有者との自家発補給契約(単独の自家発補給契約)の料金を、電力会社からの全量供給に付随する場合の自家発補給契約の料金と比較して、同じ需要形態であるにもかかわらず、高く設定すること。

E 不当な最終保障約款
 電力会社が定める最終保障約款について、公表された標準メニューと比べて、不当に高いものである場合には、最終保障約款により供給を受ける需要家の利益を著しく阻害するおそれがあることから、電気事業法上の変更命令が発動される(電気事業法第19条の2)。
 ただし、最終保障約款の適用を受ける需要家が戻り需要であり、これに対応するため、電力会社が予備力を活用する状況にある場合には、標準メニューに比べて合理的なコストアップを反映した料金を設定することは、原則として、電気事業法上問題とならない。

F 需給調整契約の解除・不当な変更
 素材型製造業等を営む産業用電力の需要家の多くが電力会社と需給調整契約(注)を締結しており、産業用電力の需要家の事業活動にとっては重要な契約になっている。また、新規参入者が電力を調達する先は、主として大規模な自家発電設備を設置する需要家であるが、そのほとんどすべてが電力会社と需給調整契約を締している状況にある。
(注) 需給調整契約とは、需要家の負荷パターンを基に、ピーク時間帯の負荷を軽負荷時に移行させ、ピーク時間帯等における最大使用電力を従来より低く設定することにより、負荷平準化を確保するとともに電力会社の需給状況の改善を図り、設備の効率的な運用に資することを目的とするメニューである。

 料金単価も、ピーク時間帯については他のメニューと比較して高額に、深夜等軽負荷時間帯については安価に設定されており、深夜の操業比率が高い製造業等においては、こうした負荷パターンに相応した小さな料金負担となるメニューである。
電力会社が需要家と需給調整契約を締結すること、又は契約を締結しないこと自体は、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。しかしながら、このような状況のもと、電力会社が、新規参入者から電力の供給を受けようとし、又は新規参入者に対して電力を供給しようとする自家発電設備を有する需要家との既存の需給調整契約を、正当な理由なく、打ち切る又は打切りを示唆することは、当該需要家が新規参入者との電力取引や自らの新規参入を断念せざるを得なくさせるものであることから、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(差別的取扱い、取引妨害等)。
○ 需要家が電力会社以外の新規参入者から部分供給を受ける場合に、電力会社から供給を受ける負荷の形態が従来より悪化しないにもかかわらず、既存の需給調整契約を打ち切る又は打ち切ることを示唆すること。
○ 余剰電力の販売先を既存の電力会社から新規参入者に変更する自家発電設備を有する需要家に対して、電力会社から供給を受ける負荷の形態が従来より悪化しないにもかかわらず、既存の需給調整契約を打ち切る又は打ち切ることを示唆すること。
○ 自家発電設備の電力容量を増強して、余剰電力を新規参入者に販売する自家発電設備を有する需要家(従前、電力会社から電力を購入していた場合を含む。)に対して、電力会社から供給を受ける負荷の形態が従来より悪化しないにもかかわらず、既存の需給調整契約を打ち切る又は打ち切ることを示唆すること。
○ 増強した自家発電設備の電力容量を活用して新規参入しようとする自家発電設備を有する需要家(従前、電力会社から電力を購入していた場合を含む。)に対して、電力会社から供給を受ける負荷の形態が従来より悪化しないにもかかわらず、既存の需給調整契約を打ち切る又は打ち切ることを示唆すること。

G 余剰電力購入契約の不当な変更等
 電力会社に卸売を行う事業者(卸電気事業者・卸供給事業者・自家発電設備を有する需要家等。以下「卸事業者」という。)は、発電電力の一部を新規参入者に卸売したり、直接需要家に供給することにより新規参入することが可能であり、電気事業分野における公正かつ自由な競争を促進する観点から、これらの事業者の参入が期待されているところである。
しかしながら、電力会社が、新規参入者に卸売りしようとし、又は直接需要家に供給しようとする卸事業者に対して、自己が供給を受ける分の購入契約を解除する若しくは解除を示唆すること、又は購入料金を引き下げる若しくはそのような引下げを示唆することは、卸事業者が新規参入者との取引を断念せざるを得なくさせるものであることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶、差別対価等)。
 なお、電源を保有する事業者が、全量を電力会社に卸売する場合と異なり、その一部を小売に転用する場合であって、小売量の変動に伴う余剰電力量の変動が生じる場合には、電力会社が全量購入時と比べて供給の安定性の低下を適正に反映した購入単価の引下げを行っても、直ちに独占禁止法上問題とならない。

H 不当な違約金・精算金の徴収
 需要家との契約期間の設定や契約期間中における解約に係る違約金の設定をどのように行うかは、原則として事業者の自主的な経営判断に委ねられている。
 しかしながら、需要家が新規参入者から電力の供給を受けるため既存契約を解約する場合に、不当に高い違約金・精算金を徴収することにより需要家が新規参入者との取引を断念せざるを得なくさせる場合があり、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(拘束条件付取引、排他条件付取引等)。
○ 負荷率別契約等の特別メニュー等の契約期間内において、新規参入者に契約を切り替える需要家に対して、解約までに享受した割引金額の返還を求める以外に不当に高い違約金・精算金を設定すること。
○ 需要家との間で付随契約(例:週末の料金を安くする特約)を締結する際、主契約と異なる時期に電力会社が一方的に契約更改時期を設定することにより、当該需要家が新規参入者に契約を切り替える場合に精算金を支払わざるを得なくさせること。

I 物品購入・役務取引の停止
 電力会社が、物品・役務について継続的な取引関係にある需要家(例えば、発電設備、送電設備等電気事業に不可欠なインフラ設備の販売事業者)に対して、新規
 参入者から電力の供給を受け、又は新規参入者に対して余剰電力を供給するならば、当該物品の購入や役務の取引を打ち切る若しくは打切りを示唆すること、又は購入数量等を削減する若しくはそのような削減を示唆することは、当該需要家が新規参入者との取引を断念せざるを得なくさせるものであることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。
 また、電力会社が、物品の購入や役務の取引について継続的な取引関係にある事業者であって、新規参入者に影響力を有する者(例えば、新規参入者と資本関係を有する者、新規参入者と取引している金融機関等)に対して、物品の購入や役務の取引を打ち切り、又は購入数量を削減すること又は削減することを示唆することにより、新規参入者に影響力を有する者を通じて、新規参入者の事業活動を拘束することも独占禁止法上違法となるおそれがある(取引妨害等)。

J 需要家情報の利用
 電力会社が、他の事業者がその事業活動に必要となる自らの顧客の情報を、当該顧客から情報の利用許諾を受けた他の事業者に対して営業部門に対する開示手続と同様の手続により開示しないことは、新規参入者等の事業活動を困難にさせることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(差別的取扱い等)。

(2)新規参入者への卸売
 電力会社による新規参入者への卸売については、@事故時の卸売(事故時バックアップ)、A3%以内の同時同量未達分の卸売(3%以内「しわとり」(注)バックアップ)、B3%を超過する同時同量未達分の卸売、Cそれ以外の継続的な卸売(常時バックアップ)がある。
 このうち、@及びAについては、新規参入に当たって不可避的に発生するものであり、電力会社以外にこうした卸売を行うことができないことから、電気事業法において託送に付随するものとして託送約款において定めることになっている。B及びCは電気事業法上規制されておらず自由料金となっている。
(注)「しわとり」とは、電力会社が、新規参入者による需要家への供給における需要量に対する発電量の不足分を補うことをいう。

ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
@ 事故時バックアップ
 事故時バックアップの料金については、取引に継続性があり供給形態としては小売供給に類似したものとなることから、小売における標準メニューと整合的な料金が設定される場合には、公正かつ有効な競争の観点から望ましく、電気事業法上の変更命令が発動される可能性は低い。
 また、事故時バックアップの料金は、「接続供給約款料金算定規則」(通商産業省令:平成11年12月3日施行)に基づいて算定されており、一定の合理性を有するものと考えられるが、単一のメニューしか提示されていない場合が多く、新規参入者は自らの発電設備の技術的特性や発電ノウハウ等にかかわらず、画一的なサービスの選択を求められることとなっている。新規参入者が自らの発電設備の実態に即して事故時の補給メニューを選択できるように事故時バックアップ契約の料金メニューが複数提示されることが、公正かつ有効な競争の観点からは望ましい。

A 3%以内「しわとり」バックアップ
 3%以内「しわとり」バックアップの料金については、供給形態(常にある供給であり、微少な範囲で変動する供給)に応じて、合理的なコストに基づいて設定される場合には、公正かつ有効な競争の観点から望ましく、電気事業法上の変更命令が発動される可能性は低い。

B 常時バックアップ
 常時バックアップについては、実態的には小売における部分供給と同一のものであると考えられることから、小売における標準メニューと整合的な料金が設定されることが、公正かつ有効な競争の観点から望ましい。

イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 事故時バックアップ
 電力会社が、事故時バックアップの料金について、小売における標準メニューに比べて不当に高い料金を設定することは、新規参入を阻害するおそれがあることから、電気事業法上変更命令が発動される(電気事業法第24条の4)。
ただし、事故がいつ起こるかについては不確実であり、電力会社は予備力を活用せざるを得ないことから、標準メニューに比べて合理的なコストアップを反映した料金を設定することは、原則として、電気事業法上問題とならない。

 また、託送及びこれに附随して不可避的に発生する事故時バックアップ等の料金その他の供給条件については、接続供給約款に規定し、当該約款を行政に届け出ることを義務付けており、新規参入者による接続供給約款の利用が著しく困難であるなど当該約款の内容が不適切な場合には、電気事業法の規定による変更命令が発動されることとされている。 また、電力会社が正当な理由なく託送を拒んだ場合には、電気事業法の規定による託送命令が発動されることとされている。
しかしながら、事故時バックアップ等を受けることが新規参入者が新規参入するに当たり必要不可欠なものであり、かつ、事故時バックアップ等の提供主体が電力会社以外に見いだし得ない状況を踏まえると、例えば、以下の場合には、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶等)。
○ 接続供給約款の適用に当たって、事故時バックアップの契約キロワット等当事者間での協議に委ねられている事項について、電力会社が交渉に応じない、又は正当な理由がないにもかかわらず、一方的に協議事項を決めること。

A 3%以内「しわとり」バックアップ
 電力会社が、3%以内の「しわとり」バックアップの料金について、適切なコストに基づかず、不当に高い料金を設定することは、新規参入を阻害するおそれがあることから、電気事業法上の変更命令が発動される(電気事業法第24条の4)。

B 3%超過分の供給
 新規参入者が事故により大口需要家への供給電力に不足を生じた場合においては、電力会社が、その不足を補うために事故時バックアップを行うこととされており、接続供給約款における記載事項となっている(電気事業法第24条の4)。
 他方、事故以外の場合に、参入者が達成すべき同時同量の範囲(30分3%以内の需要変動)を超えて、供給電力に不足を生じた場合やあらかじめ電力会社からの常時バックアップを前提としている場合については、電気事業法の規制はなく、その契約条件・料金の設定については、基本的に電力会社の自主的な経営判断に委ねられている。
 しかしながら、常時及び臨時の需要に対応し得る電源の調達市場が未整備であり、十分な供給余力を保有する電力会社以外の事業者にとってバックアップ電力の供給が困難な状況の下、電力会社が、3%超過分の供給を拒否し、又は不当に高い料金を設定する行為は、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶等)。

C 常時バックアップ
 電力の卸売市場が未整備であり、既存の電力会社が新規参入者及び需要家に供給し得る発電設備のほとんどすべてを確保し、かつ既存の電力会社の供給区域を越えて競争が行われていない状況においては、新規参入者が常時バックアップの供給を電力会社以外に見いだすことが困難であることから、ほとんどの新規参入者は、常時バックアップを既存の電力会社に依存せざるを得ない状況にある。
 このような状況において、電力会社に供給余力が十分にあり、他の電力会社との間では卸売を行っている一方で、新規参入者に対しては常時バックアップの供給を拒否し、正当な理由なく供給量を制限し又は不当な料金を設定する行為は、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶、差別的取扱い等)。
○ 新規参入者に対して、常時バックアップの供給を拒否し、又は正当な理由なくその供給量を制限すること。
○ 同様の需要形態を有する需要家に対する小売料金に比べて高い料金(注)を設定すること。
(注)常時バックアップ料金の不当性の判断においては、常時バックアップにおいては発生しない需要家の供給に係る託送費用や営業費用を減じないなど、費用の増減を適正に考慮しているかどうかを含めて評価することとなる。
○ 複数の需要家へ供給している新規参入者に対する常時バックアップ供給について、新規参入者が当該常時バックアップ契約を一本化するか別建てにするかを選択できないようにすること。
○ 複数の需要家へ供給する新規参入者に対する常時バックアップ供給について、新規参入者が常時バックアップ契約の別建てを求めているにもかかわらず、電力会社が一本化しか認めず、期限付きの需要の終了に伴い契約電力を減少させた場合に新規参入者に対し精算金を課すこと。

(3)その他の行為
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
需要家情報へのアクセスの公平性の観点から、電力会社は新規参入者に対して需要家情報を提供する窓口を設け、需要家の許諾のもと利用可能な情報の項目、情報提供申込みに必要な書類、様式、回答に必要な期間等手続についてあらかじめ定め、公表しておくことが公正かつ有効な競争の観点から望ましい。
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
電力会社が、営業活動の中で不当な情報(例えば、新規参入者の電気については停電が多い、電圧・周波数が不安定である等)を需要家に提供することによって、新規参入者と需要家の取引を妨害することは、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引妨害)。
なお、電力系統の安定については、@託送制度上、新規参入者は需要家に対する同時同量の供給を守る義務があり、同時同量の供給が守れない事業者は新規参入ができないこと、A電力会社は、系統安定をネットワーク全体の管理によって維待しており、新規参入者はそのためのコストを託送に付随するサービス (アンシラリーサービス)として負担することにより担保されている。

U 託送分野における適正な電力取引の在り方
1 考え方
(1)公正かつ有効な競争の観点からは、電力会社自身の内部取引と同一の条件の下に、新規参入者に対してネットワークが開放されることが不可欠である。具体的には、託送料金と給電指令等ネットワーク運用の両面において、こうした公平性が求められる。
(注)改正電気事業法においては、電力会社に、託送及びこれに付随する不可避的に発生するバックアップ(事故時及び3%以内しわとり)の料金その他の供給条件について、託送約款を定め、行政に届け出ることを義務づけ、新規参入者による託送約款の利用が困難であるなど託送約款の内容が不適切な場合には、行政による変更命令が発動されることとされている。また、電力会社が正当な理由なく託送を拒んだ場合には、行政による託送命令が発動されることとされ
ている。
(2)この点については、電気事業法上の託送約款の届出・変更命令及び託送命令のスキームにより担保されるものであるが、行政による事後的な介入を回避するため、公正かつ有効な競争の観点から、次に述べる点を踏まえ、電力会社の適切な対応が必要である。

2 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び問題となる行為
(1)託送料金についての公平性の確保
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
 電力会社が設定する託送料金については、合理的なコストに基づき、可能な限り利用形態を反映した料金を設定した上で、利用形態に応じて電力会社と新規参入者が同一のコストを負担する場合には、公正かつ有効な競争の観点から望ましく、電気事業法上の変更命令が発動される可能性は低い。
 また、透明性の確保の観点から、電力会社は、あるひとつの需要場所に対して供給する場合の託送料金負担について、新規参入を検討している者や新規参入者からの電気の購入を検討している需要家からの問い合わせがあった場合、これに応じることが、公正かつ有効な競争の観点から望ましい。なお、こうした問い合わせに対して電力会社の送電部門が対応する場合には、営業部門等他部門との情報遮断を厳格に行うことが適当である。
(注)なお、電気事業法上非規制となっている自己託送についても、同じネットワークの利用であることから、電力会社が自主的に、自己託送の条件を小売託送の条件と比較して整合性のとれたものとすることが、公正かつ有効な競争の観点から望ましい。
イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 託送料金の算定根拠
 託送料金が合理的なコストに基づき設定されていない場合や、新規参入者の託送料金の負担が、電力会社が利用した場合の負担に比べて不当な格差があると認められる場合には、新規参入を阻害するおそれがあることから、電気事業法上の変更命令が発動される(電気事業法第24条の4)。
A 託送手続の不当遅延等
 電力会社が、例えば、託送に当たって必要となる情報を十分開示せず、又は託送に必要となる機材を調達せず託送手続を遅延させるなど実質的に託送を拒否していると認められる行為や、情報の開示や手続について新規参入者を自己に比べて不利にさせるような取扱いを行うことは、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶、差別的取扱い等)。
B 連系線等の設備利用の拒否
 電力会社が、新規参入者からの連系線や周波数変換設備の利用の申請に対して、正当な理由がないにもかかわらず、その利用又は最小利用可能電力や利用可能電力の契約単位を制限することは、新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶、差別的取扱い等)。

(2)ネットワーク運営(給電指令等)の中立性の確保
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
電力会社によるネットワークの運営についても、電力会社の公平かつ適切な対応がなければ、公正かつ有効な競争が実現されない。

 具体的には、系統安定、エネルギーセキュリティ確保・環境保全といった公益的課題については、電力会社の給電指令等により担保されることとなるが、こうした電力会社の給電指令等は、電力会社自身の電源と新規参入者の電源とを対等に扱うことを前提に行われる必要がある。
 また、電力会社のネットワーク部門が得た情報を営業部門が入手することによって、電力会社が新規参入者に対して競争上有利な立場に立つことは、公正かつ有効な競争の観点から容認されるものではなく、電力会社は機能分離によって、ネットワーク部門と他部門との情報遮断を厳格に行うことが求められる。
 こうした給電指令の中立性及び情報遮断のための措置については、一義的には電力会社の自主的な対応に委ね、問題が生じた場合に行政が事後的に介入することとされている。電力会社は、以下のような自主的な対応をとることを表明しているが、こうした対応が厳正に行われることが、公正かつ有効な競争の観点から望ましい。
○ 給電指令の中立性については、電力会社は、自社電源と新規参入者の電源を対等に扱うことを明らかにするため、どのような手順で給電指令を行うかについての給電指令マニュアルをあらかじめ公表することとしているが、これに基づいて厳正に運用を行うこと。
○ 情報遮断については、電力会社は、以下のような自主的な対応をとることを表明しているが、諸外国の措置等も参考にしつつ、これらを巌正に実施すること。
(ア)託送に関連した新規参入者の情報提供窓口は営業部門ではなく送電部門とする。
(イ)送電部門と他部門とは別フロアーにする等、物理的に隔絶する。
(ウ)送電部門の従業員は、発電部門や営業部門の業務を行わない。
(エ)送電部門と営業部門との人事交流に当たっては、両部門の情報遮断を確保する。
(オ)送電部門に提供された情報については、新規参入者の名称を符号化して扱う等の対応により、その情報を他部門が活用できないよう厳正に管理する。

(注)電力会社が上記のような自主的な対応を行ったとしても、なお、新規参入者と電力会社との間で給電指令の中立性等ネットワークの運用を巡って紛争が生じる可能性がある。その場合、まずは当事者間で紛争解決が図られるが、それでも紛争が解決しない場合には、行政が電気事業法上の託送命令によって紛争処理を行うことになる。ここで、行政が紛争を処理するに当たっては、紛争の原因となった事実・判断に関する正当性、すなわち、給電指令の内容及び電力会社の自社電源と新規参入者の電源との対等な取扱いの有無についての挙証責任について、電力会社がネットワークの情報を一元的に管理していることを踏まえ、電力会社が負うこととすることが公正かつ有効な競争の観点からは適当である。

イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
 託送業務を行う電力会社の送電部門は、託送サービスを受けようとする新規参入者から、需要家や需要規模等需要面及び発電所や発電規模等供給面についての情報の提供を受けることとなる。このため、送電部門は、新規参入者との託送交渉の過程において、当該新規参入者やその顧客情報に関する情報を知り得る立場にある。
 このような状況において、電力会社が、新規参入者との託送に関する業務を通じて得た当該新規参入者やその顧客に関する情報を、電力会社の営業部門や他の事業部門が事業活動に利用することにより、新規参入者の競争上の地位を不利にすることは、その事業活動を困難にさせるおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引妨害等)。

V 電力会社の電気の調達分野における適正な電力取引の在り方
1 考え方
(1)電力会社が電気を調達する方法としては、主に以下の3つの選択肢がある。
@ エネルギーセキュリティ確保・環境保全という公益的課題の達成の観点及び電力会社間の電源立地条件等の差に基づく地域的な需給ギャップを解消するという広域的運営の観点から、原子力・水力等の電源については、電気事業法上の供給計画に基づき、計画的に優先して開発する。
A 火力電源の開発については、自社で建設するか他者から調達するかを問わず、すべて入札により行うこととなる。ただし、他者の既存電源からの調達については、原則、電気事業法上の卸供給として規制料金により調達する。
B さらに、自らの電源を他の電力会社のより低コストな電源で代替することによって経済性を追求するため、電力会社間の融通(注)(電気事業法上非規制)においてスポット的に調達する。
(注)融通については、電力会社間において、相互に電力の卸売りを行うものであるが、地域的な需給ギャップの広域的解消等の公益的課題の達成を図る観点から行われているものと経済性の追求の観点から行われているもの(経済融通)がある。

(2)原子力・水力等の電源についてはどの程度の開発を行うかについては、公益的課題を達成する観点も踏まえ、先取的に決定されることが妥当であり、その効率性の担保についても、電気事業法上の小売規制料金の認可及び卸供給料金の届出・変更命令によることが妥当である。

(3)一方、原子力・水力等以外の電源からの調達については、全面入札制度及び既存電源からの卸供給において、また、スポット的な電力会社間の融通取引において、公正かつ有効な競争の観点から、次に述べる点を踏まえ、電力会社の適切な対応が必要である。

2 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び問題となる行為
(1)火力電源からの調達
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
新規の火力電源開発については、平成12年度から電力会社自身も自ら実施する入礼に応募する全面入札制度が開始されることとなった。自社電源と他の応募者(IPP)の電源とを対等に扱うことを担保するため、公平かつ透明な入札プロセスの在り方についてのガイドライン(電気事業審議会基本政策部会基本政策小委員会中間報告 平成9年12月(平成11年7月改定))が定められているところであり、電力会社は、このガイドラインに従って厳正に入札を実施していくことが求められる。

イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 卸供給における不当な料金設定
 既存火力電源からの電気の調達については、電気事業法上、卸供給として、行政に届け出た料金で調達することとされており、この料金が適正な原価に適正な利潤を加えたものとして適切に設定されていない場合には、電気事業法上の変更命令が発動される(電気事業法第22条)。

A 卸売事業者(IPPなど)に対する小売市場への参入制限
 電力会社が自己に卸売を行う事業者(卸電気事業者・卸供給事業者・自家発電設備を有する需要家等)に対して、当該事業者が電力会社ヘの卸売の余剰分を活用して小売市場に新規参入する場合に、当該事業者からの卸売契約を解除する若しくは解除を示唆すること、又は買取り料金を不当に低く設定する若しくはそのような設定を示唆することは、新規参入を阻害するおそれがあることから、独占禁止法上違法となるおそれがある(私的独占、取引拒絶等)。

B 卸売事業者(IPPなど)に対する優越的な地位の濫用
 電力会社に卸売を行っている事業者(卸電気事業者・卸供給事業者・自家発電設備を有する需要家等) に対して電力会社が、取引の条件又は実施について、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えるような行為を行うことは、独占禁止法上違法となるおそれがある(優越的地位の濫用)。

C 電力会社による発電設備の買取り
 電力会社が、自己の電力供給能力を増強・補完するために、既存の自家発電事業者から発電設備を買い取ることは、基本的に電力会社の経営判断の問題である。
 しかしながら、電力会社が、新規参入者と発電設備の売却交渉を行っている事業者に対して、不当に高い購入価格を提示したり、当該事業者に供給している電力の料金その他の取引条件を従来の条件に比して有利に取り扱い、又は新規参入者に売却した場合には従来の条件に比して不利な条件を設定し、若しくは設定することを示唆することは、当該事業者が新規参入者への売却を断念せざるを得なくさせるものであることから、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(取引妨害等)。
○ 余剰電力が十分あるにもかかわらず、現状の資産価値に比べて著しく高い買取り価格を提示すること。
○ 自己に売却することを条件に電力の供給等自己の提供するサービスの料金を割り引くこと。
○ 新規参入者に売却した場合、自己の提供するサービスを拒否し、又は当該サービスの料金を従来の料金に比して高く設定すること。

(2)経済融通(スポット取引)による調達
ア 公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為
 経済融通によるスポット的な電気の取引については、取引条件・実績を明らかにするなど透明性・公平性を高めていくことが公正かつ有効な競争の観点から望ましい。また、経済融通取引に新たな参加希望者があれば、これに積極的に応じていくことが、更なる透明性・公平性を高めていくことにつながり、公正かつ有効な競争の観点から望ましい。
このことは、電力会社以外の者による卸市場への参入を容易にするだけでなく、電力会社自身の電気の調達先の多様化、これに伴う効率的な電気の調達が可能となるという意義もある。

イ 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
 経済融通に関して、共同して新たな参加希望者に対して参加を拒否すること、又は新規参入者にとって経済融通からの電力調達が事業活動上重要な地位を占める状況において、新規参入者の取引ルール策定作業への参加を正当な理由なく拒否することは、独占禁止法上違法となるおそれがある(不当な取引制限、共同の取引拒絶、事業者団体における差別取扱い等)。


W 規制が残る小売分野における適正な電力取引の在り方
1 考え方
 小売の部分自由化により、小売分野においては、非規制部分(自由化部門)と規制部分が併存することとなる。また、規制料金(供給約款)については、今回の制度改革によって、料金値下げの場合の届出制を導入し、選択約款制度の拡充を行った。
したがって、より柔軟な規制料金の設定が制度的に可能となった中で、自由料金との比較も踏まえ、規制料金の設定においても、次に述べる点を踏まえ、電力会社の適切な対応が必要である。

2 適正な電力取引の観点から望ましい行為及び問題となる行為
ア 適正な電力取引の観点から望ましい行為
 自由料金が規制料金と整合性のとれたものとして設定され、また、規制料金が新制度の中で自由料金における創意工夫を取り込んでいくことが望ましい。これによって、自由料金及び規制料金双方において、コストに見合った形でより多様な料金体系が実現し、今回の電気事業制度改革の趣旨であるすべての需要家に効率化の成果が行き渡ることが期待される。
イ 適正な電力取引の観点から問題となる行為
 規制料金が、自由料金との整合性を著しく欠いており不公平であるといった紛争が規制対象需要家と電力会社の間で生じた場合には、行政は紛争処理のプロセスにおいてこれを処理することとなる。その中で実際に、規制料金の設定が不適当であり、規制部門の需要家の利益が阻害されるおそれがあると認められる場合には、電気事業法上の供給約款認可申請命令又は選択約款変更命令が発動される(電気事業法第19条第8項又は第23条)。

X 自家発電設備を有する需要家の新増設等に関する適正な電力取引の在り方
1 考え方
 自家発電設備については、大口需要家を中心とした広範な需要家に普及しつつあり、自家発電設備の新増設等は電力会社の電力供給と競合関係にある。他方、多くの自家発電設備を有する需要家は、自家発電設備に加えて既存の電力会社からの電力の供給を受けるとともに、自家発電設備の安定的運営の観点から自己の設備を電力会社のネットワークと連系させ、アンシラリーサービスの提供や自家発補給契約等を締結しているなど、既存の電力会社に依存せざるを得ない状況にある。
公正かつ有効な競争の観点からは、自家発電設備の新増設等を阻害する行為を排除することは重要であり、次の点を踏まえ、電力会社の適切な対応が必要となる。

2 公正かつ有効な競争の観点から問題となる行為
@ 自家発電設備の新増設の阻止等
 電力会社が自家発電設備の新増設等を不当に制限することは、電力会社の市場における地位を維持、強化するものであり、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(拘束条件付取引等)。
○ 自家発電設備を新増設しないことを条件に、電力を供給したり、電力の供給等自己の提供するサービスの料金を割り引くこと又は有利に設定すること。
○ 自家発電設備を新増設しようとする需要家に対して、電力の供給、自家発電補給等自己のサービスの提供を拒否する若しくは拒否を示唆すること、又は正当な理由なく、その料金その他取引条件を従来に比して不利に設定する若しくはそのような設定を示唆することにより自家発電設備の新増設の断念を余儀なくさせること。
○ 従来、徴収していないにもかかわらず、新たに自家発電設備を新増設しようとする需要家に対して、正当な理由なく、アンシラリーサービス等自家発電設備を有する需要家に必要なサービスに係る料金を徴収する又は徴収することを示唆することにより自家発電設備の新増設の断念を余儀なくさせること。

A 自家発電設備を有する需要家に対する不利益等の強要
 多くの自家発電設備を有する需要家は、自家発電設備に加えて既存の電力会社から電力の供給を受けるとともに、自家発電設備の安定的運用の観点から自己の設備を電力会社のネットワークと連系し、アンシラリーサービスや自家発補給契約等のサービスの提供を受けるなど、既存の電力会社に依存せざるを得ない状況にある。
このような状況においては、自家発電設備を有する需要家は、電力会社から不利益な条件を提示されてもこれを受け入れざるを得ないため、例えば、以下の場合には、独占禁止法上違法となるおそれがある(抱き合わせ販売等、優越的地位の濫用等)。
○ アンシラリーサービス、自家発電補給等自家発電設備を有する需要家に必要なサービスに係る料金その他取引条件を正当な理由なく一方的に設定すること。
○ 自己又は自己の指定する事業者からの自家発電設備の購入を要請すること。



電力の部分供給等に係る独占禁止法上の考え方
 電力会社が,部分供給により小売電力市場に参入しようとする事業者(新規参入者)や当該新規参入者から供給を受ける需要家に対して,取引拒絶,排他条件付取引,差別的取扱い等を行うことにより,新規参入者の事業活動を困難にし,市場における競争を実質的に制限する場合には,私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反することとなる。
また,市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,これらの行為により,新規参入者の事業活動を困難にするときには,個々の行為が不公正な取引方法に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反することとなる。

1 部分供給の拒絶
 需要家等からの部分供給の要請を放置したり,交渉開始や交渉期間を殊更引き伸ばすこと,部分供給を拒絶することや,その条件を不当に厳しくすることにより事実上部分供給を拒絶することは,需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。
 また,新規参入を促進するためには,需要家や新規参入者が全量供給方式,部分供給方式及び常時バックアップ方式のいずれかの方式を自由に選択できる環境が不可欠であり,需要家等からの部分供給の要請を受けた電力会社が,当該需要家に部分供給する新規参入者に対して,自己から常時バックアップ供給を受けることを強要することは,独占禁止法上違法となるおそれがある(抱き合わせ販売等,優越的地位の濫用等)。

2 負荷追随できない新規参入者に負荷追随することを求めること電力の供給に当たっては,電力需要の変化に合わせて発電出力を調整する(負荷追随する)ことが必要であり,電力会社が部分供給の申出に対してあらかじめ供給する量を定めることは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,電力会社がその供給区域において100%近い市場シェアを有する現状においては,新規参入者から供給を受ける需要家に対して,電力会社が,例えば,以下の場合のように,負荷追随を伴う部分供給を拒否することは,需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。
@ 負荷追随できない新規参入者に対して,事前に定めた供給量のみ部分供給を行うとすることにより,新規参入者が負荷追随するよう求めること。
A 負荷追随できない新規参入者に対して,供給割合に応じて負荷追随を分担するように求めること。

3 事前通知の義務付け
 電力会社が,負荷追随を伴う部分供給を行う場合に,現行の電気事業制度を前提とすると計画的な発電を行うため,新規参入者の予定供給量の事前通知を求める必要性があることは否定できない。
 しかしながら,接続供給約款上,新規参入者が電力会社の送電線を利用して小売する際に,実際に供給された量が事前通知された予定供給量を一定以上下回った場合,事故時バックアップ相当の契約超過金が新規参入者に課せられることとなるので,電力会社の日々の発電計画作成の必要性を超えた事前通知の期限,内容等を求めることは,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがある。特に,発電量を調整することが困難な電源の発電予定量について事前通知を求める期限を不当に早く設定し,発電予定量を計算する単位時間を必要以上に詳細に区切ることは,事前通知された予定供給量と実績供給量とに差異を生じさせやすくし,発電量を調整することが困難な電源しか有していない事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(差別取扱い等)。

 例えば,需要家に新規参入者の供給予定量について事前通知を義務付けることは,以下の場合には,独占禁止法上違法となるおそれがある。
@ 電力会社が発電計画を作成する観点から必要と認められる時刻より前に,需要家に新規参入者の供給予定量の事前通知を求めること。
A 電力会社が発電計画を作成する観点から必要と認められる最小限の単位時間当たりの供給予定量に比べて,詳細に区切った単位時間当たりの供給予定量の事前通知を求めること。
B 事前通知に係る事務を新規参入者に委託することを禁止することにより,事前通知手続に過大な負担を課すこと。

4 部分供給料金の不当な設定
 需要家等からの部分供給の要請に対して,公表された標準メニューに比べ,不当に高い料金を設定し,又は一方的に料金体系を不利に設定することは,需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,以下の場合には,独占禁止法上違法となるおそれがある(差別的取扱い,排他条件付取引等)。
@ 部分供給となることによって,例えば,当該需要家への供給部分の負荷率の悪化,計量の仕組みや契約関係の複雑化に伴う合理的なコストアップを超えた価格設定を行うこと。
A 部分供給に変更したことに伴う経常的なコストアップがないにもかかわらず,従来の料金よりも高い料金を設定すること。
B 部分供給に変更したことに伴って,従来の料金体系に比べて不当に高い料金体系を設定(又は示唆)すること。

5 バックアップ(「しわとり」バックアップ, 事故時バックアップ) 料金の設定託送及びこれに附随して不可避的に発生する事故時バックアップ等の料金その他の供給条件については,接続供給約款に規定し,当該接続供給約款を行政に届け出ることを義務付け,新規参入者による接続供給約款の利用が困難であるなど接続供給約款の内容が不適切な場合には,電気事業法の規定による変更命令が発動されることとされている。また,電力会社が正当な理由なく託送を拒んだ場合には,電気事業法の規定による託送命令が発動されることとされている。
 しかしながら,事故時バックアップ等を受けることが新規参入者が小売市場に新規参入するに当たり必要不可欠なものであり,かつ,電力会社はその供給区域において100%近い市場シェアを有し,事故時バックアップ等の提供主体が電力会社以外にない状況を踏まえると,例えば,以下の場合には,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶,優越的地位の濫用等)。
○ 接続供給約款の適用に当たって,事故時バックアップの契約キロワット等当事者間での協議に委ねられている事項について,電力会社が交渉に応じない,又は正当な理由がないにもかかわらず,一方的に協議事項を決めること。

6 余剰電力の購入拒絶
 電力会社が,従来新規参入者が有する電源から供給される電力を購入していたにもかかわらず,新規参入者に対し当該電源に係る余剰電力の購入を拒絶することは,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶等)。

7 余剰電力の購入価格の差別的設定等
 電源を保有する事業者が,全量を電力会社に卸売する場合と異なり,その一部を小売に転用する場合には,小売量の変動に伴う余剰電力量の変動が生じ得ることから,電力会社が全量購入時に比べた供給の安定性の低下を反映した購入単価の引下げを行っても,独占禁止法上問題とならない。
 しかしながら,新規参入者の余剰電力の供給先を電力会社以外に見出すことが容易でない現状においては,電力会社が余剰電力の買取り料金を,小売を開始した者に対して従来よりも不当に低く設定することは,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(差別対価等)。
 また,新規参入者の総発電実績量が事前に通知された小売電力及び余剰電力の供給予定量の合計に達しない状況に関して,当該未達成量を小売電力の不足量と余剰電力の不足量に区分けする方式を定める場合,電力会社が,当該未達成量を小売電力の不足量に不当に多く配分することは,新規参入者の費用負担を過大なものとし,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(優越的地位の濫用等)。

8 小売料金の不当な設定
 事業者が顧客獲得活動において競争者に対抗して価格を引き下げることは,正に競争の現れであり,通常の事業活動において広くみられるものであって,その行為自体が問題となるものではない。また,長期契約を締結した顧客に対して割安な料金を設定することも,それ自体が独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,電力会社はその供給区域において100%近い市場シェアを有することから,こうした電力会社が新規参入者への対抗手段として,新規参入者が交渉を行っている需要家に対し,又は交渉を行っていない需要家であっても新規参入者の顧客となり得る相当数の需要家に対して,複数年契約の割安料金を提示し,その解約金を不当に高く設定する等途中解約が困難である場合には,顧客囲い込み効果が大きく,新規参入者が他に容易に取引先を見出すことを困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。

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