規制緩和の流れ    戻る

 「これまで小泉内閣は「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」の基本理念のもとに、金融システム改革、規制改革、税制改革、歳出改革といった構造改革を進めてきました。この成果として出てきた改革の芽を大きな木に育てます。」という具合に徹底的に国民生活の切下げやあらゆる部署でのリストラをすすめてきた。

 これまでアメリカは日本に対しあらゆる分野での経済政策を要求してきている。一言で言えば市場開放である。アメリカが日本市場に自由に参入できる条件が求められた。
 これをうけ日本政府は米国と一体になりながら、日本経済の構造改革・小泉改革を進めている。金融改革や郵政改革も同様である。

 このページは米国との関係で特に電気事業と金融・郵政事業について政治的流れをまとめたものである。

1995年電気事業法改正概要のみ
1996年米国連邦議会調査報告
1998年日本における規制撤廃、競争政策、透明性、及びその他の政府慣行に関する日本政府への米国政府要望書
1999年電気事業審議会報告
1999年電気事業審議会報告に関する米国政府のコメン
1999年電気事業法改正概要のみ
2002年日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書 郵政関連あり
2003年電気事業法改正概要のみ
2004年郵政民営化閣議決定
2004年日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 郵政関連あり

2005年郵政民営化法案の強行に抗議する

2005年ポートマン米国通商代表、日本の規制改革を称賛 11月

電力の部分供給等に係る独占禁止法上の考え方  公正取引委員会


経済財政諮問会議とは   (総理を議長とする会議で11名で構成)  ご覧の様に奥田経団連会長も民間人として参加している。しかし消費者や生活者労働者の代表は存在しない。経済財政諮問会議は資本家の意志が反映されることになる。報道で「民間議員」と言う場合は国民の代表ではなく、奥田やウシオなど財界の代弁者や大学教授のことを示す。政府も財界代表とは言いにくいのであろう。

経済財政諮問会議議員名簿
議長 小泉 純一郎 内閣総理大臣
議員 安倍 晋三 内閣官房長官
同 与謝野 馨 内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
同 竹中 平蔵 総務大臣
同 谷垣 禎一 財務大臣
同 二階 俊博 経済産業大臣
同 福井 俊彦 日本銀行総裁
同 牛尾 治朗 ウシオ電機(株)代表取締役会長
同 奥田 碩 トヨタ自動車(株)取締役会長
同 本間 正明 大阪大学大学院経済学研究科教授
同 吉川 洋 東京大学大学院経済学研究科教授

 経済財政諮問会議の構成を見ても国民の意思が反映されず、財界の意志のみが反映されるしくみである。


日本における規制撤廃、競争政策、透明性、及びその他の政府慣行に関する日本政府への米国政府要望書
                       1998年10月7日

 米国政府は、ここに、日本における規制撤廃、競争政策、透明性およびその他の政府慣行に関する要望書を、日本政府に提出する。本要望書における提案は、1997年6月にクリントン大統領と当時の橋本首相が合意した「規制緩和及び競争政策に関する強化されたイニシアティブ」(「強化されたイニシアティブ」)との関連で、1998年5月に発表された「規制緩和及び競争政策に関する日米間の強化されたイニシアティブに関する第1回共同現状報告」(「共同現状報告」)に謳われている両国政府が達成してきたこれまでの進展に照らして提出するものである。
 本要望書は、「共同現状報告」で列記された措置の完全かつ迅速な実施の必要性について述べるとともに、「強化されたイニシアティブ」の下での2年目に、これまでの実績を基盤にさらに前進するという両国政府の決意を反映したものである。米国は、本要望書が、1999年6月にドイツのケルンで開催される、次回G8サミットで日米両国政府が共同で発表する予定の「第2回共同現状報告」の基礎となることを確信する。

 米国は長年にわたり、規制撤廃は日本経済の基盤を強化し、日本全国で事業・雇用機会を拡大し、貿易相手国に対して日本の市場を開放し、日本国民の生活水準と長期的経済・金融の安定を向上させるとの信念に基づいて、日本での規制撤廃を促進してきた。意味のある迅速な規制撤廃は、日本経済が内需主導型の成長を取り戻すための効果的なマクロ経済政策を補完する極めて重要な要素である。現在の世界的な経済危機、そして特にアジアにおける日本の隣人である多くの国々が経験している深刻な景気後退により、日本が規制撤廃と市場開放の強力な行動を取る必要性は、さらに差し迫ったものとなっている。

 「強化されたイニシアティブ」は日米両国の規制撤廃努力の中心となるものであり、両国は引き続きいくつかの二国間合意およびフォーラムにおいて規制撤廃の課題を取り上げていく。従って、本要望書に盛り込まれた提案は、米国政府の関心・懸念の対象となる日本における課題の包括的なリストとして作成されたものではない。

 米国は、日本における「規制緩和と市場の自由化の実施に向けて全力を尽くす」という小渕首相の力強い声明を歓迎する。米国政府はまた、1998年3月に発表された「規制緩和推進3カ年計画」に象徴されるように、日本が、規制撤廃のさらなる推進が差し迫ったものであると認識していることを高く評価する。米国政府は、日本が「規制緩和計画」に盛り込まれた措置の実施、およびその範囲の大幅な拡大に向けて、早急に行動することを強く求める。

 米国政府はまた、今年の春、「行政改革推進本部」の下に新たな「規制緩和委員会」が設置されたことを歓迎する。米国政府は、「規制緩和委員会」が、「規制緩和計画」に盛り込まれた措置の実施を監視し、また、日本政府が実施するさらなる規制撤廃措置の提言をするという2つの使命を担っていることを評価する。

 米国は、規制撤廃、競争政策、そして透明性やその他の政府慣行に関して、「強化されたイニシアティブ」の下で、日本と緊密かつ協力的な作業を続けることを期待している。本要望書は、そのような精神にのっとって提出されるものである。

(以下にエネルギー政策について抜粋)
エネルギー

 日本政府は、エネルギーの安定供給を維持しつつ、エネルギーコストを国際レベルまで引き下げることに重点を置いている。米国政府は、規制緩和委員会が8月ならびに9月の報告の中で表明した、エネルギー分野における規制撤廃と競争の促進、ならびに次にあげる実施目標を歓迎する。すなわち、電力供給システムの見直しや電力事業者間の競争強化、大口電力供給事業者に対する現行の許可制度の廃止および大口販売自由化による企業用電力と産業用電力の区分廃止の検討、小口販売自由化予定の明示、新規参入事業者と既存の電力事業者間の公正な競争を確保するための、電力託送料金の算定基準の開示の検討、電力事業者の効率向上を目的とした発電市場活性化および現行の料金制度見直しのための措置の検討、ガス事業における競争原理導入努力の強化、大口供給に対する要件の緩和と範囲の拡大、ならびにガス託送事業の活性化である。米国政府は、規制撤廃と構造改革を通じた市場主導型改革が、日本の目標達成への最善の方策であるとの前提の下に、以下の提案を行う。

T. 高圧ガス保安法

 高圧ガス保安法は、製造業者に対し、指定されているすべての設備について検査申請を行うことを義務付けるものであり、それには外国企業の日本市場へのアクセスを妨げるような不必要で煩雑な要件も含まれる。日本政府は、試験、検査、および情報に関する要件を改正し、簡素化すべきである。特に日本に求められるのは、以下の点である。

T-A. タービンやコンプレッサーに対する試験要件を、アメリカ石油協会(API)やアメリカ機械学会(ASME)などの、国際的に受け入れられている規格と整合させる。それには、設計圧力の4倍の圧力で実施しなければならないという、設備に対する不必要な耐圧試験も含まれる。

T-B. タービンやコンプレッサーに対する試験・検査要件を簡素化する。

T-C. タービンやコンプレッサーの原産国における出荷前検査を促進する。

T-D. タービンやコンプレッサーの設計・製造申請手続における情報要件を簡略化する。

U. 電気事業法

 電気事業法で定められている設備の検査や報告についての要件は、不必要に煩雑であり、同分野における外国企業の競争を妨げている。日本政府は、基準を改正し、検査や情報についての要件の簡素化をはかるべきである。 特に日本に求められるのは、以下の点である。

U-A. 蒸気タービン等、溶接部あるいはケーシングを有する高圧設備についての基準を、アメリカ石油協会(API)、アメリカ機械学会(ASME)およびアメリカ電気製造業者協会(NEMA)などの、国際的に受け入れられている規格と整合させる。

U-B. 蒸気タービン等、溶接部あるいはケーシングを有する高圧設備に対する検査要件を簡素化する。

U-C. 蒸気タービン等、溶接部あるいはケーシングを有する高圧設備の原産国における出荷前検査を促進する。

U-D. 蒸気タービン等、溶接部あるいはケーシングを有する高圧設備の設計・製造申請手続における情報要件を簡略化する。

V. 既存発電施設の改良

 発電技術が絶えず進歩する中で、世界中の設備メーカーや電力事業者は、技術改良によって、既存の機械や設備からより多くの電力を得る方法を編み出そうとしている。しかしながら日本では、国、県、および地方自治体が煩雑な規制を設けているために、既存の設備を改良するコストが高くなっている。日本政府は、現在の発電容量を増やし増大するエネルギー需要に応えるための費用対効果の高い方法を幅広く提供するために、国のエネルギー政策の目標に沿う形で、既存の発電施設の改良に関する規制の見直しおよび簡素化を行うべきである。

W. 予備発電機の認証

 日本では、予備発電機を設置する際の法的認可や民間の認証を得ることが、必要以上に煩雑なプロセスとなっている。日本政府は、予備発電機に対する国際認証を受け入れるための措置を講じるべきである。 特に日本に求められるのは、以下の点である。

W-A. 発電機の設置に関する法的認可過程を簡素化し、簡略化する。

W-B. 消防庁を通じ、各消防署に対し、公認機関による認証は日本エンジン発電機協会(NEGA)によるものと同等であると見なすよう指導する。

X. 電力線信号装置

 現在、オフィスオートメーション制御装置などの、電力線を通じて搬送される信号を使う装置の日本市場へのアクセスは、不必要に煩雑な規制によって制限されている。日本は1999年中にこうした規制を緩和し、これらの装置の市場を拡大するために、以下の措置を講じるべきである。

X-A. 日本の電波法施行規則第46条および48条などの電力線施行に関する規則にある「特殊搬送式デジタル伝送装置」のカテゴリーを変更し、ブロッキングフィルターを必要としない信号変調の承認された形態として、位相変調(具体的には二相シフトキーイング)を加える。

X-B. 搬送周波数、電力、漏洩RF、伝送速度、自動再送信周期などの、「特殊搬送式デジタル伝送装置」のカテゴリーの技術的なパラメーターを、国際規格に従って変更する。

Y. 給油所および給油ポンプ

 1998年4月のセルフサービス方式の給油所の導入をはじめとするガソリン分野における最近の規制撤廃は、同分野にこれまで以上の競争をもたらし、日本の消費者にとっては、ガソリンの値段が下がった。しかし、日本には、依然として給油所および給油ポンプに対する独特かつ過剰な規制がある。日本政府は、給油所や給油ポンプに関する規制を改正し、不必要、時代遅れ、かつ重複する規制を廃止すべきである。特に日本に求められるのは、以下の点である。

Y-A. セルフサービス方式の給油所や給油ポンプに対する規制と認可のプロセスを簡素化し、その透明性を確保する。

Y-B. 危険防止ならびに他の要件については、国際的に認められた、安全性を確かめる検査を行なう試験機関の定めるものと整合したものを採用する。

Z. 基準

Z-A. エネルギー分野における民営化を進め、自発的で市場主導型の基準に依存していく。

Z-B. すべての圧力機設備の基準を共通化できる国際標準化機構(ISO)の基準の設定を目標として、日米両国の民間部門によるISO第11技術委員会(ボイラーおよび圧力容器分野)の復活に向けた努力を支援する。

Z-C. 自発的な民間部門の基準をこれまで以上に活用し、性能重視の規制に移行する。

[. 透明性

[-A. オープンで、競争に基づき、透明性が高くかつ非差別的な調達プロセスを保証する。

[-B. 外国のエネルギー製品やサービスの供給業者、その指定配給業者または代理人が、日本の製造業者と対等の立場で、関連の諮問委員会、業界団体、および他の関連機関に参加し、意見を述べることができるような意味のある機会を得られるようにする。

[-C. エネルギー分野に関連する基準案、技術要件、およびその他の規制に対し、利害関係者が検討を行いコメントをするための、十分かつ時宜を得た機会を与える。加えて、それらの利害関係者には、要求すれば、通産省やその他の関連する政府機関のあらゆるレベルとの意見交換の機会が与えられるべきである。

[-D. エネルギー分野に関する基準、技術要件、およびその他の規制を作成・発表する民間ならびに準政府機関に対し、当該基準や他の要件を採用あるいは発表する前に、パブリックコメント手続を実施し、これら民間機関の決定に申し立てができるプロセスを確立するよう求める。

\. 競争政策


 米国政府は、日本の公正取引委員会が1997年に実施した、電力およびガス分野における規制撤廃と競争に関する調査を評価している。日本がエネルギー分野の規制撤廃を行うにあたり、公正取引委員会は、市場の動向を厳密に監視するとともに、独占禁止法を積極的に施行し、同分野での競争政策を支持するために、予算と人員の追加をはかるべきである。


金融サービス  (金融サービスについて抜粋)


 米国政府は、日本政府が日本版ビッグバン(金融システム改革)の一環として今日までに講じてきた措置、および両国政府の「枠組み合意」の下でまとめられた「1995年の金融サービスに関する日米両国政府による諸措置」の中で取り上げられている措置の着実な実施を歓迎する。米国政府は、今後も引き続きこうした措置の実施を厳密に監視するとともに、日本の金融市場のさらなる開放と発展に向けたビッグバン計画の下で予定されている追加策に関心を持っている。

 日本の金融市場の規制改革がさらに進めば、競争が促進され、その結果として日本の長期成長見通しは好転し、個人および日本企業の投資機会の多様化につながる。

T. 個別措置

 こうした観点から、米国政府は、以下の分野における規制撤廃が可能な限り早期に実施されることを歓迎する。

T-A. 年金福祉事業団、簡易保険、郵便貯金等の公的資金の運用にあたり、特金スキームによる資産運用への移行の前向きな検討。

T-B. ファンドスポンサーが資産運用担当者を変更する時に、運用資金の全額現金化を義務づけている現行規定の廃止。

T-C. 証券会社が新型金融商品およびサービスを提供するビジネス機会の範囲の拡大。

T-D. ノンバンクが社債やコマーシャルペーパー発行によって調達する資金の使途の制限撤廃。

T-E. 市場参加者に対する、金融機関(資産運用担当者を含む)によるディスクロージャー(情報開示)の拡大。T-F. 税制上優遇措置のある確定拠出型年金プランの導入。

U. 透明性

 米国政府は、透明性および政府慣行を改善する以下の規制撤廃措置を歓迎する。

U-A. 新商品および新規サービスの開放的で透明な許認可プロセスの確立。

U-B. すべての新たな規制についてパブリックコメント手続を制度化し、規制変更の最終決定からその実施まで十分な時間的猶予を確保して、金融業界が組織・業務・システム上の必要な変更を行うことができるようにすること。

U-C. 特に、以下の規制措置について、パブリックコメント手続の制度化。

U-C-1. 各銀行が投資信託の販売を開始する12月1日付けで発効する、投資信託に関する新たなディスクロジャー(情報開示)規則。

U-C-2. 投資信託管理会社による、海外関連会社への、自由裁量権限の委譲。

U-C-3. 連結会計および時価会計に関わる会計変更に対する規制。

U-C-4. 「特定目的会社法」に関する規制。

U-C-5. 「サービサー法」に関する規制。

U-D. 「証券投資家保護基金」の設立および運営が公正、透明であることを確保し、かつ慎重な規律を課すために、以下を実施する。

U-D-1. 得意先勘定と資本主勘定の資産分離の明確化。

U-D-2. 「基金」への加入に際して、自己資本規制比率の確認義務付け。

U-D-3. 各企業の「基金」要件遵守状況の公開。

U-D-4. 適正なパブリックコメント手続の活用。

U-E. 以下に挙げる民間団体などの規制に対するパブリックコメント手続の適用。

U-E-1. 日本証券業協会。

U-E-2. 生命保険および損害保険契約者保護団体。

U-E-3. 損害保険料算定会。

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電気事業審議会基本政策部会の報告書(案)に対する米国政府のコメント
1999年1月

 米国政府は、1998年12月11日に発表された電気事業審議会(電事審)基本政策部会の報告書(案)に対し、コメントを述べる機会を与えられた事を歓迎する。電気事業審議会の報告書(案)には、OECD諸国の中で最も高い日本の電気料金を2001年までに国際的に遜色のない水準に引き下げるという日本政府の目的を実現するための具体的な施策が含まれている。米国政府は、日本経済に利益をもたらす電気料金の引き下げという日本政府の目標を支持する。しかしながら米国政府は、現在の提案内容ではその目的にむけてわずかな進展しか達成できないと考える。

 日本の電力市場自由化にむけた電事審の構想は、次の三点に基づくものである。(1)電力会社の経営の自主性を可能な限り保ち、政府の干渉を最小限にする。(2)透明性が高く平等なルールを作り、公正かつ有効な競争を確保する。(3)部分自由化の恩恵を、非自由化部門を含む全ての消費者に行き渡らせる。これらの目的を達成するためには、電力の規制緩和計画の中で、発電又は送電市場において電力会社が持つ力を制限する市場構造を確立し、政府及び電力会社が実施に必要な規則や手続きを十分に透明なものとし、合理的なビジネス上の判断を可能にする情報へのアクセス・開示を確実なものとしなけばならない。

 米国政府は、電事審の提案事項は多くの主要な点において曖昧さがあり、それをもって日本政府の電力分野の自由化という目的に必要な市場構造、透明性及び競争のためのルールが確立できるのかは不明だと考える。提案事項の中では、電力分野の規制緩和に関する主要な論点を取り上げ、取り組むべき問題の複雑な性質について述べられている。しかしながら国際的な経験に鑑みると、日本の電気料金の大幅な引き下げには、この報告書の内容に加えて一層の徹底した規制緩和が必要と見られる。

自由化の範囲

 自由化の範囲は、2000kW以上及び20000ボルト以上の高圧電線で受領する需要家に限られており、それらの需要家は小売市場の約30パーセントに相当する。米国政府は電力分野の改革に関する政策が、経済的な目的(効率性の向上、価格の引き下げ等)及び公益に基づく目的(安定的な電力供給の維持、システムの信頼性、環境問題等)のバランスの上に成り立つ必要性を認識しており、各国の規制緩和においてもこれらの目標は効果的に両立されている。
 実際、一層の競争の導入が、整合性のとれた電力システムやその制度設計、運営およびサービスの質に悪影響を及ぼすという証拠はどこにもない。従ってシステムの信頼性に対する懸念やその他公益に基づく政策目標を、電力分野の効果的な規制緩和を制限、遅延あるいは阻害する理由としてはならない。

公正な競争の確保

 報告書(案)は、「原則的に」政府から事前規制、価格規制及び大口の需要家に電力を供給する義務を課す事はないものとし、契約条件は原則的に民間会社同士の自由な交渉により決定するべきだとしている。米国政府は、電事審がにらむ創意工夫、競争及び消費者の幅広い選択肢は、日本政府が発電市場における効果的な競争及び送電設備への公正なアクセスを担保するための積極的な役割を果たさない限り実現しないものと考える。

 独占状態から競争的な市場へ移行するには、ほとんどの国において、適切な反トラストまたはその他の規制官庁による積極的な支持及び執行に依るところが大きい。電力分野において競争を促進するためには、報告書(案)は、おそらく現在の独占禁止法の適用除外に代わるものして、一般に日本の独占禁止法の厳格な適用に依るべきだとしており、部分自由化の導入前に、電力の取り引きに関する独占禁止法と整合性のとれたルールを確立するべきだとしている。

 公正取引委員会により電力分野に関する非常に重要な調査が行われたが、米国政府は今日に至るまで公正取引委員会は、電力分野においては極めて限られた役割しか果たしていないと考える。市場の混乱を避け、改革の効果を最大限に発揮し、自由化計画の実施の遅れを防ぐためにも、公正取引委員会は独占禁止法の改正を行い、同法が電力分野にも適用されることを明確にするべきである。

 また米国政府は、公正取引委員会に現行の競争に関する法律や規制の見直しを行い、電力会社の市場支配力が反競争的な目的に利用される事を防止するのに適切なものとする事を求める。さらに日本政府は、必要に応じ、新たな競争政策を策定するべきである。

独立した規制官庁

 報告書(案)は一定の規制の変更の必要性については認めているものの、電力分野に独立した規制官庁を設立することは想定していない。それと比較して、電力分野の規制緩和を行った国の多くは、政策立案とは独立した別個の専門分野の分析力を備えた規制官庁を設立しており、その透明性に対する義務、責任、目的及び権限が明確化されている。

 また米国政府は日本政府に対し、独立した監督権限を確保し、電力会社が規制分野の価格を引き上げることにより規制緩和された分野への価格補助が行われないよう担保する事を求める。電事審の報告書はコストの会計上のモデルプランを作成し、独立した公認会計士が会社のバランスシートとそのモデルプランとの整合性を確認するとしているが、その詳細はいまだ未定である。

送電システムへの公正なアクセス

 差別のない料金設定や全てのユーザーが送電システムへの公正なアクセス条件を保証される事は、効果的な自由化政策のために不可欠である。米国政府は、電事審が電力会社に対し「自然独占的」な事業活動と競争的な事業活動に関し、独立した会計システムを確立する事を要求するよう求める。さらに電事審は電力会社に対し全てのユーザーが効率的にネットワークを利用できるように、送電システムの利用料金と利用可能性について電力会社が情報を提供するよう求めるべきである。

 託送料金に関しては、専門家会合において今年からさらなる協議がなされる事となっているが、その料金設定が新規事業者が参入するかどうかの鍵を握っている。独立した発電事業者が、自由化部門のエンドユーザーに電力を供給する電力会社と競合できる事を確実なものとするためには、送電及びそれに付随するサービスは、コストを反映した差別的でない価格によって利用が可能でなければならない。現在電力会社は、自由化部門の90パーセントを占める産業用電力の大口需要家から電力1kWhあたり約10円を徴収している。

 仮に新規事業者が発電コストを1kWhあたり三分の一以上引き下げ、6−7円に押さえる事が可能だとしても、電事審の審議の過程において参加者から提案された高い託送料金では(1kWhあたり約3.8−3.9円。コストを反映しているとは思われず、実際、電力会社が相互に徴収している料金よりも高い)、この市場は新規参入者にとって魅力的な市場とはなり得ない。

次なるステップの明確化

 報告書は自由化の範囲および制度そのものついて、新制度導入のおよそ3年後に見直しを行うことを要請している。電力分野の改革は非常に時間がかかり、また定期的な見直し及び政策の変更を必要とする分野である。日本政府はそのような見直しを行うことにより、改革への取り組みを明確にするべきである。

 また米国政府は、日本政府に将来の規制緩和に関しその方向性とスケジュールを明確化し、電力分野への新規の投資や参入の妨げにしかなり得ない将来への不確実性を払拭する事を要望する。特に、日本政府は以下に述べる措置を取るべきである。

* 高圧電線(6000−20000ボルト)を通じて電気を受領し小売りの対象となる需要家の範囲を広げ、可能な範囲で、全ての企業用及び住居用の需要家にまで拡大する。

* 電力会社の供給区域外への電力の販売を見直し、既存電力会社間の競争を促進し、供給安定性への信頼度を高める。

* 当初今年中の導入が予定されていたが、2000年まで延期となった火力発電の新しい入札制を実施し、発電や設備供給の分野への新規参入を促すための施策をとる。

* 電力会社に適用される経済規制を修正し、独占部門においてはより効率的な運営および投資へのインセンティブを高め、自由化部門では公正な競争を行うインセンティブを高める。

* 電力会社が自主的に発電キャパシティを複数の買い手へ販売する事を、促進する措置をとる。

* 垂直的及び水平的な事業の分離に関してあらゆる可能な選択肢を検討し、電力部門の規制緩和に関する世界各国の関連した事例について検討を行い、電力市場の競争を促進する。

1990年代の規制緩和の世界的な流れの中で、日本の高コスト構造、内外価格差の是正が課題となりました。平成5年、総務庁(当時)のエネルギーに関する規制緩和への提言を契機に、電気事業審議会での審議を経て、平成7年(1995年)4月に31年ぶりに電気事業法が改正されました。

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電気事業審議会 基本政策部会 報告
平成11年(1999)1月21日
電気事業審議会基本政策部会
 
目   次

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第一章 新たな電力システムを検討するに当たっての基本的な考え方・・ 4
  1.今後とも維持すべき価値としての公益的課題・・・・・・・・・ 5
  2.更なる競争導入による効率化の追求・・・・・・・・・・・・・ 6

第二章 制度設計の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
 第一節 小売分野における部分自由化の具体的設計・・・・・・・・・ 10
  1.自由化の範囲について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
  2.自由化部門の制度設計について・・・・・・・・・・・・・・・ 12
   (1) 原則
   (2) 例外としての最終保障の在り方
   (3) 非自由化対象需要家への悪影響防止のための仕組み
   (4) 特定電気事業・特定供給の扱い
  3.託送制度について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
   (1) 規制の在り方
   (2) 託送ルールの在り方
   (3) 明確で透明な託送ルール設定手続の在り方
  4.公益的課題との両立の方策について・・・・・・・・・・・・・ 23
   (1) 常時の対応
   (2) 自然災害やオイルショック等の緊急時の対応
第二節 発電市場の活性化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
  1.計画的側面の維持・強化(広域的運営の維持・強化)・・・・・ 25
  2.広域的発電市場への更なる競争導入・・・・・・・・・・・・・ 26
第三節 適正な電力取引の確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
第四節 料金制度の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

第三章 制度改革の実施時期と将来の検証・・・・・・・・・・・・・・ 33
  1.制度改革の実施時期 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
  2.将来の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35



はじめに

 電気事業審議会基本政策部会は、「経済構造の変革と創造のためのプログラム」(平成8年12月閣議決定)及びこれを受けた「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月閣議決定)に基づき、平成9年7月に設置され、通商産業大臣から「平成十三年(二〇〇一年)までに国際的に遜色のないコスト水準を目指し、我が国電力のコストを中長期的に低減する基盤の確立を図るため、今後の電気事業は如何にあるべきか」との諮問が付託された。当部会は、この諮問の趣旨にのっとり、電力供給システム全般の見直しに関して、現在に至るまで14回にわたる審議(注1)を精力的に重ねてきた。

 この審議の成果は、既に昨年12月に一部取りまとめられている。即ち、当部会の下に設置された3つの小委員会(注2)において、火力電源全面入札制度の導入を決定するとともに、負荷率改善対策及び送配電設備のコスト低減対策を取りまとめた。

 一方、電力供給システム全般の見直しに関しては、いわゆる「電力の小売自由化」をおもに念頭におきながら、海外の実状、国内世論の動向などについて理解を深めるとともに、年明け以降、「完全自由化のイメージとその影響」について議論を深めてきた。

 こうした議論の上で、平成10年3月13日の第7回部会において、以下の 3点を確認するに至った。(注3)
 (1)効率化という要請とユニバーサルサービス、供給信頼度、エネルギーセキュリティ・環境という要請の両立を図るべきこと。
 (2)その際効率化の手段として、小売を始めとする競争導入を検討すべきこと。
 (3)これらの原則を踏まえ、21世紀にふさわしい新たな時代の電力システムをタイムスケジュールも考えながら構築すべきこと。

  当部会は、更に4月21日、5月7日の2回にわたって、委員試案(末次、鶴田、南部、八田各委員)及び「自由化の3類型(電力小売りの部分自由化、全面自由化、電力プール市場創設)」について検討を進めた結果、5月27日 に中間的整理(注4)を取りまとめ、新たな電力システムとして以下の方向性を確認するに至った。

(1)「新電力システム」については、当面は部分自由化を念頭に更に検討を深めること。
(2)全面自由化及びプール市場の創設は、現状では不適切で時期尚早であることから、将来の検討課題とし、海外の成果の検証も踏まえながら、その是非を検証する時期について検討することが妥当であること。
(3)望ましい自由化の姿については、次の3つの視点から検討すること。
  @民間事業者の創意工夫・経営の自主性を最大限活用し、行政の介入を最小化するという視点
  A電力会社と新規参入者との対等競争、有効競争の確保という視点
  B電力の需要家全般にいかに効率化の成果を行き渡らせるかという視点

 9月以降は、この中間的整理の内容を具体化すべく専門委員会(委員長;植草益 東洋大学経済学部教授)を設けて「部分自由化」の詳細な制度設計について検討し、去る11月25日、同委員会では以下のような取りまとめ(注4)を行ったところである。

(1) 送電ネットワークへのオープンアクセスルールを基にして、特別高圧分野における小売の自由化を2000年を目途に行う。
(2) 発電分野において、特別高圧需要家に対する自由化と整合のとれた火力電源全面入札制度の導入など、広域的発電市場の充実を目指す。
(3) こうした競争によってもたらされる電力会社の経営効率化の成果を、規制部門にも機動的に反映できるよう料金制度の見直しを行う(別途料金制度部会で検討)。
(4) 制度設計に当たっては、ユニバーサルサービスの達成、供給信頼度の維持、原子力利用の推進等エネルギーセキュリティ・環境保全の観点からの適切な電源構成の確保などの公益的課題と両立することを前提として、必要な制度的対応を講ずる。その際、このために必要な負担はすべての需要家が公平に負うことを原則とする。


 本部会は、今般、以上のような審議の経過を総合的に取りまとめ、ここに通商産業大臣から諮問された今後の電力供給システムの在り方についての考え方を明らかにするものである。
 以下、新たな電力システムを検討するに当たっての基本的な考え方(第一章)及び制度設計の概要(第二章)を提示するとともに、制度の実施時期及び将来の検証(第三章)について提言することとする。


(注1)本部会の審議の経過については、「電気事業審議会基本政策部会の審議の経緯(p38)」を参照のこと。

(注2)以下の3小委員会の結論については、別添の「電気事業審議会基本政策部会の審議経過」所収の「電気事業審議会基本政策部会中間報告(平成9年12月)(pUー7)」を参照のこと。
  基本政策小委員会(委員長 小松 國男 前石油公団総裁)
  電力負荷平準化対策検討小委員会(委員長 植草 益 
                       東洋大学経済学部教授)
  電力流通設備検討小委員会 (委員長 関根 泰次
                       東京理科大学工学部教授)

(注3)この間、行政改革委員会規制緩和小委員会においては電力分野について小売自由化に関する最終意見(平成9年12月)(「電気事業審議会基本政策部会の審議経過(pUー287)」を参照のこと。)を公表するとともに、政府においても、3月31日新規制緩和推進3カ年計画(「電気事業審議会基本政策部会の審議経過(pVー114)」を参照のこと。)を閣議決定している。

(注4)「中間的整理」については、別添の「電気事業審議会基本政策部会の審議経過」を参照のこと(pVー252)。また、「諸外国の実例(pTー65)」、「国内世論の動向(pTー153)」、「完全自由化のイメージとその影響(pVー44)」、「委員試案(pVー149)」及び「自由化の類型(pVー144)」についても、同じく別添の「電気事業審議会基本政策部会の審議経過」を参照のこと。<( )内は該当頁数>

(注5)このとりまとめの詳細は、別添の「電気事業審議会基本政策部会専門委員会報告書」を参照のこと。
 

第一章

 新たな電力システムを検討するに当たっての基本的な考え方

1.今後とも維持すべき価値としての公益的課題

  電気は生活・産業活動の基盤的な財であり、従って電気事業に対しては、低廉な供給のための効率化という常に変わらない要請に加えて、ユニバーサルサービスの達成、供給信頼度の維持、エネルギーセキュリティの確保や環境保全などの公益的課題への対応が要請されている。
  電気事業に関する制度、政策は、それぞれの時代背景を反映しつつ、一貫してこの命題に応えるために行われてきたといっても過言ではない。

  すなわち、戦前の競争時代から国家管理を経て、戦後、発送配電一貫の民間会社に地域独占供給を認め、行政は独占の弊害を排除するための公益事業規制を行うという体制の下で、こうした諸課題に対応してきた。また、地域間の需給ギャップの解消のために、発電設備の形成や運用に関して9つの電力会社や卸電気事業者が相互に協調することを目的とする広域的運営体制が、こうした基本的なシステムを補完してきた。
  この体制の下で、未点灯地域が解消し、ユニバーサルサービスが達成され、地域間料金格差も解消された。また、停電時間も減少し、電圧・周波数も安定するなど、世界的にも希にみる高品質の電力供給を実現するに至った。さらに、堅調な需要増に対応するために、電力会社は、発送電一貫体制の下で、送配電設備の形成を行うとともに、原子力開発を始めとする長期的な投資を行うなど、我が国のエネルギーセキュリティや環境保全を始めとするエネルギー政策の一翼を担うに至った。

  このようにして達成された高度な公益的成果は、我が国電気事業における国民的な財産とも言うべきものであり、今後ともこれを維持することが重要である。したがって、今回の制度設計に当たっても、効率化とこのような公益的課題とが両立することを前提に行うことが求められる。

2.更なる競争導入による効率化の追求

 他方で、近年の電気事業を巡る状況には、大きな変化が見られる。

 すなわち、産業活動の基盤的要素である金融、物流、エネルギー、情報通信などに関する高コスト構造の是正が我が国の経済構造改革の主要課題として認識されている中で、電気事業に関しても、更なる効率化が要請されている。
 また、海外においては、電気事業における効率化の手段として、小売自由化やプール市場の創設などの競争導入が各国の事情に応じて様々な形で進められている(注6)。我が国においても、電力会社以外の潜在的供給者として、IPP(独立系発電事業者)が一定規模の潜在的供給力を有することが昨年のIPP潜在供給力調査(注7)でも明らかになっている。
 さらに、COP3を踏まえた地球環境問題の高まりへの対応やエネルギーセキュリティの確保のための原子力開発の推進などの公益的課題もまた尖鋭化していることである(注8)。競争導入と公益課題との両立は海外の電気事業改革においても重要な論点であり、効率化の手段として競争を導入する点では共通しているものの、同時に、エネルギーセキュリティや環境保全への対応などの公益的要請については、各国の実状に応じて様々な手段を組み合わせることによって対応している。

 我が国においては、これまでも平成7年度の電気事業法の改正によって、発電分野に入札制度が導入されるなどの対応を行ってきたが、以上のような状況変化の下では、更なる競争導入による効率化の追求と公益的課題への対応の最適な組合せについて再度検討する時期に来ていると考えられる。
 その際、検討すべき新たな電力システムの考え方については、@プール市場の創設、Aすべての需要家に対する全面自由化、B一部の需要家に対する部分自由化の3つが存在するが、以下の理由により部分自由化を選択することが適当であると考えられる。

 まず、全面自由化やプール制度については、市場参加者が膨大になるため、必ずしも安定的な供給を行い得ない主体が参入する可能性がある。また、供給信頼度維持のためのシステムやルール設定について時間を要することが予想される。加えて、プール市場の創設については、発電・送配電設備運用システムの大幅な変更が必要となる。さらに、エネルギーセキュリティ・環境保全のために望ましい電源構成についても、より強制的な特定電源対策などさらに強固な対応が必要となることが予想される。
 他方、部分自由化については、自由化された部分の競争による電気事業全体の効率化の効果をいかに全需要家に行き渡らせるかの検討が必要となるものの、部分自由化の範囲にもよるが、ユニバーサルサービスは現状どおり維持することが可能である。また、新たな市場参加者の数が限定されていることから、供給信頼度維持のためのシステムやルール設定についても比較的容易と考えられる。さらに、エネルギーセキュリティ・環境保全のための望ましい電源構成についても、その主要な担い手となる電力会社の需給見通しの確実性が確保されやすく、電力会社を中心とする自主的な取組みとこれに対する需要家の公平な負担による支援等より柔軟な対応が可能となろう。

 以上のような理由により、我が国においては部分自由化を軸に電気事業制度改革を行うこととするが、制度設計に当たっては、以下の3つの原則により行うことが適当である。
 第一に、経営の自主性を最大限確保し行政の介入を最小化することである。競争による効率化の追求という経済構造改革の基本的理念を具体化するため、新たな電気事業システムは、電力会社にとっても新規参入者にとっても、また需要家にとっても、まず、この原則に沿うものである必要がある。
 第二に、対等かつ有効な競争を確保することである。電力会社と新規参入者が、ともに供給信頼度の維持などに必要十分な責任を負いながら対等の条件で競争すること、そして、この対等競争が規制強化とならず透明かつ公正であることを前提とした送電線の利用に関するルールなどの諸制度によって有効な競争となることが求められる。 
 第三に、全需要家へ効率化の成果を行き渡らせることである。部分自由化によって自由化に係らない需要家への悪影響が生じることは当然排除されるべきであるが、さらに、部分自由化による競争を通じて得られる効率化の成果を全需要家に行き渡らせることも求められる。


(注6)諸外国の電気事業制度改革の動向については、別添の「電気事業審議会基本政策部会の審議経過(pTー61)」を参照のこと。

(注7)IPP潜在供給力調査については、別添の「電気事業審議会基本政策部会の審議経過(pTー294)」を参照のこと。

(注8)COP3に関しては、別添の「電気事業審議会基本政策部会の審議経過(pVー111)」を参照のこと。

第二章

制度設計の概要


(※)専門委員会において表明された意見については、本冊子の末尾に添付されている「電気事業審議会基本政策部会専門委員会 委員意見集」を参照のこと。
  より詳細な議論の経緯については、別添の「電気事業審議会基本政策部会専門委員会報告書」を参照のこと。

第一節 小売分野における部分自由化の具体的設計

1.自由化の範囲について

  部分自由化に関する第一の論点は、「自由化の範囲」についてである。すなわち、供給者を選択できる需要家の範囲をどのような考え方で定め、具体的にどう設定するかという点である。

  自由化対象とすべき需要家については、まず、電力会社または電力会社以外の供給者と、価格などサービス内容について交渉しうる立場にある需要家とすることが適当である。さらに、このような需要家に対して電力会社以外の供給者(新規参入者)が供給することを可能にするためには、新規参入者が電力会社のネットワークを利用することが不可欠となる。したがって、こ
 うした新規参入者に対して電力会社がネットワークの利用を認めたとしても、電気事業全体の系統安定を阻害するおそれのない範囲内で自由化の範囲を設定することが求められる。

  我が国においては、需要家の契約種別は、大きくは、産業用需要、業務用需要、低圧需要、電灯需要の4区分に分かれており、さらに産業用需要は特別高圧需要、高圧需要A・Bの3区分に、業務用需要は特別高圧需要、高圧需要の2区分に分かれている。
  このうち、特別高圧需要家の特質を見てみると、自家発を設置するか、電力会社の設定する供給約款で受電するか、各種選択約款で契約するかなど、現時点においても複数の電力供給の形態を選択できる環境にあり、実績もある。
  さらに、ネットワークの利用の側面に関しても、特別高圧需要家については電力会社が現在の給電システムにより個別に監視・制御していることから、特別高圧需要家に対する供給のために新規参入者にネットワークの利用を認めたとしても、系統安定上特段の支障はないと考えられる。

  このため、「特別高圧需要家(電気の使用規模2千kW以上で、2万V特別高圧系統以上で受電する需要家)」(注9)(注10)を自由化対象需要家とすることが適当である。これにより、現在、電力会社が販売する総電力量の約3割を占める需要家に向けた電力小売が自由化されることとなる。

(注9)需要の単位(kW)については、一建物をなす場合は一建物、一構内をなすものは一構内を単位に計測することとする。
   なお、複数の需要場所において複数の需要家が共同して受電する場合、これを一需要として見るかどうかについては、今後実態を踏まえて改めて電気事業審議会の客観的かつ透明な場で検討することとする。

(注10)ただし、沖縄電力については、その地域内においても、地勢学的に系統が独立し、かつ広域的な運営も期待できないことから、こうした事情に配慮しつつ、別途、自由化の範囲を設定することとする。

2.自由化部門の制度設計について

  第二の論点は、「自由化部門の制度設計」である。現在、電気事業法においては、電力会社に独占的な小売供給を認めるとともに、需要家保護の観点から、料金規制や法的な供給義務を電力会社に課している。今回の自由化対象となる特別高圧需要家に対する供給に関しては、電力会社以外の参入が認められることとなるが、電力会社や新規参入者に対して、料金規制や供給義務を課すかどうか、という論点である。また、この論点には、電力会社内における自由化部門から非自由化部門への悪影響防止のための方策や、既存の特定電気事業や特定供給の在り方の整理も含まれる。

(1) 原則

  自由化対象の需要家は、供給者と交渉力のある特別高圧需要家であるので、需要家の保護の方策として、行政が事前に参入規制や、料金規制・供給義務を課すことは必要ないと考えられる。すなわち、自由化対象需要家への供給については、原則として参入規制、料金規制は行わず、供給義務も課さないこととし、当事者間の自由交渉による私契約を原則とすることが適当である。これによって、競争的な環境の中で電力会社も含む供給事業者が創意工夫を最大限発揮することが可能となる。例えば需要家が複数供給者からの電気の供給を選択することや、供給者が他事業者と連携して電気の供給を行うことも可能となるなど、需要家の前に多様な選択肢が提示されることが期待される。そのような制度の下での需要家の主体的な選択が、その利益を効果的に確保することになると考えられる。

  なお、電力会社の区域外供給は従来事前規制の対象となっているが、特別高圧需要家への区域外供給については、特別高圧需要家の選択肢を拡大し、また、電力会社の経営自主性を確保する観点から、これを見直すことが必要である(注11)。また、より広い意味での電力会社の経営自主性の確保という観点から、兼業規制や、設備譲渡規制についても(注12)、行政による事前規制の在り方を見直すことが適当である(注13)。


  一方、自由化部門における競争を円滑に導入する観点から、電力会社に対して、新規参入者からのバックアップ要請や、特別高圧需要家からの部分供給要請に対して、積極的に応ずるべきであるという意見が専門委員会においても出されている。これについては、電力会社に対し電気事業法に基づく義務づけを行うことは適当でなく、原則多様な取引形態が可能となるシステムの中で、経済取引一般に適用される独占禁止法とも整合性の取れた適正な電力取引を確保すれば十分であると考えられる。(注14)


(注11)供給区域外の供給(電気事業法第25条)
第二十五条 一般電気事業者は、その供給区域以外の地域における需要に応じ電気を供給しようとするときは、供給の相手方及び供給する場所ごとに、通商産業大臣の許可を受けなければならない。ただし、一般電気事業として供給するとき、及び振替供給(一般電気事業又は特定電気事業の用に供するための電気に係るものに限る。)を行うときは、この限りでない。

2 通商産業大臣は、前項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
 一 その一般電気事業の適確な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。
 二 その供給が他の一般電気事業者の供給区域における需要に応じ行 われるものであるときは、当該他の一般電気事業者がその供給を行うことが容易かつ適切でないこと。
 三 その供給が特定電気事業者の事業開始地点における需要に応じ行われるものでないこと。

(注12)兼業規制と設備譲渡規制
 ・一般電気事業者の兼業(電気事業法第12条)第十二条 一般電気事業者は、一般電気事業以外の事業を営もうとすると
 きは、通商産業大臣の許可を受けなければならない。ただし、通商産業省令で定める事業については、この限りでない。

 ・設備の譲渡し等(電気事業法第13条)
第十三条 電気事業者(特定電気事業者を除く。)は、その電気事業の用に供する設備を譲り渡し、又は所有権以外の権利の目的としようとするときは、通商産業大臣の許可を受けなければならない。ただし、通商産業省令で定める設備については、この限りでない。

(注13)なお、電気工作物に関する保安規制についても、事業者の経営自主性確保・行政介入の最小化という視点も踏まえて、本部会及び産業構造審議会基準認証部会の下に設立された電力安全問題検討合同小委員会(委員長関根泰次 東京理科大学工学部教授)において検討されている。

(注14)なお、独占禁止法とも整合性の取れた適正な電力取引の在り方に関するルールについては、年明け以降、制度開始までに整理することとする(第二章第三節p29参照)。また競争を円滑に導入する観点から、事故・定期検査時のバックアップや、需要家向けの標準的な料金については、専門委員会において電力会社自身が自主的にメニューを公表すると表明している。

(2) 例外としての最終保障の在り方

  なお、電気という財の必需性に鑑み、自由化対象需要家の中でも、いずれの供給者とも交渉が成立しない需要家や、いったん電力会社以外の供給者と契約したものの、その後電力会社からの供給を望み交渉成立に至らなかった需要家に対しては、一定の電気事業法上の保護が必要であると考えられる。
  具体的には、こうした需要家に対しては(注15)、例外的に区域の電力会社が、行政に届け出た料金(最終保障約款)により、最終保障義務をもって対応することが適当である。
  その際、最終保障約款の内容(注16)については、最終保障という性格を踏まえながらも、電力会社に十分な予備力がない場合には供給要請に応じることを要しないなど、新規参入者との競争条件や、非自由化対象需要家に対する供給に悪影響がないように配慮するものとする。


(注15)この最終的な供給保障の約款については、いずれの供給者とも交渉が成立しない需要家向けのものであるので、一つの需要場所において、交渉料金による電力供給と、最終保障料金による電力供給との併給を受けることはできないこととする。

(注16)最終保障約款の具体的内容は、今後、電気事業審議会の客観的かつ透明な場で検討することとする。
    その際、自家発設置事業者(後述の特定電気事業者や特定供給を行う事業者も含む)が、特別高圧需要家への供給を実施した場合の最終保障約款の適用関係などについては、今後実態を踏まえて、改めて電気事業審議会の客観的かつ透明な場で検討することとする。

 (3) 非自由化対象需要家への悪影響防止のための仕組み

  「部分自由化」により、電力会社には自由化部門と非自由化部門が併存することとなる。したがって、非自由化対象需要家の利益を保護するため、自由化部門の料金設定が規制部門の負担においてなされることのないよう、自由化部門から非自由化部門への悪影響を防止する方策を講ずる必要がある。
  このため、電力会社が規制部門の料金設定を行う際、行政が不当に非自由化対象需要家向けのコストを高く設定していないか確認することとし、加えて電力会社の部門別の収支を、実績値を基に確認することが適当である。この仕組みは、新規参入者との公平な競争関係の確立にも資するものである。
  自由化に伴う非自由化部門への悪影響防止の仕組みについては、料金制度部会において以下の結論を得ているので、ここに併せて紹介する。詳細は、同時に取りまとめられる料金制度部会の報告を参照されたい。
      
 @規制部門の料金を改定する際に、全体の費用を、自由化部門と規制部門とに適切に配分する。
 A行政は、自由化部門の収支の赤字を補填することを目的として、規制部門の料金の値上げを行うことを認めないとする。そのために、毎年度の自由化部門及び規制部門の部門別収支を、以下の方法で確認する。
   1)部門別に費用を合理的に配分する配分方法のモデルを、客観的かつ透明な審議会等の場で設計する。そのモデルは省令等に明確に位置付ける。
   2)事業者は、その配分方法モデルに従って配賦基準を設定し、行政庁に届け出る。その配賦基準は公表する。
   3)その配賦基準に従って費用が配賦されていることは、中立的な第三者が確認する。
   4)中立的な第三者は、職業的に資格のある会計監査人(公認会計士)が適当であり、さらに、現在行われている電気事業法上の経理監査を行うこととする。
   5)配賦した結果(収支)の公表については、直近の経営情報を開示することとなれば競争阻害的に作用するおそれが強いことから、各期末の結果は、中立的な第三者が確認することをもって、情報の開示に代替することとし、かつ行政庁に届け出ることとする。但し、自由化部門の収支が赤字の場合は、行政が、その赤字額と事業者名を公表することとする。更に、制度開始後概ね3年を目途に行われる成果の検証の際には、必要に応じ、収支の状況を踏まえて検証を行うことが必要である。

 (4) 特定電気事業・特定供給の扱い

特定電気事業とは、コジェネレーションなど中小規模の電源を需要地に近接して有し、特定の供給地点における需要に自らの発電設備・送電配電設備で応ずることができる事業者の参入を想定して、電力会社とのネットワークから独立した形で電力の供給が行い得ることを念頭に、平成7年の電気事業法改正によって創設された制度である。また、特定電気事業からの供給を受ける需要家についても供給者との交渉力などを考慮していないことから、特定電気事業者の行う供給については、需要家保護の観点から、供給義務及び料金規制を課すという制度設計がなされている。したがって、電力会社のネットワークを利用して供給者と交渉し得る需要家への供給を前提として設計された今般の制度改革とは、全くその性格・態様が異なるものである。

 また、特定供給とは、親子会社の関係や、コンビナート等で生産工程に関連性がある企業相互間の電力供給については、自家発自家消費類似の扱いとして、当事者間同士の私的な契約関係に委ねることとし、第三者である行政が介入する必要性はないものとして設計された制度である。今般の自由化に関する需要家と供給者との関係はこのような自家発自家消費と類似のものではなく、これについても全く異なる制度と整理することが適当である。

 したがって、両制度については、運用手続の簡素化を行うこととし、それ以上の要件緩和は行わないものする。



3.託送制度について

  第三の論点は、「託送制度の在り方」についてである。
  電力会社の送配電ネットワークについては規模の経済性、ネットワークの経済性が認められることから、引き続き電力会社が独占的に形成・運用を行った方が効率的である。このため、新規参入者が自由化対象需要家に対して電気を供給する場合には、電力会社の送電ネットワークを利用することが効率的であり、また不可欠となる。
  この場合、ネットワークを有する電力会社と新規参入者との対等で有効な競争関係を確保するためには、ネットワークの利用に関するルールを、透明で客 観的なものとして定めることが必要である。
  このルールがいわゆる託送制度である。これについては、規制の在り方、託送ルールの内容及びルール設定の手続きの三点に関し、以下のような原則を確立することとする。

(1)規制の在り方

  託送に関する規制の在り方については、@電力会社が作成した約款を行政が認可し、予め事業者に託送義務を課す類型、A電力会社が作成し行政に届け出た約款を基に、電力会社・利用者同士が交渉して託送契約を締結し、託送に関して紛争が生じた場合には行政が事後的に紛争処理を行う類型、B託送に着目した特別な規制は設けず、独占禁止法や情報公開に関する一般的な規制のみが適応される類型、の3つが考えられる。
 
  託送に関する規制についても、経営の自主性を最大限確保し、行政の介入を最小化するという視点や、対等かつ有効な競争を確保するという視点を踏まえて設計する必要がある。
  この観点からは、第一類型は過剰規制である。第三類型は、電力会社による独占的なネットワークの形成及び運用が前提とされ、託送に関する詳細かつ明確なルールが求められている中では、一般的な経済取引関連法制のみで抽象的であり、電力会社と新規参入者との競争条件の公平性・透明性を確保しがたいと考えられる。このため、託送規制の体系としては現行電気事業法の振替供給制度(注17)を念頭に、第二類型を採用することが適当である。


(注17)振替供給制度(電気事業法第2条第11号、第24条の3)
・定義
第二条 (略)
 十一 振替供給 他の者から受電した者が、同時に、その受電した場所以外の場所において、当該他の者に、その受電した電気の量に相当する量の電気を供給することをいう。

・振替供給
第二十四条の三 通商産業大臣が指定する電気事業者(以下、「指定電気事業者」という。)は、振替供給(一般電気事業又は特定電気事業の用に供するための電気に係るものであって、通商産業省令で定めるものに限る。)に係る料金そ
  の他の供給条件について振替供給約款を定め、通商産業省令で定めるところにより、通商産業大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
 2 指定電気事業者は、前項の規定による届出をした振替供給約款以外の供給条件により振替供給を行ってはならない。ただし、振替供給約款により難い特別の事情がある場合において、通商産業大臣が承認したときは、この限りでない。
 3 通商産業大臣は、公共の利益の増進に支障があると認めるときは、指定電気事業者に対し、相当の期限を定め、その振替供給約款を変更すべきことを命ずることができる。
 4 指定電気事業者は、第一項の規定による届出をしたときは、通商産業省令で定めるところにより、その振替供給約款を公表しなければならない。
 5 通商産業大臣は、指定電気事業者が正当な理由なく振替供給を拒んだときは、その指定電気事業者に対し、振替供給を行うべきことを命ずることができる。



(2) 託送ルールの在り方

 託送の利用条件については、電力会社の応諾要件、託送料金、接続に当たっての技術要件及び公益的課題との両立のための必要事項について、公平・公正・透明という原則の下、それぞれ以下のように明確化する必要がある。

@応諾要件について

 託送の応諾に関しては、電力会社も新規参入者も同等の立場に立つという原則の下で、電力会社が託送容量などについての情報を提供する。
 なお、専門委員会の審議の過程において、電力会社は、新規参入者からの託送要請については、原則として応諾する旨表明している。

A託送料金について

 託送料金については、以下の原則に基づいて設定することとする。

・第一原則 託送コストの公正回収原則
 託送料金に含めてコスト回収すべき設備や関連するサービスを具体的かつ明確に特定した上で、そのコストを適正に回収することが必要である。
 その上で、実績も、その考え方に従ってなされることが必要であり、そのことを中立的な第三者が確認することとする。

(※)第一原則によって明確化されたコストに関する自由化対象需要家と非自由化対象需要家の公平性の担保については、両者間の非自由化対象需要家への悪影響の防止のための仕組みの考え方を援用する。

・第二原則 事業者間公平の原則
 託送料金は、ネットワークの所有者・運用者である電力会社、供給区域外の電力会社、新規参入者にとって「同一」であることが必要である。そのため、約款を通じて予め託送料金を公表し、それ以外の料金で託送利用ができないことを担保することが必要である。
 その際、事業者間での託送料金負担の「同一」性の確保については、例えば、負荷率、供給区域をまたがる託送等の評価など、電気の使用形態等を勘案することとする。

 B接続要件について

 託送利用に当たっては、系統安定を確保するため、新規参入者が系統連系に関する技術的な要件を満たす必要があるので、この技術的要件は予め明らかにする必要がある。その具体的な内容については、現在の系統連系ガイドラインを部分自由化と整合的なものとなるよう見直すことによって、設定される必要がある。

C公益的課題達成のための必要事項について

 公益的課題のうち、供給信頼度の確保、エネルギーセキュリティ・環境保全に関する事項については、いずれもネットワークを保有する電力会社の給電指令によって担保されるものである。
 すなわち、供給信頼度の確保については、発電と送配電の一体的な形成及びその運用が必要であり、これを担うのは電力会社である。また、エネルギーセキュリティ及び環境保全の確保については、これを達成できるよう原子力・水力などの開発・運用を行う必要があり、これについても電力会社の給電指令によって担保されるものである。

 以上のことから、利用者は託送利用に当たって電力会社の給電指令に従う必要があり、例えば以下の事項について、新規参入者が遵守することが適当である。
・給電計画の提出に関する事項(系統安定上の要請)
・同時同量に関する事項(系統安定上の要請)
・事故、緊急時における優先給電指令に関する事項(系統安定上の要請)
・水力・原子力などの供給確保に関する事項(セキュリティ及び環境保全
 上の要請)

 また、財の必需性、不特定性、瞬間消費性など電気の特性に鑑み、一需要場所に対して複数の供給者が供給する場合には、緊急時における対応を迅速に進める観点や紛争が生じた場合の処理を円滑に進める観点から、ネットワークを所有する電力会社に対し、代表して交渉する利用者側の責任者を特定することが適当である。

 なお、ここでの給電指令は、電力会社によって恣意的になされるものではなく、どのような場合に給電指令を行うかなどの基準については予め明らかにされることはいうまでもない。

 (3) 明確で透明な託送ルール設定手続の在り方

 (1)で述べたように託送に関する規制の体系は、経営自主性確保・行政介入最小化及び対等・有効競争の確保の観点から、第二類型としたが、その前提として、上述(2)の託送ルールを、公平・公正・透明なものとして予め明らかにすることが必要である。
  したがって、託送ルールの具体化については、電力会社の十分な情報提供を得つつ、今後、電気事業審議会における客観的かつ透明な場において、制度発足までに決定することが必要である。


4.公益的課題との両立の方策について

  第四の論点は、「公益的課題との両立の在り方」についてである。
  今回の部分自由化により新たに電力会社以外の供給者の参入が可能となるが、こうした場合においても供給信頼度や望ましい電源構成が維持されるための方策を確立する必要がある。

  このためには、行政、ネットワークの形成・運用を行う主体としての電力会社、供給事業者及び需要家が適切に役割を分担する必要がある。
  すなわち、電気の供給は電力会社の形成したネットワークを利用して行われるものであり、電力会社が新規参入者に対して託送約款に基づく給電指令を適切に行うことを通じて公益的課題を達成することが基本となる。行政は、その
 公益的課題の内容設定などを行うことが求められる。
  一方、電気が国民生活や経済活動に不可欠な財であることに鑑みれば、電気の供給が途絶するなどの緊急事態においては、行政がその事態を処理すべき責任を負う必要がある。具体的には、こうした場合においては、行政が直接、新
 規参入者やその需要家に対しても、発電命令や電気使用制限命令を出すことによって対応することが効率的である。
  さらに、需要家はこうした公益的課題の成果を享受する主体であり、そのために必要な負担についても、すべての需要家が公平に負うことを原則とする。

(1) 常時の対応

  常時については、上述(3.(2)C)のとおり、電力会社が託送約款において公益的課題に関する事項を定め、これを行政に届け出た上で、新規参入者が電力会社の給電指令に従う形で遵守することを基本とする。
  その上で、託送の実施に当たって当事者間で紛争が生じた場合には、行政が紛争処理を行う(託送命令の発動の可否を判断する)ことで対応する。


(2) 自然災害やオイルショック等の緊急時の対応

  自然災害やオイルショック等の緊急時において迅速に対応する観点から、現行電気事業法においては、行政による電力会社や卸電気事業者に対する電気供給命令や、需要家に対する電気の使用制限命令といった制度が存在して
 いる(注18)。
  今回の部分自由化に当たっても、これと同様の制度を用意することが適当であり、新規参入者及びその需要家を、電気供給命令及び電気の使用制限命令の対象に加えることとする。
  また、こうした命令を出す上で必要となる基礎的な情報として、行政が新規参入者の発電情報やその需要家の需要情報を把握することとする。


(注18)電気供給命令と電気の使用制限命令
・供給命令等(電気事業法第31条)
第三十一条 通商産業大臣は、災害その他非常の場合において公共の利益を確保するため特に必要があり、かつ、適切であると認めるときは電気事業者に対し、次の事項を命ずることができる。ただし、第三号の事項は、卸電気事業者に対しては、命ずることができない。
一 一般電気事業者又は特定電気事業者に電気を供給すること。
二 電気事業者に振替供給を行うこと。
三 電気事業者から電気の供給を受けること。
四 電気事業者に電気工作物を貸し渡し、若しくは電気事業者から電気工作物を借り受け、又は電気事業者と電気工作物を共用すること。
2 前項の規定による命令があつた場合において、当事者が支払い、又は受領すべき金額その他命令の実施に関し必要な細目は、当事者間の協議により定める。

・電気の使用制限等(電気事業法第27条)
第二十七条 通商産業大臣は、電気の需給の調整を行わなければ電気の供給の不足が国民経済及び国民生活に悪影響を及ぼし、公共の利益を阻害するおそれがあると認められるときは、その事態を克服するため必要な限度において、政令で定めるところにより、使用電力量の限度、使用最大電力の限度、用途若しくは使用を停止すべき日時を定めて、一般電気事業者若しくは特定電気事業者の供給する電気の使用を制限し、又は受電電力の容量の限度を定めて、一般電気事業者からの受電を制限することができる。

第二節 発電市場の活性化

 我が国の発電市場については、おもに電力会社や卸電気事業者が開発している原子力・水力発電分野と、IPPと電力会社が競争状況にある火力発電分野とが存在する。
 このため、発電市場の活性化の観点からは、@おもにエネルギーセキュリティ・環境対策上の観点も踏まえた適切な電源構成に向けて、発電市場の計画的な側面の維持・強化を図ると同時に、Aすべての需要家に効率化の成果を行き渡らせるため、そのうちの火力電源を中心とした発電市場の競争的側面を充実することが適当である。


1.計画的側面の維持・強化(広域的運営の維持・強化)

  我が国の発電市場においては、電力会社間の需要の程度や電源立地条件の差に基づく地域的な需給ギャップの広域的な解消、設備の相互利用による稼働率上昇などを目的として、9つの電力会社と卸電気事業者が相互に協調して電源の開発・運用を行っている。これを広域的運営(注19)という。長期・大規模な投資であり、エネルギーセキュリティや環境保全という公益的な要請にも合致する原子力等の開発を今後とも円滑に行っていくためにも、広域的な運用が不可欠である。このため、今後とも広域的発電市場の計画的な側面の維持・強化が必要であると考えられる。

  具体的には、電力会社が作成する供給計画を引き続き広域的運営を担保するものとして位置づけるとともに、この供給計画の中で、公益的課題達成の手段としても重要であることに鑑み、例えば原子力・水力等の電源開発を優先することが適当である。


(注19)電気事業者相互の協調(電気事業法第28条)
第二十八条 電気事業者は、電源開発の実施、電気の供給、電気工作物の運用等その事業の遂行に当たり、広域的運営による電気事業の総合的かつ合理的な発達に資するように、卸供給事業者の能力を適切に活用しつつ、相互に強調しなければならない。

2.広域的発電市場への更なる競争導入

 平成7年改正による入札制度の導入によって活性化を図ってきた広域的発電市場について、次のような対応により、より一層の充実を図ることが必要である。

(1) 火力電源開発入札制度

 火力電源開発入札制度は、「全需要家に効率化の成果を行き渡らせること」という要請に応える制度であるとともに、小売自由化とあわせ広域的発電市場の高度化・効率化を達成する有効な手段である。
 したがって、火力電源全面入札制度について、平成9年12月に取りまとめられた電気事業審議会基本政策部会基本政策小委員会中間報告(ガイドライン)(注20)の骨格を維持しつつ導入することとする。
 ただし、現行のガイドラインは小売自由化を念頭に制度設計されておらず、小売自由化の実施と整合性を図る必要があるので、実施時期を合わせるなど、ガイドラインの一部見直しについて、今後電気事業審議会基本政策小委員会WGなどの適切な場において具体的検討を行うこととする。
 また、平成7年の電気事業法改正において、入札制度と合わせて導入された卸託送制度(注21)については、引き続き広域的発電市場を充実させるための政策的手段として、また、原子力・水力等の広域的運営にも資する制度として位置づけることが適当である。

(2) 卸料金認可の届出制への移行

 広域的発電市場における取引を一層円滑に行うためには、経営自主性確保と行政介入の最小化の観点から、行政手続を簡素化することが有効であり、このため、卸料金の認可制(注22)を廃止し、行政への届出・変更命令とする。
 その際、行政が変更命令を出す基準は、卸供給を行う側にとっての買い手独占の弊害排除という視点、卸供給を受ける側にとっての非自由化部門の需要家向け料金の不合理なコストアップの回避という視点を担保する必要がある場合とすることが適当である。

(3) 非規制の分野(短期的または小規模な電力取引)の透明性の確保

 短期的または小規模な電力取引(注23)については、卸料金認可制度や入札制度には馴染まないことから、現在、私契約として行われている。
具体的には、電気事業者間の融通や、電力会社が「余剰電力購入メニュー」に基づき自家発などと行っている取引などが存在する。
 こうした取引については、電力会社の買い手独占の弊害がないことを担保し、その効率性を一層高めるため、電気事業者の自主的な対応による取引の透明化を期待する。


(注20)電気事業審議会基本政策部会の審議経過(pU・9)」所収の「基本政策小委員会中間報告」を参照のこと。

(注21)卸託送とは、ある発電事業者が、その発電事業者の存在する区域のA電力会社以外のB電力会社に電気を供給する場合に、A電力会社が、B電力会社の供給区域まで、その発電事業者の電気を託送することをいう。この卸託送については、振替供給制度(P19の注17を参照)の対象となっている。

(注22) 卸供給の供給条件(電気事業法第22条) 
第二十二条 一般電気事業者、卸電気事業者又は卸供給事業者は、通商産業大臣の認可を受けた料金その他の供給条件(次条第二項の規定による変更があつたときは、その変更後のもの)によるのでなければ、卸供給を行つてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
 一 一般電気事業者が実施する入札(第三項の規定による公表があつたものに限る。)に応じて落札した供給条件により卸供給を行うとき。
 二 供給条件を定め難い特別の事情がある場合において、通商産業大臣が期限を付して承認したとき。
2 第十九条第二項の規定は、前項の認可に準用する。
3 卸供給を受けようとする一般電気事業者は、その卸供給を行う者及びその供給条件を入札により決定しようとする場合において、その入札の実施の方法が通商産業省令で定める要件に該当するものであるときは、その旨を、通
 商産業省令で定めるところにより、公表することができる。
4 一般電気事業者は、前項の規定による公表をしたときは、同項の通商産業省令で定める要件に該当する方法により、その入札を実施しなければならない。
5 第一項第一号の場合は、その卸供給を行う一般電気事業者、卸電気事業者又は卸供給事業者は、その供給条件を、通商産業省令で定めるところにより、通商産業大臣に届け出なければならない。


(注23)卸供給(電気事業法施行規則第3条)
 第三条 法第二条第一項第九号の通商産業省令で定める電気の供給は、次のとおりとする。
 一 供給の相手方たる一般電気事業者との間で十年以上の期間にわたり行うことを約している電気の供給であって、その供給電力が千キロワットを超えるもの
 二 供給の相手方たる一般電気事業者との間で五年以上の期間にわたり行うことを約している電気の供給であって、その供給電力が十万キロワットを超えるもの


第三節 適正な電力取引の確保

 従来、電気事業については、電気事業法に基づき地域独占供給が認められるとともに、独占に伴う弊害については同法上の業務規制(料金規制、供給義務)によって対応してきた。この結果、独占禁止法による対応が特段に問題となることはなかったと考えられる。
 しかしながら、平成7年の法改正により、卸入札制度、卸託送制度が創設され、電気事業に供給者間の競争関係が導入された。これに伴い、卸供給分野において供給者間の公正な競争を確保する観点から、独占禁止法との整合性を確保する必要が生じてきた。これを受けて、電力会社は自主的に独占禁止法遵守手引きを作成するなどの対応を図っている。
 他方、今回の部分自由化によって、卸分野の供給者間の公正な競争の確保のみならず、小売分野の供給者間の公正な競争の確保及び大口需要家と供給者の間の対等な関係の確保という2つの要請が新たに加わった。

 したがって、独占禁止法とも整合性の取れた適正な電力取引の在り方に関するルールを整理することが、事業者間の紛争を未然に防止し、有効な競争を促すとともに、今後の制度改革の実効性を補強する上でも必要である。

 すでに適正な電力取引の在り方については、これまで本部会や専門委員会において様々な論点(注24)が提起されたが、今後は、このような具体的な取引形態に即しつつ、電気事業全般にわたる適正な電力取引の在り方に関するルールを整理することが必要である。

 その際、@電気事業法上の規制が廃止され、電力会社と新規参入者及び電力会社と需要家との私契約ベースとなる分野はもとより、A従来の規制が残る分野であっても、電力会社間の関係を規定する分野も含めて、各々論点が整理されることが適当である。
 また、適正な電力取引の在り方を検討するに当たっては、その目的とする適正な競争関係の設定と、必ずしも競争関係では達成できない公益的課題(系統安定上の要請、セキュリテイ・環境上の要請など)との整合性が確保される必要がある。

 こうした整理は、健全な電力取引市場を円滑に形成するために、今般の制度改革の一環として、部分自由化の実施に先立ち行われることが適当であり、今後、電気事業審議会の客観的かつ透明な場において検討することとする。


(注24)適正な電力取引に関する具体的な論点については、別添の「電気事業審議会基本政策部会専門委員会報告書(p20)」を参照のこと。

(注25)規制緩和推進3か年計画(平成10年3月閣議決定)において、自然独占事業と独占禁止法との関係を規定している独占禁止法21条の在り方について検討することとされており、こうした視点も踏まえた対応が必要となっている。
  「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第二十一条」  この法律の規定は、鉄道事業、電気事業、瓦斯事業その他その性質上当然 に独占となる事業を営む者の行う生産、販売又は供給に関する行為であって その事業に固有のものについては、これは適用しない。


第四節 料金制度の見直し
 
 今回の部分自由化に当たっての検討の視点の一つとして、自由化対象需要家だけがメリットを享受するのではなく、「すべての需要家に効率化の成果を行き渡らせること」という視点が掲げられている。電気事業全般の効率化を求めている電気事業審議会への諮問の趣旨に鑑みれば、これは当然の要請と言える。

 部分自由化及び発電市場の活性化は、競争的な刺激の中で電力会社が多様な経営効率化努力を行うインセンティブを与える制度であり、前回改正で導入した火力電源入札制度のもたらした効果に鑑みれば、全需要家に効率化の効果を行き渡らせるためにも有効な制度改革であると評価できる。

 その上で、電力会社の経営効率化の成果を、具体的に規制部門の需要家に行き渡らせるためには、規制部門の需要家と電力会社の接点である料金制度そのものを見直すことが必要となる。すなわち、効率化のノウハウや成果などを、機動的かつ自主的に規制部門の料金に反映することが可能となるよう、必要な見直しを行うことが求められる。この料金制度の見直しに関しては、料金制度部会において以下の方向で結論が得られているところであり、その概要をここで紹介するが、部分自由化、発電市場の活性化ともあいまって、この料金制度の見直しが、競争の成果を全需要家に行き渡らせるものと考えられる。


〔料金制度部会における結論の概要〕

1.検討に当たっての考え方

 (1)機動性の重視と多様性の重視

 電気料金は長期に安定、均一であることが求められていたところ。今後は、電力会社の効率的な経営がより機動的に料金に反映され(機動性の重視)、電気の使い方に一層きめ細かく対応し得る仕組み(多様性の重視)に変えていくことが必要である。

 (2)経営の自主性の尊重と経営責任の明確化

 今般の制度改革の検討は、「事前介入的・裁量型行政」から「事後監視型・ルール遵守型行政」へという行政手法の転換の流れの中に位置付けられるものであり、電気料金の設定のあり方も、今後は経営の自主的判断の一層の重視へと大きく転換していくもの。これに伴い、経営責任は一層明確化され、より厳しく問われることとなる。

2.導入すべき制度

 上記の考え方に従い、おもに以下の制度を新たに導入する。

 (1)料金規制手続きの合理化〜供給約款への届出制の導入

 現行の供給約款は、設定変更の際に必ず認可を必要とされているが、料金引き下げなど電気の使用者の利益を増進するような場合には、届出による料金改定を可能とし、手続きの合理化を行うべきである。

 (2)料金メニューの多様化〜選択約款の要件拡大

 自由化部門の需要家は、供給者を選択しながら個別の負荷カーブに応じ、交渉によって料金を決定することになるのに対し、規制部門の需要家は供給者を選択することができない。よって、規制部門の需要家に対する料金メニーを多様化し、適切な料金メニューを選択できる自由度をできる限り広げるべく、現在の選択約款の「負荷平準化に資する」という要件を、経営の効率化に資するもの全般に拡大することが必要である。



第三章

制度改革の実施時期と将来の検証

1.制度改革の実施時期

 以上の制度改革については、本基本政策部会に対する通商産業大臣からの諮問の趣旨に鑑み、できるだけ速やかに実施されることが望ましいと考えられる。
 したがって、残された課題(注26)をこなした上で、2000年を目途に制度改革を実施することを提言する。


(注26)以下の事項については、電気事業審議会における客観的かつ透明な場
において検討し、制度発足時までに結論を得ることとしている。
・自由化と既存制度との関係(共同受電の扱い、自家発・特定供給による大口供給の際の最終保障約款の適用の考え方)
・自由化部門における最終保障の具体的な内容(原価の裏付けの程度等)
・ネットワーク利用に関する詳細なルール設計(応諾要件、託送コスト特定ルール、料金算定ルール、接続ルール)
・適正な電力取引の在り方に関する具体的検討
・火力電源全面入札制度の一部見直し

2.将来の検証

 一方、電気は国民生活に密接に関わる財であるだけに、制度の実施後も、制度改革の成果については、入念に検証することが必要である。

 具体的には、制度開始後概ね3年後を目途に、自由化の範囲及び自由化に関連する制度内容などについて検証した上で、部分自由化の範囲拡大、全面自由化及びプール市場の創設の是非について検討すべきである。

 その際の検証の視点は、主として、(1)部分自由化の実績(新規参入の状況、
電力会社の経営効率化の程度や規制部門を含めた料金等サービス内容の充実の度合い、火力電源全面入札も含めた発電市場の効率化の程度等)、(2)海外の自由化の状況、(3)系統安定等に関する技術の状況、(4)公益的課題への悪影響の有無、とすることが適当である。


おわりに

 電気事業に期待される要請は、今も昔も変わらない。電気は国民生活にとっても産業活動にとっても不可欠な財であり、低廉・安定な供給を確保することはいつの時代でも求められる普遍の課題である。電力産業は基幹的なエネルギー産業の一翼を担う産業であり、エネルギーセキュリティを始めとする公益的課題を我が国の状況と時代の要請に応じて追求することもまた必要であるし、ここに我が国固有の電気事業制度が求められる所以がある。

 戦後最大の電気事業制度の改革ともいえる今回の改革は、こうした電気事業に期待される要請に確実に応えていくことを目指しつつ、効率化の手法として競争原理を最大限活用していくことを第一の趣旨とするものである。すなわち、行政の規制によるのではなく、競争という刺激と市場の監視の中で、供給事業者が経営の自主性を最大限発揮することにより効率化を追求するということである。

 これを需要家の目で見ると、その選択の幅を極力拡大することを第二の趣旨とするものである。すなわち、自由化部門においては供給者の、規制部門においては料金メニューの選択の幅が拡大されるということであり、需要家の主体的行動が求められるということである。

 公益的課題の追求という政策的側面に着目すれば、電気事業者と行政、需要家の三者間の役割分担を明確にしながら、これを追求していくことを第三の趣旨とするものである。すなわち、電気事業者による常時の対応、行政における緊急時の対応、需要家による公平な費用負担を原則として、公益課題を追求するということである。

 こうした改革の意図するところは、経営においては従来にもまして可能となる多様な経営選択の中で一層の自主性を発揮し総合的な競争力を高めることであり、需要家においては従来にもまして提供されるであろう多様な選択肢の中で、自己責任原則の下、より主体的な選択を行うことであり、行政においては国際的な競争に耐えうる制度環境の整備とその透明な運用に専念するということである。


 現在のところ、我が国では電気事業そのものは貿易が可能ではないものの、国民生活や産業活動のインフラになっていることに鑑みれば、これが持つ国際的なインパクトを忘れてはならず、今回の改革が、より強靱な電気事業、より主体的な需要家、より機能的な行政を実現し、我が国経済の拡大均衡に大いに貢献することを期待したい。

 最後に付言すべきことがある。我が国電気事業は、戦後50年にわたり、民間企業を主体とする地域独占体制と公益事業規制を柱として高い成果を上げてきた。これと比較して、今回の一連の改革が成就するまでの年限を数えてみれば、わずか数年のことである。時代の変化は殊の外速いということである。 
このため、今回の審議に当たっては、先を見越した聖域なき検討を加え、その上で新たな発想に基づく大胆な決断を行ったものである。そうであるならばなおさらのこと、制度の実行に当たっては、制度発足後概ね3年後を目途に客観的な検証を加えるのみならず、今後、特に原子力の推進を始めとするエネルギーセキュリティなどの公益的課題との両立を図る上で問題が生じた場合や、不測の事態が生じた場合においては、柔軟かつ迅速な対応が必要であることを改めて強調したい。これによって今回の改革が我が国の基幹的な制度として浸透していくことを期待するものである。

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平成7年電気事業法改正<主なポイント>(1995)

1. 発電事業への新規参入の拡大

2. 特定電気事業の創設

3. 選択約款届出制による料金規制の緩和

4. 保安規制の合理化

 日本全体の規制緩和の流れは続き、平成9年(1997年)5月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画」において、

電気事業については「平成13年(2001年)までに国際的に遜色(そんしょく)のないコスト水準を目指し、わが国の電気事業のあり方全般について見直しを行う

ことがうたわれました。

 そして、平成11(1999年)年5月に再び電気事業法が改正され、平成12年(2000年)3月から小売りの部分自由化が始まりました。

平成11年電気事業法改正<主なポイント>(1999)

●自由化部門

1. 自由化の範囲

2. 特定規模電気事業者の創設

3. 送電ネットワーク利用の条件整備

●非自由化部門

1. 料金規制手続きの合理化

2. 料金メニューの多様化

その他、保安規制関係などが見直されました。

平成11年(1999年)の電気事業法改正の審議で、「制度開始概ね3年後を目途に自由化の範囲及び関連する制度内容等について検証した上で、部分自由化の範囲拡大、全面自由化及びプール市場の創設の是非について検討すべき」との報告がなされました。

 電気事業制度のあり方について審議していた電気事業分科会は平成15年2月、発送電一貫体制の堅持と送配電部門の公平性・透明性の向上を答申しました。

 そして、平成15(2003年)年6月に再び電気事業法が改正され、供給システムの安定性の確保とお客さまの選択肢の拡大に資する制度が整備されました。

平成15年電気事業法改正<主なポイント>(2003)

1. 電気の安定供給確保のための発送電一貫体制の堅持

 貯蔵が困難で瞬時瞬時に需給が均衡させる必要がある電気の特性から、発電設備と送電設備の一体的な整備・運用を維持し、電気の安定供給を図ることとなりました。

2. 送配電部門の公平性・透明性の向上

(1)行為規制の導入

 電力会社が管理する送電線を新規参入者が利用するため、送電線などの利用条件に一層の公平性と透明性が求められました。そこで、送配電部門が託送業務を通じて知り得た情報の目的外利用の禁止、送配電部門と発電・販売内部との内部相互補助の禁止などが取り決められました。

(2)中立機関の設置

 系統運用に関する基本的ルールの策定や、紛争処理などを行うための中立機関有限責任中間法人電力系統利用協議会が設立されました。

3. 全国規模での供給量確保の効率的な達成

(1)卸電力取引所の創設

 電源調達の多様化を図るため、有限責任中間法人日本卸電力取引所を創設されました。

(2)託送制度の見直し

 お客さまに異なる供給区域の電源から電力を調達する場合の課金の仕組み(振替供給制度)などが見直されました。

4. お客さまの選択肢の拡大

 小売自由化範囲を拡大し、高圧のお客さま(50kW以上)に拡大しました。

5. エネルギーセキュリティーや環境保全等の課題との両立

 バックエンド事業に対する経済的措置を検討・実施することとなりました。

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電力の部分供給等に係る独占禁止法上の考え方  公正取引委員会

 電力会社が,部分供給により小売電力市場に参入しようとする事業者(新規参入者)や当該新規参入者から供給を受ける需要家に対して,取引拒絶,排他条件付取引,差別的取扱い等を行うことにより,新規参入者の事業活動を困難にし,市場における競争を実質的に制限する場合には,私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反することとなる。
また,市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,これらの行為により,新規参入者の事業活動を困難にするときには,個々の行為が不公正な取引方法に該当し,独占禁止法第19条の規定に違反することとなる。

1 部分供給の拒絶
 需要家等からの部分供給の要請を放置したり,交渉開始や交渉期間を殊更引き伸ばすこと,部分供給を拒絶することや,その条件を不当に厳しくすることにより事実上部分供給を拒絶することは,需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。
 また,新規参入を促進するためには,需要家や新規参入者が全量供給方式,部分供給方式及び常時バックアップ方式のいずれかの方式を自由に選択できる環境が不可欠であり,需要家等からの部分供給の要請を受けた電力会社が,当該需要家に部分供給する新規参入者に対して,自己から常時バックアップ供給を受けることを強要することは,独占禁止法上違法となるおそれがある(抱き合わせ販売等,優越的地位の濫用等)。

2 負荷追随できない新規参入者に負荷追随することを求めること電力の供給に当たっては,電力需要の変化に合わせて発電出力を調整する(負荷追随する)ことが必要であり,電力会社が部分供給の申出に対してあらかじめ供給する量を定めることは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,電力会社がその供給区域において100%近い市場シェアを有する現状においては,新規参入者から供給を受ける需要家に対して,電力会社が,例えば,以下の場合のように,負荷追随を伴う部分供給を拒否することは,需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。
@ 負荷追随できない新規参入者に対して,事前に定めた供給量のみ部分供給を行うとすることにより,新規参入者が負荷追随するよう求めること。
A 負荷追随できない新規参入者に対して,供給割合に応じて負荷追随を分担するように求めること。

3 事前通知の義務付け
 電力会社が,負荷追随を伴う部分供給を行う場合に,現行の電気事業制度を前提とすると計画的な発電を行うため,新規参入者の予定供給量の事前通知を求める必要性があることは否定できない。
 しかしながら,接続供給約款上,新規参入者が電力会社の送電線を利用して小売する際に,実際に供給された量が事前通知された予定供給量を一定以上下回った場合,事故時バックアップ相当の契約超過金が新規参入者に課せられることとなるので,電力会社の日々の発電計画作成の必要性を超えた事前通知の期限,内容等を求めることは,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがある。特に,発電量を調整することが困難な電源の発電予定量について事前通知を求める期限を不当に早く設定し,発電予定量を計算する単位時間を必要以上に詳細に区切ることは,事前通知された予定供給量と実績供給量とに差異を生じさせやすくし,発電量を調整することが困難な電源しか有していない事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(差別取扱い等)。

 例えば,需要家に新規参入者の供給予定量について事前通知を義務付けることは,以下の場合には,独占禁止法上違法となるおそれがある。
@ 電力会社が発電計画を作成する観点から必要と認められる時刻より前に,需要家に新規参入者の供給予定量の事前通知を求めること。
A 電力会社が発電計画を作成する観点から必要と認められる最小限の単位時間当たりの供給予定量に比べて,詳細に区切った単位時間当たりの供給予定量の事前通知を求めること。
B 事前通知に係る事務を新規参入者に委託することを禁止することにより,事前通知手続に過大な負担を課すこと。

4 部分供給料金の不当な設定
 需要家等からの部分供給の要請に対して,公表された標準メニューに比べ,不当に高い料金を設定し,又は一方的に料金体系を不利に設定することは,需要家が電力会社から全量供給を受けざるを得ず,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,以下の場合には,独占禁止法上違法となるおそれがある(差別的取扱い,排他条件付取引等)。
@ 部分供給となることによって,例えば,当該需要家への供給部分の負荷率の悪化,計量の仕組みや契約関係の複雑化に伴う合理的なコストアップを超えた価格設定を行うこと。
A 部分供給に変更したことに伴う経常的なコストアップがないにもかかわらず,従来の料金よりも高い料金を設定すること。
B 部分供給に変更したことに伴って,従来の料金体系に比べて不当に高い料金体系を設定(又は示唆)すること。

5 バックアップ(「しわとり」バックアップ, 事故時バックアップ) 料金の設定託送及びこれに附随して不可避的に発生する事故時バックアップ等の料金その他の供給条件については,接続供給約款に規定し,当該接続供給約款を行政に届け出ることを義務付け,新規参入者による接続供給約款の利用が困難であるなど接続供給約款の内容が不適切な場合には,電気事業法の規定による変更命令が発動されることとされている。また,電力会社が正当な理由なく託送を拒んだ場合には,電気事業法の規定による託送命令が発動されることとされている。
 しかしながら,事故時バックアップ等を受けることが新規参入者が小売市場に新規参入するに当たり必要不可欠なものであり,かつ,電力会社はその供給区域において100%近い市場シェアを有し,事故時バックアップ等の提供主体が電力会社以外にない状況を踏まえると,例えば,以下の場合には,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶,優越的地位の濫用等)。
○ 接続供給約款の適用に当たって,事故時バックアップの契約キロワット等当事者間での協議に委ねられている事項について,電力会社が交渉に応じない,又は正当な理由がないにもかかわらず,一方的に協議事項を決めること。

6 余剰電力の購入拒絶
 電力会社が,従来新規参入者が有する電源から供給される電力を購入していたにもかかわらず,新規参入者に対し当該電源に係る余剰電力の購入を拒絶することは,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(取引拒絶等)。

7 余剰電力の購入価格の差別的設定等
 電源を保有する事業者が,全量を電力会社に卸売する場合と異なり,その一部を小売に転用する場合には,小売量の変動に伴う余剰電力量の変動が生じ得ることから,電力会社が全量購入時に比べた供給の安定性の低下を反映した購入単価の引下げを行っても,独占禁止法上問題とならない。
 しかしながら,新規参入者の余剰電力の供給先を電力会社以外に見出すことが容易でない現状においては,電力会社が余剰電力の買取り料金を,小売を開始した者に対して従来よりも不当に低く設定することは,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(差別対価等)。
 また,新規参入者の総発電実績量が事前に通知された小売電力及び余剰電力の供給予定量の合計に達しない状況に関して,当該未達成量を小売電力の不足量と余剰電力の不足量に区分けする方式を定める場合,電力会社が,当該未達成量を小売電力の不足量に不当に多く配分することは,新規参入者の費用負担を過大なものとし,新規参入者の事業活動を困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(優越的地位の濫用等)。

8 小売料金の不当な設定
 事業者が顧客獲得活動において競争者に対抗して価格を引き下げることは,正に競争の現れであり,通常の事業活動において広くみられるものであって,その行為自体が問題となるものではない。また,長期契約を締結した顧客に対して割安な料金を設定することも,それ自体が独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,電力会社はその供給区域において100%近い市場シェアを有することから,こうした電力会社が新規参入者への対抗手段として,新規参入者が交渉を行っている需要家に対し,又は交渉を行っていない需要家であっても新規参入者の顧客となり得る相当数の需要家に対して,複数年契約の割安料金を提示し,その解約金を不当に高く設定する等途中解約が困難である場合には,顧客囲い込み効果が大きく,新規参入者が他に容易に取引先を見出すことを困難にさせるおそれがあることから,独占禁止法上違法となるおそれがある(排他条件付取引等)。

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郵政民営化の基本方針
平成16年9月10日
閣  議  決  定


 明治以来の大改革である郵政民営化は、国民に大きな利益をもたらす。
  @ 郵政公社の4機能(窓口サービス、郵便、郵便貯金、簡易保険)が有する潜在力が十分に発揮され、市場における経営の自由度の拡大を通じて良質で多様なサービスが安い料金で提供が可能になり、国民の利便性を最大限に向上させる。
A 郵政公社に対する「見えない国民負担」が最小化され、それによって利用可能となる資源を国民経済的な観点から活用することが可能になる。
B 公的部門に流れていた資金を民間部門に流し、国民の貯蓄を経済の活性化につなげることが可能になる。
 こうした国民の利益を実現するため、民営化を進める上での5つの基本原則(活性化原則、整合性原則、利便性原則、資源活用原則、配慮原則)を踏まえ、以下の基本方針に従って、2007年に日本郵政公社を民営化し、移行期を経て、最終的な民営化を実現する。


1.  基本的視点
 
 4機能が、民営化を通じてそれぞれの市場に吸収統合され、市場原理の下で自立することが重要。そのための必要条件は以下の通り。
 
(1) 経営の自由度の拡大
・ 民営化した後、イコールフッティングの度合いや国の関与のあり方等を勘案しつつ、郵政公社法による業務内容、経営権に対する制限を緩和する。
・ 最終的な民営化においては、民間企業として自由な経営を可能とする。
(2) 民間とのイコールフッティングの確保
・ 民間企業と競争条件を対等にする。
・ 民営化に伴って設立される各会社は、民間企業と同様の納税義務を負う。
・ 郵貯と簡保の民営化前の契約(以下、「旧契約」と言う。)と民営化後の契約(以下、「新契約」と言う。)を分離した上で、新契約については、政府保証を廃止し、預金保険、生命保険契約者保護機構に加入する。(通常貯金については、すべて新契約とする。)
(3) 事業毎の損益の明確化と事業間のリスク遮断の徹底
・ 各機能が市場で自立できるようにし、その点が確認できるよう事業毎の損益を明確化する。
・ 金融システムの安定性の観点から、他事業における経営上の困難が金融部門に波及しないようにするなど、事業間のリスク遮断を徹底する。


2.  最終的な民営化時点における組織形態の枠組み
 
(1) 機能ごとに株式会社を設立
・ 4機能をそれぞれ株式会社として独立させ、窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社とする。
(2) 地域会社への分割
・ 窓口ネットワーク会社、郵便貯金会社及び郵便保険会社を地域分割するか否かについては、新会社の経営陣の判断に委ねることにする。
(3) 持株会社の設立
・ 経営の一体性を確保するために、国は、4事業会社を子会社とする純粋持株会社を設立する。郵便貯金会社、郵便保険会社については、移行期間中に株式を売却し、民有民営を実現する。その際には、新会社全体の経営状況及び世界の金融情勢等の動向のレビューも行う。国は、持株会社の発行済み株式総数の3分の1を超える株式は保有する。 
(4) 公社承継法人
・ 郵貯と簡保の旧契約とそれに見合う資産勘定(以下、「公社勘定」と言う。)を保有する法人を、郵政公社を承継する法人として設立する。
・ 公社勘定の資産・負債の管理・運用は、郵便貯金会社及び郵便保険会社に委託する。


3.  最終的な民営化時点における各事業会社等のあり方
 
 最終的な民営化時点における各事業会社等のあり方は、以下の通り。なお、分社化に必要となる枠組み等については、郵政民営化法案(後述)に盛り込む。
 
(1) 窓口ネットワーク会社
(ア) 業務の内容
・ 適切な受託料の設定及び新規サービスの提供により、地域の発展に貢献しつつ、収益力の確保を図る。
・ そのため、郵便、郵便貯金、郵便保険の各事業会社から窓口業務を受託する。また、例えば、地方公共団体の特定事務、年金・恩給・公共料金の受払などの公共的業務、福祉的サービスなど地方自治体との協力等の業務を受託する。
・ 民間金融機関からの業務受託の他、小売サービス、旅行代理店サービス、チケットオフィスサービスの提供、介護サービスやケアプランナーの仲介サービス等地域と密着した幅広い事業分野への進出を可能にする。
(イ) 窓口の配置等
・ 窓口の配置についての法律上の取り扱いは、住民のアクセスが確保されるように配置するとの趣旨の努力義務規定とし、具体的な設置基準のあり方等は制度設計の中で明確化する。
・ 代替的なサービスの利用可能性を考慮し、過疎地の拠点維持に配慮する一方、人口稠密地域における配置を見直す。
・ 窓口事業の範囲は、原則として郵便局における郵便集配業務を除く郵便、郵便貯金、郵便保険に係る対顧客業務及び上記(ア)の業務とする。
 
(2) 郵便事業会社
(ア) 業務の内容
・ 従来の郵便事業(窓口業務は窓口ネットワーク会社に委託)に加え、広く国内外の物流事業への進出を可能にする。高齢者への在宅福祉サービス支援、情報提供サービス等地域社会への貢献サービスは、適切な受託料を得て、引き続き受託する。
(イ) サービスの提供範囲
・ 引き続き郵便のユニバーサルサービスの提供義務を課す。
・ ユニバーサルサービスの維持のために必要な場合には、優遇措置を設ける。
・ 信書事業への参入規制については、当面は現行水準を維持し、その料金決定には公的な関与を続ける。
・ 特別送達等の公共性の高いサービスについても提供義務を課す。このために必要な制度面での措置は、今後の詳細な制度設計の中で検討する。
 
(3) 郵便貯金会社
(ア) 業務の内容
・ 民間金融機関と同様に、銀行法等の一般に適用される金融関係法令に基づき業務を行う(窓口業務や集金業務は窓口ネットワーク会社に委託)。
(イ) 新旧契約の分離
・ 民間企業と同様に納税義務を負うとともに、新規契約分から郵便貯金の政府保証を廃止し、預金保険機構に加入する。
・ 公社勘定は公社承継法人が保有し、その管理・運用を郵便貯金会社が受託する。運用に当たっては、安全性を重視する。
 
(4) 郵便保険会社
(ア) 業務の内容
・ 民間生命保険会社と同様に、保険業法等の一般に適用される金融関係法令に基づき業務を行う(窓口業務や集金業務は窓口ネットワーク会社に委託)。
(イ) 新旧契約の分離
・ 民間企業と同様に納税義務を負うとともに、新規契約分から郵便保険の政府保証を廃止し、生命保険契約者保護機構に加入する。
・ 公社勘定は公社承継法人が保有し、その管理・運用を郵便保険会社が受託する。運用に当たっては、安全性を重視する。
 
(5) 公社承継法人
(ア) 業務の内容
・ 郵貯・簡保の既契約を引継ぎ、既契約を履行する。
・ 郵貯・簡保の既契約に係る資産の運用は、それぞれ郵便貯金会社及び郵便保険会社に行わせる。
(イ) 公社勘定の運用
・ 公社勘定に関する実際の業務は郵便貯金会社及び郵便保険会社に委託し、それぞれ新契約分と一括して運用する。
・ 公社勘定の運用に際しては、安全性を重視する。
・ 公社勘定については、政府保証、その他の特典を維持する。
・ 公社勘定から生じた損益は、新会社に帰属させる。


4.  移行期・準備期のあり方
 
(1) 移行期のあり方
 民営化の後、最終的な民営化を実現するまでの間を、移行期と位置付ける。移行期のあり方は、以下の通り。
(ア) 移行期における組織形態
・ 国は、日本郵政公社を廃止し、4事業会社と国が全額株式を保有する純粋持株会社を設立する。設立時期は2007年4月とする。情報システムの観点からそれが可能かどうかについては、専門家による検討の場を郵政民営化準備室に設置し、年内に結論を得る。窓口ネットワーク会社及び郵便事業会社の株式については、持株会社が全額保有するが、郵便貯金会社、郵便保険会社については、移行期間中に株式を売却し、民有民営を実現する。その際には、新会社全体の経営状況及び世界の金融情勢等の動向のレビューも行う。また、国は、移行期間中に持株会社の株式の売却を開始するが、発行済み株式総数の3分の1を超える株式は保有する。
・ 公社承継法人を設立する。公社承継法人は、郵便貯金、簡易保険の旧契約を引継ぎ履行することを業務とする。旧契約の管理・運用は郵便貯金会社と郵便保険会社に行わせる。
(イ) 経営の自由度
・ 窓口ネットワーク事業においては、試行期間を設けつつ、民間金融商品等の取り扱いを段階的に拡大し、地域の「ファミリーバンク」、「ワンストップ・コンビニエンス・オフィス」として地域密着型のサービスを提供する。
・ 郵便事業会社においては、国際的な物流市場をはじめとする新分野への進出を図る。
(ウ) 郵便貯金及び郵便保険事業の経営
・ 郵便貯金及び郵便保険事業は、当面、限度額を現行水準(1千万円)に維持する。その際、貯金及び保険は、預金者、被保険者ごとに新契約と旧契約とを合算して管理する。その上で、経営資源の強化等、最終的な民営化に向けた準備を進める。
・ 民間金融機関への影響、追加的な国民負担の回避、国債市場への影響を考慮した適切な資産運用を行うが、民有民営化の進展に対応し、厳密なALM(資産負債総合管理)の下で貸付等も段階的に拡大できるようにする。
・ 大量の国債を保有していることを踏まえ、市場関係者の予測可能性を高めるため、適切な配慮を行う。
(エ) イコールフッティングの確保
・ 新会社は、移行期当初から民間企業と同様の法的枠組みに定められた業務を行い、政府保証の廃止、納税義務、預金保険機構ないし生命保険契約者保護機構への加入等の義務を負う。
(オ) 移行期の終了
・ 移行期は遅くとも2017年3月末までに終了する。
・ 郵便貯金会社及び郵便保険会社は、遅くとも上記の期限までに最終的な枠組みに移行するものとする。そのため、移行期における両社のあり方については、銀行法、保険業法等の特例法を時限立法で制定し、対応することとする。
 
(2) 準備期のあり方
 2007年4月の民営化までの時期は、準備期と位置付け、民営化に向けた準備を迅速に進める。
(ア) 経営委員会(仮称)を設置し、民営化後の経営や財務のあり方について検討する。
(イ) 円滑な分社化を図る観点から現在の勘定区分を見直し、郵便事業の超過債務を解消した上で、4機能別の勘定区分を行う。また、各機能が市場で自立するのに必要な自己資本の充実策については、詳細な制度設計を踏まえて検討する。
(ウ) 新旧契約の分離の準備を行う。
(エ) 国際物流事業への進出を可能とする。
(オ) 投信窓販の提供を可能とする。
(カ) その他の新規事業分野への進出を準備する。
(キ) 関連施設等
・ 郵便貯金関連施設事業、簡易保険加入者福祉施設事業に係る施設、その他の関連施設については、分社化後のあり方を検討する。


5.  雇用のあり方
 
(ア) 民営化の時点で現に郵政公社の職員である者は、新会社の設立とともに国家公務員の身分を離れ、新会社の職員となる。
(イ) 人材の確保や勤労意欲・経営努力を促進する措置の導入等、待遇のあり方について制度設計の中で工夫する。
(ウ) 職員のモラールと労使関係の安定に配慮する。


6.  推進体制の整備
 
(ア) 基本方針の取りまとめ後は、全閣僚で構成される郵政民営化推進本部(仮称)(本部長は内閣総理大臣)を設置し、民営化に向けた関連法案の提出及び成立までの準備、公社からの円滑な移行及び最終的な民営化実現への取り組みを進める。
(イ) 民営化後、郵政民営化推進本部の下に、有識者から成る監視組織を設置する。監視組織は、民営化後3年ごとに、国際的な金融市場の動向等を見極めながら民営化の進捗状況や経営形態のあり方をレビューする。また、許認可を含む経営上の重要事項について意見を述べる。監視組織の意見に基づき本部長は所要の措置をとるものとする。


7.  法案の提出等
 
・ 以上の基本方針に沿って、政府は早急に郵政民営化法案策定作業を開始する。また、法案化等のため、この基本方針に基づき、更に詳細な制度設計に取り組み、早急に結論を得る。なお、その過程で必要に応じ、経済財政諮問会議に報告を行うこととする。
・ 基本的な法案及び主要な関連法案は次期通常国会へ提出し、その確実な成立を図る。


郵政民営化法案の強行に抗議する       2005年7月5日

 7月5日、衆議院本会議は、賛成233(自民、公明)、反対228の5票差で郵政民営化法案を可決した。
 私たちは、国民の圧倒的多数の批判を無視したこの暴挙に憤りをこめて抗議する。

 当初案から若干の修正は行われたが、郵政民営化法の本質を変えたものではない。郵政民営化は、国民の基本的人権にかかわる公共サービスとしての郵政事業を解体し、庶民が営々と積み上げてきた340兆円の郵便貯金、簡易保険資金を民間資本に開放し、市場原理にまかせようとするものである。
 一方民間では現在、資金が過剰にあり、これ以上の資金は必要と認められない。

 私たちが反対してきたのは、自民党の反対派議員のように、郵政事業と保守政治との癒着のもとで巨大化した既得権益の擁護をめざすからではない。
 全国の過疎地などで赤字郵便局13000ヶ所があるが、郵便事業のユニバーサルサービスを継続するため統廃合などせずにきた。これらを含め全国24700ヶ所の郵便局は、憲法25条が定める生存権保障の趣旨にそって、国民生活にとって重要な役割を果たしてきた。

 庶民が小口資金を出し入れし、生活の支えにしてきた郵便貯金は残高227兆円、老後に備えて積立ててきた簡易保険の残高は121兆円に達している。
 国民の血と汗の蓄積であるこれらの資金に対する公的責任を放棄し、金融資本、アメリカ資本などの言うがままに開放をめざすものである。さらに、国鉄分割民営化と同様に、労働者に対する大規模な首切り、リストラを予定している。国民の財産に対する盗賊行為とも言うべきこれらの暴挙を絶対に許すことはできない。

 戦争法制の整備、所得税改悪から消費税率大幅引き上げに至る大増税、教育・社会保障の切り下げ、そして憲法、教育基本法改悪へとひた走る小泉内閣と公明党、さらに小泉構造改革路線に対決できない同根の存在としての民主党の動向に対してきびしく抗議する。
 私たちは郵政民営化法案の撤回を求める。悪法の数々を数をたのんで強行する暴挙をやめ、参院で廃案にすることを強く要求する。

米国通商代表部(USTR)のプレスリリース
ポートマン米国通商代表、日本の規制改革を称賛


2005年11月2日

[ワシントン] 本日、ロブ・ポートマン米国通商代表が、米国の輸出業者に市場を開放し、日本経済の成長促進を助けるための経済改革への日本の取り組みを称賛した。同改革は、日米規制改革及び競争政策イニシアティブの下、ブッシュ大統領および小泉首相への今年の年次報告書に詳しく記されているとおり、移動体通信分野における市場開放の拡大、果物と野菜の貿易の促進、知的財産権の保護と執行のため2国間の協力関係の強化、ならびに国民への革新的医療機器や医薬品の提供を迅速化する方策が含まれている。

 ポートマン代表は、「今年の報告書は、米国企業が日本市場の主要分野においてビジネスを行う上で妨げとなる規制の網を排除するため、日本との作業をとおして、われわれが引き続き重要な進展を遂げていることを示している。これらの改革は日本の景気が成長に転じることを助け、また継続されれば将来の経済成長にも貢献するであろう」と語った。

 代表は「それでもなお、日本による米国産牛肉輸入禁止の継続を含むいくつかの2国間の貿易問題が存続している。今週、日本が牛肉市場を再び開放するための措置を講じたことは重要な進展である。米国産牛肉を再び日本へ輸出することができるよう、日本政府が迅速に対処することを強く要請する」と付け加えた。

 同報告書は2007年から民営化される日本郵政公社の改革に格段の焦点を当てている。また、新たに設立される郵政事業体に対し、銀行、保険、ならびに宅配便サービス業において、すべての民間部門の事業者と同じ規制やその他の基準が適用されるよう計画されたいくつかの重要な措置も報告書の中で明記している。

 さらに日本は、いかなる郵便金融新商品の市場導入をも認める前に、同一の競争条件が整備されているかどうかを検討することになっている。代表は「いかなる新商品をも認可する前に、新たに設立される郵政事業体と民間企業の間に真に同一の競争条件が整備されることを日本に強く要請し、期待する。またこれに際し、全関係者にとって透明性が確保されることが重要な要素となる」と述べた。

 加えて、同報告書は、医療機器および医薬品に関する規制と市場開放に特に焦点を当てている。日本がここ数カ月のうちに保険償還に関して重要な決定をすることをふまえると、これは特に大切なことである。代表は、「透明性があり、予見可能かつ公正で、革新性の評価を確保するよう医療機器ならびに医薬品の価格算定がされることを日本政府に要請する。それにより最良で最も革新的な入手可能な製品の恩恵を日本の国民が受けることができるようになるであろう」と述べた。

背景

 本日発表された87ページの報告書は、規制改革イニシアティブの下、作成された「米日両首脳への第4回報告書」である。同報告書には、日本市場でビジネスを展開することを望む米国企業に加えて、日本の消費者にとっても実質的に利益となる改革方法が含まれる。日本がこれまで導入してきた、また今後導入するであろう重要な措置は以下のものを含む。

主として新規移動体通信事業者に対してかなりの周波数帯域を利用可能にすることにより、日本において移動体通信事業への進出を希望する電気通信事業者ばかりでなく、設備をそのような企業へ提供するサプライヤーにとっても機会を創出する。
米国産の果物および野菜生産者にとって貿易を促進するような方法で植物検疫手続きを合理化することにより、農産物の輸入を妨げる規制障壁を削減する。
アジアおよび世界中で知的財産権の保護と執行を強化するため米国との協力関係を強化する。
高度な医療機器および医薬品の承認を迅速に行うために新しく設立された医薬品医療機器総合機構の活動を改善すべく措置を講じ、医療機器および医薬品の価格算定において革新の価値を認める。
電子商取引の規制上の障害を取除き、著作権保護を強化し、スパム対策のため密接に民間部門と協力し、政府のネットワーク・セキュリティーをオープンな形で改善し、日本の新しい個人情報保護法の効率的かつ透明性のある施行を確実にし、ならびに政府の情報システムへの入札に関し外国企業のアクセスを改善する。
成田国際空港における着陸料の引き下げにより米国航空会社とエクスプレス航空貨物輸送会社が日本でビジネスを行うコストが低減される。
独占禁止法が最近改正され、談合に関与した企業に対する処罰を厳しくし、カルテルに対抗するために課徴金減免制度を導入したことにより、日本公正取引委員会が法を施行する能力を格段に強化した。
日本のパブリックコメント手続きを強化するための法案成立により、規制を策定し実施するにあたり透明性を高める。
より広範囲にわたるサービスを金融機関が提供するための力を強める一方で、利用者保護と利便性を強化することにより金融制度の活力を促進するため2年間の新たな「金融改革プログラム」を発表。
 ブッシュ大統領と小泉首相は、成長のための日米経済パートナーシップの重要な要素として日米規制改革および競争政策イニシアティブを2001年に開始した。両国政府は、このイニシアティブのもと、毎年秋に要望書を交換する。この要望書をもとに、大統領と首相に対して、各政府がどのような改革を行うかを明記する年次報告書をまとめる。米国政府においては通商代表部が主管庁であり、また日本政府側は外務省が主となりこのイニシアティブを進める。

 詳細な情報は米日両首脳への第4次報告書をまとめたファクトシートおよび同報告書全文をustr.govで参照。

 

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