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新自由主義  考   旭川大学教授 吉田勝弘

資本化には「大きな政府」

 私たちは新自由主義の第V期の末期(もしくは新自由主義の第W期の入り口)にいます。現在は、マルクスが言うように資本主義社会という階級社会であり、レーニンが言うように金融資本が支配する帝国主義段階にあります。帝国主義段階のうちでも、ブレトンウッズ体制が崩壊した1974年以降は新自由主義の局面に入っています。

 この新自由主義も、詳細にみると1974年〜79年の第1期(新自由主義の模索期)、1980年〜89年の第U期(レーガン・サッチャー・中曽根による新自由主義の確立期)、1990年〜今日の第V期(社会主義崩壊による新自由主義の狂暴期)に分かれています。
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 サブプライムローン問題に端を発して2008年後半から第4次世界同時大不況に突入しました。新自由主義の大権現であるクリーンスパンFRB(米国連邦準備理事会)前議長に、「百年に一度の大津波」と言わしめるほど今回の地殻変動は大きく、打つ手がないまま「世界恐慌」に発展しています。
 各国の政府は多国籍化した自国の金融資本に「公的資金」と称して国家財政を注入しています。放っておけば自壊する金融資本に対して国家が補強する、この公的資金注入という方法は、国家独占資本主義の再来に見えます。「新自由主義は破綻したのか?」「新自由主義から国家独占資本主義に揺り戻したのか?」この問いに答えるには、そもそも国家独占資本主義と新自由主義の本質的な相違を理解しなければまりません。
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 赤字国債は1975年から発行され、建設国債も同年から急増し、2008年には残高が、赤字国債317兆円、建設国債553兆円、合計で870兆円にもなり、国家予算の10倍に膨れました。これほど国債を発行しても一向に国民生活は改善されません、それどころか新自由主義になってからはますます悪化する一方です。その原因は法人税と所得税の税率構造にあります。
 法人税は1987年の43%から段階的に引き下げられ今日では30%になっています。所得税は1974年には税率の刻み数(累進性)が19段階であったのに対して、現在では6段階に低下し(逆累進化)、住民税と合わせた最高税率も93%から50%へと半減しています。
 国家財政を赤字にしてまでも、企業に対する優遇と高額所得者の大幅減税を行い、赤字のツケを国債の発行で勤労国民に転嫁しています。消費税率の引き上げの原因もここにあります。勤労国民は、職場で資本に搾取され、税制で資本に収奪(追加搾取)されているのです。
 分かりやすく言うと、自助自立・受益者負担の名のもとに福祉・医療・教育の社会保障費を削減し、これ以上削れないまでにスリム化しても、財政赤字が拡大していくほどの莫大な資金を企業と高額所得者に、税制を通じてプレゼントしているのであります。
 新自由主義下での国家の役割は、労働者階級にとっては‐「小さな政府」であり、資本家階級にとっては「大きな政府」になっています。

金融資本の補強は直接的

 金融資本を財政的に補強するという意味では、国家独占資本主義も新自由主義も同じです。しかし、その補強の仕方が違います。国家独占資本主義と新自由主義とでは、金融資本を補強すると言っても、国家財政の出動の方向が異なります。
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 国家独占資本主義では、国際的には社会主義体制と資本主義体制の体制間矛盾があり、国内的には組織労働者の政党(旧社会党)と金融資本の政党(自民党)の対立があり、イデオロギーとしては社会主義と資本主義とが対峙していました。また旧社会党の周りには「未組織労働者、失業者、農業・漁業従事者、パート・アルバイト、学生、年金生活者、社会的弱者」が存在していまし
た。
 組織労働者を統括する総評・旧社会党と「未組織労働者、失業者、農業・漁業従事者、パート・アルバイト、学生、年金生活者、社会的弱者」とが主体的に結合すれば、言い換えれば、これらの者たちが総評・旧社会党に接近し「赤化」すれば、社会主義社会が実現していたでしょう。
 だから自民党政府は、 「未組織労働者、失業者、農業・漁業従事者、パート・アルバイト、学生、年金生活者、社会的弱者」が赤化しないように、「赤化防止」のための社会主義的諸政策である社会保障を、国家財政の出動を通じておこなっていました。したがって国家独占資本主義下での国家は、労働者階級にとっては「大きな政府」でした。
 とはいえ国家は、自らの財政資金を労働者階級に一方的にプレゼントしたわけではありません。
 金融資本は、かかる国家財政の支出額を労働者階級から、搾取を通じて獲得していたのです。すなわち国家独占資本主義下での金融資本に対する財政的補強は、労働者階級を一度迂回して行われる間接的な方法でした。
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 これに対し、新自由主義ではソ連・東欧の崩壊により体制間矛盾は基本的になくなり、国内的には労働組合が弱体化し、組織労働者の意識が低下し、総評が解体し連合に吸収されました。そして旧社会党が3つに分裂し、その中でも最も大きな部隊である民主党は資本の側に取り込まれました。イデオロギーとしては資本主義vs保守リベラルに変化し、根源的な対立はなくなりました。
 また「未組織労働者、非正規雇用者、失業者、農業・漁業従事者、パート・アルバイト、学生、年金生活者、社会的弱者」は、体制内化した民主党に不満を抱きつつ、アントニオ・グラムシが言う「市民社会」と化し、拠って立つ政党が見出さないまま宙に浮いた存在となっています。資本にとっては、「怖いものなし」という状態であります。
 したがって、国家財政は「赤化防止」のための社会主義的諸政策である社会保障費への出動はもはや必要ではなくなりました。それゆえ、新自由主義では、誰にも憚らずに国家財政を「公的資金」と称して金融資本に直接注入することができるのです。すなわち新自由主義下では、国家独占資本主義のように国家財政を労働者階級へ迂回させる必要がなく、金融資本に対する財政的補強は直接的な方法で行われることになります。
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 金融資本を財政的に補強するという意味では、国家独占資本主義も新自由主義も同じです。しかし、その補強の仕方が、言い換えれば国家財政の出動の方向が異なります。つまり、国家独占資本主義では、赤化防止のために一旦は労働者階級に支出されますが、最終的にはその財政資金は搾取を通じて金融資本の中へ流れ込みます。これは「間接的」な財政的補強であります。これに対して、新自由主義では、赤化対策の必要なく、誰に憚ることなく金融資本に「直接的」な財政補強を行っています。

「百年に一度」の革命のチャンス

 国家独占資本主義は、労働者階級にとっては 「大きな政府」であり、この「大きな政府」を通じて間接的に金融資本を補強していました。これに対して新自由主義は、労働者階級にとっては初めから「小さな政府」であり、金融資本にとっては直接的な財政補強という意味で初めから「大きな政府」です。
 したがって、国家独占資本主義は労働者階級にとっても、金融資本にとっても天きな政府」でした。これに対して新自由主義は労働者階級には「小さな政府」であり、金融資本には「大きな政府」です。繰り返しになりますが、国家独占資本主義も新自由主義も、究極的には金融資本に対して財政的補強を行うものであり、金融資本にとっては「大きな政府」なのです。ただし、前者の財政的補強は労働者階級を迂回する間接的な方法で行われ、後者のそれは労働者階級を迂回しない直接的な方法で行われるという違いがあります。
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 したがって、公的資金注入という事実をもって、新自由主義が破綻したと捉えたり、国家独占資本主義へ揺り戻したと捉えることは誤りです。
今日のかかる状況の正確な理解は、誰にも憚ることなく剥き出しの新自由主義政策を遂行していると、言い換えれば新自由主義が暴走している(もしくは行き詰まっている)と把握すべきです。
 新自由主義は、本来、大企業と高額所得者に対して、大幅減税し規制緩和し、儲けるだけ儲けさせる経済システムです。
したがって必然的に国家財政は赤字になります。
これを補てんするために国債を大量発行し、消費税率を引き上げ、社会保障費を削り、あらゆる手段で財政赤字を労働者階級に転嫁してきます。
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 サブプライムローン問題に端を発して、08年後半から「百年に一度」と言われる第4次世界同時大不況(世界恐慌)に突入しました。大企業と高額所得者に対する大幅減税や規制緩和だけではこと足りず、誰にも憚ることなく破廉恥にも公的資金と称して現ナマを直接注入するところまで来てしまったのです。
 新自由主義の暴走をこのまま放置しておけば、貧富の差の二極分化はさらに進み、失業者、ワーキンクプア、ホームレス、自殺者、餓死者が急増し、最終的には階級の共倒れを引き起こし資本主義の破局まで、つまり人類の破滅まで推し進めることになります。民主党政権になってもこの状況に変化はないでしょう(悪化するかもしれませんが)。
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 この最悪の状況を変えることができるのは、科学的社会主義を堅持する新社会党しかありません。今日ほど私たちの活動が重要になっている時代はありません。新社会党の足元には、組織労働者は少なくなりましたが、「未組織労働者、非正規雇用者、失業者、農業・漁業従事者、パート・アルバイト、学生、年金生活者、社会的弱者」が「市民社会」として取り残されています。
 したがって、私たちはかつての組織労働者を再び取り戻す活動に全力で取り組むと同時に、「市民社会」に対するネットワークとしての地域ユニオンを拡大していかなければなりません。「百年に一度」の社会主義革命のチャンス到来です。


サイト管理者
 新社会に興味ある論文が掲載されていたので上記に紹介しました。