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 不利益不遡及とは「法が成立する以前の事実には、そのことに対し新しい法が適用されない」という原則である。つまり遡って新しい法律を適用できないと言うことである。規制する法律がない時代に犯した罪は、その時点ではどの法にも違反していないのだから無罪とする考え方である。

不利益不遡及をめぐる態度   富山県議会本会議2002年12月

社民党(賛成討論)


◯23番(菅沢裕明君)今議会に提出されている県職員給与条例改正案は、県職員の基本賃金と一時金を合わせて平均14万9,000 円引き下げ、さらに不利益不遡及の原則に反して、既に支給された4月以降の給与からも差額分を引き下げるものであります。

 私ども社民党議員会は、これらの案件については、長引く不況下での県内の民間労働者などの賃金実態や冬の一時金の支給状況などを見るとき、こうした給与条例の改正はやむを得ない措置と考えるものであります。これらの議案に賛成の立場で若干の意見を表明したいと思います。

 ただ、県職員の皆さんについては、既にこの数年、連続で大幅な年収のダウンが続き、生活は困難さを増しているわけであります。また、残業が恒常化し、人員不足などの中で多忙をきわめ、健康を損なう職員も増えているのが職場実態と考えられるとき、私どもとしては、こうした給与条例改正案への賛成はまさに苦渋の選択であることを御理解いただきたいと考えるものであります。
 あわせて、こうした県職員の賃下げの実施は、関係者の生活悪化にとどまらず、県下の医療、福祉、教育分野、また農協職員を含めて広範な県民が賃金削減を受けて苦しむことにならないかということで、大きな心配があるわけであります。

 また、生活保護や雇用保険、年金などの各種給付金や、地域最低賃金も人勧準拠で引き下げられることが懸念されるのであります。公務員の賃下げは、来春の民間労働者の賃金にも重大な影響を及ぼすことは間違いありません。
 さらに危惧されることは、こうした国民、県民の所得低下の悪循環は一層消費不況を拡大し、地域経済、ひいては税収不足という形で地方財政へも深刻な影響を与えることになるのであります。こうした点について、県当局はもとより、自民党議員会の皆さんはどのように考えておられるのでありましょうか。

 私どもは、デフレ不況を打開する道は、家計と経済への破壊的な打撃を与える賃下げの悪循環を断ち切り、労働者の雇用確保を最優先する政策の実施が緊急課題と考えるものであります。
 また、何回も申し上げておりますけれども、今日の県財政の危機の背景は、県職員の賃金が高過ぎたからでは毛頭ありません。県職員の人件費は既に、1990年度以降は非常に抑えられているのであります。

 人事委員会の資料によれば、県職員数は1991年度に1万8,680 人とピークにありましたが、その後減少が続き、2001年度は1万7,143 人と、この間1,537 人の減少であります。1991年度に対して2001年度は91.7%となっているのであります。部分的には公安職職員のように若干の増加傾向にある部分もありますが、小中高の教職員や技能労務者のように減少の一途をたどっている部門もあるわけであります。職員数の推移は、人員削減の続く企業などと同種の動きでありますが、不況下にあって企業に対して雇用の維持を要請する県自身が、雇用の場として機能を果たしていないと言えるのであります。

 いずれにいたしましても、県職員の皆さんが誇りと情熱を持ち、知事を先頭に県民福祉と県勢発展のために献身する、そのことこそ県民が求めているところであります。そのためにも、県職員をもっと大事にし、安心して働けるような配慮をされることが当局の任務ではなかろうかと、このように思うわけであります。
 そういう立場を私たちも今後理解し、支援することをお約束をし、社民党を代表しての見解にかえます。


共産党(反対討論)

◯36番(犬島 肇君)我が党は、議案第107 、108 、109 、110 、111 、112 、113 、114 及び121 号の9案件に反対いたします。これらはいずれも、富山県人事委員会の勧告に従って富山県公務員の給与引き下げを行おうとするものであります。
 以下、3点の理由を申し上げます。

 第1に、人事委員会勧告に基づいて県職員等の人件費を引き下げようとするこの議案は、生活保護、国民年金などにも波及して、広範な経済悪化を招くことは言うまでもなく、現下の日本経済がデフレスパイラルに突入している中で、デフレのベクトルを強めてしまう結果になるのであります。さらにこれが理由とされて、来春の春闘でも、既に財界が明らかにしているとおり、民間の労働者の賃上げはないということになりかねないのであります。国民経済再生のためにも認められません。

 第2に、県職員の立場と仕事は、公務である一方、労働者でもあります。それなら公務員にもストライキ権を与えるべきでありましょう。隣の田中長野県知事は県警察職員の給与も5%カットしようとしておりますが、長野県警察の幹部は田中知事に対して、「警察官はストライキ権を持たないで勤務している。この給与カットで県警察の士気が下がれば大変だ」と知事に抗議をしております。
 労働者の基本権とも言うべきストライキ権を剥奪する代替措置として導入された人事委員会勧告だというなら、人事委員会が日本経済再建の大局観に立たず、いたずらに日本経済を悪化させる方向へたどる給与引き下げを推進することとなります。まさにこの組織と制度は、ある意味でふぐあいであります。公務員にもこの際ストライキ権を保障するべきであります。

 第3に、私は力を込めて申し上げたいと思います。今回、富山県職員たちの給与引き下げは、人事委員会勧告を受けて29億2,700 万円にも及びます。この措置によって県職員は、生活の上だけでなく、精神的にも屈辱を味わうものになりませんか。

 なぜ私は「精神的な屈辱」と言うか。私はことしの2月定例会以降、幾度も繰り返し指摘してきましたが、オランダで導入されている徹底したワークシェアリングとはならないまでも、既に他県では何らかの形で工夫を凝らして、県民に職場を提供するために擬似的なワークシェアリングが試みられております。その最も徹底したものは鳥取県の片山知事が実施しているもので、知事や特別職などを初めとして県職員の給与を削減して、40億円の財源を確保した上で、教員、保母などの人数を増やすという政策をとっているのであります。つまり、県職員がただ単に給与の引き下げを強いられるだけではなく、自分たちの給与の削減が、戦後最大の不況下にあって就職できない県民や失業中の県民に救済の手を差し伸べることにつながるという、ある精神的な誇りの回復につながっているのであって、これを簡単に言えば、我々の給料が下がっても、それが県民の不安の解消に役立っているという精神的な充実感が富山県職員の名誉にかけて必要ではないかと私は考えるのでありますが、皆さんどうでしょうか。

 残念ながら、私がいくら指摘し、要請しても、真剣にワークシェアリングにもめどが立たないとするなら、県職員の心は満たされないであろうと私は断言しなければならないと思っています。

 かかるマンネリと惰性の人事政策では、県民に元気を出せと説いている県職員自身が心の底から元気を奮い立たせることはできないのではないでしょうか。私はこのこともあわせ憂いているのであります。
 以上の理由により、この県職員給与の引き下げに私は反対するものであります。


自治労連弁護団見解

不利益不遡及の原則

 遡及効とは、「法律や法律要件の効力が、法律の施行や法律要件の成立以前にさかのぼって発生すること」を意味するが、「過去にされた行為などに影響を及ぼし、法的安定性を害することになるので、原則として、遡及効は認められず、法律の遡及効については、法律不遡及の原則がある」とされている。

 また、法律不遡及の原則とは、「新たに制定されたり、改正された法律が、その施行以前の関係にさかのぼって適用されないという原則」であり、「そうでなければ、既得権を害したり、過去にされた予測を裏切ったりして、法的安定性が害される」ことがその根拠である(法律学小事典第3版)。

 特に刑罰については、憲法上(39 条)「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない」と遡及を厳禁している 。

 不遡及の原則は、「法律」のみならず、当事者間の契約である労働契約においても妥当する。そうでなければ、今回のように賃金について遡って不利益に変更することができるということになれば、@牽連関係に立つ労務提供義務と賃金支払義務の片方の内容が未確定ということになり、勤務関係の安定性を害すると共に、A賃金額が定まらないまま労務提供するということになり、公正さに欠けることになるからである。

 この理は、地方公務員の給与についても同様である 、また、地方公務員の場合、勤務条件法定主義(条例主義)が採用され、法律の一種である条例で給与が定められるので、「法律不遡及の原則」がそのまま妥当する 。国家公務員の場合は、給与は法律で定められるのであり、同様である。よって、今回の人勧は、「不利益不遡及の原則」に真っ向から反するものである 。

 なお、この間、人勧に基づき、4 月に遡り給料等につき遡って差額支給がされてきた。差額支給は、既得権を奪うものでなく勤務関係の安定性を損なうものでもないので、不利益遡及の問題と同列に論じられないことは、言うまでないことである 。


 民間の労使関係では、「具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約や事後に変更された就業規則により変更することは許されない」とする不利益不遡及の原則が最高裁判例でも確定しています(1996.3.26)法律の分野でも「何人も実行の時に適法であった行為・・・については、刑事上の責任は問われない」(憲法39条)としており刑罰についての遡及適用は憲法上も禁止しています。政府や人事院が最高裁判決を蹂躙することは見過ごすわけにはいきません。


第155回臨時国会      2002年10月16日 決算委員会

(1)公務員制度改悪
(2)人勧マイナス改定遡及の違法性
(3)構造改革特区等を理由としたタクシー類似行為等の問題点(質疑省略)

又市征治君
 社民党の又市です。
 まず初めに、公務員制度についてお伺いをしたいと思います。
 去る十一日の報道によりますと、勤務条件決定の権限のうち、給与と勤務時間だけを人事院に残して、能力評価と業績評価の基準と手続及び効率的な人員配置のための基準については内閣に移すというふうに報じられておるわけです。私は、これはまあ理不尽のそしりを免れないなと、こう申し上げざるを得ません。

 そもそも、これら公務員の勤務条件に関する権限がなぜこれまで直接の雇用主である政府ではなくて中立的な第三者機関である人事院に置かれてきたのか。言うまでもなく、人事院の存在と機能は、公務員労働者から労働基本権を奪って、自らの労働条件を自らが交渉し、最終的には争議権によって確保するということを禁じてきた、このことの代償措置として置かれて機能してきたわけでありますが、これを全く無視した乱暴な方針じゃないか、こう言わざるを得ないからであります。
 この点について、まず人事院総裁の見解を伺いたいと思います。

政府参考人(中島忠能君=人事院総裁)
 お答えいたします。
 御存じのように、公務員は労働基本権が制約されております。したがいまして、制約されておる状況の中で、制約が現状と同じであるにもかかわらず勤務条件の一部を使用者である政府というものが決定するということは、ごく通常の法律感覚からいうと理解できないということだと思います。

 やはり、労働三権の制約が現状と同じであるならば、勤務条件を決定するシステムは現在と同じと。すなわち、法律で決める場合には、人事院が政府と労働団体の方から意見を聞いてその意見を国会と内閣に申し上げる、それに基づいて法律が制定されると。そして、法律ですべて決めるわけにいきません。それを規則で決める場合には、政令ということになりますと、労働三権がない公務員に対する勤務条件が政府で一方的に決められるというのもまずかろうというので、現在、人事院規則で決めるようになっておると。そこはやはり尊重されなければ、バランスが制度として取れないということになろうかというふうに思います。

又市征治君
 全くそのとおりだろうと思うんです。
 そこで、行革事務局にお伺いいたしますが、いずれにしてもこの能力評価と業績評価の基準と手続などは明らかに勤務条件に関する事項ですから、労働組合との協議が当然必要だろうと思うんです。行革本部はこれらの事項について協議をいつからどのように行うのか、明確にお答えを願いたいと思うんです。これまで何度も会見をしているとほかの委員会でも聞きましたけれども、そうお答えになるかもしれませんけれども、少なくともこの能力評価と業績評価の基準と手続などについて協議が進んでいるとは聞いておりませんが、それを踏まえて明確にお答えをいただきたい。

 また、あわせて、今回政府が行おうとしている法改正は、国際労働基準に照らして公務員労働者の労働基本権の回復を幾らかでも前進させた上で行おうとするものなのかどうか、この点も併せてお聞きをいたします。

政府参考人(春田謙君=行政改革推進事務局公務員制度等改革推進室長)
 お答えをいたします。
 今、先生の方から十月の十一日の新聞の記事を基にお尋ねをいただいたところでございます。職員の処遇に係りますところの人事制度、現在私どもも法律改正に向けていろいろと検討をしておるところでございまして、実はこの点につきましてはどういう形で人事制度の設定をしていくかということをまず議論することが必要だろうというふうに思っておりまして、そのためのまずたたき台というものを取りまとめまして、このたたき台を基に今お話がありましたような職員団体とも誠実に交渉、協議していきたいというふうに思っております。

 実は、今日御質問いただいてあれなんですが、私どもも今鋭意そのたたき台の取りまとめを行っているところでございまして、もうできましたら、早ければ今日の例えば夕方とか、そういうようなところでもたたき台について職員団体の皆さんにも議論を始めるというぐらいの取組で進めてまいりたいというふうに思っております。
 それから、ILOの関係でございます。

 ILOの関係につきましては、労働組合の方から公務員制度改革につきましてILOに提訴がなされているということは承知をしているところでございます。私ども、公務員制度の昨年の末の閣議決定の中でも、労働基本権につきまして、これを制約するということにつきまして昨年の閣議決定で決めさせていただいたところでございますが、方向を決めさせていただいたところでございますが、今後とも、これに代わる相応の措置を確保しながら、現行の制約を維持するということでまとめられたところでございます。

 私ども、労働基本権の問題に関しましては、それぞれ各国の歴史的あるいは社会的背景を踏まえて決定されるべき問題であるということで、その対応につきましても先進諸国においても一様ではないという状況になってございます。
 政府といたしましては、今後、法制化を進めていくに当たりましては、職員団体とも十分議論をしていくことが必要であるというふうに考えております。

又市征治君
 今も出ましたけれども、連合官公部門連絡会あるいは他の国際労働団体もがILOに提訴をしておるという状況にあります。それは、国際的に見てこのような労働基本権の乱暴なじゅうりんが例がないからということだろうと思うんです。使用者側の違法行為に対して、法を遵守をしてそれを確保するように執行すべき立場にある政府が、事もあろうに国際労働基準にもとる違法行為を行おうということは許されないことでありまして、これは強く抗議を申し上げると同時に、誠意を持って対応するよう強く求めておきたいと思います。

 次に、公務員給与の取扱いについてお伺いをしたいと思いますが、八月八日の人事院勧告、そして九月二十七日に閣議決定されておるわけですが、これは様々問題点があるように思います。今日は一点だけ、給与のマイナス改定を十二月の一時金で行う点について伺いたいと思います。

 言うまでもなく、人事院勧告は、地方公務員を含めて四百三十四万人と言われる公務員にとどまらずに、多くの公共サービス部門や人勧に準拠して給与が決まっている中小、未組織の労働者、あるいは連動する政府の社会的給付に頼る多くの国民の生活をも直撃するということになります。したがって、このマイナス改定の不利益を四月にさかのぼらせるという今回の方針は、一つは労働法規の観点から見ても違法性が強いんではないか、二つ目に現下の経済情勢を無視したデフレ政策ということにも、そういうそしりも受けるんではないのか、こういうことがあるわけですが。

 そこで、片山大臣にお伺いをいたしますけれども、まず一つは、この措置について組合側と協議、合意ができたのかどうか、これが一つであります。二つ目に、総務大臣自身もこの措置については苦慮されているようでありますが、給与の不利益不遡及の原則への抵触について、法的正当性、この問題をどうするのか。人事院や法制局との間でも協議をして明確な回答を示すとされてきたようでありますけれども、人事院含めて、三者の統一見解はできたのかどうか、この点をお聞かせいただきたいと思います。

国務大臣(片山虎之助君=総務大臣)
 組合とは二回お会いしまして、現状での人事院や内閣法制局とのいろいろ相談しておる結果をお話し申し上げて御理解を求めました。結構ですという御返事じゃございませんが、承りますという返事でございました。

 それで委員、こういうことなんですね。人事院勧告は何でやるかというと、あれ、官民均衡といいますか民間準拠ですよね、勤務条件、基本的な考え方は。そこで、民間を調べて給与をやりましたら今年は二・〇三%下げろと、こういうことだった。それは年間を通じてバランスを取るんですよ。だから、今まで払ったものを返せといって言っているんじゃなくて、これから払う十二月の期末手当で年間分の調整をやるということでございますから、これについては、人事院もこれは十分そういう解釈というんでしょうかね、法律上の解釈は成り立つし、内閣法制局も同じだと、こう言っていますからね、私どもの方も大体同じだと。

 こういうことでございますんで、そこは是非御理解を賜りたい。差し上げたものを取り上げるんじゃないですよ。年間を通してバランスを取るんで、これから払う十二月の期末手当で調整しますと。それは、差っ引かれる方は面白くないですけれども、これは年間でバランス取るんだから、そこのところはひとつ御理解を賜りたいと思います。

又市征治君
 ここに、九月十七日だと思うんですが、総務省の見解の写しがございまして、その引下げに関する部分の前段では、「既に適法に支給された給与を遡って不利益に変更することは、法的安定性や既得権尊重の観点から慎重であるべきものと考える。」と、こう記されているわけですね。当然だろうと思うんです。本給の引下げ分を期末手当で減額調整するというのは明らかにすり替えだと。これはちょっと筋が通らないと思うんですね。

 期末手当は期末手当で今年の本給とは関係なしに昨年の民間の一時金の実績に準拠して決めるというのがこれまでのルールだったわけですが、これを変更されるというのかどうか。ここのところの説明を求めたいと思います。

政府参考人(久山慎一君=総務省人事・恩給局長)
 お答え申し上げます。
 先生御指摘のとおり、既に適法に支給されました給与をさかのぼって不利益に変更することは、法的安定性や既得権尊重の観点から慎重であるべきものと考えておるところでございます。

 今回の措置はこの考え方を踏まえつつ、従来どおり官民の年間給与の均衡を図るとの観点から、法施行日以降に支給される期末手当の額により調整を行うこととしたものでございまして、既に適法に支給された給与をさかのぼって不利益に変更するものではございません。

 また、本年の給与の官民の逆格差につきまして、官民の年間給与の均衡を図るとの観点から、期末手当の額により調整を行うことは、国家公務員法に定める情勢適応の原則に照らしまして十分合理性があるものと考えておるところでございます。
 この措置は、期末手当の生活補給金的な性格、調整措置を早期に終了させることができることなどを勘案すると最も適当な手段であり、これをもって期末手当の一時金としての性格を何ら変更するものではないと考えているところでございます。

又市征治君
 大変論争のあるところですが、都合のいいところだけ情勢適応の原則を出されてもこれは困るんですが、これが一体民間にも波及したらどうなるか。企業経営者が九月決算やってみたら大変悪かった、四月にさかのぼって賃下げする、政府だってやっているんだからと、こう言い出したら一体どうするのか。際限ない無権利の悪循環ということになりかねない。労働者に対して使用者が不利益を遡及させてはならぬというのが法の立場なんだろうと思うんです。
 このようなあしき前例を政府は作るべきではない。一月分からこれはもう減額をしていくというなら分かるけれども、こういうやり方というのは大変問題がある、こう言わざるを得ないので、今日のところはこの点だけ御指摘申し上げて終わらせていただきます。


 片山総務大臣は「不利益不遡及」の原則を認めつつ、これに抵触していないと追及をかわし、「年間の収入を一時金でバランスをとるもの」と発言している。不利益遡及を実際に行ったことは間違いのない事実である。
 その時々に都合のよい理屈を並べ立て常に賃下げである。過去の人事院勧告不実施はどのような説明になるのだろうか。単なるご都合主義にすぎない。

ここでも解釈改憲と同じ手法が取られている。まさに無法地帯である。


公務員給与の調整「適法」 国公労連側の請求を棄却  H16.10.21  東京地裁

 国家公務員の給与引き下げで、過去8カ月分の差額を年末一時金から差し引いたのは不利益不遡及(そきゅう)の原則に反するとして、国公労連所属の6省139人が国に計約1200万円の賠償を求めた訴訟の判決で東京地裁は21日、請求を棄却した。
 判決理由で難波孝一裁判長は「最高裁判例が示した不利益不遡及の原則は私企業についてのもので、国家公務員にそのまま当てはめられない」と指摘。「官民の給与差額をどう調整するかは人事院など国側の判断」として、勧告、立法過程で違法はなかったとした。
 人事院は2002年8月、国家公務員給与を初めて引き下げ、差額は一時金で調整するよう勧告。これを受けた政府案が衆参両院で可決し、同年4月からの8カ月分の差額が年末一時金から差し引かれた。
 差し引かれたのは国家公務員と地方公務員のすべてである。莫大な金額を職員の了解なしに一方的に、しかも法を無視して搾取したのである。公務員職場ではこのような無法がどうどうとまかり通っているのが現状である。加えて東京地裁では請求を却下するなど、三権癒着の構造が垣間見える。「不利益不遡及は合法とする東京地裁」に抗議しよう!!

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