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平成17年の教科書検定

 4月5日、文部科学省は来春から使用する中学校教科書の検定結果(9教科103点)を発表した。4月4日〜5日自民党は「新憲法起草委員会要綱」と「新綱領最終案」を公表した。衆議院本会議は4月5日「昭和の日」(4・29)を新設する祝日法改正を可決した。4月当初のこれらの動きが示しているように、グローバルな日米軍事一体化のもとで進められている憲法・教育基本法改悪と表裏一体の関係で教科書問題も存在している。

 今回の教科書検定の結果は四つの問題点を浮き彫りにしている。
 第一に、歴史の歪曲、侵略戦争と植民地支配の正当化である。扶桑社版「歴史」は、日本が朝鮮の近代化に寄与したとし、「自存自衛」のための「大東亜戦争」、「日本の安全と満州の権益を防衛するため」の韓国併合、「五族協和、王道楽土」をめざした「満州国」をはじめとして、日本軍国主義の諸行動をすべて正当化し、植民地支配での弾圧・虐殺行為などにはほとんど触れていない。
問題は扶桑社だけにあるのではない。強制連行を記述している歴史教科書は二社のみとなった。いっぽう 、「拉致事件」は歴史・公民の全教科書に登場した。「従軍慰安婦」も四社は記述しなくなった。帝国書院のみが 「慰安施設に送られた女性」に触れたが、記述した他社も「アジア各国から若い女性が集められ戦場に送られました」「過酷な労働を強いられたりしたのは男性だけではなく、女性も含まれていました」「朝鮮人女性なども工場に送り出されました」などとあいまいになっている。南京大虐殺についても「中国の軍民に多数の死傷者が出た」とあいまいな記述をして、「実態についてはさまざまな疑問」など、歴史的事実の否定をはかろうとしている。こうした教科書の内容が中国や韓国から「過去を合理化・美化するもの」として糾弾を受けているのは当然である。

 第二に政府(文科省)は検定作業を通して、「国策」・政府見解の押し付けをはかり検定への国の関与をいちだんと強めた。この動きは、事実上の国定化に向けて歩を進めたものといわなくてはならない。ODAについて「効果的な援助が行われるようになってきています」、自衛隊のイラク派兵について「非戦闘地域」「イラクの戦後復興のために派遣」などの記述を検定意見を通して盛り込ませた。「国連決議のないまま」は削除された。また、竹島問題について扶桑社版ですら「領有権をめぐって対立」としていたものを「我が国固有の領土であるが、韓国が不法占拠している」と修正させた。こうした「国の方針」の押し付けは、夫婦別姓を求める運動や「ジェンダーフリー」の用語を削除したことにも現れている。

 第三に、理科、数学を中心に、学習指導要領の範囲を超える内容を「発展的な学習」として加えることを認めた。その結果、教科書のページ数が前回(00年)比で一割増となった。02年から実施された学校五日制にともない教科内容の三割削減をおこなったが、国際学力比較などによる学力低下論に影響された結果である。全体量を増やした上で、さらに「発展学習」を加えたのであるから、学校五日制のもとでは消化できない量になる。休業期間の短縮や土曜登校などの動きが強まるであろう。さらに、「発展学習」は「できる子」だけがやればいいという立場である。こうして、今回の検定結果がもたらす危惧は、かつて深刻な反省をしたはずの「詰め込み主義」の復活とエリート主義の強化である。

 第四に、今回の検定結果は、憲法・教育基本法改悪との表裏一体の関係を明らかにした。調査官による検定意見の押し付けという手法で政府は上記のような「国策」の押し付けと、日本の近現代における侵略戦争・植民地支配の正当化・美化をはかった。自衛隊の海外派兵を国際平和活動と偽り、改憲と教育基本法見直しの動きを望ましいものとして記述している。「公民」教科書では「国を愛する心」「公の精神」「家族愛」が強調された。そして「つくる会」や自民党、一部マスメディアをはじめとする右翼勢力は、教科書の在り方について「教科書制度は国家主権に属する問題」だという主張を強めている。この動きは、改憲論における「国民の責務」論 、教育における「国家統治行為」論とも結合して、きわめて危険な動きになりつつある。私たちは、憲法や教育基本法が何のために存在しているのかについて論議を深めなくてはならない。

 今後、6月中旬から全国810ヵ所の教科書展示会場で検定意見書、修正表も公開される。積極的に展示会場に出かけ、教科書を手にとって見よう。そして、扶桑社のような教科書が全国580ヵ所の採択地区のどこでも採択されないように運動しよう。右翼勢力が自民党の地方議員などを動員して展開する「つくる会」教科書の採択運動を逆包囲しよう。同時に、教師達が参考資料としての教科書「で」教える立場に立って、教材の自主編成で補強し、「平和と真実をつらぬく」授業実践を目指すことを期待する。また、教科書の自由発行と自由採択、検定制度の廃止をめざす運動を粘り強く進めよう。

 違法行為をしてまで売り込みに躍起になる扶桑社つくる会教科書

 扶桑社は平成16年7月以降19都府県の教師や教育委員会関係者に歴史・公民の申請本(白表紙本)計70冊を貸与、閲覧させていた。これは教科書の選択にかかわる者への利益供与にあたるとして、「つくる会」教科書を採択の対象から排除する措置を求める申告を琉球大教授らが公正取引委員会に提出している。端的に言えば独占を目的に違法行為を行ったのである。

 また扶桑社と「つくる会」は共同事業体であり、「つくる会」が他社の教科書を誹謗中傷する文書を配布したことは、公正取引委員会が示す「他の者の発行する教科書の使用または選択を妨害すること」にあたり独禁法に違反している。

 申告者は松山市内で「違法・不正を行った事業者は、公共入札から外される。ゆえに違法行為を常習化している「つくる会」教科書も採択の対象から排除する必要があると述べ、全国各地で同様の申告を行うよう訴えた。

 なお白表紙本が配布された事実は、文部科学省の初等中等教育局長が教科書図書検定規則実施規則に違反しているとして、衆議院文化委員会で明らかにしている。

 扶桑社は季刊「皇室」も発行しており、天皇制の存続や強化に熱心な企業であり、株主はフジテレビ・サンケイ・ニッポン放送・ポニーキャニオンなどである。先の敵対的買収?で無能力ぶりを発揮した会社である。また東京都知事の石原も扶桑社を利用している。扶桑社は右翼グループの巣と見るべきだろう。

 本当に良いと認められる教科書ならば、違法や他社の教科書に対する誹謗中傷をしなくても採択される。このような不正をしないと採択されないような教科書は欠陥があり論外とすべきであろう。

 また不正な手段を使ってでも採択させようとするのは何を狙いにしているのだろうか。憲法改悪か。はたまた大陸侵略か。徴兵か。人権侵害か。天皇主権か。いずれにしても扶桑社の教科書は百害あって一理なしであろう。

 他社の教科書を誹謗中傷したり自社の教科書の宣伝・採択活動は違法行為である。厳重な処罰が必要である。違法・不正が野放しにされてはいけない。国家大乱の元になる。


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