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鳥取県の評価制度

 鳥取県は平成15年度から評価制度を導入した。他の自治体の手本(?)の一つにもなっているようである。導入の理由は、本当に評価したいのか、単なる財政再建なのかが重要であり、財政再建の為の低賃金政策の理由付けとして実施するならば下記のような諸問題があり、破綻する。
 鳥取県では、評価が最低の職員に対し「退職勧奨」を強要し2名が退職に応じたという。(朝日新聞6/14)

 評価制度についてはいろいろな意見があり問題もあるが、職場の現状から考察してみる。

 その第一は評価する側の方の問題である。既存の県当局の組織は、評価する側が人事課優遇やごますり優遇・などイエスマンが中心に県を運営しており、情実人事が横行しているのが現実である。そういうイエスマンは県知事をはじめ上司の顔色を常に気にしているだけのことで、極度に萎縮し緊張している。そういう彼らは職員を公正に評価することに慣れていなかったり、またそういう能力を持ち合わせていないことである。従って県財政が赤字になる恐れがあっても、無駄な公共投資を続けることになる。この体質は所謂OBの関係団体への天下り問題とも関連し、政治と業界が癒着し税金をくいものにする構図がつくられている。

 第二に職場では何故か約3年に一度の転勤があり、職員は多くの業務をこなしてはいるが、逆に表面上の仕事しか知らない状態が意図的に作られている。幹部職員からヒラ職員にいたるまで、一つの仕事に精通しないまま、転勤している。職員の能力が高くても、最初の1年は勉強会に終わり、2年目にはなんとか一人前に仕事ができるようになる。3年目に仕事について或いは県政について考えることができるようになるが、もう転勤である。このようなやり方は県民の税金を無駄に使っている証拠であろう。特に幹部職員は転勤のたびに昇格し、酒席などでは「君は昇進を諦めたのか」などの言葉が飛び交っている。従って多くの幹部職員は部下に対して専門的で具体的な指導はできない。仕事は管理職が部下に教えてもらっているのが現実である。報道された「上司による現場での指導や研修」が可能かどうか疑わしい。

 第三に従来からも職員に対し「勤務評定」という名の査定が実施されていた。しかしその基準は公表されず、査定された本人にはその内容が通知されていないこと。その査定は最初に査定され評価を受けたら、本人が転勤したり、管理職が入れ替わっても原則として継続するものであった。一般的に査定の結果は昇進・昇格時に利用されてきたものである。この制度は一度の評価を受けると個人の努力では簡単に変わらないものであった。

 第四に健康問題と責任について
 職員は県の人事委員会の採用試験と健康診断そして身元調査が行われ、健全な肉体を保持し有能な人間が採用されている。ところが多忙な業務や配転そしていじめなどで多くのストレスを抱え込む。ついには精神に障害をきたし自殺者を生み出している。一般的には自殺の現状や理由は隠されているが、業務上により精神が破壊され、自殺にまで追い込まれた原因の一つになるだろう。従って個人の責任だけに終わらせることは許されない。この責任の一端は県当局にあり、保障すべきである。

 第五に現在導入が進んでいる評価制度は行革・財政再建の一つとして総人件費抑制のために行われている。従って職員は小学生と同じ相対評価を受け、どれだけ努力しても評価が上がらないことにもなる。さらには毎年最低評価の職員を解雇するのである。リストラの為のいいがかりであり、評価制度は口実を与えているにすぎず、本来の県民福祉とは程遠い。

 第六に鳥取県は「最低の評価を受けたものは再教育をしてもらい、だめなら辞めてもらう」としている。上記の理由で労働組合は断固反対しなければならない。

 第七に「どの職員も勤務状態で同じ評価をうけ、年功序列で給料も差がなければ悪平等となる」という主張に至っては唖然とする。そもそも業務は一人前に処理して当然であり、それ以上でもそれ以下でもいけない。職員一人一人は組織の一員として忠実に仕事を処理して当然のことである。だからほとんど差はない。もちろん仕事に対する適正の問題はあるが、これは当局が適材適所に努めねばならないことである。

 第八にに公務員の場合、常に住民から監視されており、常に緊張状態にある。それを当然とする意見もあるだろうが、職員一人一人にとっては「県民の理解が得られない」との理由で生活全体が必要以上に萎縮させられている。

 第九に鳥取県の片山知事は「公務員になってしまえばどんなに仕事ができなくても安泰というのは根拠のない神話」と誹謗している。安泰などと考える公務員はもちろんいないが、それを公務員が考えていると一方的に誹謗抽象するのはマスコミと一体になり公務員バッシングを続ける中での偏見に満ちた発言である。

 第十に片山知事は「仕事のできない職員が多いほど非効率になり、民間企業では倒産」とも主張されている。仕事をしない人間が多ければ倒産するのは当然だろう。しかし仕事ができなければそもそも採用していないのである。
 仕事ができないのはむしろ管理職の指導のあり方の問題で、味噌クソに批判するのはあたらない。管理職は仕事の指導を懇切丁寧にできないのである。また職員がどれだけ努力しても、片方で湯水のごとく公共投資を行い、業界に奉仕するのであれば、職員の努力は無になる。この間の為政者は国民の声を無視し漫然と意図的に公共投資を続けてきたことにある。片山は自衛艦の後年度負担という借金の仕方を知っているのだろうか。税収に合わせた支出をしないで返済能力がないのに借金をするサラ金地獄と同じである。片山は一番重要な問題から県民の目をそらさせ、すべて責任は職員にあると言っている。こんな連中が何万人いても解決はできない。

 第十一に片山は職員解雇の問題は職員個人と任命権者との問題であり、労働組合は関係ないとも主張している。全時代的な発想には恐れ入る。彼の頭脳はいかに職員を差別し分断し支配しようかということで一杯であり、基本的人権や民主主義など国民主権の立場は取らない。たぶん国家主権をめざす改憲論者だろう。しかしこんな人間を知事に当選させた鳥取県民の不幸は今後も続く。

 第十二に片山知事は3名の解雇を不当解雇と認識しているようである。組合に対して「不当解雇ならば裁判で争え、組合はそのためにある」と開き直り、労働組合に説教している。笑い話のような本当の話である。笑ってはいられない。労働組合は組合員の生活を守るのが仕事である。解雇された人からも組合費を徴収しているだろう。解雇を撤回させるのが主人公たる組合員に報いるみちである。

 第十三に片山知事の評価制度では、良い成績を上げれば若者は管理職に抜擢されることになり、悪い管理職は本当に降格人事になるのだろうか。人事畑でない若者が良い成績を上げ、先輩を尻目に○○部長に抜擢されるシステムならばおもしろい。このことがなければ評価制度は機能しない。従来同様のイエスマンを育てる制度であってはならない。しかし下記の項目では上司にゴマをすらないと高い評価をうけない。ゴマすりも能力の一つなのだろうか。
 本来の評価制度は財政再建の為に差別を・低賃金・人員削減を行うものではないと考える。従って鳥取県の評価制度は、評価制度に名を借りた低賃金リストラである。

 第十四に鳥取県は「辞めさせるのが目的だったが能力不足の証拠がない為訴訟を恐れ退職を勧めた」と主張しているが、このことは鳥取県の評価制度では明確な判定ができないことを裏付けている。またそういういい加減な判定で退職を強要したことは重大な問題である。

 第十五に「年功序列で給料も大差ない事実が公文書で明らかになれば、公務員の悪平等ぶりが批判の的になりかねない。」と主張するが、これは「言った者勝ち」であろう。具体的に何故「悪平等」なのか証明すべきである。しいて言えば幹部ポストを能力があるないにかかわらず、たらい回しにしていることである。簡潔に言うならば「順番」ということである。
 「悪平等」というが業務を的確にこなしておれば、あえて「差をつける」理由はない。民間では無理な「差を」つけるので、各種諸問題が発生していると思われる。さらには人間の生活や家族の生活にかかわりのない「差」をつけるべきではない。つけるとしても本人だけの問題である。家族に影響を与えれば恨みを買うだけである。

 第十六に「税金の無駄遣いはできぬ」と胸を張っている。片山は知事に成り立てだから良く知らないらしい。元々公務員は「全体の奉仕者」と言われてきており無駄遣いをしないことは公務員の常識である。但し、生活が保障されてのことである。国民の一人として「ただ働き」での奉仕はできない。知事自らが証明している。生活があるからである。一方依然として高給公務員の汚職がなくならない。つまり評価する側の方に問題がある。

 第十七に現在民間も含めて進められている評価制度は相対評価であり、先行している民間では必ずしも業績が上がっていないのである。職場の仲間同士の足の引っ張り合いが始まる。鳥取県で仮に導入した為業績が上がらなかったら誰が責任を取れるのだろうか。今まで知事や議員の政策の失敗が追求されたことはない。またそれを取り巻く幹部職員の進言が適切であったかどうか問われたこともない。今回も従来と同様失敗の責任は誰も取らないのではないか。失敗すれば県民サービス低下と増税を招くだけである。現に小泉政治が国民への負担を強いているではないか。

 第十八に現在の労務管理体制では、評価が一度下位にランクされれば取り返すことは難しい。そういう人達は頑張る力が失われてしまう。どのように解決するのだろうか。

 第十九に鳥取県は労使で評価制度の欠点・公正客観性など公平な評価制度をめざし、特に評価者に対する研修を強化しているという。相対評価は存続する。また議会や県当局の無駄な公共投資が多い中、労働意欲が増し、鳥取県全体の業績を果たしてあげられるのだろうか。

 第二十に労働組合は4原則(公平・公正、透明、客観、納得)2要件(労働組合の関与、苦情解決システム)を要求し、話し合いをしているが、どれだけ納得できる制度にできるか今後に期待したい。数年後に全職員が元気が出ているかどうかが問われる。

 最後に評価制度を理由に解雇するくらいだから鳥取県では管理職の降格人事も当然行われているだろう。元々能力のない管理職は能力のある若い部下に席を譲らねばならない。その為には管理職も含めすべての個人評価が公開されねばならない。公開されることがお手盛り防止になる。県全体が納得できる状態でないと失敗する。

    鳥取県の評価制度評定項目
実績
 1 仕事の成果
 2 創意工夫
 3 正確性
 4 迅速性
 5 業務の進行管理
能力
 1 知識・技能
 2 企画力
 3 情報収集力
 4 理解力・判断力
姿勢
 1 責任感
 2 積極性
 3 協調性
 4 規律性
チャレンジ性

  5段階評価については14の小項目それぞれで最高1点から最低5点の点数をつけていき、実績・能力・取り組み姿勢・チャレンジ性の4大項目ごとにだした平均点の合計が総合評定になる。合計が6点未満で最高ランクの「1」で、18から20点が最低ランクの「5」である。


 これが鳥取県の評価制度の基準である。どこのコンサルタントが作ったのか知らないが、ご覧のようにズレてしまっている管理職や幹部の思いのままに職員をあやつり、職員の評価を自由に変えることが可能な評価基準である。
 どんな基準でもそれを判断する能力がないと公正にはやれない。ここが最大の落とし穴である。また仮にこの基準を職員がクリアしているとすれば管理職の仕事は何になるのだろうか。管理職は不必要となるだろう。現実には管理職抜きでも仕事がまわる。

 片山知事は評価制度について自信満々のようだが、単なるイエスマンづくりの延長であり、財政再建を職員に転嫁する無責任振りが明白である。


朝日新聞社
 朝日の記者はは下記の法律があることをご存知ないようである。朝日新聞は、「民間は自由に首を切ることができるが、公務員は法律で保障されているのでできない」との認識のようである。どういう法律に守られているのだろうか。是非聞きたいものである。
 民間人であろうとも公務員であろうとも自由に解雇できないのは当然である。なぜならば生活があるからである。朝日新聞は自由に解雇できる会社なのであろうか。だとすれば大問題である。

 6月14日付けの新聞では「公務員のリストラ進むか」と見出しがついていた。いかにも公務員の首切りを期待していると言わんばかりである。少しは公務員給与右習いの、法人が多数存在していることも考えたらどうかと言いたい。

 「再教育でダメならクビ」という表現も問題がある。ダメ人間はクビを切られて当たり前という、人権を無視するような表現の仕方も問題である。

労働基準法
(解雇)第18条の2 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。《追加》平15法104

(解雇制限)第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。《改正》平9法922 

 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

(解雇の予告)第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。 

第21条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第1号に該当する者が1箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第2号若しくは第3号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第4号に該当する者が14日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。

1.日日雇い入れられる者
2.2箇月以内の期間を定めて使用される者
3.季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者
4.試の使用期間中の者

(退職時等の証明)第22条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。《改正》平10法112

《改正》平15法1042 労働者が、第20条第1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

《追加》平15法1043 前2項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

《改正》平15法1044 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第1項及び第2項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。


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