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4.17名古屋高裁・自衛隊イラク派兵違憲判決
自衛隊海外恒久派兵法を阻止し、イラク・アフガニスタンからの自衛隊撤退を求めよう

2008年4月17日

 1422名が提訴した「自衛隊イラク派兵差止訴訟」の控訴審判決が名古屋高裁で出された。
判決は歴史的なものである。

1、本判決は「自衛隊派兵の撤退」という控訴人の主張を直接に認めたものではない。しかし画期的な意義を有する内容である。

 第1に、自衛隊機が発着するバグダッドを「戦闘地域」、自衛隊が行う米兵の輸送を「武力行使」とそれぞれ認定し、政府の憲法解釈を前提としても、自衛隊のイラク派兵は「特措法」と憲法9条に違反するとした。

 判決は「現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為」と断じ、「非戦闘地域」規定のあいまいさを突くもので、今後の自衛隊派兵反対運動に強力な根拠を与えるものである。

 第2に、控訴人の主張する憲法前文の「平和的生存権」を「憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない」とし、9条とあわせ「裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求しうる」具体的な権利としたことである。

 昨今、「前文」や9条、さらには25条「生存権」も、たんなる理念にすぎないという論調がはびこるなかで画期的である。改憲阻止運動にとっても重要な光明といってよい。

 第3に、自衛隊とその活動の違憲性を問う裁判では、長沼ナイキ訴訟札幌地裁の自衛隊違憲判決をのぞいて、司法は全て判断を逃げてきた。それが「平和的生存権」に立脚し高裁レベルで真正面から自衛隊の具体的な活動とイラクの状況を精査し、違憲との判断をくだしたのも画期的である。

 高裁判決は勝訴した被告たる国が控訴できないため確定し、運動に大いに寄与するものとして生きてゆく。

2、名古屋高裁違憲判決は、3.13鉄道運輸機構東京地裁判決、4.11立川ビラ配布事件最高裁判決と、司法の義務を放棄した反動判決が続く中で、限りない勇気を与えるものである。それは全国各地で幾度負けてもくりかえされてきた違憲訴訟の成果である。

 私たちは判決を武器に憲法闘争をさらに前進させよう。
 当面、自衛隊海外恒久派兵法制定の動きを止めさせよう。あきらかな武力行使と司法が判断した「後方支援」も「戦闘地域」のあいまいさも、すべて「恒久派兵法」の根幹をなしている。

 自民党・公明党に、「恒久派兵法」与党案策定のプロジェクトを始動させてはならない。民主党は継続審議となっている同党の「テロ根絶措置法案」をとりさげるべきである。


元駐在レバノン特命全権大使 天木直人さんのコメント
 2008年4月17日、名古屋高裁は、自衛隊のイラク派兵差止め訴訟の判決において、航空自衛隊がイラクで行っている米兵等の空輸活動は憲法違反である、と明確に断じた。
 これまでに数多くなされてきた憲法9条違憲訴訟の歴史のなかで、政府の政策を違憲であると、司法が初めて断罪した瞬間であった。その歴史的瞬間に立ち会うことが出来た喜びと、そこに至る私の思いを、ここに書きとどめておきたい。

 2003年3月20日米国ブッシュ政権は、国際法を無視し、国際社会の反対に耳を傾けることなく、イラクを一方的に攻撃した。
 その口実は、サダム・フセインのイラクは大量破壊兵器を隠し待っていそのイラクが、る9・11事件を引き起こしたオサマ・ビン・ラテン率いる反米テロ組織アル・力イーダと結託し、今にも米国を攻撃しようとしている。差し迫った脅威を排除するために先制攻撃を行うのは当然だ、というものであった。

 そのいずれもが真っ赤な嘘であったことは、今や世界中の知るところである。米国がイラク攻撃を敢行しようとしていた時、私は駐レバノン日本特命全権大使として、中東の人々とともにいた。この誤った攻撃を許してはいけない、よしんばそれを止められないとしても、日本は決して米国のイラク攻撃を容認してはならない、私はそう当時の小泉首相に申し入れた。小泉首相はその意見に一顧だにせず、ブッシュ大統領は正しいと世界に向けて公言した。私は大使の職を解かれ、外務省からも追放されることになった。無念であった。

 しかし、私が心底怒りを覚えたのは、小泉首相が、その米国の不当な戦争に追従し、専守防衛のわが国の自衛隊をイラクへ派遣したことである。明らかな憲法違反である。
 おりから全国で自衛隊のイラク派兵差止め訴訟が次々と巻き起こっていた。政治がこの愚挙を止められないならば、せめて、「法の支配」によって止めるしかない、そう思って私は名古屋で始まのった自衛隊イラク派兵差止め訴訟の原告のI人となった。2004年初めのことである

 以来4年あまり続いた訴訟であった。その間にも、イラク情勢は悪化の一途をたどった。米国のイラク攻撃は、ものの見事に失敗したのだ。その事実は、イラク訴訟にとって追い風であった。
 司法が、我々の違憲訴訟を審理し、正しく法を適用するならば、違憲判決が出るのは当然のことである。しかし裁判官も大また官僚である。国家権省力の僕(しもべ)である。高度に政治的な判断は司法にはなじまないとして、各地の訴訟は次々に却下されていった。
 実際のところ名古屋での訴訟も、第一審の名古屋地裁判決では、原告には訴えの利害関係が認められないとして却下された。

 名古屋訴訟の原告団は、直ちに高裁に控訴した。そして粘り強く違憲を訴え続けた。原告の熱意と弁護団の有能な弁舌、そしてそれを法的論理で支える学者、有識者の陳述、最後まで応援を差借しまなかった平和を願う一般市民、それらすべてが一丸となって名古屋高裁の裁判官たちを動か
したのだ。

 しかし、真の立役者は、青木邦夫裁判長ほか2名の裁判官である。彼らは、原告の陳述に耳を傾け、正面から原告の訴えを審理した。イラクの現状を詳細に分析し、緻密な法理論を重ねた。その結果が冒頭の違憲判決だったのである。

 判決は、自衛隊のイラクでの活動のうち、少なくともバクダッドの空輸活動は、政府の憲法解釈に立ち、自衛隊派遣の根言葉拠法であるイラク特措法を合憲としたとしても、どう考えても「戦闘地域」における「武力行使と一体の活動」であると認めざるを得ない、だから憲法9条違反である、と断じたのだ。見事な判決ではないか。

 この判決の重要性については、いくら強調しても強調しすぎることはない。「歴史的な判決」であり、「画期的な判決」であることはその通りである。しかし、それらの言葉が平凡に聞こえるほど、この判決の持つ意義は重く、大きい。
 残念ながらこの国の首相や閣僚は、青木裁判長ら裁判官3名が、良心と裁判官人生のすべてを賭けて書いたこの判決を一蹴した。憲法9条の素晴らしさを理解できない官僚や御用学者、有識者たはちは、個人の思いをぶつけた蛇足判決だと、この判決を吃(おとし)めていいる。許しがたい憲法遵守義務違反である。

 この歴史的判決を決して無獣にしないためにも、私は最後に二点問題提起をしておきたい。
 一つは、政治家、とくに護憲を標榜する政治家は、今こそこの判決を背にして、政治の場でその責任を果たさなければならない。
`そもそも、護憲政治家たちが政治の場で本気になって闘ったならば、自衛隊のイラクヘの派遣は阻止できたのではないか。

 それよりもなによりも、「戦闘地域がどこであるかを俺に聞いても答えられるはずがない」、「自衛隊が行くところが非戦闘地域だ」などというふざけた答弁を、国会の場で嘲笑しながら繰り返す小泉首相に対し、罷免要求、問責決議要求を突きつけることができたはずだ
 今度こそ護憲政治家は、その政治力で一日も早く自衛隊をイラクから撤収させなければならない。

 二つは、この判決を下した裁判官たちを決して孤立させてはいけないということだ。世論が青木裁判官たちを政府の圧力から守らなければならない。この判決を契機に、平和を願う世論を燎原の火のごとく全国に広げていって、違憲政治家をこの国から排除していかなければならないと強く思う。