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われわれを取りまく情勢 2014年1月   

1 職場と暮しは

 今、社会の格差が進んでいる。厚生労働省の発表による相対的貧困率は、1985年に12%だったが、2010年には16%へと増えて、先進資本主義国の中では米国に次ぐワースト2位である。(※「相対的貧困率」とは、国民一人ひとりの所得を順番に並べ、中央の値の半分より低い人の割合を指す。またこの場合の所得とは、収入から税金や社会保険料を差し引いた1人当たりの所得を指す。厚生労働省が発表した2010年調査では、年間所得112万円未満が「貧困」になった(約2,000万人)。相対的貧困率は16%で、前回07年調査より0.3ポイント上昇し、1986年以降の調査では最悪となった。)
 日本の貧困率が高い理由の一つとして、若者はもちろん、特に女性の賃金が低いことが挙げられる。女性は、非正規雇用の中でも特に賃金が低いパートやアルバイト就労が多く、正規雇用の場合も、管理職への登用が少ない。一人親世帯の貧困率が高いのも、大半が母子家庭で親の収入が少ないためだ。最低賃金の国際比較でも日本や米国はEU主要国の70%にすぎない。10万人当たりの自殺者数は23.8人と、先進国の中では韓国に次いで第2位である。2011年は減少傾向にあるものの3万人台を維持している。
最後のよりどころのセーフチィネットである生活保護に改悪の焦点が当たり始めている。生活保護の申請要件がより厳格になり、申請を諦めた老人が餓死や孤独死に至った記憶がよみがえる。若者の失業率の増加や非正規雇用、高齢者の賃金カットや退職金の切り下げなどが強行され、生活保護を申請せざるをえない国民が増えている。低賃金労働者が増えることで、生活保護費が相対的に高く見えるようになっただけのことである。稼働能力と就労意欲を有する生活保護受給者には、能力に応じた就労保障を徹底すべきである。企業への解雇規制を徹底し、正規雇用を増やし、最底賃金を大幅に引き上げることが重要である。だが自民党阿倍政権は、経済特区なるものを指定し労働者の保護規制をさらに改悪し、外国人労働者の雇用も検討している。
 社会保障における企業と個人の負担割合はフランスでは65対35であるのに対し、日本はほぼ50対50と労働者の負担率が高く、EU諸国に比較して日本企業の社会保障費の負担は極めて厚遇されている。
 「賃下げ・リストラ、子ども就職できない、サラ金問題、自由に使える金がない、徹底的な節約モード、介護における不安」などの私たちの討論の中からも、多くの実態が出されている。老後の生活を支える年金は、昨年10月から切り下げられ、今年4月以降のさらなる切り下げが予定されている。そして年金支給開始年齢は段階的に65歳まで引き上げられる。これに加えて、2%の物価上昇を目的とする経済政策が実行されれば私たちの生活はより一層苦しくなる。労働現場では、低賃金化・非正規社員による生産の常態化と人手不足が進行している。これに加えてさらに、政府自民党は、公務員の55歳以上の賃下げを実施しようとしている。敵の攻撃は留まることがない。

2 消費税の値上げと法人税の減税のなかで

 1989年に消費税3%の創設が実施され1997年に5%に引き上げられた。これによる引き続く消費不況が解消しないまま、『税と社会保障の一体改革』と称して「安定した社会保障制度財源の確立」を目的にして消費税8%への大増税が今年4月に実施される。2015年10月から10%への増税が予定されている。消費増税で浮いた財源は法人税の減税分の補填、公共投資や防衛費の拡大となる。輸出品には消費税がかからず、蔵出し時点で還付される。国内消費が中心の企業には消費税増税の悪影響を防ぐためと称し軽減税率の導入が議論されている。しかし私たちが生きるために必要な食料品にかかる軽減税率の導入は4月には実現しない。ますます大企業優先の政治が進められようとしている。
 この間の日本の税制改革では所得税や住民税の累進課税が縮小又は廃止されてきた。法人税を例にとれば、消費不況対策のために1999年の所得税住民税の定率減税と法人税の減税が実施された。しかし私たちに対する定率減税が打ち切られ、法人税の減税のみが継続された。今回はそれに上積みする形で法人税を5%減税した。法人三税を合わせた実効税率は40%、内法人所得税を30%から25%へと減税、今年4月から実効税率は36.05%となる。経済界からさらなる法人税の減税要求がでている。
 富裕層への優遇と勤労国民への増税を続け、政府自民党は赤字国債を発行し続けてきた。公的債務残高は前年より40兆円増え2013年末では1,170兆円程度に膨らむと見込まれている。
資本金10億円以上の大企業の内部留保金は2009年度に244兆円となり、トヨタ自動車の連結決算では13兆円にもなる。円安株高で経済界は濡れ手に粟の儲けが転がり込んでいる。労働者への賃金引き上げを抑える一方で役員報酬や配当を増やしている。安倍政権が日本経団連に賃上げを要請するという異常な事態である。

3 労働者運動の弱体化の中で仲間づくりの運動

 このような情勢にありながら、これに抗する組織としての労働組合や勤労者の政党は弱体化している。労働組合員数は988万人(1994年は1,270万人)、組織率は17.7%(1970年は約35%)とこの間低下の一途を辿っている。
 多くの職場で評価制度が導入され、モノが言えない職場となり、労働組合運動は形骸化し、職場の活力も失われつつある。そしてこれまで運動を支えてきた団塊世代が退職し始め、組合運動の中心は青年層に移りつつあるが、しかしその青年層は、将来に対する大きな不安があり、将来に展望を持てないでいる。お互いの連帯の薄さもあり、組織の団結づくりは簡単には進んでいない。
 資本側のマスコミや裁判所と一体となった労働組合攻撃も激しさを増している。労働組合運動は憲法で保障された民主的権利であるが、特に保守・自民党や維新の会の攻撃はすさまじい。
働く者の政党だった旧社会党は、「民主党」・「社民党」・「新社会党」へと分裂し、それぞれの議席数もこの間激減している。石破自民党幹事長は「市民運動のデモはテロと共通する」とすら述べている。安倍内閣は、「高」支持率を背景に、国民の大きな反対にも関わらず「特定秘密保護法」を可決強行し、国内外から大きな批判を浴びている「靖国神社参拝」も行い、「集団的自衛権」を掲げ積極的平和を称するなど、憲法改悪への危険な動きを加速化している。私たちが大事にする平和が脅かされている。
 現状は、一人ひとりの労働者の討論の場を保障し要求として吸い上げていく組合幹部の指導性はもちろんあるが、一人ひとりの労働者運動・話し合いや団結づくりが全体として低下し、仲間同士がお互いを思いやることが失われつつある。
 しかしながら、相次ぐリストラ・賃下げ攻撃の下、悩みや先行き不安・不満が多く出され、お互いの気持ちを話し合う討論が継続されている。敵の攻撃にみんなで抗するために、我々の団結ともう一人の仲間づくりの運動を継続することが重要になっている。私たちが積み上げてきた討論を、周りの仲間たちに拡げ話し合いながら、その輪をさらに大きくしていくことを大事にしよう。