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 有事関連7法案

1 2003年5月15日午後

 有事法制3法案が自民・公明・保守新・民主・自由などの賛成多数で衆議院本会議で可決された。自民党と民主党は談合によって政府案を「修正」したが、日本を「戦争ができる国」にするために戦時体制をつくり、労働者・市民・住民に戦争動員・戦争協力を強いるという有事法制の危険な本質は何も変わっていない。

 自民党は民主党を抱き込むことによって、全国に広がってきた有事法制反対の声をそらし、国会を事実上「翼賛化」することができた。民主党は「与党化」することで、日米共同の先制攻撃体制づくりと憲法破壊に公然と加担した。このように重大な有事3法案が両党の事前了解と密室の談合によって合意され、その「修正」内容が議論もなく採決に付されたことは、国会の空洞化をも象徴している。

 民主党が主張し、与党が受け入れた「人権尊重」規定も、政府原案の「人権制限は必要最小限」に、「制限にあたっては最大限に尊重」という文言を加えたもので、単なる言い換え、言葉遊びにほかならない。「必要最小限」も「最大限の尊重」も、「侵すことのできない永久の権利」を政府の裁量に委ねるものだからである。指定公共機関の「報道・表現の自由」も、その範ちゅうに入る。同様に、「国民への情報提供」も政府に裁量権がある。

 また、「国民保護法制」の整備を前倒しし、それまで首相の自治体・指定公共機関への総合調整・指示権を「凍結」することになったが、もともと政府案でも指示権は「別の法律」に委ねられているだけでなく、「国民保護」という名で「戦時避難・戦時防災」を住民に強制し、軍事行動を容易にするためのものであり、修正でも歯止めでもない。
 一方、「緊急事態基本法」や「危機管理庁」については、「検討し、その結果に基づき速やかに必要な措置をとる」とされたが、これは武力攻撃事態法案を拡大する与党修正案と同じ内容であるだけでなく、筋違いの「災害」まで含んだものであり、論外である。
 そして民主党は、自衛隊の作戦行動を大きく拡げる自衛隊法改悪案には触りもしなかった。 このように、民主党は無意味な言葉を飾り立てることで「政権担当能力を示す」という逆立ちを行い、それを見透かした自民党に体よくからめとられた。その罪は限りなく重い。

2 2003年6月6日
 参議院本会議で有事3法案の採決が強行され、与党3党、民主党などが賛成し圧倒的多数で可決、成立した。1945年まで日本の侵略戦争を支えた「国家総動員法」、65年の国会での暴露によって中止された「三矢研究」、その後再開された有事法制研究が、ついに不戦・非武装と基本的人権の保障を柱とする日本国憲法の下で、その平和と人権の原則を踏みにじる法律として成立した。これはブッシュのアメリカと小泉の日本が、武力と先制攻撃戦略によって世界とアジアに覇権を求めようとしていることの明らかな証明である。

 小泉内閣は昨年来、「万々が一」とか「備えあれば憂いなし」などと言い、「北朝鮮の脅威」を口実に使って有事法制の実現を進めてきた。しかし歴代防衛庁長官も認めてきたように、日本を攻撃する国、攻撃しうる国は存在していない。核やミサイルは有事法制によって対処できるものではなく、国際的な話し合いを通じて平和的に解決・解消すべき問題であり、何よりもアメリカこそが最大の核保有国であって、核先制攻撃も考えている危険な国なのである。このような状態にあって、日本の有事法制が目的とし機能させられるのは、94年のアメリカによる朝鮮民主主義人民共和国に対する先制攻撃の危機が示すように、アジアにおけるアメリカの先制攻撃に日本が協力・参戦する場合である。

 与党と民主党が合意して成立させた有事3法は、日本全体を戦時体制に置き、首相が独裁的全権を握り、自治体も企業も戦争に協力させ、あらゆる分野の労働者を戦争に動員し、住民には戦争協力を強いるものであって、憲法が保障する自由と基本的人権は政府が意のままに制限・侵害できるという恐るべき憲法否定の法律である。最大野党の民主党がこれら根本を問題にせず、内容に本質的な変更もないまま、言葉だけの飾りで法案に賛成して成立に加担した罪は限りなく重い。多くの基本的な問題がほとんど十分な審議も解明もなく採決が強行され、衆参両院で約9割もの議員が賛成したことは、国会が自ら憲法の尊重擁護義務を放棄し、議会制民主主義が空洞化していることを如実に示した。

 政府は今後、住民・自治体・企業などに戦時避難や戦時防災を強いる「国民保護法制」、自衛隊と米軍の作戦を最優先し、法的制約や人権を無視する法制、情報・通信や輸送・交通を統制する法制、捕虜の扱いを定める法制などを次々に法案を国会に出し、有事法制全体を完成させる構えである。私たちは、それらの法制化を許さない運動をさらに強める。また、自治体や企業、何よりも労働者や住民に対する戦争協力・動員の強制をはねかえし、日米の先制攻撃を許さず、アジアにおける平和と友好関係を創出する運動を進める。そのため、職場や地域での運動、さまざまな違いを超えた共同行動、国境を超えた連帯を追及する。
 「STOP!有事法制」の運動は終わってはいない。始まったばかりである。


3 関連7法案

 昨年6月に強行可決した「武力攻撃事態対処法」を基軸にして「改正安全保障会議設置法」「改正自衛隊法」3法を「体系整備」と称してまさに日本を「戦争ができる国」に仕上げるための関連7法案であり、日本国憲法及び国民の反対の声を根底から否定するものである。

 有事関連7法案は「国民保護法案」をはじめ「米軍行動円滑化法案」「特定公共施設利用法案」などに基づき、政府が「武力攻撃の恐れ」があるとの判断により、自衛隊や米軍が国土全体を防衛の砦にし、その下で日本国民の権利や主権を極度に制限するものである。こうした処置に異議を唱えたり、非協力の場合は「処罰」が伴う法案であり日本国憲法を全面的に否定した恐ろしい諸法案である。こうした諸法案と昨今の小泉内閣の内外の政治を総合的に概観すれば、今日の日本の事態はまさしく「戦争ができる国」の完遂過程そのものであることが伺える。

 対外的には米国の「単独先制攻撃戦略」に基づくイラク侵略戦争への全面的な支持と自衛隊の派兵による事実上の参戦。国内では「日の丸・君が代」の強制と「教育基本法」の改悪策動。また、平和と民主主義運動の抑圧を狙う治安対策の強化と弾圧。更に「民族排外主義」を煽る朝鮮民主主義人民共和国への「外国為替・外国貿易法」による「北朝鮮への経済制裁」法案の成立。加えて朝鮮と日本の往来禁止を狙う「特定外国船舶入港禁止法」「再入国禁止法」の成立をも策し、まさに日本は「戦時体制」の道につきすすんでいる。この事態が進行すれば「法整備」の後は有事関連法の発動を残すばかりとなる。

 かかる戦後最悪の反動的な保守専制政治に対し、社会全体は必ずしも憲法と戦後民主主義の危機を感受していない。かっての第2次世界大戦での日本軍国主義に無批判で追随した言論界や多くのジャーナリストの教訓は生かされず、小泉内閣を事実上後押しするばかりのマスコミの姿勢はまさにそれである。また、財界が意図的に行う「2大政党論」に乗じた民主党も「対案」を通じて事実上「戦時体制」に包摂されつつある。労働運動も本来の役割を担い切れないまま現在に至っている。


4 有事法制関連法案とは(4法案)

武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律
武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律         解説公共機関とは
国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律(捕虜の取り扱い)


5 武力攻撃事態対処関連三法とは

安全保障会議設置法(改正)       
 安全保障会議の設置とは
有事に際し司令塔をどうするか定めるもの

武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律

 武力攻撃事態におけるわがくにの安全平和の確保とは
国民の協力をえて行う万全の措置や武力回避のための方策或いは軍隊による排除、国民の基本的人権の制約(憲法に定める、法の下の平等、奴隷的拘束および苦役からの自由、思想及び良心の自由などが制約される。
また国民に対する報道統制もありうる。日米安保条約に基づきアメリカとの協力し、行動する。
国は独立と平和を守る使命があり、組織のすべてをあげて攻撃に対処する。その下での地方公共団体の使命と指定公共機関の戦争に対する協力義務を規定。
そして国民の戦争への協力義務を明記している。


自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律

自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律とは
1 名称と違い、土地使用の自由な使用を規定、家屋の形状変更を自由にできる。
公用令書は持ち主が不在ならば事後に渡す。
2 防衛出動命令が出される前に陣地や防御施設の構築を防衛庁長官が命ずることができる。その時に危険があれば武器を使用できる。この時も都道府県知事は立木等や土地もを処分できる。
3 自衛隊員は任務のため道路でない山林や田畑水上なども自由に通行できる。
4 物資保管命令に従わず隠匿した国民は懲役になる。
5 防衛出動に伴う関係法律の特例の変更。消防法、麻薬及び向精神薬取締法、墓地、埋葬等に関する法律、医療法、漁港漁場整備法、建築基準法、港湾法、土地収用法、森林法、道路法、土地区画整理法、都市公園法、海岸法、自然公園法、道路交通法、河川法など多岐にわたっている。
防衛出動を命ぜられた職員には、防衛出動手当を支給することを規定。

6 サイト管理者

 平成15年6月6日、武力攻撃事態対処関連三法が成立した。
改正安全保障会議設置法は内閣総理大臣が議長を勤める安全保障会議に諮問し、関係する大臣で構成され者に意見をきかねばならない。もちろん内容は秘密にされる。そして有事に際しては武力攻撃事態対処法に基づき方針など取り決め関係大臣はこれに従う。
 有事に際し、国家が国民の生命財産を守ることを理由に何でもできることにしたのである。
 緊急の場合は国会の承認は必要なく行動でき、事後承認でよいとされている。

 これは戦前の国家総動員法と変わらない。また憲法で規定されている内容も一時停止して国民を協力させることができると言うものである。「日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっても」と言った文言が盛り込まれ、すでに憲法で保障している国民の自由や権利が守れないことを前提としている。つまり武力攻撃事態では憲法を守らないと政府は公言している。このような法律自身が憲法に違反している。

 これに伴い自衛隊法の改悪も行われた。隊員の出動手当も整備された。武力攻撃事態対処関連法案では何でもできるのである。戦前の国家総動員法と変わらない。憲法違反はもとより、近代の民主主義をも脅かす悪法である。

 戦争への道を着々と歩んでいるためか小泉は説明もしない。多数派の暴力である。国民は「国会の中の出来事」と知らない顔をしていたらとんでもないことになる。改正自衛隊法では、自衛隊と言う軍隊がマスコミ・港湾・道路・森林・公園・通信・食料・建築などすべて戦争の為と称し、各種法律の基準が適用除外となり、すべて自由に使用できるのである。消防もこれに組み込まれる。

 表現の仕方は国民を刺激しないように、国民の協力を前提に協議していくとなっているが、元々自民党内部では「国家を守るのは国民の義務」という主張もあったほどである。本音は憲法を無視して、生活苦に喘いでいる弱い国民を戦争に動員させたいのであろう。国民の生活をまず守ると言う国の責任を棚に上げ、国民を戦場に送りたいのである。

 これは戦前の国家総動員法の時代への逆戻りであり、さらに自衛隊法など関連法整備がすすむことになる。

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はじめに 富山県企業局と国家総動員法

 国家総動員法は日中戦争を前に戦争準備の為作られた法律で1938年(昭和13年)4月1日公布、同年5月5日施行され、1945年(昭和20年)12月20日に廃止された。(国家総動員とは戦時に際し国防目的達成のため国の全力を最も有効に発揮せしむる様人的及び物的資源を統制運用するをいう)

 1939年(昭和14)、昭和6年の満州事変以来、急速に発言力を強めた軍部と新官僚による国家統制思想に基づく電力国家管理問題を受け成立した電力管理法および日本発送電株式会社法に基づき設立された。公営電気事業はこの時日本発送電株式会社に吸収され、なくなるのである。このときは小さな配電会社が乱立していた。
 そして渇水などの影響から配電統制令が公布され,1942年に全国を九つの地区にわけて配電会社が設立された。
 こうして日中戦争下の戦時体制への傾斜を背景に、電力需給の国家的統制を目的として電源開発の独占権を与えられた。第二次世界大戦後、日本発送電および九配電会社は過度経済力集中排除法の適用を受け(1948)、電気事業の「民主化」が図られた。
 1950(昭和25)年にはポツダム政令により電気事業再編成令が公布され、1951年5月、東京電力他九電力会社が設立し、日本発送電と九配電会社は解散した。最終資本金は30億円で発送電設備は民間九電力会社に継承された。

 岩峅寺駅〜粟巣野駅(本宮駅〜立山駅間。現在廃止)間は、富山県営鉄道が常願寺川の治水と電源開発のために作ったものである。1921年4月25日に南富山駅〜上滝駅間が開業したのに始まり、順次千垣駅まで延長を行った。1927年6月10日に電化された。1937年10月1日に粟巣野駅まで延長した。1942年に千垣駅〜粟巣野駅間は県営電力事業とともに日本発送電に譲渡されたが、運営は引き続き県が行った。1943年の交通大統合により、県営鉄道・日本発送電の鉄道ともに富山地方鉄道に譲渡された。(寺田駅 - 稚子塚駅 - 田添駅 - 五百石駅 - 榎町駅 - 下段駅 - 釜ヶ淵駅 - 沢中山駅 - 岩峅寺駅 - 横江駅 - 千垣駅 - 有峰口駅 - 本宮駅 - 立山駅)

電気事業の再編成および公益事業行政機構に関する件    昭和25年2月21日 閣議了解
一、電気事業再編成に関し
 日本政府は電気事業再編成の要請に即応し、日本発送電会社及び九配電会社を解体し、これに代るに現在の配電区域を供給区域とする九箇の民有民営の電気事業会社を新設することが最も妥当であると考えている。
 これらの電気事業会社はそれぞれ供給区域内の発送配電設備を保有することを原則とするが、発送配電一貫経営による責任体制を確立するため、現在の給電系統を尊重し、特定の発電所および送電線については例外として、その所在に拘らず帰属を決定すべきものとする。
 日本政府がかくの如く分割案を採択した理由は左の如くである。
(一)分割後の各ブロック内の電力需給のバランスの悪化を最小限度に止め得ること。
(二)民有民営会社の発送電一貫経営の合理化、サービスの改善を図り得ること。
(三)水力発電所および火力発電所を不可分の一体として運営し得ること。
分割によつて生ずる最大の問題は、電力料金の地域差の拡大である。分割後において地域別原価をその儘料金に反映せしめるときは、九州、北海道、中国、四国においては、産業の存立および民生の安定に相当の悪影響をおよぼすものと予想せられるから、この際暫定的に全国の水力発電所に対し、特別の賦課金を課し、これを財源として調整措置を講ずることが不可欠であると信ずる。
二、公益事業行政機構に関し
 わが国の公益事業行政、特に電力行政が産業行政と不可分の関係において運用せられている実情に鑑み、日本政府は行政部から独立した公益事業委員会の新設には賛成し得ない、日本政府としては電力およびガスに関する行政機構は概ね現状を維持し、別に公益事業審議会を通産大臣の諮問機関として設置し、重要政策を調査審議せしめることが最も今日の実情に即するものと信ずる。

(参考)
国家総動員法(昭和13年法律第55号)

第一条
 本法に於て国家総動員とは戦時(戦争に準ずべき事変の場合を含む以下之に同じ)に際し国防目的達成の為国の全力を最も有効に発揮せしむる様人的及物的資源を統制運用するをいう

第二条
 本法に於て総動員物資とは左に掲ぐるものをいう

 一 兵器、艦艇、弾薬其の他の軍用物資
 二 国家総動員上必要なる被服、食糧、飲料及飼料
 三 国家総動員上必要なる医薬品、医療機械器具其の他の衛生用物資及家畜衛生用物資
 四 国家総動員上必要なる船舶、航空機、車両、馬其の他の輸送用物資
 五 国家総動員上必要なる通信用物資
 六 国家総動員上必要なる土木建築用物資及照明用物資
 七 国家総動員上必要なる燃料及電力
 八 前各号に掲ぐるものの生産、修理、配給又は保存に要する原料、材料、機械器具、装置其の他
   の物資
 九 前各号に掲ぐるものを除くの外勅令を以て指定する国家総動員上必要なる物資

第三条
 本法に於て総動員業務とは左に掲ぐるものをいう

 一 総動員物資の生産、修理、配給、輸出、輸入又は保管に関する業務
 二 国家総動員上必要なる運輸又は通信に関する業務
 三 国家総動員上必要なる金融に関する業務
 四 国家総動員上必要なる衛生、家畜衛生又は救護に関する業務
 五 国家総動員上必要なる教育訓練に関する業務
 六 国家総動員上必要なる試験研究に関する業務
 七 国家総動員上必要なる情報又は啓発宣伝に関する業務
 八 国家総動員上必要なる警備に関する業務
 九 前各号に掲ぐるものを除くの外勅令を以て指定する国家総動員上必要なる業務

第四条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り帝国臣民を徴用して総動員業務に従事せしむることを得但し兵役法の適用を妨げず

第五条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り帝国臣民及帝国法人其の他の団体をして国、地方公共団体又は政府の指定する者の行う総動員業務に付協力せしむることを得

第六条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り従業者の使用、雇入若は解雇、就職、従業若は退職又は賃金、給料其の他の従業条件に付必要なる命令を為すことを得

第七条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り労働争議の予防若は解決に関し必要なる命令を為し又は作業所の閉鎖、作業若は労務の中止其の他の労働争議に関する行為の制限若は禁止を為すことを得

第八条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り物資の生産、修理、配給、譲渡其の他の処分、使用、消費、所持及移動に関し必要なる命令を為すことを得

第九条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り輸出若は輸入の制限若は禁止を為し、輸出若は輸入を命じ、輸出税若は輸入税を課し又は輸出税若は輸入税を増課若は減免することを得


第十条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り総動員物資を使用若は収用し又は総動員業務を行う者をして之を使用若は収用せしむることを得

第十一条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り会社の設立、資本の増加、合併、目的変更、社債の募集若は第二回以後の株金の払込に付制限若は禁止を為し、会社の利益金の処分、償却其の他経理に関し必要なる命令を為し又は銀行、信託会社、保険会社其の他勅令を以て指定する者に対し資金の運用、債務の引受若は債務の保証に関し必要なる命令を為すことを得


第十二条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは総動員業務たる事業を営む会社の当該事業に属する設備の費用に充つる為の社債の募集に付商法第二百九十七条の規定に拘らず勅令を以て別段の定を為すことを得

第十三条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り総動員業務たる事業に属する工場、事業場、船舶其の他の施設又は之に転用することを得る施設の全部又は一部を管理、使用又は収用することを得

2 政府は前項に掲ぐるものを使用又は収用する場合に於て勅令の定むる所に依り其の従業者を使用せしめ又は当該施設に於て現に実施する特許発明若は登録実用新案を実施することを得

3 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り総動員業務に必要なる土地若は家屋其の他の工作物を管理、使用又は収用し又は総動員業務を行う者をして之を使用若は収用せしむることを得

第十四条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り鉱業権、砂鉱権及水の使用に関する権利を使用若は収用し又は総動員業務を行う者をして特許発明若は登録実用新案を実施せしめ若は鉱業権、砂鉱権及水の使用に関する権利を使用せしむることを得

第十五条
 前二条の規定に依り政府の収用したるもの不用に帰したる場合に於て収用したる時より十年内に払下ぐるときは又は第十三条第三項の規定に依り総動員業務を行う者の収用したるもの収用したる時より十年内に不用に帰したるときは勅令の定むる所に依り旧所有者若は旧権利者又は其の一般承継人は優先に之を買受くることを得

第十六条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り事業に属する設備の新設、拡張若は改良を制限若は禁止し又は総動員業務たる事業に属する設備の新設、拡張若は改良を命ずることを得

第十六条の二
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り事業に属する設備又は権利の譲渡其の他の処分、出資、使用又は移動に関し必要なる命令を為すことを得

第十六条の三
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り事業の開始、委託、共同経営、譲渡、廃止若は休止又は法人の目的変更、合併若は解散に関し必要なる命令を為すことを得

第十七条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り同種若は異種の事業の事業主間に於ける当該事業に関する統制協定の設定、変更若は廃止に付認可を受けしめ、統制協定の設定、変更若は取消を命じ又は統制協定の加盟者若は其の統制協定に加盟せざる事業主に対し其の統制協定に依るベきことを命ずることを得

第十八条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り同種若は異種の事業の事業主又は其の団体に対し当該事業の統制又は統制の為にする経営を目的とする団体又は会社の設立を命ずることを得

 2 前項の命令に依り設立せらるる団体は法人とす

 3 第一項の命令に依り設立を命ぜられたる者其の設立を為さざるときは政府は定款の作成其の他設立に関し必要なる処分を為すことを得

 4 第一項の団体成立したるときは政府は勅令の定むる所に依り当該団体の構成員たる資格を有する者をして其の団体の構成員たらしむることを得

 5 政府は第一項の団体に対し其の構成員(其の構成員の構成員を含む以下之に同じ)の事業に関する統制規程の設定、変更若は廃止に付認可を受けしめ、統制規程の設定若は変更を命じ又は其の構成員若は構成員たる資格を有する者に対し団体の統制規程に依るベきことを命ずることを得

 6 第一項の団体又は会社に関し必要なる事項は勅令を以て之を定む

第十八条の二
 第十六条の二の規定に依り設備若は権利の譲渡若は出資を命じ又は第十六条の三の規定に依り事業の譲渡を命じたる場合に於て譲渡者又は出資者の負担する債務の承継及其の担保の処理に関し必要なる事項は勅令を以て之を定む

第十八条の三
 第十六条の二の規定に依る設備若は権利の譲渡若は出資、第十六条の三の規定に依る事業の譲渡若は法人の合併又は第十八条第一項若は第三項の規定に依り設立せらるる団体若は会社に付ては勅令の定むる所に依り課税標準の計算に関する特例を設け又は租税の減免を為すことを得

第十九条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り価格、運送賃、保管料、保険料、賃貸料、加工賃、修繕料其の他の財産的給付に関し必要なる命令を為すことを得

第二十条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り新聞紙其の他の出版物の掲載に付制限又は禁止を為すことを得

 2 政府は前項の制限又は禁止に違反したる新聞紙其の他の出版物にして国家総動員上支障あるものの発売及頒布を禁止し之を差押うることを得

第二十一条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り帝国臣民及帝国臣民を雇傭若は使用する者をして帝国臣民の職業能力に関する事項を申告せしめ又は帝国臣民の職業能力に関し検査することを得

第二十二条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り学校、養成所、工場、事業場其の他技能者の養成に適する施設の管理者又は養成せらるベき者の雇傭主に対し国家総動員上必要なる技能者の養成に関し必要なる命令を為すことを得

第二十三条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り総動員物資の生産、販売又は輸入を業とする者をして当該物資又は其の原料若は材料の一定数量を保有せしむることを得

第二十四条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り総動員業務たる事業の事業主又は戦時に際し総動員業務を実施せしむベき者をして戦時に際し実施せしむベき総動員業務に関する計画を設定せしめ又は当該計画に基き必要なる演練を為さしむることを得

第二十五条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは総動員物資の生産若は修理を業とする者又は試験研究機関の管理者に対し試験研究を命ずることを得

第二十六条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは勅令の定むる所に依り総動員物資の生産又は修理を業とする者に対し予算の範囲内に於て一定の利益を保証し又は補助金を交付することを得此の場合に於て政府は其の者に対し総動員物資の生産若は修理を為さしめ又は国家総動員上必要なる設備を為さしむることを得

第二十七条
 政府は勅令の定むる所に依り第八条、第十条、第十三条、第十四条若は第十六条の二の規定に依る処分、第九条の規定に依る輸出若は輸入の命令、第十一条の規定に依る資金の融通、有価証券の応募、引受若は買入、債務の引受若は債務の保証の命令、第十六条の規定に依る設備の新設、拡張若は改良の命令又は第十六条の三の規定に依る事業の委託、譲渡、廃止若は休止若は法人の目的変更若は解散の命令に因り生じたる損失を補償す但し第二項の場合は此の限に在らず

 2 総動員業務を行う者は第十条、第十三条第三項又は第十四条の規定に依り使用、収用又は実施を為す場合に於ては勅令の定むる所に依り之に因り生じたる損失を補償すベし

第二十八条
 政府は第二十二条、第二十三条又は第二十五条の規定に依り命令を為す場合に於ては勅令の定むる所に依り之に因り生じたる損失を補償し又は補助金を交付す

第二十九条
 前二条の規定に依る補償の金額及第十五条の規定に依る買受の価額は総動員補償委員会の議を経て政府之を定む

 2 総動員補償委員会に関する規程は勅令を以て之を定む

第三十条
 政府は第二十六条又は第二十八条の規定に依り利益の保証又は補助金の交付を受くる事業を監督し之が為必要なる命令又は処分を為すことを得

第三十一条
 政府は戦時に際し国家総動員上必要あるときは命令の定むる所に依り報告を徴し又は当該官吏をして必要なる場所に臨検し業務の状況若は帳簿書類其の他の物件を検査せしむることを得

第三十一条の二
 左の各号の一に該当する者は十年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処す

 一 第八条の規定に依る命令に違反したる者
 二 第十九条の規定に依る命令に違反したる者

第三十二条
 第九条の規定に依る命令に違反し輸出又は輸入を為し又は為さんとしたる者は三年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処す

 2 前項の場合に於て輸出又は輸入を為し又は為さんとしたる物にして犯人の所有し又は所持するものは之を没収することを得若し其の全部又は一部を没収すること能はざるときは其の価額を追徴することを得

第三十三条
 左の各号の一に該当する者は三年以下の懲役又は五千円以下の罰金に処す

 一 第七条の規定に依る命令又は制限若は禁止に違反したる者
 二 第九条の規定に依る命令に違反し輸出又は輸入を為さざる者
 三 第十条の規定に依る総動員物資の使用又は収用を拒み、妨げ又は忌避したる者
 四 第十三条の規定に依る施設、土地若は工作物の管理、使用若は収用又は従業者の供用を拒み、妨げ又は忌避したる者

第三十四条
 左の各号の一に該当する者は二年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処す

 一 第十一条の規定に依る制限若は禁止又は命令に違反したる者
 二 第十六条の規定に依る制限若は禁止又は命令に違反したる者
 三 第十六条の二の規定に依る命令に違反したる者
 四 第十六条の三の規定に依る命令に違反したる者
 五 第十七条若は第十八条第五項の規定に違反し認可を受けずして統制協定若は統制規程を設定、変更若は廃止し又は第十七条若は第十八条第五項の規定に依る命令に違反したる者
 六 第二十三条の規定に依る命令に違反し保有を為さざる者
 七 第二十六条の規定に違反し生産、修理又は設備を為さざる者

第三十五条
 前四条の罪を犯したる者には情状に因り懲役及罰金を併科することを得

第三十六条
 左の各号の一に該当する者は一年以下の懲役又は千円以下の罰金に処す

 一 第四条の規定に依る徴用に応ぜず又は同条の規定に依る業務に従事せざる者
 二 第六条の規定に依る命令に違反したる者

第三十七条
 左の各号の一に該当する者は三千円以下の罰金に処す

 一 第二十二条の規定に依る命令に違反したる者
 二 第二十四条の規定に依る命令に違反し計画の設定又は演練を為さざる者
 三 第二十五条の規定に依る命令に違反し試験研究を為さざる者

第三十八条 左の各号の一に該当する者は千円以下の罰金に処す

 一 第十八条第一項の規定に依る命令に違反し団体又は会社の設立を為さざる者
 二 第十八条第六項の規定に依る命令に違反したる者
 三 第三十条の規定に依る命令又は処分に違反したる者
 四 第三十一条の規定に依る報告を怠り又は虚偽の報告を為したる者

第三十九条
 第二十条第一項の規定に依る制限又は禁止に違反したるときは新聞紙に在りては発行人及編輯其の他の出版物に在りては発行者及著作者を二年以下の懲役若は禁錮又は二千円以下の罰金に処す

 2 新聞紙に在りては編輯人以外に於て実際編輯を担当したる者及掲載の記事に署名したる者亦前項に同じ

第四十条
 第二十条第二項の規定に依る差押処分の執行を妨害したる者は六月以下の懲役又は五百円以下の罰金に処す

第四十一条
 前二条の罪には刑法併合罪の規定を適用せず

第四十二条
 第三十一条の規定に依る当該官吏の検査を拒み、妨げ又は忌避したる者は六月以下の懲役又は五百円以下の罰金に処す

第四十三条
 第二十一条の規定に違反して申告を怠り又は検査を拒み、妨げ又は忌避したる者は五十円以下の罰金又は拘留若は科料に処す

第四十四条
 総動員業務に従事したる者其の業務遂行に関し知得したる当該官庁指定の総動員業務に関する官庁の機密を漏泄又は窃用したるときは二年以下の懲役又は二千円以下の罰金に処す

 2 公務員又は其の職に在りたる者職務上知得したる当該官庁指定の総動員業務に関する官庁の機密を漏泄又は窃用したるときは五年以下の懲役に処す

第四十五条
 公務員又は其の職に在りたる者本法の規定に依る職務執行に関し知得したる法人又は人の業務上の秘密を漏泄又は窃用したるときは二年以下の懲役又は二千円以下の罰金に処す

 2 第十八条第一項又は第三項の規定に依り事業の統制を目的として設立せられたる団体又は会社其の他本法に依る命令に依り統制を為す法人其の他の団体の役員若は使用人又は其の職に在りたる者其の業務執行に関し知得したる法人又は人の業務上の秘密を漏泄又は窃用したるとき亦前項に同じ

第四十六条及第四十七条 削除

第四十八条
 法人の代表者又は法人若は人の代理人、使用人其の他の従業者其の法人又は人の業務に関し第三十一条の二乃至第三十四条、第三十六条第二号、第三十七条、第三十八条又は第四十三条前段の違反行為を為したるときは行為者を罰するの外其の法人又は人に対し各本条の罰金刑又は科料刑を科す

第四十九条
 前条の規定は本法施行地に本店又は主たる事務所を有する法人の代表者、代理人、使用人其の他の従業者が本法施行地外に於て為したる行為にも之を適用す本法施行地に住所を有する人の代理人、使用人其の他の従業者が本法施行地外に於て為したる行為に付亦同じ

 2 本法の罰則は本法施行地外に於て罪を犯したる帝国臣民にも之を適用す

第五十条
 本法の施行に関する重要事項(軍機に関するものを除く)に付政府の諮問に応ずる為国家総動員審議会を置く

 2 国家総動員審議会に関する規程は勅令を以て之を定む

  附 則

1 本法施行の期日は勅令を以て之を定む
2 軍需工業動員法及昭和十二年法律第八十八号は之を廃止す
3 本法施行前軍需工業動員法に基きて為したる命令又は処分は之を本法中の相当規定に基きて為したるものと看做す
4 軍需工業動員法に違反したる者の処罰に付ては仍旧法に依る

 戦争への道はやめさせよう!!


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